勇者、友人と盛り上がる
一晩明けると、玲奈はいつも通りに戻っていた。……多分。
多分というのは、なんとなく程度の違和感を感じたからだ。
昨日、直人が天宮に狙われるようなら知らせてほしい、と言われた時も意外だとは思った。
おそらく、そういうのとも違う。
だが、なら何なのかと聞かれるとうまく説明できない。
付き合いはなんだかんだで長いのに、こんなことは初めてだ。
そこまで考えて気づいた。俺は、自分で思っている以上に玲奈や魔王のことを知らないと。
魔王なんて前線に嬉々として出てくるタイプではなかった。魔王城での決戦がファーストコンタクトだ。
当然、どんな奴かも噂程度しか聞けなかった。
それに俺自身、勇者が呼ばれるほどなら極悪なんだろうと勝手に思っていた。
なら、『玲奈』はどうだろう。
前世引きずってて、ハイスペックなお嬢様で、慕う奴も多くて。それから……えーと……
……あれ? これ以上思いつかないのか俺?
昨日の帰り際の玲奈を思い出す。
あれが素だとしたら、前世は案外部下に慕われていたかもしれない。意外と話がわかる奴だったのかもしれない。
それを知っていたら、俺は戦う以外の選択肢も取れたのだろうか。
……死ななくて、済んだのだろうか。
「きょーじっ」
誰かに肩を叩かれ、俺は思考の海から引きずり出された。
振り向くと、そこには知った顔がいた。
「なんだ、祐介か」
「なんだってなんだよ」
むくれてみせる祐介だが、男がやっても可愛くないぞそれ。
神代祐介。
こいつもまた、攻略対象の一人だ。
オタクだが、こいつもなかなかにスペックが高い。
のだが……
「え゛え゛え゛え゛え゛っ!?」
後ろから変な叫びが聞こえたので振り向くと、そこには天宮がいた。
……まあ、何に驚いているかは想像がつくが。
案の定、
「神代祐介が痩せてる……!?」
つまり、祐介は最初テンプレなデブオタク姿で登場するキャラなのだ。
ヒロインは最初驚くものの、優しい内面に気づき仲良くなっていくというのがこいつのシナリオだ。
だが、そこは乙女ゲーム。
ルートが順調に進めば、祐介が倒れて入院するイベントが発生し、その後激痩せして美少年に変貌を遂げる。
そのせいで周り(特に女子)の態度が変わり戸惑うが、前と変わらないヒロインに癒され愛情を抱く、という展開だった。
……はずだった。
実を言うと、祐介に関してはやらかしたのは俺だったりする。
小遣いの少ない小中学生時代、俺の娯楽はスマホゲームの無課金プレイが主流だった。
確か小学校5、6年くらいだっただろうか。とあるゲームで「ユークレイド」というプレイヤーと仲良くなり、ゲームチャットとかでよく話をしていた。
ある日そのゲームの限定グッズショップの話になり、なら待ち合わせて一緒に行こうと計画を立ててからは、意外とご近所さんだと判明したこともあり頻繁にリアルでも会うようになった。
結構ウマも合い、いい友人関係だったと思う。呼び名はプレイヤーネームのままだったが。
俺が祐介の本名を知ったのは、高1で同じクラスになった時。あれはさすがに血の気が引いた。
だって、ゲームの立ち絵と雰囲気違ったんだぞ? わかるわけないだろ!?
俺があちこち連れまわしたり、一緒にゲームやったりしてるうちに太る要因がなくなってしまったらしいと気づいたのは、本名で呼び合うようになってしばらく経ってからだった。
ゲームでは太った理由について触れられていないのだが、俺という友人を得たことで祐介自身に大幅な修正が加わってしまったらしい。出会ってから現在に至るまで、まったく太る気配はなかった。しかも自信無さげにオドオドしている奴だったはずが、ノリが軽めのオープンオタクになってしまっていた。
顔はいいのでそこそこ人気はあるのだが、本人が「ゲームの話できない女の子には興味ない」と言っているため告白する女子はいない。前に付け焼刃の知識で話しかけてきた奴は、すぐに見抜かれ撃沈されていた。
ってか、一番好感度が高いのが友人ってどうなんだよ攻略対象。
そんなわけで、祐介は俺のゲーム友達というのが現在の関係だ。
「……なんだあれ?」
「あー、こいつちょっと変わった奴なんだ……気にしないでくれ」
「あ、うん。わかった」
あっさり応じるのは、玲奈という前例がいたからだろう。オタクということもあって、中二病に抵抗が無かったってのも一因だろうが。
「で、なんか用か?」
「あ、そうそう。今夜のレイドどうするか聞きに来たんだ」
あー、そういや今日だったか。
ちなみに、俺と祐介が知り合う切欠になった『トリニティファンタジア』というスマホゲームの話である。
「できればもうちょい援軍欲しいとこだけど」
「あ、玲奈はダメだぞ。今日は生け花の日だって言ってたから」
ちなみに玲奈もこのゲームをやってるが、話の流れでやらせただけなので進みは俺達よりだいぶ遅い。忙しい奴だしな。
「まあ、無理につき合わせてるようなもんだから仕方ないさ。他に心当たりねえ?」
「んー、ダルさんとか? 皆無さんあたり捕まれば余裕なんだけどな」
「こっちはレイさんは確定なんだけどなー、なますてさん今夜インできないみたいなんだよ」
出てる名前はフレンドのものだ。ちなみに素性は全員まったく知らない。
「うわー、なますてさんいないの? きついなー……あ、だったらこの前当てたユノちゃん使うか?」
「え、マジ!? もうユノちゃん当てた!? よし、頼む!!」
「おう! やっとユノちゃんの倍加攻撃スキルが使えるぜ!!」
「いいなーユノちゃん、俺もそっちが欲しかった……筋肉ダルマなんていらんっての」
「え、でもあいつスキルはいいじゃん。全バステ防御だろ?」
「それを差し引いても嫌なんだっつの!!」
俺は微妙な表情を浮かべる天宮をよそに、祐介とゲーム談義で盛り上がった。
完璧超人な学園の王子様なんざ知るか、今更ゲームはやめられないっつの。
ゲームの『橘恭司』のように振舞うのなんて、とうの昔に諦めた。だからほっといてくれ天宮。
俺の中身は『橘恭司』でも勇者でもなくて、ただのオタク大学生なんだよ……
今夜のレイド戦に備えて、宿題は図書室で済ませた。
幸い習い事も玲奈の父親の課題もない日だったから、放課後の1時間ほどあれば余裕だ。
まあ、そろそろ玲奈の親父さんも何か言ってくる頃だろうから、体調は万全にしとかないとな……不意打ちで何やらされるかわからんし。
などと考えていると、
「あっ、いた! 恭司君!!」
片桐が走ってきた。
「たっ、大変なの!!」
「どうしたんだよ?」
「天宮さんが……天宮さんが、まおーちゃんと揉めてるの!!」
「何だとぉ!?」
くっ、ついに恐れていたことが……
頼むから、俺が行くまでややこしい事になるなよ!!
俺は片桐の案内付きで走り出した。




