表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/88

29話 古参と新入り

 私は三人を順番に見た。

 相手と数は同じだが、それでいいというわけでもない。

 当然、相手の方が実戦経験は豊富だろし、スキルの扱い方だって上手だろう。


「あの人達、知ってる?」


 ゼールが遠慮がちに頷いた。


「僕、知ってます。有名選手だから」

「なら、オルトと琴音(ことね)はゼールの指示に従って。ゼールだけARマシンをつけて。二人は無しでいこう」


 二人は頷いた。

 ゼールは二人のクールタイムも確認しながら回避盾をしなくてはならない。

 我ながらスパルタだ。

 死なない試合で死ぬほどやる気をだせば、本番でも慌てることはない。


 本番は私が指示を出す。

 やることが一つ減るだけで、周囲の見え方も変わる。

 まあ、いい機会だろう。


「僕に、できますか」

「私はできない人に頼み事はしない」

「…………はい」


 ゼールはオルトと琴音を見た。


「はじめてなんで、お手柔らかに!」

「おう!」

「はい!」


 私はA級冒険者を見てニヤリと笑った。



     ☆☆☆



 ゼールは息を吐いて敵を見た。

 相手は有名選手だ。

 つまり、スキルや戦い方のクセがバレている。


 相手のタイミングで、こちらは戦えばいい。

 簡単だ。相手はこちらを知らない分、こちらの流れに持っていける。


「行くぞ! 【ファースト」

「オルト、バックから通常!」

「アタック】!


 ゼールは冷静にかわす。

 軽く跳んで、後ろのオルトに交代した。

 A級冒険者はオルトの鉄パイプに思いっきり叩かれる。もちろん布が巻かれているので、脳震盪だけで済んだ。


「下がって」

「了解」


 敵は既に一人減った。

 そう思った。


「【ヒール】」


 倒れた冒険者が起き上がる。


「よくやってくれたなクソガキ」

「………オルト、突っ込んで。僕が合わせる。琴音は援護」


 オルトが走り出す。

 それにゼールが続いた。


「【神秘ノ光】」


 琴音のスキルで自信がついた。

 ゼールは前を張る。自分は攻撃ができないから。何度そのことで冒険者を辞めようと思ったことか。


「【ガード】!」

「【貫通】!」


 敵の【ガード】にすかさずオルトが反応する。

 【ガード】を貫通して攻撃が当たる。

 今度は前よりも確実に。相手には、【ヒール】を使わせない。


「チッ! 【ファイアボール】!」

「【リフレクト】!」


 相手のヒーラーが攻撃を仕掛けて来た。

 これを狙っていた。敵のヒーラーがメイジであることも理解していたからだ。

 相手は有名選手。

 よく見ていた。憧れだった。

 だから、よく知っている。スキルも、戦い方のクセも。こういう時はどうするのかも。


 【ファイアボール】が跳ね返る。

 回避盾に相応しい戦い方だ。ゼールには、一番合っている。


「オルト!」

「了解」


 オルトが鉄パイプを振り上げる。


「【追撃】!」

「【ブロック】」


 【ブロック】は、自分の耐久を上げる【ガード】と違い、味方の耐久を上げる。

 モンスター相手にはもちろん、人間相手にも有利だ。

 このスキルをちらつかせるだけで敵は警戒するし、諦めもする。


 敵も諦めたようだ。

 軽く手を挙げる。


「………降参だ」


 屈辱だったのだろう。

 唇を噛んでいる。


「ナイスです、ゼール」

「優希さんの言った通りだったな」

「初めてでしたが、問題無かったですか?」


 ゼールはビクつきながら言う。

 そんな態度も、相手は気に入らないのか睨んでくる。


 対照的に、周りの観戦者の盛り上がりはすさまじかった。あちこちで歓声や拍手が聞こえる。


 優希が歩いて来た。

 何かあったらしく、真剣な顔をしているが、ゼールの顔を見た途端に笑顔が溢れる。


「私が見込んだ通りね」

「………僕でも、“ダンジョン”ボスと戦えますか」

「当たり前でしょ」

「それじゃあ、ロビンもまた会いに来てくれますかね」


 優希がふっと真顔になる。


「ロビン・フッドは会いに来ると思う」

「本当ですか?」

「けどまだまだ先になるかな」

「どうして」

「ロビンは間違いなく、第46層ボス、ロビン・フッドの亡霊だよ」


 オルトと琴音の表情が真面目なものになる。

 ゼールは息を呑んだ。

 敵かもしれないのか? あんなに優しかった人が?


「敵なんですか?」


 琴音が聞いた。

 優希は首を横に振った。


「敵ではない。味方かどうかもわからないけど」


 優希は言う。


「ロビン・フッドは強い。そして、優しい天使だったんだと思う」


 だって、ゼールを助けたんでしょ?


 ゼールは頷いた。

 彼女は優しい人だった。

 もう一度会いたい。



     ☆☆☆



 私はゼールを引き連れて、会場にあるフードコートに座った。

 どうやら、A級冒険者以上は無料になるらしい。


「うーん、この“ふわふわ魔物パンケーキ”っての気になるな」

「いえいえ、この“ちょっとエルダーリッチなパフェ”も美味しそうですよ」

「待て待て。この“ミノタウロスの最凶ステーキ”も捨てがたいだろ」

「ツッコんで欲しいみたいですけど、ぜっっったい、嫌ですからね」


 ゼール、わかってるな。

 そもそも、メニュー表にはそのような料理名は書かれていない。


「じゃ、皆さんはそれでいいんですか?」

「ゼールは食べないの?」

「僕はE級冒険者なので、お金が……」


 私はため息をつく。


「好きなの選んで。子供は遠慮しない」

「………はい。じゃ、このスペシャルハンバーガーで」

「一番高いやつぅううう!!!!」


 図々しいな!

 ノリが良いだけなのか? それとも、私をツッコミにしたいのか?


「スタッフさーん」


 オルトが気を利かせてスタッフを呼んでくれた。

 スタッフは私達を見ると目をキラキラと輝かせる。


「工藤優希さんに、オルトさんと琴音さんまで!? さっきの試合見てました! これからも頑張ってください!」


 ゼールはうんざりとした顔をした。

 こういうやり取り、好きじゃないんだろうな。

 よく見たら琴音やオルトも同じ顔をしていた。こっちは聞き飽きたって感じか。


「注文いい?」

「あ! はい!」


 私は三人を見る。


「あんまり、そんな顔をしちゃダメだよ」

「優希さんは、平気なんですか?」

「何をもって平気とするのかは、よくわかんないけどさ」


 私はメニューを閉じて、元の場所に戻す。

 リヴァドラムは机の上でスタッフを目で追っていた。


「私達冒険者はね、非日常の中にいる英雄なんだよ。愛想良くするのも一流冒険者の仕事だよ」

「優希さんは、そうやって割り切ってるんですか?」

「…………昔、そう言われただけだよ」

「誰に?」

「憶えてないんだ」


 ずっと昔のことのようにも、本当に最近のことのようにも感じる。

 “ダンジョン”を攻略した後だったが、それよりもずっと前に聞いた話でもある気がするのだ。

 一つ言えるのは、彼女はおそらく………。


「ねぇ、ロア」

「どうした?」


 人前ではあまり話したくないのか、周囲を気にしながら答えてくれた。


「裏町って、路地裏ダンジョンみたいなところある?」

「〈暗所街(あんしょがい)〉か?」

「えと、高いビルがあるのに入れるのはせいぜい3階までで、〈三番通り〉には貧乏人の露店が並んでる」

「〈暗所街〉で間違いない。どうして知ってる?」


 待て待て待て!!

 裏町なんて言ったことないぞ!

 だだ、彼女に会ったのは間違いなくあそこだ。


 確か、路地裏で迷って一人で泣いていたんだ。

 そう。11歳くらいの時だ。


「……〈暗所街〉はお前も言った通り、貧乏人と旅人とアンデットが多く住み、人間は特に餌として売られている。俺も昔はよく居座っていたが、人間のお前が生きていける場所ではないな」

「そうだよね。…………?」

「どうした?」


 私、11歳の時に行ったことがあるって。


 でもおかしいじゃないか。




 私が11歳の時はまだ、“ダンジョン”の中にいたはずだ。




「まさか………」


 〈暗所街〉はアンデットが、多い場所。



『こんなとこで、何してるの』


『わからない。ここは、どこ?』



 それは痛くて辛くて、悲しい記憶。

 彼女は私を憐れんで、助けてくれようとした。

 だけど、私は言ってしまったんだ。



『もう一回、みんなに会いたい』


『会えないよ。今の世界じゃ』



 彼女は凄い人だった。



『どうしても会いたいなら、世界の終わったその時に、もう一度会いにおいでよ』


『一人は嫌だよ。お姉ちゃん、ずっといてよ』



 彼女は優しい人だった。



「思い出したかも………」

「は?」

「裏町への行き方。私が、出会った人達のこと」


 〈暗所街〉は天使や神を嫌っていた。

 もしかしたら………。手伝ってくれるかもしれない。

 彼女達なら、ロアの言っていた【記憶保存】だって持っていてもおかしくないわけだし。


「行こう!」

「キュア!」


 料理が食べられないことを悟ったリヴァドラムは不機嫌そうに、しかし、嬉しそうに鳴いた。

次回、新章スタートです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ