プロローグ:黄金の夜明け
アップテンポなジャズ・スキャットが響き渡る。
真鍮の歯車が噛み合い、魔導灯がリズミカルに明滅する。
これは、運命に見放された七人が、世界を欺くプロフェッショナルへと生まれ変わるまでの記録――。
01. 教授(The Professor)
前世:東京、地下オークション会場。
警報が鳴り響く中、彼は奪い取った名画を抱え、最上階から夜の帳へとダイブした。パラシュートが開かない。死を悟った瞬間、彼は笑った。「最高のフィナーレだ」
現世:帝国レガリア、場末の時計店。
赤ん坊として目覚めた彼は、言葉を覚えるより先に魔法陣の数式を解いた。
「この世界の物理法則は、実に盗み甲斐がありそうだ」
彼は眼鏡のブリッジを押し上げ、チェスの駒を動かした。
02. ルナ(The Beauty)
前世:パリ、社交界の裏側。
偽造ダイヤモンドを売り抜けた直後、愛した男に背中を撃たれた。
「宝石より、あんたの心の方が安物だったわね」
現世:王都の娼館、鏡の前。
貧民街で死にかけていた少女は、自らの美貌を「武器」に変える術を知っていた。
「愛なんていらない。欲しいのは、私を最高に輝かせる舞台だけ」
彼女は赤い口紅を引き、完璧な淑女の微笑を完成させた。
03. アイアン(The Muscle)
前世:紛争地帯、爆撃の下。
瓦礫に埋もれた少女を助け出し、代わりに自分は崩落に飲み込まれた。
「……掃除のしがいがない場所だ」
現世:帝国騎士団、演習場。
あまりの怪力に、剣を振れば折れ、盾を構えれば砕ける「呪われた騎士」。
「暴力は嫌いだ。だが、美しく道を切り開くためなら話は別だ」
彼は重厚な鎧の埃を丁寧に払い、巨大な魔導砲を軽々と肩に担いだ。
04. ウィスパー(The Scout)
前世:大都会、路地裏。
誰にも気づかれず、誰にも愛されず、孤独な浮浪児として凍死した。
現世:獣人の森、深い闇。
「誰か……僕に気づいて」
そう願った瞬間、彼の気配は世界から消えた。音もなく忍び寄り、風の囁きを読み取る少年。
「教授だけが、僕を見つけてくれたんだ」
05. ハッカー(The Mechanic)
前世:シリコンバレー、データセンター。
国家機密を書き換えた代償に、サーバーの過熱爆発に巻き込まれた。
「ソースコードの海に沈むなら本望だ」
現世:辺境の魔導士ギルド、地下室。
「魔法? 違うね、これは単なるプログラミングだ」
彼は羊皮紙の魔法陣にインクを走らせる代わりに、空中に浮かぶ数式を指先で弾いた。
「セキュリティが甘いね。3秒で落とせるよ」
06. ゴースト(The Driver)
前世:モナコ、F1サーキット。
時速350キロの世界。コントロールを失ったマシンの中で、彼はアクセルをさらに踏み込んだ。
「ブレーキなんて、臆病者のための道具だ」
現世:大河の港町、飛空艇の操縦席。
荒れ狂う嵐の中、酒瓶を片手に舵を握る男。
「おっと、揺れるぜ。グラスの中身をこぼした奴は、その場で降りな!」
彼の操る船は、重力を無視して雲の隙間を踊るように駆け抜けた。
07. ピエロ(The Wildcard)
前世:ラスベガス、イリュージョン・ステージ。
脱出マジックの失敗。水槽の中で、彼は最後まで観客にウィンクを送っていた。
現世:王宮、処刑台の上。
不敬罪で首を吊られる寸前、彼は自らの体を煙に変えて消えた。
「人生は最高のショーだ。死ぬ瞬間まで、拍手を忘れないでくれ!」
広場に色とりどりの紙吹雪が舞い、次の瞬間、兵士たちのベルトから手榴弾が消えていた。
ナレーション(教授の声):
「揃ったな。……さて、諸君。世界で最も厳重な金庫を、最もエレガントに開けに行こうか」
黄金のチェス駒が盤上に置かれ、華やかなメインテーマが爆音で流れ出す。
――作戦開始。




