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魔術師たちの昏き憧憬:Re  作者: 美凪
三章 欲望の夜鬼と悪夢
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#2


#2


「具体的にはご存じないのですね?」

「実際にその第一発見者とやらに話を聞いたわけじゃないからね。今回は"まだ"何もしてないのよ。とりあえず話を先に聞いてもらおうと思って……」


 そこでレイカは、彼女にしては稀な表情を見せる。いくら高い教育を受け、海千山千の人物がはびこる社交界を経験しているとはいえ、レイカはまだ十代の乙女である。好奇心の塊のような彼女であるが、今回ばかりは親しい間柄の人間が犠牲者となったためか、強い不安を感じているようだった。その不安を誰かに話して紛らわせるために、一番適当な場所だと判断してここを訪れたのだろう。

 確かにトキヤならば、普通は信じられないようなことでも頭ごなしに否定しないので、今回のような話を聞かせる相手にはうってつけであるかもしれない。


 もっとも、彼女(レイカ)のことだ。それだけというわけではないだろう。


「なるほど。今の状況はよくわかりました。――それで、ボクに何か望むことがおありですか?」


 何も見も知らぬ間柄ではない。妙な縁ではあるが、トキヤはレイカの力になってやりたいとは考えていた。むろん、自分にできる範囲で、という制約は存在するが。


「……犯人を見つけてほしい、とは言わないわ。ただ、ちょっと手伝ってほしいのよ」

「何をです? あまり立ち入ったことは――」

「わかってるわ。そんなに危ない橋を渡るつもりはないのよ。ただどうしても気になるから」

「遺体の状態が普通ではなかったことと、突然消えてしまったことが、ですか?」

「そうよ。だって、特に死体が消えてしまうだなんて、絶対に―― かどうかはわからないけど、なかなか起こり得ないことじゃない?」


 どうやらレイカは、友人の死にまつわる「謎」が気にかかって仕方がないようだ。確かに普通は起こり得ないことが起こっていることは確かなのであろうが――。


「あまり事件について調べまわるのはお勧めしませんよ?」

「あら、どうしてかしら」

「すでに市警の捜査官が活動を開始しているのなら、彼らの捜査の妨げになるかもしれません」


 素人の好奇心ほど厄介なものはない。トキヤはその手の話をうんざりするほど叔父から聞かされて来ていた。


 名実ともにシュト一の探偵として名高いスメラ・カンザキは、非公式ながら市警から依頼を受けることもある。それらの活動の中で、"善意や好奇心"による妨害を幾度となく受けてきたらしい。

 スメラは仕事の現場でこそ不満を顔に出さないが、オフの時間に―― 酒が入っていると特に―― その不満を爆発させることがある。修業時代、一緒に時間を過ごすことが多かったトキヤは、しばしばそういった負の感情の矛先にさらされた。愚痴を聞かされるだけならばまだしも、トキヤは一度酒に狂ったスメラによって腕を折られている。

 さすがに大きな被害が出たのは一度きりであったが、その一度がトラウマとなったことは言うまでもない。その一件の思い出の所為は多分にあるだろう。トキヤはすでに領分の決まった事件に首を突っ込み、現場のに人間の邪魔になるようなことはしたくないという考えを持っていた。


 レイカはトキヤの考えに真っ向から突っかかることをしなかった。彼女は口を閉ざして何事かを考えている。

 トキヤは嫌な予感がした。レイカは確かに好奇心旺盛な"厄介な素人"だが、それ以上に手に負えない性質を秘めている。彼女の突拍子のない言動は、すでに何度かトキヤの度肝を抜き、裏をかいている。


「……わかったわ。要は、捜査の邪魔にならなきゃいいのよね」

「何をするつもりですか?」

「そんなに怖い顔しなくても大丈夫よ」


 余裕たっぷりにほほ笑むレイカ。対するトキヤは、そんなに険しい顔をしていただろうかと、自分の額に指を這わせてみる。


 ――皺は寄っていないみたいだが。


 その行動がおかしかったのか、黙ってやり取りを見ているだけだったフウカがクスリと小さな笑い声を漏らした。意図せず場の空気が緩んだようである。


「捜査官には一切接触しないわ。約束する。私ができる範囲でいろいろ聞き出してくるから、あなたには情報の整理とかを手伝ってほしいのよ。そういうのは得意分野でしょ?」

「……こういうことを訊くのはナンセンスかもしれませんが、なぜそこまでしようと思うのですか?」

「あなたは気にならないの?」


 トキヤは継ぐ言葉を失った。レイカがあまりに真剣な表情をしていたからだ。


「他人にとってはただの好奇心。それは承知しているわ。でも、気になってしょうがないのよ。……なぜあの子が死ななくてはいけなかったのか。何が彼女の身に起こったのか。これは友人として当然のことじゃないかしら」


(友人として当然のこと、か)


 仮に自分の友人が死んでしまったとしたら。その死が謎めいたものであったとしたら。

 確かに自分はそのことについて、躍起になってしまうかもしれない。それが間違ったことだとわかっていながらも、知りたいという気持ちに振り回されてしまうかもしれない。トキヤはレイカに対して、どのような言葉をかけるか迷った。心情的な理解は及ぶが、かといって完全に肯定もしてやれない。


「あなたは私の調べたことに「結論」をつけてくれればいいの。つまるところ、私が満足するまで話し相手になってくれればいいってだけ。――それもダメ?」

「やぶさかではありませんが……」


 トキヤのかたくなな態度に、レイカは呆れ顔だ。


「ほんとうに心配性なのね。私だってそう無謀ではないわ。世間様に悪い印象を与えることはしなわよ。それに――」

「――ボクには結局のところ、カレッジ内でのあなたの行動を制限する権利も手段もない、ですね」


 トキヤはカレッジの卒業生だが、カレッジ内に自由に出入りする権限を持っていない。正式に校内に立ち入ろうと思うなら、特別に申請を行って二日も待たなければならないのだ。少なくともそれだけの時間の間、トキヤはどんあ手段を用いても、カレッジ内での姉妹の行動を制限することができないのである。


「わかりました。それであなたの気が済むのなら、ボクはボクができることをしましょう」


 最初から勝負は決まっていたようなものである。結局トキヤは白旗を上げることになった。

 彼の心配事は何もレイカたちが市警の人間に迷惑をかけるかもしれない、ということにとどまっているわけではなかったのだが、結局彼はそれを口にしなかった。生徒同士で噂話をする程度なら、何も起こりはすまいと考えたのだ。


 ――このとき、トキヤは立て続けに超常がらみの事件に巻き込まれていたせいか、神経が過敏になっていた。「何も起こるはずはない」と自分で思い込みたかったのかもしれない。すべてが終わったあと、彼はそのように振り返った。


 結局、レイカは約束を守った。決して市警の捜査官に話しかけはしなかったし、捜査を妨害することもしなかった。しかし、なんとも予想外の形で「事件」と関わりを持つことになってしまったのである。


 トキヤは後悔した。

 あの時、もっと自分の警戒心を信用しておくべきであったと――。


更新が遅れに遅れて申し訳ありません。

うっかりPS4とP5を衝動買いしてしまった結果です。作業が全く進んでおりません。

これ以上おまたせするのもどうかと思うので、すでに書き上がっているものを週一ペースで更新していきます。姑息な手ですが、何卒ご容赦を。

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