第四話~出発~
遂に出航の時間です。三人を待ち受ける運命は如何に?!
僕たちは起きるとすぐに支度を始めた。リヤカーに昨日、購入した生活物資などを積み込み「船」が不時着した山の湖に向かう。
そこで艦がうまく起動してくれれば万々歳な訳である。僕はテキパキと支度する二人の方を見る。
彼らの「船」は海軍の実験艦隊所属とか言っていた。
という事は二人は異世界の軍人である。そうでなくとも何かしらの軍事訓練は受けているのだろう。
そんな事を正孝が考えている内に家を出る準備は整った。
「さて、出発と行きますか!忘れ物はありませんね?」
「問題ありません。」
艦長ヒンターの陽気な問いにサヨが冷静に答えた。
_山道を皆でリヤカーを押しながら進む。空には大きな入道雲が浮かび地には新緑の木々が生い茂る。
そしてすべての出会いが始まった湖についた。
ヒンターが旅行鞄より船を取り出し湖面に浮かべた。そして彼は再び小さくて薄いガラス板を取り出すと操作を始めた。
「さ!危ないからみんな後ろに下がって。」
彼がそう言った時、すでに「船」は異音を発し膨張を開始していた。
30センチ位だった物が一分と経たぬ内に全長40メートル、高さ8メートルの巨大な乗り物に変化するのは驚きである。
「問題なく作動したようね。良かった。良かった。」
サヨが呟いた。
再び昨日、二人が出てきた扉が開いたので正孝は中を覗いてみる。
艦の内部にもパイプが張り巡らされ見たこともないような機械が並んでいる。
「さて物資を積み込むぞ。サヨとマサタカくんも手伝ってくれ。」
「あ、良いんですか?それではお邪魔します。」
少年は未知の存在に足を踏み入れた。
そこにあったのは大小様々な歯車、メーター、ピストン...実に美しい機械の調和である。
地球の19世紀、産業革命によって世界が機械化され人々が未来に希望を抱いていた時代の芸術作品。
そんな感じがする。
「?!」
正孝は船内に違和感を感じた。
「何だ?ひ、広いぞ!!え、え?!これって一体?!!」
奇妙な機械に満ちた船内は外部から見る船よりも明らかに広いのだ。
少年は何度も確認したが目の錯覚等ではない。確かに艦内の広さが船の大きさを超えている。
正孝が通う中学の体育館並みの広さはあるだろう艦内に呆気を取られていると後ろから声がかかった。
ヒンターである。
「どうだい?驚いただろう。この船は見ての通り外見より内の方が広いんだ。まだ未知の部分も多い空間圧縮技術を最大限に活かした構造だ。あ、物資はその部屋に入れといてくれ。」
「は、はい!分かりました。」
正孝は壮大な好奇心を抱きながらヒンターの指定した倉庫と思わしき部屋に物資を運びこんだ。
数分後、遂に出発準備は整った。
三人は艦の外である湖の岸辺にいた。季節は夏、雄大な青空が澄んだ水に映っている。
「マサタカくん。今までありがとう。ここまで出来たのも君が助けてくれたおかげだ。帝国を代表して感謝を申しあげる。」
「いえ、私はただ人間として当たり前の事をしただけです。こちらこそ貴重な体験をさせて頂きありがとうございました。」
互いに礼を交わす。遂に来た別れの時。
「これで僕らは出発する。君とはまたいつか出会うかもしれない。君の世界に幸あらんことを!!」
正孝は二人の後ろ姿を見送る。このまま行けばハッチが閉じ、船は空の彼方に消え去るだろう。
おそらくもう二度と会うことはない。自分と彼らの生きる世界は違う。
このことは一夏の不思議な思い出となる。
だけど本当にこれで良いのか?
正孝は自分がこの世界に退屈を感じていたことを思い出した。
冒険がしたい!
まだ世界の誰も経験したことないようが旅…。
もし神が実在するなら彼らは神が僕に与えた未知への招待状なのではないか?
このチャンスを逃すわけには行かない。
「あの!」
正孝は船に入ろうとしていた二人に声をかける。
「僕も…私も乗せてくれませんか?この船に…。」
同時に振り向いたサヨとヒンターは驚いた表情で正孝を見つめる。
そしてサヨが答える。
「…すまないが艦内規則により海軍省の許可が無い者を航海に連れ出すことは禁止されて…」
「いや、ちょっと待て!」
ヒンターが割って入る。彼は正孝に近づくと肩に手を当て目を見て語り出した。
「マサタカ君。船での旅はとても刺激的で面白いものだ。しかし大変、危険を伴うものでもある。死ぬかもしれない。一生癒えない傷を負うかもしれない。現に死者も出ている。並みの精神と体力では持たない。それでも君は行きたいのか?」
ヒンターの目はこれまでにないほど真剣な目をしてる。並の修羅場をくぐってきた訳ではないことが理解できる。
しばらく間をおいて少年は答えた。
「はい、それでも僕は行きたいです。僕は今まで誰も経験した事ない旅をするのが夢でした。私の住んでる地球は等の昔に調べつくされ新たな冒険には不向きです。空想するだけの退屈な日々でした。しかしあなた方が現れました。僕は神の与えしチャンスと思うのです。あなた方が見てきたものを僕も見たい!自分の夢を叶えて死ねるなら本望です!!」
ヒンターは少年の気迫に圧倒される。
(こいつ…本気だ。永久不滅の好奇心が溢れている。これは面白い!!)
巡洋艦第一号艦長ヒンター・カイフェックは決断をくだす。
「マサタカ・サイトウ。君の乗船を特別に許可する。」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!」
少年の顔が晴れる。
「ただし条件があるぞ。船内規則の厳守だ。俺の命令には必ず従うこと。小さな過ちが大きな危機を呼ぶ。一人は全員の為に、全員は一人の為に。これを肝に銘じておけ。」
「了解です。艦長殿!!」
正孝は敬礼をしながら返答した。これからは自分も「船」の乗員である。
「ヒンター艦長!これは明らかな規則違反ですよ。本部に戻ったら間違いなく解任される。最悪の場合、処刑されるかもしれない…もう一度よく考えてください。」
サヨがヒンターに進言する。彼女の必死な様を見ると「船」には厳重な法が適用されているようだ。
「艦と乗員の生存に重大な貢献を果たした人物を保護したと証言すればいい。人名救助をするなと規則には書いてないだろ?結局の所、帰港してみないと分からんさ。」
ヒンターはこう言い返した。サヨはどこか納得いかない顔をしたが了解と言って頷いた。
「さあ、みんな船に乗り込め!早いとこ出発しよう。」
湖畔に艦長の陽気な声が響く。
僕はリヤカーを引きながら再び船に乗り込んだ。外より内が広い。いつ見ても驚きだ。
「操縦室はこっちだ。」
ヒンターとサヨに導かれ正孝は船内を進む。パイプや配線の入り組んだ通路を進むと階段が見えた。
辺りは優しい暖色の証明に照らされ明るい。それが機械の美しさを引き立てている。
階段を登ると計器やモニター?らしき物が沢山ある部屋が見えた。
「ここが操縦室ですか?」
「そうだ。この艦の操作はほとんどここで行われる。どうだい?格好いいだろう?」
ヒンターが自慢げに答える。確かに彼の言う通りだ。今まで見た船の内部で一番、美しい。
正孝は赤い宝石のような物体が埋め込まれた基盤状の機械に手を触れようとした。
「触れないで!!」
サヨが怒鳴った。すぐに正孝の所に来て機械の状態を確認する。
「す、すみません!」
「怒鳴って悪かった。あなたが船内気圧維持装置に触れようとしたから。下手にいじると窒息する可能性があったのだ。他にも危険物はあるから勝手に障るようなことはやめて。」
三人を囲む数多の機械。その全ては船の何かしらの操作に関わる意味があるのだ。間違って動かせば死に繋がる。
「こいつは失礼、マサタカくん。まだ艦内の詳しい説明がまだだったね。サヨの言うとりこの船の機械は取扱注意な物ばかりだ。少しでも気になる事があったらいじる前に質問してくれ。」
「はい。これからは気を付けます。それでは私はどこで何をすれば良いでしょうか?」
「そうだな。君には特別に操縦士補佐官見習いの任務を与える。まずはその場所で俺やサヨのすることを見ておけ。」
「了解!」
そして巡洋艦第一号の運転が始まった。ヒンターが大きな声で指示を出す。
「これより本艦は新世界からの脱出を行う。エンジン作動、出発せよ。」
そしてサヨが操作を始め返事をする。
「了解。反重力エンジン作動開始。巡洋艦、浮遊します。」
船内に正孝が聞いたことないような轟音が響き歯車やピストンが動き出す。
「うわああ!稼働しだしたぞ。」
正孝は思わず声を出した。幾つもあるモニターには外の景色が映り船が上昇しているのが分かる。
あっという間に地面が遠くなり真下には航空写真で見るような風景が広がった。
「高度1000メートルまで上昇。艦艇静止します。」
船はヘリコプターの様に高空に静止した。再び艦長の指示が飛ぶ。
「艦艇12時の方向に前進。徐々に加速しつつ四次元空間に突入せよ。」
「了解。艦艇前進、徐々に加速します。」
サヨが操縦かんを前に倒すと船の両舷についた外輪が回りだし船が進み始めた。
雲を横切り艦は進む。まさに空飛ぶ船だ。
(綺麗だな。空を飛んだのは何年ぶりだろう。)
正孝は昔、父と一緒に旅客機で九州に住む親せきの家に遊びに行った時のことを思い出した。
飛行機の窓から見える景色はとても雄大で美しかった。
船はゆっくり加速していく。
(地球とはしばらくお別れだ。)
これから自分は異世界人と未知の冒険に向かう。その時だった。
ピュイン ピュイン ピュイン
船内に警報が響いた。
「9時方向より当艦に向かって未確認物体が高速で多数接近!この世界の飛行機械と思われます。」
レーダーに赤い点がいくつも映し出される。
モニター画面が拡大され、その物体が映し出される。
「あ、これは!!」
三人の目に映りし物。それは洗練された銀翼で雲を突き抜け進んで来る。
「F15J戦闘機!!」
正孝がよくテレビやネットで目にする航空自衛隊の主力戦闘機だ。
三機のそれは旋回すると船の真後ろと真横にそれぞれ近づいてきた。
「そんなバカな⁈相手から見えるはずは・・・あっサヨ!!ステルス機能はどうなってる?」
ヒンターがサヨに確認すると彼女は少し慌てた様子で確認する。
「ステルス機関、大幅に出力低下!しまった。ここも故障していたのか。」
「それじゃ丸見えなわけだ。」
船には船体を透明にしてレーダーにも一切探知されないシステムが搭載されていたが不時着の衝撃で故障していた。
「申し訳ありません艦長。私が気付いていれば・・・」
サヨがヒンターに謝罪する。
「いや、もし気付ていてもここは修理できなかったさ。今はどう対処するか考えよう。」
■ 航空自衛隊第X航空団XXX飛行隊所属F15J機内
「何なんだこれは??」
飛行隊のリーダーを率いるベテランパイロットの大堀は目の前を飛行する物体に困惑していた。
さきほどレーダー施設から大野県上空を未確認飛行物体が飛んでいると連絡が入り一番近くにある横蛇基地所属の自分たちが緊急発進することになった。
最近は隣国空軍機による領空侵犯が相次ぎ防衛省は空の監視に目を光らせていた時である。
それは自衛隊の大型ヘリコプターより大きく時速800キロメートルで飛行している。
「航空機と言うより船に近いぞ。空飛ぶ船だ!」
こんな物体は今まで見たことも聞いたこともない。ただ全体的な形が外輪を持った潜水艦の様だ。
国籍、目的、名前など色々と無線で呼び掛けたが応答はない。
自分も部下も混乱している。だが我らは空を護る精鋭部隊。冷静を保たなくては。
司令部からこいつが後一分待っても返答が無ければ撃墜を許可する命令がきている。
空飛ぶ不審船は逃げようとしているのか加速を始めている。
「隊長!このまま進むと東京ですよ!」
部下が無線で呼び掛けてきた。 確かにこのまま物体が進めば県の境界を越えて首都圏に入る。
(こんな物が東京上空に現れればパニックが起きる。そうなれば国に与える影響は計り知れない。)
私達が撃ち落とすしかなさそうだ。大堀は不審機を撃墜する決断を下す。
「各機に告ぐ。これよりミサイル一斉発射による未確認飛行体攻撃を行う。」
三機の戦闘機は船から離れ攻撃準備を開始した。
⬛巡洋艦第一号艦内
「サヨ操縦士。そろそろ突入できる頃じゃないか?」
「まだだ。でもあと少しで突入可能速度に達する。」
三人は慌てていた。速度を急に上げて引き離すこともできるが病み上がりの船に無理は禁物とヒンターが判断したのだ。
「戦闘機か。空気抵抗を考えた理想的な形だ。」
「感心してる場合じゃありませんよ。攻撃でもされたら…」
正孝がヒンターにもの申した時、サヨが叫んだ。
「飛行機械よりミサイル発射!!こっちに向か…」
ドドドドーン!!!
凄まじい爆発音と衝撃が船内に響いた。
自衛隊機が一斉に船を攻撃したのだ。
「うわあああ。自衛隊が撃って来たあああ‼」
正孝が叫ぶ。日本の中学生がミサイル攻撃されるなど前代未聞である。
「みんな無事か?」
ヒンターが呼び掛けた。
「はい、僕は大丈夫です。」
「敵の攻撃を確認!!攻撃レベル3、冷却水供給管に損傷を確認。」
サヨが今の攻撃のレベルと破損箇所を報告する。
「昨日、修理した所じゃないか。やはり応急ではダメか。」
艦橋後部のパイプが破損して水が吹き出している。
「対空火器による敵の殲滅を進言します。」
サヨが艦長ヒンターに反撃命令を要請する。
正孝は今、自分が戦場にいるのだと自覚した。
「いや、反撃は駄目だ。もし彼らを撃ち落とせば次にこの世界に来たとき全ての国と戦うことになる。不時着とはいえ勝手に侵入したのは僕らの方だからね。」
艦長はとても険しいが落ち着いた声で応答した。
「もう突入可能速度ではないか?」
「はい。もう十分なスピードです。」
そしてヒンターは命令を下した。
「本艦はこれより四次元に突入する。閃光弾で敵の目を眩ましている隙にロケットエンジンに点火して一気に引き離す。主砲発射用意!!」
艦長の命を受け彼女は機械を操作する。
「弾種、閃光弾。方位12時、角度45度、距離2000、撃ち方始め!!」
サヨの掛け声と一緒にヒンターがこう叫んだ。
「みんな目をつぶれ!!」
F15J三機は再びミサイルによる攻撃を行おうとしていた。
「一斉攻撃を受けてかすり傷程度だと?!」
隊長大堀とその部下は驚きを隠せない。だが何度も攻撃すれば撃墜できるかもしれない。
大堀が再攻撃の指示を出そうとしたとき船の大砲らしき箇所から何か放たれた。
ピカッ!!!
激しい閃光が辺りを覆った。
「ぐわあ!目がああ!!」
戦闘機隊隊長と部下二人が叫ぶ。
その頃、船は突入作業に入った。
「今だ!ロケットエンジン点火。四次元突入開始!!」
船体後部より鋭い炎が吹き出し一気に加速、戦闘機を引き離す。
青白い光が船を包み空中の一点で大きく光り、それは消えた。
数分後、戦闘機隊のパイロットたちは一時的な失明から視力を取り戻した。
大堀は部下と機体の安全を確認するとすぐさま司令部に連絡する。
「こちら1号機より本部へ。目標を視認範囲及びレーダーから消失。」
彼らの目の前にはいつもと変わらぬ青空が果てしなく広がっていた。
今回は私が思っていた以上に話が長くなりました。リアリティーや文章表現向上に力を入れていきたいと思います。次回からは異世界での話に突入します。これからも「巡洋艦第一号」をよろしくお願いします。