魔王は死をも愛す5
二人の姿がこの世界から完全に消えた後、月から一匹のドラゴンがやって来て、ぎりぎり残っていた塔に両足を着けて着地する。
ゆっくりと変わり果てた世界を満遍なく見渡す。
ドラゴンが大きな翼を広げ空高く上がると、大きく息を吸う。お腹をへこまし、極限まで息を吸った後、口から生命の吐息を放出させた。その吐息は風で揺られ、世界に新たな命を与える。
かけていた文字が元の位置に並び、無数の数字が羅列する。地面からは潤いに満ちた土が生まれ、そこに新しい葉や草木の命が芽吹き、世界は再構築される。
徐々に元の姿にリセットされると、街には元の暮らしと平和が戻り、何事もなかったかのように人々は今までの生活へと落ち着きを取り戻した。ドラゴンはことが終わると大あくびをする。
紅い月は裏で隠れていたものが立ち去ると本来の色を取り戻す。
ドラゴンはゆっくりと地上に降り立つと、久しぶりの土の感触に嬉々とした。
「少し休むとしようかーー……」
ドラゴンはありったけの力を使い果たのだろう、体を丸めると大きな姿は段々と小さくなり、すっかり草むらに隠れてしまった。
ぐーー…ぐーー…ぐぅ。
洗濯物を取り込んでいたメイド服を着た彼女が、木陰にころんと転がっていた、ふわふわの毛玉みたいな彼の姿に気がつく。
「あら? コックルちゃん? こんな所でお昼寝してたら、風邪を引いてしまいますわ」
ナーガはよく眠っているコックルを抱き締めると取り込んだばかりの洗濯物が置かれた洗濯篭の中に彼を寝かせる。
「レオパルドさん? セーレさん? ちょっと手伝って下さいませんか?」
コックルは太陽の光をいっぱい浴びた洗濯物の中で、ぐーすかと穏やかに眠っていた。
魔王とレイヴンが元の世界に戻った後、新たな肖像画が広間に飾られた。
「ナーガは魔王様のこと絶対忘れませんわ」
ナーガの背中を見守るのは、たくましい二人の元勇者たち。
「魔王様がいつ戻られてもいいように、私たちは、ずっと塔をお守りいたしますーー……」




