第2話 月闇の国にようこそ
起きたら、建物なんて全くなくて、星空なんていかがでしょう。
今ならオマケに薔薇のベッドまで付いてきます。――茨付きで。
「・・・・・・っいたい!」
あまりの痛さに飛び起きると、薔薇から落ちた。
植木の上にちょうど落ちたらしい。
「あ。眼鏡、眼鏡っと・・・・・・」
いつもの癖で、辺りを探そうとしたけど、何か変。
いつもはボヤける視界も今日は、くっきりはっきり。
「視力急激回復・・・とか?」
恐る恐る周りを見渡すと、何もない拓けた所だと分かる。
えーっと。何があったっけ?
公園で漫画読んでたら、コスプレ外人が出てきて、何故かわたしを追いかけてきて、ブラックホールに落とされて・・・・・・。
漫画とかではよくあるパターンだけど、自分のことになると、実感全くわかないな。
とりあえず、ウサ耳コスプレにもう一度会わないことには―――
「あ、起きましたか?」
「どぎゃーっ!!」
背後からの急な声に、乙女らしからぬ悲鳴をあげて、飛び上がってしまった。
「あぁ、驚かせてすみません」
生で見る爽やかスマイル、なかなか生では見られないぞ・・・。
――って、そんなことより重要なことを聞かんと。
「家に帰せ。この誘拐犯」
「それは無理ですよ。此処は貴女がいたところ、ましてや世界ではありませんから」
うん。意味が分からない。
とりあえず、どうにも話を聞かなくちゃいけないから、話を変えよう。
「わたしの眼鏡は?ここどこ?あんた誰?何でわたしの名前知ってるの?」
ふっと笑われた。
「そんな一気に何個も聞かないで下さいよ。困ってしまうじゃないですか」
困ってるとか言いながら、微塵も困ってる感じがしなかった。
――変な人。
「あ。今、変な人って思いましたね」
「えっ!!心の声が聞こえたの?!」
「顔に出ています」
また笑われた。
今度は、押し殺すように顔を歪めている。
それでも、綺麗な顔は崩れない。
どんな完璧人間だよ。
「それでは、僕の答えられる範囲でお答えしましょう。早く城に戻らないと、僕の首が危ないので」
「はぁ・・・」
仕方ないので、体育座りで聞いておく。
制服のままだったから、全校集会の時みたい。
そんなことしてるのなんて、わたし一人って所は違うけど。
「まず、僕は、【白兎】のヴァイス、別の名を【冷酷処刑人】。そして、【アリス】の【案内人】。ヴァイスと呼んでください」
「・・・・・・色々と、何で【冷酷処刑人】なのかー、とか気になるけど、とりあえず、その耳なんとかしないの?」
ピクピク動く白い長い耳を目が追いかけている。
萌え要素としてはいいんだけど、いい加減コスプレ脱がないのかな。
「あぁ。これ本物ですよ?何なら触りますか?」
「え。いいの?・・・じゃなくて、続きをお願いシマス」
危ない危ない。誘惑に負けるところだった。
「はい。この世界は、月闇の国。昼間なんてものが、130年前から無くなった国です」
「昼間が・・・ない?」
そんなこと有り得るのだろうか?
だって、今だって月は見えてる。確か、月っていうのは、太陽の光が反射して地球に見えるって聞いたことがあるよ。
「・・・・・・そんなの有り得ないよ」
動揺するわたしからこぼれた言葉に、冷静で淡々とした言葉が帰ってきた。
「そう。『有り得ない』。貴女の世界で『有り得ない』。それは、此の世界では、『有り得る』。此の世界で『有り得ない』ことは、貴女の世界では、『有り得る』」
「そ、そんなの狂ってるよ」
「そう。『狂ってる』。此の世界は、狂っているんです」
そう言った時のヴァイスの顔は、何だか迷子のような顔をしていたと思う。
泣きそうで、助けがほしい。
そんな顔。
そんな顔もすぐに笑顔という仮面の下に消えた。
「ですから、女性に似合わぬ眼鏡も、無くなったのだと思います」
――んん?聞き捨てならない言葉があった気が。
この男は、全世界の眼鏡っ娘を敵に回したととらえていいですか?眼鏡っ娘をなめちゃいけません。
「貴女の名前を知っているのは、貴女が【アリス】だからです」
「・・・・・・はぁ?理由になってないわよ。
わたしは確かに鈴木亜理子。『ありす』って読まれるよりは、『ありこ』って読まれる方が多いけど、正真正銘『ありす』よ。
でも【アリス】なんてファンシーな呼ばれ方されたこと無いわ」
「いいえ。貴女は【アリス】。十三代目の【アリス=リデル】なのです」
この石頭の兎。叩けば、納得すると思いますか?
逆に手が痛くなる気もします。
「此処でウダウダ話している暇なんてありません。さあ、城へ行きましょう。【女王様】がお待ちです」
ヴァイスが、一歩二歩の私たちの距離をあっさり縮め、私の横にしゃがみこんだと気づくと、急に身体がふわりと浮いた。
とっさのことに訳も分からず、目をぱちくりさせたが、やっと抱えられていることに気がついた。
―――しかも、お姫様だっこ。
「は、離してよ!!」
「此方の方が早いですよ。それとも落としてほしいですか」
またもや見てしまいました。真っ黒な微笑み。
お腹真っ黒の腹黒兎に抱きかかえられ、森の中に入っていった。
さすが兎。ジェットコースター並の早さです。
わたしは、気絶寸前です。
**キャラクター**
鈴木 亜理子【アリス】
特徴*茶髪。黒い瞳。
備考*世に言う『オタク』




