24話 【アンコール】
私はようやく動き出した琴音にホッとする。
琴音はよく通る声で叫んだ。
「今から、一番火力のあるスキルを温存してください! 合図をしたら、私と一緒に花鹿に突っ込みます!」
私はなんとなく察する。
なるほど。クールタイムを短縮する系のスキルをもらったのか。
確かにそれは強い。
レタンティオのスキル【ショートカット】は、スキルのクールタイムを三分の一削るというものだったが、それでも中々の脅威だ。
天使スキルだから、もっと強いんだろうなぁ。
三分の二とかかな?
話から察するに、距離制限があるみたいだけど……。
「一般冒険者は遠距離から! S級冒険者だけ、琴音に寄って!」
私は指示を出す。
あまり集まっても敵の的になるだけだ。
「了解!」
オルトが退こうとしたのを、レオが止めた。
「お前はこっち側な」
「え」
オルトが目を丸くした。
そりゃそうだよね。
オルトの最高火力スキル【貫通】はあらゆる防御スキルを貫いて攻撃を与える。同時にその防御効果も無効化する。
例えば、麗華の【ファーストシールド】を無効化したまま攻撃し、尚且つそのスキルの効果を完全に消滅させる。
つまり、ノーリスクで麗華に第一撃を加えることができる。
更に、相手が防御系スキルを使っていない場合は、確定でクリティカルを出すことが出来る。
ソロでもパーティーでも間違いなく英雄になれるスキルだ。
しかし、そもそも防御系スキルを持つモンスターは少ないのが現実で、【貫通】のスキルはあまり役に立たないという評価が一般的である。
「俺、一般冒険者ですけど」
「ファーストアタックは君に任せるよ、オルト君」
変な顔をして私を見てくる。
「花鹿の防御をぶち壊して、高火力を叩き込む。正直、さっきのスキルが謎だらけだから怖いんだけどね」
【鑑定】スキル持ちがいないからしょうがないじゃん?
レタンティオが殺されたのは、おそらくそれが理由なんだろうけど!
「【鑑定】スキル持ちを早く見つけないとだなぁ」
「同感だが、まずは生きて帰るぞ」
レオの声に頷く。
当然だ。私達は屍の上で生きているのだから。
「一番上がりが遅いのお前だよな? 後どれくらいだ?」
「………6:47!」
ARマシン最高!!
「OK。なら、あと一発打てるな」
「っすね」
レオの【炎ノ剣】、オルトの【貫通】はそれぞれ、5:30と5:00のクールタイムを持つ。
比較的威力の割に回転率の良い技だ。
「突っ込むぞ!」
「琴音!」
「了解です! 【神秘ノ光】!」
花鹿が顔を顰めた。
琴音の【神秘ノ光】のクールタイムは4:20。
効果持続時間は30なので、実質3:50の最強スキル。
「【貫通】!」
「【炎ノ剣】!」
「っ!」
花鹿が防御系スキルを使っていなかった。
これは…………。
「リヴァドラム!」
「キュ?」
「琴音に合わせて【反転】して」
「キャ!」
花鹿の防御系スキルのクールタイムは、レオのスキルの5:30よりも長い。
確かに、ほぼ完全防御だったから仕方ない。
では、倒した後に復活するスキルは何だろうか?
私の予想では、1日1回しか使えないはずだ。
しかし、もしアレが二周目のスキルだったら?
「………………」
「あの時」
いつの間にか隣にいたオルトのテイムモンスターのダイアウルフが口を開いた。
コイツ、喋れんのか。
「あの時、【炎ノ剣】が先だった」
「…………そうか!」
スキルが何だろうと関係ないのだ。
【貫通】を真っ先に当てて、全ての前貼りスキルを無効化すればいい。
一周目スキルで対処できるスキルならばいいが。
「【復活】」
ダイアウルフが呟く。
おいおい、まさかコイツ。
「【鑑定】持ち?」
「冒険者なら、知っているだろう? ダイアウルフはスキルの再取得が最も簡単なモンスターだ」
第4層ボス、ダイアウルフ・コロニーは無数のダイアウルフがひしめき合った一つの群れで一つのボスであるモンスターだった。
レタンティオが言っていたことだが、ダイアウルフには進化の為にスキルとレベルが必要になるらしい。
レベルは人間には無いが、モンスターにはある概念だ。
レベルを消費することで、進化することができるのだが、進化派生にスキルを必要とするダイアウルフは特別で、レベル消費により新しいスキルを獲得できる。
理性のない下位のダイアウルフは、スキル無しで進化し、肉体強化をしただけの筋肉ダルマになったり、強い魔法スキルを適当に取った属性ウルフになる。
厄介なのは、ダイアウルフ・コロニーを率いていた“キングウルフ”とその番の“クイーンウルフ”。
あらゆるスキルを持ち、状況に合わせてスキルを使い分けて来た。
回復、サポート、回避、防御、攻撃………。
なんでもできてしまったのだ。
しかし、スキルをたくさん取得していたためレベルが低かったこともありなんとか突破できた。
…………片鱗を感じた。
危ねえ! 味方で良かったー!!
「このスキルのクールタイムは12:00:00」
「半日か……」
このスキルの回転率から考えるに、二周目スキルで間違いないだろう。
「………………【貫通】から先に当てるのはもちろんそうだが、復活することはもうない」
「倒せるってことね」
「情報が得られないがな」
私は頷く。
仕方ないんだ。
プロセルみたいに優しいわけでも、弱いわけでもない。
倒さなければ、こちらが死ぬ。
「もし、勝てたら。有益な情報を一つ渡そうと思う」
「はい?」
ダイアウルフはそう言うと、一歩下がった。
もう話すつもりはないらしい。
そんな話をしている内に、【聖剣】があがった。
「皆んな!」
「わかりました! 皆さん、私の周りに!」
花鹿が警戒したように一歩下がって構える。
最初のスキルか!
「【神秘ノ光】!」
その差、発動後およそ0.5秒。
S級ならもっと速く反応できる。
しかし、それだけあれば、十分だ。
花鹿の状態異常を全て無効化する。
「今です!」
一斉に走り出す。
ダイアウルフもオルトの隣を並走していた。
「ワォオオオン!!!」
力が湧いてくる気がする。
群れを成すモンスターが良く持つスキル【鼓舞】だ。
直後に使用した技の威力が上がる。
「【貫通】!」
「【炎ノ剣】!」
「【一撃】!」
「【流星弾】」
「【聖剣】!」
リヴァドラムが【反転】する。
後方のカナが、テイムモンスターである死竜を撫でた。
「カイモ! リヴァドラム! 【ブレス】!!」
リヴァドラムとカイモが口を開いてそれが花鹿に命中する。
一気に体力が削れるが、まだ少し残っている。
「行きますよ! 【アンコール】!!」
クールタイムが0になる。
皆んな、ニヤリと笑った。
「チェックメイトです!」
「【貫通】!」
「【炎ノ剣】!」
「【聖剣】!」
パキリと、花鹿の角が折れた。
花鹿が倒れる。
「倒した………!」
私達はその場に座り込む。
「やったね!」
「ナイスファイト、オルト」
「琴音も凄かった」
口々にお互いを讃える言葉が飛び交う。
「なあ、一応、戦闘中は聞かないようにしていたんだが」
ダイアウルフの声に皆んなが静まり帰る。
「死体とアイツはどこに行った?」
私達は死体があった方を見る。
皆んな、死体より前方にいたために気づかなかった。
それに、アイツって………?
「あれ? 響木さんは?」
「え?」
琴音の声にアナスタシアは「やっぱり」と呟く。
「『やっぱり』ってなんですか」
「彼だけ、浮いていたと思わない?」
いつの話だろう。
「彼、スキルが弱過ぎると思わない?」
「私も」
「いや」
レオが遮る。
「お前には【聖剣】とかユニークの【雨のち晴れ】があるけど。アイツは普通の構成だろ?」
「持ってるんじゃない? 他にも」
「何を」
「例えば、【ループ】とか?」
カナまで!
「冗談でしょう?」
「私は」
琴音が口を開いた。
「響木さんが“二周目のサバイバー”と言われても疑問には思いませんよ?」
「あの人、戦闘に参加してなかったし」
私はもう一度辺りを見回す。
もしかしたら、怖くて隠れているのかもしれない。
「でも、幸運だったわね」
アナスタシアが呟く。
「【アンコール】が見られてなくて」
「いつから居なくなったかわかル?」
美雨が聞いた。
それに答えたのはダイアウルフだ。
「【花園】が発動した後だ」
「つまり、【アンコール】は未確認!」
「とりあえず、セーフね」
アナスタシアの声に皆んな頷く。
「響木は死んだことにしておきましょう。死体は全て破壊されたと適当な事を言えばいい」
レオはそう小声で言うと、他の冒険者達を見た。
「帰るぞ! 勝利の凱旋だ!」




