8-5『悪魔の密談〜その2〜』
「ウルーヴィル」を出立して2日、俺たちは潮風香る商業都市、「マルテの街」に到着した。
普通の人間の足なら1週間以上かかる道程なので、これが最短。
追手が来ても面倒なので、最初は俺の『ビーズトレイン―フロート(融合)』を用いて空中を一気に疾駆し、そのあとは、歩いたり、休みを入れながら皆で飛んで進んだり(リバーは木の枝に『土の橋』を掛けていた)して進んだ。
一直線に「帝都」に向かわずに、わざわざ遠回りして「マルテの街」に寄ったのは、腐れ吸血鬼アプスから「サモナストボード」と「怪物」召喚に関する研究の進捗を聞くためだ。
色々と解明したことがあるらしい。
……話を聞いて、そのおぞましさでより怒りが増したけどな。
「わぁーっ、タンマ、タンマ!その怒りはこのアプスには向けないでいただきたい、『災厄』殿!すべては人間の所業であるぞ。まあ、悪魔の貴殿には関係ない話かもしれないがな」
……と反省なき吸血鬼の弁。
事実はどちらなのか分からないが、どうも俺たちの持って帰ってきた戦利品は、元々ある「サモナストボード」の機能と召喚の運用を逸脱して、新たに改良したものらしい。
「分析をした結果、この魔石は、元ある強い魔物の魔石に人間の『魔法の力』を合わせたものであるな」
それが腐れ吸血鬼アプスの見立てのようだ。
「この街でアルトやシャウを誘拐したときのように『称号持ち』の力を抽出したってことか?」
「いかにも!だが、あれだと単発の召喚になってしまうだろう?そこでこの『人工魔石』の登場というわけだよ」
自分が開発したわけでもないのになんか偉そうなアプス。
いちいちボコしてもきりがないので放っておくが、その説明を要約すれば、俺たちが「地下空洞」にあった「怪物牧場」で倒した「怪物」たちの魔石はすべて人工のものであり、「サモナストボード」とその魔石さえあれば何度も「怪物」を召喚できることができるようだ。
しかも、これはアプスの仮説だが、そうやって召喚した「怪物」は召喚者の命令を聞くようになるのではないか……ということだ。
……それにしても、おぞましい。
『称号』を持つ人間からその力を抽出し、魔物の魔石と合わせる……
そして、自分の意のままに操れる怪物を牧場で育てる……
なんのために……?
おそらく、その答えは1つしかないな……!
「じゃあ、俺たちがやったことも、多少は意味があったということかな」
ハリーが、赤い帽子のつばを整えなおしながら、真剣な面持ちで呟いた。
他の皆も、事態の深刻さから一様に表情を重くしている。
「ええ。魔石を奪ったことで敵の戦力を大幅に削れたと思います。仮に、それをしていなければ、もしかしたら、あの怪物たちも復活していたかもしれません」
……とリバー談。
そうなったら、悪夢だな。
さすがに、何度も生き返る「怪物」なんて、骨が折れるどころの話じゃない。
「それに、アプスに研究を続けてもらえますしね」
「任されよ、若旦那。我が先祖の教えに賭けて、必ず解明すると誓おう」
リバーがアプスに再依頼した内容は、この「人工魔石」の分離方法と、分離後の抽出された「人間の魔法」をどうにかして戻す方法。
元々、夏の一件から、ある程度研究は進められていたが、今回かなり解明が進んだ状況だ。
俺たちが倒した100体以上の「怪物」の魔石にも、元の持ち主がいる。
ペテル師のものはペテル師のもとへ……
アプスたち吸血鬼一族に残る格言だ。
その教えに従い、「人工魔石」を分離させたあとは、元の持ち主に「魔法」が戻るように、とアプスたちは約束した。
是非、吸血鬼族の誇りに賭けて成し遂げてもらいたい。
◇
そんなことがあった夜……
俺たちは、街にほとんど滞在することなく、足早に帝都に帰還するために「マルテの街」を出立した。
念のため、俺たちは、帝都までつながる大街道を通らずに「マコベ村」の方から魔境の端の方を通り、ハイリゲンの遺跡群に向かって戻ることにした。
こちらも最短で進んで翌日には到着した。
海の香りはすっかり消え、やや魔力の濃くなった緑の匂いに包まれる。
「お久しぶりですニャ、皆さん!冒険者ギルド『マコベ村支部』にようこそ!」
ここでも懐かしい顔に会った。
以前、「ワッフルー支部」の職員をしていた猫獣人族のフビンダさんだ。
今では支部長に出世して、この要所のギルドを任されている。
真面目な妹の方ね。
そういや、ダメな姉の方はちゃんと働いているのだろうか?
「お姉ちゃんも、本部で受付嬢としてバリバリ働いていますニャ。なんでも、誰かを救うために借金をしていたそうで、頑張って働いて返すと張り切っていましたニャ!私もお姉ちゃんを見習ってこうして最前線で頑張りますのニャ」
……メーダの話は一部、ものすごく嘘臭いが、まあ、元気にしているのなら何よりだ。
それよりもこの支部……
非常に活気があり、支部長自ら先頭に立って受付を捌いている。
他の職員の人たちも、皆明るい笑顔で冒険者たちを出迎えている。
冒険者の数も以前よりも何倍も増えて、すこぶる盛況のようだ。
良いギルドだな……!
あんま、邪魔してもなんなんで、挨拶もそこそこに村を出た。
◇「魔境の東端」◇
「なんか、ここに来るとホッとするんだよなあ……」
野営の傍ら、俺はリバーが入れてくれた魔紅茶のフルーティな香りを楽しみつつ、薪から上がる炎の先でパチパチと弾ける火花を眺めながら呟いた。
俺たちがいる「森」は「魔境」の一部だ。
今回、村に戻ることはしないが、この魔境を歩くだけでも活力が湧いてくる気がする。
「ふふふっ、ノーウェには慣れ親しんだ『魔境』の方が落ち着くのかもしれませんね。もっとも、私にとっては周囲の魔力が高まって、これまでよりも気が引き締まる思いですけどね」
そんなものなのかな。
「フルエル大森林」も悪くはないけれど、やはり森の性質が違うんだ。
あっちは、なんというか、「森の木々」がすべての中心って感じなんだよな……
対してこっちは、「木々」ですらも「弱肉強食」の中に放り込まれているんだ……
同じ「魔力の充満している森」といっても、性質はだいぶ違う。
人と同じ、多種多様ってやつだね。
俺たちは見張り番と休息を取る者とで時間ごとに分けて一晩を過ごしている。
今は、俺とリバーが見張りをする時間で、ブルート、ハリー、カーティスの3人が休む時間だ。
この組み合わせで野営を行なうことがどうしても多くなっているね。
俺は基本的に2人で起きて番をする側に回るし、そうすると組み合わせとしては防護陣を固めてくれるリバーか、小回りが利くハリーのどちらかがやりやすくはある。
ブルートやカーティスと組むときは、逆に俺が小技を駆使したり補助に回ることが多いな。
「……で、あれでよかったのか?」
俺は、火を挟んで向かいで同じように魔紅茶を飲むリバーに尋ねた。
普段とは違い、簡素な木のコップで受け皿もないのに、魔紅茶を飲む姿が、相変わらず妙に絵になっているから不思議だ。
「……はい。最善だったと思います」
「……レオ先輩を信用できるのか?」
GOサインを出したものの、漠然とそこが俺には引っ掛かっている。
もちろん、レオ先輩の能力であったり、智謀、軍の運用のすごさなどは「冬の総魔戦」を通じて痛いほど思い知らされているから、そこは心配していない。
……ただ、その人物を深いところまで信じられるか、といえばまた違った話だ。
……何考えているか分からんからね、あの人。
「……苦肉の策ではありますが、彼が私の思考を読んで理解しているかぎりにおいては、信用できると思いました」
「それならいいが……」
今回、「ウル-ヴィル」という街に出向くことになった大きな理由は、「地下空洞」であんな「牧場」を発見したからであったが、リバー自身はそれ以前から、旅の行動予定として組み込んでいた。
生臭の銭ゲバと何やら怪しげな取引をしたとのことだが、そもそも、そんな危ない取引をリバーが行なう時点で、あの街に、行かなければならない大きな理由があったというわけだ。
レオ先輩は、そんなリバーの思いを読んでいたからこそ、あの場でさらなる「取引」を持ち掛けてきた。
俺が危惧しているのは、リバーがそこまでしてなんとかしようと思っている事情があるとして、それを他の人間の手に一時的とはいえ、預からせていいのか……ってことだ。
「ノーウェ、心配には及びませんよ」
「うん?」
火花がホタルのように1つ舞い上がり、澄んだ空気中で弾けた。
「たしかに、レオ=ナイダスとその部下の皆さんも潜伏調査が得意なエキスパートの方々ですが、同じように隠れて色々と調査のできる職員が当商会にもおりますので」
そう言って、リバーはゆっくりと紅茶をすすった。
隠れて調査のできる知り合い……
……ああ!
あの人か……!
「そうか!あの人にすでに依頼していたのか」
「ええ。彼は今『ウル-ヴィル』内で諜報活動を行なっています。誰にも気づかれないように、こっそり『透明』になってね」
元気かな、あの秘書さん……
たしか、名前は……「秘書さん」!
「ハバートは、先月から街の内部に潜入しています。孤児院の内部構造を徹底的に調べ上げてくれるでしょう」
「そうか……それで『非常食』を持ち出したのか」
「気づいておられましたか」
「まあな。『ツチノコの映像をレミに送りに行く』と言ってたわりには、ずいぶんと時間をかけていたようだったから」
数日前、リバーは一旦チームを離脱した。
俺たちが「怪物牧場」をシラミ潰しにしている頃だな。
街から帝都にいるレミに情報を送ると言っていたけど、並行してハバートさんに会って色々と話をしていたらしい。
「ふふっ、こっそり行なったつもりだったんですけどね」
「たぶんそこで寝たふりをしているハリーやカーティスも気づいていたと思うぞ」
俺は、寝床で聞き耳を立てている2人に話を振った。
気づいていたよ?
「なんだよ……気づいていたのか」
「……やるな」
そりゃ分かるよ……寝息のリズムがあまりにも一定だったから。
そういうところに人の性格って出ちゃうよね。
すぴーーーーーーー……ひゅるるるる~……ふごーーーーーー……
……これが演技だったらむしろ驚くけどな。
ポンコツだけはそのまま大口を開けて寝ている。
起き上がって焚火の周りに座ったハリーとカーティスにリバーが魔紅茶を淹れたコップを渡した。
「なんだかんだ、みんな心配だったんだな」
「そりゃあ、な。リバーにしてはあまりにも判断が早かったからな」
「事情を聞いて納得したけどな……」
「ふふふっ、敵いませんねえ」
リバーは、「無辜の命」が危険に晒されているとなったら、黙っていられる男じゃない。
もちろん、世の中は不条理なものだから、そういった「命」をすべて救済するなんてことができないということは分かっている。
……でも、その目で見てしまった以上は、放っては置けない性格をしているんだ、リバーは。
だから、ここでひと暴れしても俺はよかった。
その機に乗じて、なんとか孤児たちをあの「腐った吹き溜まりの街」から救い出せるのだったなら。
おそらく、ハリーやカーティスも同じ気持ちだっただろう。
……ポンコツは知らん。
……でも、リバーは、そうするにはまだ時期尚早と思ったらしい。
だから、調査を継続し、レオ先輩たち「軍部」にその一部を委ねる判断をした……というわけだ。
「何か動きがあれば、ハバートから連絡があるでしょう。いざというときの非常食として『蜂蜜煎餅』の入ったお守りも配るように指示しておきました」
……あっ、「非常食」の中身ってそれだったんだね。
「『探索』できるでしょう?」
「ああ……『魔物生態研究の手引き』と同じ要領でな」
俺とリバーは顔を見合わせてニヤリと笑った。
「せっかくだから、腹下しに効く薬も入れてもらった方がいいんじゃないか?」
「たしかに……」
「名案ですね。頼んでおきます」
たしかに……
「魔ケンノショウコ」なら、さらに範囲が広がるからね。
「とりあえず、今やれることはすべてしました。あとは敵がどう出るか……ですが、ここは『天才』レオ=ナイダスを信じることにしましょう」
「場合によっては、またすぐに戻ることになるかもしれないな……」
「そしたら、俺たちも『休学』かな……」
……まあ、こればかりは状況次第だ。
如何せん、帝都から「ウル-ヴィル」までが遠い。
仮に、学園行事の最中に事が起こったら、俺たちだけでも向かうことになるだろう。
……あの街の現状を見てしまった以上は!
「私のわがままに巻き込んでしまって申し訳ございません」
リバーが俺たちに頭を下げた。
「何言ってんだよ。俺は俺で勝手に付いていくだけだぜ」
「そうそう」
「今さらだろ」
腐った者たちの「吹き溜まりの街」……
飲んだくれは勝手に飲んだくれていればいい……
ガラの悪いごろつきどもは勝手に喧嘩し合っていればいいし、不道徳者はそのうち勝手に神罰とやらが下るだろうから放っておけばいい……
……だが、「腐っていない者」たちは、誰かが勝手に救い出さなければならないんだ。
「ありがとうございます」
リバーの顔が、あの街を離れて以来、ようやく少し綻んだ気がした。
「よーし……こんな街、俺の『水龍』で浄化してやるぅ……ふごるるるるる~」
……
…………
………………
「まったく……本当におめでたいポンコツだよ、こいつは」
「夢の中まで魔法使ってんのな、うちの大将は」
「意外と器用だな……」
「ふふふ、頼りになりますね、ブルートは」
俺たちは、「魔境」の中でいびきをかいて寝言を抜かすポンコツを眺めながら大いに笑いあった……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
次回、舞台は徐々に「学園」へと切り替わります(^-^)
そして、あの人物がいよいよ「悪役転向」……
ご覚悟くださいm(_ _)m
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




