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最終菌:実はキノコだった


「ねぇ、ふなじ。ちょっと話があるんだけど……」


 ある日の朝。

 登校して教室に着くなり恵子に呼び出され、人気のない廊下に出た。


 なんだろう……。

 恵子はよく僕に文句を言うし、いい加減うっぷんを晴らすつもりなのだろうか。


「ぼ、暴力反対……」

「はぁ? 何言ってるのよ。それより、ちょっと相談があるの」

「え? 相談?」


 良かった。暴力沙汰じゃなかった。


「相談って何だい?」

「あの、榎田さんのことなんだけど……」


 恵子が言うに、榎田さんが教室で浮いてるんじゃないか、ということだった。


「たしかに、かなり浮いてるよね。エノキ方面で」

「うん、まぁそれもそうなんだけど……。じゃなくて、榎田さん、はじめはよくみんなに話しかけられてたでしょ?」


 転校してきた数日は、榎田さんの周りに人の輪ができるくらいだった。


「でも、ここのところ、ずっと一人でいる気がするのよ」

「え? 僕たちはよく話すよね?」

「そうね。あたしとふなじとはよく話すけど、最近他の子と話しをするの、見たことある?」


 言われてみれば、榎田さんが僕たち以外と話すのを最近見てない気がする。

 けど、


「まだ転校してそんな経ってないし、気にするほどでもないんじゃないか?」

「そうかしら、でも、始めは肝心よ。一度浮いちゃったら元に戻るのは大変なのよ? その間、とても辛いわ……」


 いつになく真剣だな、恵子。

 恵子もあまり人と接しない方だし、色々と思うところがあるのかな。


「でね。榎田さんを元気づけてあげようと思うんだけど……力を貸してくれない?」



 ※ ※ ※



 教室に戻ってくると、榎田さんは自分の席……じゃなく、窓際に腰掛けていた。

 ぼんやりと、窓の外を眺めてるようだ。


「さっきあたしが来た時も、ああやってぼぅっとしてたの……」

「そうなんだ……」


 あの様子だけ見ると、たしかに寂しそうに見える。

 僕たちがいない時はいつもあんな感じなんだろうか。


「とにかく、元気づけてあげましょ」


 そのまま、恵子は榎田さんの方へ駆け寄っていった。


「ああああ、あの、え、えにょっ、えにょき……!」


 かみまくってる!

 どうして恵子がうろたえてるんだよ……。

 見てられなくて、僕も二人の方へ行く。


「おはよう榎田さん」

「……あ、舟司くん。おはよー」


 少しぼんやりした感じだけど、挨拶を返す榎田さんは、いつもとそんなに変わらないようだった。


「窓際で何してるの?」

「んんー? 日光浴だよー。自生するエノキの気持ちを知ろうと思ってなー」


 榎田さんから聞いた話しだけど、スーパーにあるあの白いエノキは人工で、光の当たらない暗所で栽培される。

 だからあんなに白いんだけど、自然に生えるエノキはもっと太くて茶色っぽい色をしてるらしい。

 ……いつの間にかこんなエノキ知識がついてしまった……。


 ところで、今はその自生エノキの気持ちを知ろうとしているらしい。

 また変わったことを……。


「あぁー、変色するわー。褐色榎田になるー」


 そう呟く榎田さん。

 うーん、たしかに、そんな榎田さんに近づくクラスメイトはいないようだけど。

 たしかに明らかに浮いた行動だけど……。

 ……ほんとに、浮いてるのか? 不安になってきた。


「え、榎田さん……」


 と、調子を戻した恵子がおずおずと、


「あの、えと……え、榎田さんが寂しくても、あたしたちは一緒にいるから……。胸張ってエノキ食べなさい……!」

「んんー? 末田さんー?」


 いきなり慰めに入った!

 なんか榎田さんがエノキコンプレックスみたいな設定になってるし……。

 なんて不器用なんだ、恵子……。


「そ、それにあたしも、昔あだ名つけられててさ……。末田恵子の"末"って、"マツ"とも読むでしょう? だからみんなからマツタケ子、マツタケ子ってからかわれてたの……」

「マジかよー。末田さんもキノコだったのかよー」

「え、ええ! そうなの! だから、あたしと榎田さんは……そう、キノコ友! キノコ友よ!」

「キノコ友かー」


 恵子って、マツタケ子だったんだ……。

 暴走する恵子の裏話を聞いて、榎田さんも嬉しそうだった。


「いいねー。じゃあ、ぶなじめじの舟司くんも合わせて、わたしたち三人はキノコ友だなー」

「僕も入るんだ!」

「当たり前だるぉ? こちとら、舟司くんは最初っから目ぇつけてたってばよー」

「ああ、舟司(ふなじ)明治(あきはる)で、"ぶなしめじ"か……。なるほど」


 恵子もうんうん頷いてるけど、納得いかない。

 だから、榎田さんはやたら僕に絡んできてたのか……。


「ところで末田、いや、ケイ子ちゃんでいいかな? いきなりどうしたのさー?」

「え?」

「どうしてそんな裏情報を暴露したのさー?」

「え、だって、榎田さんが元気なさそうだったから……元気づけようと……」

「んん? わたしは別に普通だぜー?」

「榎田さーん!」


 と、不意にクラスメイトが駆け寄ってきた。

 転校当初、ショートボブをことごとく封じられていた女の子だ。


「おう舞ちゃん。ちょうどよかったー。こないだ借りたノート返すぜー」

「あ、もう写し終わったの? あのねあのね! 今までの授業でわかんないとことかなかった? もしあったら、いつでも言ってね!」

「おう、いつも助かるぜー」


 そして談笑する榎田さんとクラスメイト。


「……………………。…………あら?」

「どうやら、恵子の思い違いだったみたいだね」

「そそ、そうなの……?」


 さっきの言動を思い出してか、恵子はダラダラと汗を流しながら顔を真赤にした。


「ま、間違いは誰にでもあるしさ」

「変な慰めはいらないわよ……」

「まーまー、二度あることは365エノキあるって言うしなー」


 突然、榎田さんも慰めに加わってきた!


「そして無理やりだし! そんなことわざ聞いたことないよ!」

「……ふふ、まるで年間パスね」

「なにその微妙なボケ被せ!」


 てか恵子ももう立ち直ったんだ!


「それに第一、数が多すぎだよ!」

「えー……、でもなー。一匹見つけたら10万エノキはいるって」

「言わないから!」


 それはGだよ!

 てか、アレと同じ扱いでいいのかい!?


「いいなー、そのツッコミ。わたしたち三人、これから(エノキ)感じになりそうだなー」

「ふふ……。ええ、そうね。(エノキ)感じになりそう」

「なんか変なところで結託してる!」


「ようし、わたしたちキノコ友の戦いはこれからだぜー」

「おー!」

「勝手にまとめないで!?」


 結局、何の問題もなくよかったけど。

 なんだかんだで、これからまた忙しくなりそうな気がした。




 おしまい。



最後までお読みくださりありがとうございました!

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