25話 話し合い①
短め
私達は行きと同じく猫又の案内で森を抜けた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私は二匹の猫又を見つめる。
「これから、どうするの?」
「どうもしない。飼い主のとこに戻ることもないだろう」
私はあの女の子の顔を思い出す。
「…………そう」
「このダンジョンは再び縮小して、森は元に戻るだろう。感謝する」
猫又は背を向けて歩き出す。
「元気でねー!」
返事は無かったが、耳がピクリと動いたので聴こえていたはずだ。
もう会うことはないだろう。
「This is terrible!!」
レオが英語で叫んだ。
よくわからんから日本語で話して欲しい。
死体と思われる物体にブルーシートがかけられ、遺族らしき人達がそれをめくっては頷いて泣き叫んでいた。
「私達がいない1日の間に何かあったんでしょうか?」
琴音とオルトは冷静だ。
コイツら肝が据わって来たな。感心感心。
「さあ。とりあえず、攻略庁から話を聞きましょう」
各国の冒険者達が、何かを呟き始めた。
歩いて来る人影が多数。外国人みたいだ。
海外冒険者達と何かを話している。
「まずったなぁ」
「どうかしましたか?」
「皆んなとはなるべく一緒にいたいんだけど………」
皆んな困った顔でこちらに駆け寄って来る。
どうやら、ビンゴみたいね。
「帰国命令が出た」
「うちもダヨ」
「私も、お父様が帰るように言ってるらしいわ」
面倒な! これからだと言うのにぃ!
「キュ………」
ほら! リヴァドラムも凄い残念そうだよ!!
「それは、心配だね。バラバラになるとは………」
「俺はお前が一番心配だよ」
レオが当然の様に呟く。
「日本には響木がいる。あの化け物みたいな“一周目のサバイバー”も、他の“ダンジョン”のボスだっている」
皆んな頷く。
「心配すんな。琴音もオルトもいるし大丈夫だよ」
「オレら戦力判定なんすね」
「当たり前でしょ!!」
「事後処理、ちゃんとできる?」
美雨が心配そうに言う。
それは無理かもなぁ。
「すぐに帰るの?」
「国の守りを固めるのが優先らしい」
「そりゃそっか。じゃあ、またね」
私は手を振る。
これ以上は待ってくれそうにないし。
「そうだな。じゃ、また」
「気をつけてね」
「また配信しましょう」
「今度は皆んなで秋葉行こうネ!」
私は肩を落とす。
「五人だけ、か」
少なくなったなぁ。
「工藤優希さんですね?」
タバコを咥えたオッサンが立っていた。
「私は攻略庁の者です」
「糸部さんじゃないんだ」
「糸部は冒険者データの管理が仕事なので、現場には来ませんよ」
貰った名刺には、『攻略庁ダンジョン特務課 古沢恒星』と書かれている。
「太陽さん」
「恒星だ」
私は名刺を琴音に渡すと(すごく迷惑そうな顔をされた)ため息をついた。
「何か?」
「今回の攻略の経緯と、この現場に対する見解を」
「その前に、ちょっと良いですか」
私は琴音とオルトを前に押し出す。
「この二人を、A級冒険者に推薦したいんですけど」
「「はあ!?」」
☆☆☆
あれから三日。
未だにS級冒険者三名、その他各国のA級冒険者多数の犠牲者を出した“008事件”の報道は続いていた。
琴音こと、琴村音々とオルトこと、志村透は渡り廊下でジュースを飲んでいた。
ジャン負けした透の奢りである。
「まさか、私達がA級冒険者だなんて」
「妥当な判断だろ。近くにS級冒険者がいないなら、頼れるのはオレらだけだろうし」
A級冒険者は全世界でも1000人もいない天才冒険者のことを指す。
日本でもたったの53人しかいなかった。
「私達、ちゃんと認定されますかね?」
「大丈夫だろ。“ダンジョン”ボスを倒したし」
ランク昇級には、実績と推薦が必要になる。
自分よりも上位の冒険者の推薦が必要なのだ。
S級冒険者が増えない理由もそこにある。
普通に生活していれば、A級冒険者と言えどもそうそうお近づきにはなれない。
つまり、推薦が貰えない。
「イジメに遭いそう……」
「言うな」
音々はジュースを飲み干す。
「響木さんと、戦うんでしょうか?」
「そりゃそうだろ。覚悟はできてる」
「私達じゃなくて、優希さんの方です」
透は黙る。
彼の中でも、答えは出ていないのだろう。
「それに、色々話せてないことがあります。あの後、大変でしたから」
「確かに………」
音々はため息をつく。
「行きますよ」
「どこに?」
「優希さんの家です」
「マジかー」
教室に戻ると、変な視線を感じる。
前よりも強く、嫌な視線だ。
ボスを倒した功労者として、推薦を受けた冒険者。
世間は大々的に報道し、次のS級冒険者とまで言われている。
「ねえねえ、琴村さん! 今度遊びに行かない!?」
「ごめんなさい。忙しくて」
音々は顔を顰める。
面倒くさい。このまま、これが続くのか。
(学校、辞めたいな)
そう思っているのは、自分だけではないはずだ。
音々は男子に囲まれて事件について質問攻めにあっている透を見つめた。
☆☆☆
インターホンに私は肩を揺らす。
新聞記者だったらどうしよう。
家に帰宅する際は【透明】を使っている。だから、バレるわけない。
ないのに!
「はい」
『優希さん、私です。琴音です』
私はホッとしてドアを開ける。
オルトもいた。
「お入り」
「何だその婆さんみたいな招き方」
オルトがため息をついて「お邪魔します」と言う。
琴音もそれに続いた。
「フツーっすね」
「普通の人間だからねー。晩御飯食べてく?」
「メニューは?」
「オムライス」
「ハートマーク描いてください」
「4ね」
オルトって意外と大胆だよね。
まあ、そういう性格じゃなきゃ花鹿相手に先手はきれないよな。
というか。
「ウチ、ペット禁止なんだけど?」
「リヴァドラムいんじゃねぇか」
「チッ」
確かに、大家にバレたけどね!
笑顔で許されたけどね!
「ま、いいか」
私はダイアウルフを見る。
まだ子供のくせに大活躍だった。
「この子、名前あるの?」
「ロア」
「ロア、ね」
私はキッチンに立つ。
「琴音は、何描いて欲しい?」
「普通にギザギザでいいですよ」
「じゃ、ハートマーク描いてあげるね」
「はあ」
「キュ!」
リヴァドラムも楽しそうだ。
「ダイアウルフってタマネギいける?」
「問題ない。【毒無効】がある」
「何そのスキルの使い方」
呆れる。
他にもっとマシなスキルあったでしょ。
食卓について、無心でご飯を食べること20分弱。
ようやく話し合いの態勢になった。
「話し合いたいことは三つ」
今後のこと、ロアのこと、琴音が聞いた天使の話。
「どれからいく?」
「ロアのことからで」
ロアは尻尾を揺らしながら、立ち上がった。
「あれは、もう30年も前のことだ」
なんか始まったんすけど。




