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6 『む シ バ み』



 話しながら歩いていると目的地らしき場所に着いた。見たところ取り壊し前のマンションだった。


 「地図ではここってなってるけど」

 「それじゃあナオちゃん……えーと仲間に電話するッス」


 僕からケータイを受け取り電話を掛けようとした時だった。


 「その必要はないぜ!」


 後ろから滅茶苦茶テンションの高い声が聞こえてきた。振り向くと、中学生ぐらいで霜野さん以上に小柄な、しかし赤く染め上げた髪とパンクな服装、挑発的な顔つきをした明らかに霜野さんとは対局の女の子がいた。


 「アネキ! 待ってたぜ」

 「あっ、ナオちゃんお疲れ様ッス」


 いや、待て。


 「えっ、仲間ってこの子!?」

 「アネキ、こいつ誰?」

 「え、えっと、えっと……」


 二人同時に訊かれやや困った霜野さんはテンパりながらも紹介してくれた。


 「こちら氏浦光俄さん。新しくレイタイに入る予定です。この子は泉名音子ちゃん。私と同じレイタイのメンバー、 ナオちゃんッス」


 霜野さんがそう言うと、ちっちゃいヤンキーのみたいな風貌の泉名音子は品定めするように僕を見た。


 「ふーん、久しぶりに新人かぁ。まっ、足引っ張んなよな」


 生意気だった。


 「よろしくね、先輩」

 「おっ、いいねぇ! 見どころあるね、この新人。アネキ、オレこいつ気に入ったぜ」


 皮肉で言ったつもりだったが、思いのほか気に入られてしまった。


 「先輩は年いくつなの?」

 「ん? 十四だけど。あっ、年上だからって調子乗んなよな!」

 「いやいやまさか。滅相もない」

 「よし! んじゃあアネキ、氏浦、ついてきてくれ」

 「ちょっと待って、人数はこれだけ?」

 「ああ。他の奴ら電話繋がんねーんだよ。相手は一人だからなんとかなんだろ。行くぞ」


 そう言うと音子ちゃんはマンションの中へと入っていった。僕はいの一番に気になったことを霜野さんにぶつけた。


 「中学生は流石に不味いんじゃないの」

 「人手不足ッス」


 霜野さんは震え声で答えた。悪戯を見つけられた子供のような反応だった。

 まあ考えてみれば高校生もアウトだとは思うけれど。

 そんなことを無言で考えながらも音子ちゃんに連れられ階段を上がった。


 「亡霊は九階に住んでる二十歳くらいの男にとり憑いてる。さっき後つけて確認したから間違いねぇ」

 「分かったッス」

 「アネキ、もちろん『ヤる』よな?」

 「……ダメッス。今回は監視としか言われてないッス」

 「この前は二人でヤれたじゃねーか! 何、ビビッてんだよアネキ!」

 「そのあと散々怒られたの忘れたッスか。それに今回は光俄さんもいますし……」

 

 尻込みする霜野さんに、なんとしても除霊しなければならない僕は声をかけた。


 「僕のことは気にしないで。それに僕は先輩に賛成だな」

 「さっすが後輩! よっしゃ、三人でいっちょヤったろーぜ!」


 上手く乗ってくれた音子ちゃんと、二対一で霜野さんを説得する。


 「いやいやいや、ダメッスよ! ホントダメですって」

 「困ってる人を助ける仕事、でしょ。助けてあげようよ」

 「あう……」

 「わかりました。私とナオちゃんで除霊するので光俄さんは少し後ろで見てて下さい」


 そう言いながら二人は銃型のスタンガン、テーザーを取出し、まるで殺し屋のような雰囲気を纏いつつ階段を上っていった。

九階に着いたと時、霜野さんがもう一つアドバイスをくれた。


 「光俄さん。亡霊を相手にした時、容赦だけはしちゃダメです。躊躇ったら負けです。とり憑かれてる方だけじゃなく、とり憑いてる方も助けることにもなるんです。この仕事は」


 しっかりと、信念の篭った声で霜野さんは言った。


 「分かった。ありがとう」


 そう言って、僕もスタンガンを取り出した。が、あまり自信はなかった。何事も初めては怖いものだ……。


 「アネキ、この部屋だ。前と同じでオレが囮になるから、アネキがテーザーしてくれ。ねーとは思うがもしアネキが失敗したら氏浦、お前がやれ」

 「いつでもオッケーッス」「了解」


 僕らの返事を聞くと「んじゃいくぞ」と言って、音子ちゃんはドアをドンドンと叩いた。


 「誰だ」

 男の声がした。近づいてくる音がする。僕はスタンガンを握りなおした。


 「誰だって聞いてんだ――」


 一瞬だった。白い顔の男がドアを開けて音子ちゃんと目が合った瞬間、横から霜野さんの放ったテーザーが男の腹に命中した。


 「ぐあああああああああああああ」


 男が苦痛に叫ぶ――と同時に男の身体から黒い煙が霧散するように飛び散り、そして消えた。

 倒れた男からテーザーの針部分を抜き取ろうと霜野さんは男に近寄った。


 「これで終わりです。あとはレイタイに連絡して――」

 「アネキ!」


 音子ちゃんが叫んだ。ドアの向こうからもう一人男が飛出し、ちょうどしゃがんでいた霜野さんの腹部を蹴り飛ばした。


 「クソッ!」


 音子ちゃんがテーザーを撃つ。が、男は人間離れした運動性能で飛び跳ねて避けた。


 「やばっ、こいつオーバードライブ――」


 音子ちゃんはポケットからスタンガンを取出し応戦しようとしたが壁蹴りで急接近した男の回し蹴りで通路を三メートルほど吹っ飛び、呻きながら動かなくなった。


 「あとはオマエだけだよ」


 スタンガンを握りしめる僕の方を振り返り、男は挑発した。


 「女の子に戦わせてオマエは何もしないのか~?」

 「部屋の中にまだいるだろ」

 「おやっ、冷静だね」


 六槻は『四人』と言った。言葉通りなら当然、部屋の中にはあと二人居ることになる。


 「ありゃりゃ、バレちゃった?」

 「まあ下手な演技続けることもないっしょ。あと一人だけだし」


 そう言いながらもう二人、男が部屋から出てきた。


 「スタンガンを捨てろ。じゃないとこの女を投げ落とす」


 最初の男がそういうと、後から出てきた内の一人が霜野さんを抱えて外側の通路の縁から体を半分突き出した。


 「分かった」


 しかたなく僕はスタンガンを男の方に投げ捨てた。


 「こっちへこい」


 言われるままに奴らに向かって歩く。


 「おい! いいから逃げろ!」


 音子ちゃんの声が聞こえる。が気にせず進む。



 そして。



 僕は『自前の』スタンガンで、一番近くにいた男を除霊した。



 「何っ!? あがああああああ」

 「しまっ!? もう一つ――」


 完全に虚を突かれた隣の男に対して、もう一度スタンガンを振るう。男の悲鳴と共に黒い霧が爆発する。


 「てめえ!」


 最初の男が蹴りを仕掛けてきた。が、僕は後ろに跳び躱す。と同時に霜野さんを引きずって後退する。


 「音子ちゃん! 動ける?」

 「ああ……なんとかな」


 痛みに顔を歪ませながらも、音子ちゃんはなんとか立ち上がりスタンガンを構えた。僕と音子ちゃんは通路の交互から男を挟み撃ちにする。残り一人。


 「クソッ、近づくな! この身体を殺すぞ。一歩でも動けばここから身投げして死んでやる!」

 「そんなことしたらお前も死ぬんじゃないのか」

 「バーカ、もう死んでるっつーの! また新しい身体探せばいいだけだ。あひゃひゃひゃ!」


 最後の一体が追い詰められて亡霊としての最終手段を仄めかした。こいつは最初に人間としてはあり得ない速さで動いていた個体だ。 迂闊に動けない。


 「ほら早く捨てろ――」


 その時だった。

 男の周りに大量の白い蝶の様なものが無数に現れ、視界を遮るかのように旋回しながら取り囲んだ。と同時に上下の階から同時に声が響いた。


 「「「殺ぎ落とせ!!!」」」


 張り詰めた声と共に。


 「な、なんだ……?」


 白い蝶と同様に白銀に輝く大きな犬と虎の様ような霊獣が現れた。蝶に攪乱され身動きの取れない男の身体を霊犬が襲い掛かるかの如くスーっと通り抜けると、男は魂が抜けたようにその場にどさりと倒れた。


 「氏浦さーん、アオちゃーん! 大丈夫ですかー!」


 上の階から呼ばれたので手すりから身を乗り出して上を確認すると、『綺風さん』が同じく身を乗り出して、心配そうにこちらを見ていた。


 「あっ、氏浦さん! 大丈夫ですか?」

 「僕は大丈夫だけど、霜野さんと泉名さんが怪我してる」

 「すぐにそちらに行きますので、少しお待ちください」


 程なくして『綺風さん』他二名、同年代の男子と女子が一人ずつ現れた。


 三者三様、白銀に光る半透明の犬、虎、蝶を従えている少年少女。

 僕は光景を呆気にとられながら見ていることしかできなかった。

 

 復讐の為にたどり着いた故郷の地。僕は人を殺す覚悟をもって乗り込んだつもりだった。



 しかし。



 自分がなにか、復讐どころの話ではない、とんでもないことに巻き込まれているのではないかということに、僕は少しの恐怖と共にようやく思い至ったのであった。




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