サーカス5
レオパルドの炎で水の温度が変わったのか、凛が少し目を開ける。しかし、水の中で息ができなくてもがき苦しんだ。二人が凛に合図するが凛は口を固く閉じたまま動こうとしない。
レイヴンがガラスを割ると中から水が溢れて、周りは水浸しになった。
やっと息が吸えたと荒い呼吸をする凛。思わず口から何かが落ちる。それは小さな鍵だった。
「鍵を口の中に隠していたのか……!」
青年は慌てて口を塞ぎ、罰が悪そうに渋々と二人の前に現れる。
割れたガラスから凛の体を出すときに、彼女の体には傷をつけぬように大部分のガラスを叩き割ったのだろう。レイヴンの手は深い傷をおって、細かいガラスが手に刺さっている。男を見や否やレイヴンはガラスのついた手を握りしめ、そのまま右手で男の頬を殴った。
「私はそいつが魔王かどうか観察していただけだ。別に戦いたいとは思っていない」
「戦ってなどいない」
青年の胸ぐらを掴むと、レオパルドは歯をきりきりと噛み締める。自分の怒りを抑えるかのように呼吸を整えながら睨み付けた。
レオパルドに鎖を外された凛は、物陰に置かれたコックルが入った檻を見つける。
「こんなところにずっと閉じ込められていたのね、かわいそうに……」
鍵を使ってコックルを取り出すと、コックルを抱き締める。
「戦うと言うのは相手を負かすために立ち向かうことだ。俺たちも含め、魔王様は最初から戦ってなどいない」
レイヴンは凛が繋がれていた鎖を片手で砕き、青年の腕へと巻き付ける。青年の頭を掴むかのように、鋭い爪を剥き出しにする。しかし、顔を引き裂くことはなく、顔の目の前で血が滴る手を止めた。どこからか黒い煙と共に二人のフードを被った影が現れる。
その影は青年の口から体内に入ると、魔力をすべて吸い付くした。蒼の髪色は段々色が抜け黒く染まっていく。背中からはめきめきと黒い翼が生え、額には二本の角が生えた。二本の両足は馬の四本足に姿を変える。
「これからは魔王様に血の一滴まで捧げるのだ。
それが魔王様に傷をつけた罪」




