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41話 再会と特訓

 討伐組合に帰還したレイヴィスは、シャラを抱っこしたコトネを見た。


「安心して。全員味方だから」

「……はい。あの、トオルくんは」

「まだ帰って来てないよ」


 スライムの宇宙(そら)が近づいて来た。

 コトネの表情が引き攣る。


「大丈夫。ただの無害なスライムだよ」


 レイヴィスの言葉に宇宙は不満そうに揺れたが、否定はしなかった。


「ただいまー」

「戻ったぞー!」


 討伐組合のメンバーが嬉しそうに入り口に集まった。

 コトネは息を呑む。


「トオルくん!」

「………コトムラ、なのか?」


 シャラが飛び立つ。


「お前………どうして……」

「会いたかったです! 無事で良かった……」


 コトネは涙を滲ませてオルトの前に立つ。

 オルトはコトネに触れようとして、やめた。


「とりあえず、ゆっくり話そう」


 オルトは物欲しそうにこちらを見ている哀奈を手招きした。


「お前も来い」

「え? いいの?」

「早く来い!」


 レイヴィスは面白そうにシャラを見た。


「やっぱり、彼に全部任せていいかも」

「そうですね。それに、あのリッチは【勝利の剣】を持ってますし」

「リッチのくせにね」

「はい、リッチのくせして」

「哀奈!」


 哀奈は振り返る。


「それが終わったら、私のところにおいで」

「うん!」


 嬉しそうに笑いやがって。これからスパルタで、本物のリッチにしてやる。進化するほどに。




「あのぅ」

「今話した通りだ。俺たちは〈光天街〉にいるフェリルという堕天使を訪ねて、“ダンジョン”クリア特典の予約をしに行く」

「何ですかそのゲームを予約しに行くみたいな」

「俺たちのスキル使用許可だ」


 コトネの空気が変わる。


「それは、アリなんですか?」

「アリみたいなんだ」


 哀奈は自分には無関係な話だな、とレイヴィスの呼び出しについて考えていた。


「だが、一つ問題があってだな」

「はい」

「“サバイバー”が止めに来るかもしれない」


 当然だろうと、哀奈はため息をついた。

 立ち上がってレイヴィスのところへ向かおうとしたら、何か素早い生き物が激突して来た。


「戻ったか! オルト!」

「ムルル?」


 ムルルは嬉しそうに、鳴いた。

 哀奈は机に突っ伏した。もう諦めたらしい。


「実は、お前に渡したいものがあって!」


 鼻息を荒くしてムルルが取り出したのは、光球である。

 コトネは息を呑んで立ち上がった。


「それ! ユニークスキル!」

「そうだ」


 ムルルは頷く。


「俺が今まで誰にも渡さなかったユニークスキル……【神速】だ。これを、お前に託す」


 オルトはゆっくりとそれを受け取ると、不敵に笑った。


「これで、“サバイバー”をぶっ飛ばせってか?」

「ねー」


 哀奈はようやく口を開いた。


「私は、何をしたらいーのー?」

「哀奈にも〈光天街〉に着いて来て欲しいんだ」

「私も?」


 正直、敵対しているとはいえ“サバイバー”とは戦いたくない。

 実の妹を殺めておいて、何を今更という感じではあるが。


「でも、まだ味方にしてない堕天使がいるよね?」

「俺たちは【ループ】も【反転】も使えない。レイヴィスは使えるかもしれないが、使わないだろ?」


 つまり、こちらのタイミングで【ループ】できない。

 こちらがゆっくりしているのを、相手が待ってくれるとは思えない。


「味方集めは後回し。とりあえず、クリア特典の予約に行くんだ」

「ゲーム仲間は後で集めて、お店に行くんですね」


 コトネが納得したように頷くが、哀奈はまだ半信半疑である。


「本当に、レイヴィスの名前を出せばお願いを聞いてもらえるの?」

「できるよ」


 いつからいたのか、レイヴィスが部屋の隅に三角座りで丸まっていた。


「ラグナロクは、そのために哀奈を〈暗所街〉へ送った」

「レイヴィスと、会わせるため?」

「そ」


 哀奈はレイヴィスを真正面から見据える。


「レイヴィスは、何者なの?」

「英雄だよ」

「その前は?」


 ようやく、レイヴィスが黙った。


「英雄の前のレイヴィスは?」

「私が、神々になんて呼ばれてるか、知ってる?」


 レイヴィスはそう言ってはぐらかした。


「…………どうしても知りたいなら、ラグナロクに聞いたら? ま、記憶消すけどさ」


 つまり、知ってもわからずじまいということだ。


「オルト!」

「あ?」

「行くよ! 〈光天街〉! ラグナロクにレイヴィスの正体を教えてもらうの!」

「そんなことしなくても………」


 オルトは何かに気づいたのか、ニヤリと笑う。


「そうかそうか。来てくれるか。いやー、助かるよ、哀奈」


 コトネがチラリとオルトを見たが、何も言わなかった。


「今すぐ行こう!」

「だめ。哀奈はしばらく私と特訓」


 レイヴィスから横槍が飛んで来た。

 オルトとコトネに異論はないようだ。二人からしたら、異形の哀奈は弱すぎる。

 【勝利の剣】ありきの戦い方ではいつか痛い目に遭う。


「わかった………」

「俺たちも特訓してるよ」

「むー……」


 哀奈はトボトボとレイヴィスの後について行った。




 哀奈が去った後、しばらく部屋の出入り口を見ていたコトネはようやくオルトを見た。


「よく無事だったな、コトムラ」

「はい。そちらこそ」


 二人は語らう。

 今までにあったこと、出会った者、そして、これからのこと。


「俺たちは二周目ではただの同級生だな」

「そうですね。哀奈に会うまでは」


 オルトは無言であるものを取り出した。

 小さな結晶だ。


「それ、【スキル結晶】ですか?」


 コトネは【鑑定屋の水晶玉】を取り出した。

 これがあれば、いつでも鑑定を行える。ちなみに、ものすごい高価なもので、シャラの所持品である。



《【スキル結晶】

 レベル:---

 習得可能スキル:【記憶保存】

 【記憶保存】:対象のスキルを受けた際に、効果を無効にできるパッシブスキル。所持者以外にも、所持者が指定した相手に同様の効果を付与できる》



「え?」

「実は」


 実は、オルトは初めから“サバイバー”の狙いには気づいていた。

 単身で乗り込んだ際に、反転竜リリスカルラがオルトの撤退を条件に質問する権利を与えたことがあった。

 オルトはすぐに対策を考え、〈暗所街〉へと向かった。

 〈暗所街〉のとある露店でこの結晶を見つけ、何が入っているのかと尋ねたら。


「【記憶保存】だと言われた。店主は使い道のないスキルだと売りに出してたからな」

「でも、私達は習得できないんじゃ」

「ムルルは俺にスキルをくれた。つまり、俺たちはスキルを習得できたことになる」


 コトネは首を傾げる。

 使えないのでは、意味がないのではないか?


「このスキルは、パッシブスキルだ」


 なんとなく、彼の言わんとすることがわかった気がした。


 人間はスキルを扱えない。

 扱い方を知らないからか、なんらかの障害があることは間違いない。

 しかし、天使は人間のスキルの使用を操作できる。

 だが、今回の論点はそこではない。


 オルトが言いたいのは、パッシブスキルなら発動するのではないか、ということだ。

 自分の意思が必要な発動系スキルと違い、パッシブスキルならば本人の自覚無しに使えるのではないか。

 もしそうなら、この【スキル結晶】で二周目まで記憶を連れて行ける。


 ただし、問題もある。

 人間が使えるのはパッシブスキルだけ。

 【記憶保存】のもう一つの能力である効果の付与は使えない。つまり、【記憶保存】ができるのは一人だけ。


「オルト。あなたが使ってください」

「いいのか?」

「はい。オルトは私より強いですから」

「それは俺たちのスキル次第じゃないか」

「スキルの話じゃないです」


 コトネは部屋を見回した。


「討伐組合も、オルトが作ったんでしょう? “サバイバー”相手に、一人で攻め込めるんでしょう? 大切な人を失っても、壊れなかったでしょう?」


 無言で【スキル結晶】を手に取り、オルトの手に握らせた。


「大丈夫。どうせすぐに思い出しますよ」

「………そうだな。それに、発動するかわからないし」

「発動します」


 コトネは断言する。


「発動しますよ。私が保証します」

「ありがとう」


 二人はようやく立ち上がった。


「それじゃ、旅の準備でもするかな」

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