28話 ゼール
私は琴音とオルトを引き連れて冒険者選手権の会場を歩いていた。
「なんか……普通だね」
「お前黙れ……」
私はリヴァドラムを抱っこしながら、辺りを見回す。
冒険者が多いが、一般人もいる。ほとんどは観戦者みたいだ。
「あーーーっ!!!!」
誰かが走って来る。
スタッフさんみたいだけど。
「工藤優希さんですよね! もしかして、応援に来てくれたんですか!?」
「え? いや、そういう」
オルトが私の口を押さえて、琴音が愛想笑いを浮かべる。
「そうなんです。未来の優秀な冒険者をどうしてもみたいって言って聞かなくてぇ!」
猫被りすぎて草。
琴音って意外と演技派だよね。
「そうなんですね!」
「あまり構わないでくれると嬉しいです。ゆっくり見て回りたいそうなので」
そして、意外と腹黒いよね!
琴音のおかげで、誰も話しかけてこなくなった。
「誰かいますか? いませんよね」
オルトは盾役が見つかるとは思っていないようだ。
しかし、私は気づいている。
私はその青年の肩を叩いた。
「ねえ、君?」
「ふへふわっわぁ!?」
「何、その叫び方」
「え、え、え? 工藤優希!? 僕は何も知らない! 何も見てない!」
「工藤さん………何を見られたんですか?」
「失礼な! 初対面よ!!」
私は首を傾げた。
この子、何を知ってるんだ?
「とりあえず、誰もいないとこで話そっか」
「ひぃ!」
マジでどうしたんだろ、この子。
私はその子に缶コーヒーを渡した。
「コーヒー嫌い?」
「いえ、ミルクたっぷりって書いてあるから大丈夫です」
「お前ら何なの? ただのコーヒー牛乳だろ? てか、なんだよこのコーヒー。『缶コーヒー ミルクたっぷり(コーヒー牛乳)ってタイトル長すぎだろっ!」
「オルトうるさい」
「ふざけんなっ!」
いいじゃん、この缶コーヒー美味しいんだから……。
「ね! リヴァドラム?」
「キュ?」
てか、ブラック飲めたんだこの竜。
「さて、君の名前……ネームは?」
「ゼールです。E級冒険者」
「新米か」
オルトが呟く。
ゼールは頷いた。
「パーティーを組んで気楽にやってたんだけど……」
つい先日、パーティーが壊滅したらしい。
そこで見たというのだ。
死んだはずの響木奏とリトルゲッコーが一緒にいるのを。
それから、素敵な女性にも出会ったという。彼女はロビン・フッドと名乗った。
「ロビン、フッド?」
「心当たりがありますか? どこにいるとか……」
「いえ。でも、本当に助けてくれたの?」
「はい。害がある方とは思えませんでした」
第46層ボス、ロビン・フッドの亡霊はシャドウウルフが作り出した幻影のはずだ。
確かに弓を使い、強敵だったことに間違いはない。
だが、あまりにも拍子抜けするほど弱かった。
そうか。
弱かったんじゃないのか。
「ロア。ロビン・フッドの亡霊は味方?」
「さあ。アイツとは一度も会えなかった」
となると、サバイバー側も会えなかった可能性が高い。
本来の強さがわからないから、戦力になるかも怪しいけど………。
「まず、響木は闇堕ちしたから私達とは関係ないわ」
「え闇堕ち?」
「ちなみに、政府にも秘密だから内緒にしててね」
「あはい」
「次に、そのロビンにまた会ったら工藤優希が会いたがっていたと伝えて欲しいの」
「わかりました」
「最後に、これからも冒険者続けたい?」
「それは、もちろん」
「なら、私達に付き合ってくれないかしら?」
「はい、もち………ん?」
「チッ」
「今チッて言った?」
「まさかまさか、オホホホホ」
「「「…………………」」」
何故みんなして私を睨むのかね。
「僕に、何をしろと?」
「盾役」
「はあ!?」
話を聞く感じ、難しい役職であることは理解できた。
ただ、死亡率が高いことにはどうしても納得できない。
「ゼール、君のスキルは?」
「………【ミステイク】、【ブロック】、【ガード】、【リフレクト】です」
「攻撃技ないじゃないか。コイツじゃ駄目ですよ。攻撃ができない」
「盾役は、攻撃しなくていい。後衛には受けきれない攻撃を受けてくれれば」
「それ、死にますよね?」
「当たってもいい技といけない技を見分ければ、死ぬことはまずないよ」
それに、攻撃なら【リフレクト】があるし。
「盾役ってことは、重い盾を持たないとですよね」
「え? 要らないよ」
「え? でも」
「君には、回避盾になってもらいたい」
ゼールは目を見開く。
私は丁寧に説明を始める。
まずは、見た目。
ゼールは控えめでまず盾役には見えない。こんなひょろひょろもやしが前線にいたらまず狙われる。
しかし、ゼールには無駄のない筋肉がついており、動きは俊敏でおそらく反射神経も優れている。
慎重そうな歩き方から、おそらく警戒心も人一倍強い。
これは、冒険者では生き残りやすいタイプだ。
次に武器。
ゼールの持っていた短剣は一番軽い武器であり、盗賊や暗殺者向けの武器だ。
しかし、回避盾にも適性のある武器である。
慣れた武器が短剣なら、話は早い。
三つ目はスキル。
盾役にはもってこいの【ブロック】と【ガード】。
【ブロック】は味方や自分に防御障壁を一定時間付与するサポートスキルだ。
【ガード】は自分の耐久力を極限まで高める防御スキル。盾役にはおそらく必須だろう。クールタイムも30秒とかなり短い。
【ミステイク】は敵のミスを誘発するスキルだ。
彼が響木とリトルゲッコーに咄嗟に使ったというスキル。
いわゆる相手の“幸運値”を下げて自分の“幸運値”を上げるタイプのスキルだ。
しかも、これは味方にも都合良く発動する。
残念ながら、はじまりの冒険者にこのスキルの使い手はいなかった。
珍しいスキルだし、いつかきっと役に立つ。
【リフレクト】は攻撃を跳ね返して攻撃するスキル。
味方の攻撃も跳ね返せるので、技術が上がればトリッキーな攻撃も可能になる。
「最後はその冷静さ」
「僕が、ですか?」
「大会で皆んなざわついてたのに、君だけ波のない海みたいだったよ? ダンジョンでもその態度でしょ」
ゼールは何も言わなかった。
もしかしたら、その態度が原因でトラブルがあったのかもしれない。
「実力に経験が追いついてないけど、そこは問題ない」
大切なのは。
「やるの、やらないの?」
ゼールは俯いた。
☆☆☆
ゼールは俯いた。
心の中がぐちゃぐちゃに掻き回されているような、静かな森のざわめきを感じているような、そんな気持ちだ。
興奮しているのだ。
何かが変わる音がしているのだ。
もし、この人達と一緒にいたら、またロビンに会えるかもしれない。
「やります」
「死ぬかもしれないよ?」
死ぬのは怖い。
だが、それほどの覚悟がなければ、ロビンの隣には立てないだろう。
『くだらない話が一番好き』
幼い頃によく見た夢に出てくる少女はそう言った。
『くだらないくらい平和な世界が、一番好き』
ゼールはいつも約束するのだ。
『いつまでもくだらない話ができる世界にするよ』
その少女の名前を、ゼールは知らない。
「死んでもいい。くだらない話が、たくさんできる世界になるなら。僕は命だって惜しくない」
優希は笑った。
ゼールは目を閉じる。
かつて夢の中で勝手に恋したその少女は、今はもう顔も思い出せない。
☆☆☆
ロビン・フッドは見渡す限り人だらけの会場を見回した。
A級冒険者と思われる威圧的な見た目の人間達が偉そうな足取りで歩いている。
「人間多い………」
「くぅ?」
隣のシャドウウルフは首を傾げた。
会場内ではテイムモンスターは首輪をつける必要があるらしい。
すぐに壊せるので、ロビンは仕方なく受け入れた。
「あの」
スタッフに声をかけることにした。
「どうしたの? 迷子?」
ロビンは小柄だ。
迷子と間違われてもおかしくはない。
「違います。その、人を探してて」
「そう」
結局迷子だと思われた。
「工藤優希っているS級冒険者は見ましたか?」
「ん?」
スタッフは首を傾げた。
その時だった。
「皆んな! あれを見ろ!」
誰かが声を張り上げた。
さっき偉そうにしていた冒険者だ。
「S級冒険者とあろう者が、E級を引き連れているぞ! 何を考えているんだ?」
ロビンはスタッフに頭を下げて野次馬の最前列へと向かう。
「お前ら調子乗ってるよなぁ? 新入りの分際で、“ダンジョン”ボスに勝っただあ? その慢心、打ち砕いてやるよ!」
困ったように優希は笑った。
「ちょうどいいか。何事も実践からだよね!」
「練習からだよ!!」
ロビンは目を見開く。
ゼールという青年だ。
あの後無事に合流できたらしい。
「神よ、感謝します」
すると、優希がこちらを見て目を丸くした。
ロビンは仕方なく後ろに下がる。
今はまだその時ではない。
「行くよ」
「がぅ」
二人は騒ぎから離れて行く。
その行き先は誰も知らない。




