6-106『最高の選択』
13分経過……
◇「舞台中央、金の『玉座』」<ノーウェ視点>◇
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ〜」
クズの黒ライオンを無事仕留め終わったところで、『帯電』が終わり、「ふぅ」とひと息吐いたところで、こちらに寄る影が見えた。
……リバーだ。
「仕留めたのか?」
「ええ。好機でしたので」
その足もと付近に横たわっているのは『灰魔導師』グレイ=ゾーエンス君。
その身体の半分は『土』に埋もれている。
ちょっと残念だったかな。
彼もまだまだ手を隠しているような気もしていたけど、それを見れずじまいだった。
おそらく、実力どうこうの前にまだ集団戦に慣れていないのかもしれないね、グレイ君は。
まあ、彼は同じ学年だし、まだまだ戦う機会はあるだろうから、そのときを楽しみにしていよう。
できれば、個人戦がいいかなあ、なんて思ったりもする。
さて……
「ノーウェは、これから何処に向かいますか?」
金の「玉座」の傍に立ったリバーが聞いてきた。
ふむ……
リバーにしては、愚問だな。
「決まっているだろ?『最強』のいるところだ!」
「ふふふ、でしょうね」
南の上空の方に目を向けると、『稲妻』と『閃光』が激しくぶつかり合っている。
ゾクゾクするね。
この感覚は久しぶりだ……
「リバーは、どうするんだ?」
俺は質問を返した。
そもそも、なんでリバーがここにいるのか、イマイチよく分かっていないけれど、なんとなく察していることはある。
「さて、どうしますか……」
顎に手を添え、いつものポーズで考え込むリバー。
まるで、迷える旅人だな。
この「怪物」たちの戦場を当てもなく行くってのも、悪くないとは思うけど……
「あいつらに背中を押してもらったんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、ここで敢えて守りに入る必要はないな」
「ふむ……」
金の「玉座」は今、俺たちの支配下だ。
仮に、ここと北の本陣を守れば、支配する「玉座」は2つのままで、相手に遅れをとる確率は減る。
あるいは、南東の「玉座」を狙うのも戦略的には有効なのかもしれない。
でも……
「俺たちの目的は、この決闘に勝つこと……じゃないよな?」
俺は、ニッと笑って迷える旅人魔導師を見る。
リバーは、無言のまま、片方の眉を上げている。
「俺たちの目的は、この決闘でそれぞれの壁を越えて勝つことだからな!」
「ふふっ、そうでした……」
雲が去って晴れた空のようにスッキリとした笑顔が返ってきた。
「じゃあ、行こうか。俺はあっちに!」
南の上空を俺は指差した。
「では、私はあちらへ」
リバーは、南東の「玉座」を片手で示した。
これが「最善の選択」かは分からない。
せっかく2人の「最強」がぶつかり合ってくれているのだから、「漁夫の利」を狙うのが、この「決闘方式」を勝ち抜くには最善なのかもしれない。
……でも、せっかく目の前に「大怪物」がぶつかり合っているというのに、乱入しない手はあるか?
俺には……ない!
これが「最高の選択」だ!
だから、リバーも自分勝手に、リバー自身の望む「最高の選択」をしてくれ。
「『ハイウインド』-『ステップ』」
さあ、獲るぞ。
その「最強」の椅子を……!
◇「南側上空」◇
ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……
パパパパパパパパパパパパパァーーーーーーーーーーン!!
バリッ、バリバリッ、バリバリバリバリバリバリッ……
ドゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
近くで見ると、壮観だね。
今は、『光厳』メーネス=アンフェ先輩の攻撃ターンらしい。
『閃光』と『稲妻』の応酬は、激しいスパークが起こっている。
火花というか、『雷』や『閃光』の残滓というか……
その場にいるだけでその身が燃えてしまいそうな具合だ。
威力ももちろんだけど、互いの『領域』が波打つように、攻撃に、防御に、それぞれ合った仕様に絶えず変化しているのが凄い。
『領域』の大きさを争うわけではなく、その形を自在に変えて、互いの手を出し合っているところが、最上級の戦いって感じがするよね。
相手に不足なし!
『迅雷』イクス=トストと『光厳』メーネス=アンフェ……
1年生の頃より常に「最強」の座を争ってきた2人は、3年生になるまでの2年間で何度も「頂点」を争い、個人決闘と派閥決闘を合わせると都合10回戦っている。
決着がつかなかった決闘や、別の要因で、あくまで派閥としての勝敗がつくものがほとんどであったが、明確に勝敗が決まった決闘は2度の個人戦。
彼らが2年生時の決闘であり、その2回とも『迅雷』イクス=トストが勝利している。
派閥としては『光厳』メーネスの率いる【蘭光】の方が規模も大きく上……
しかし、個人の魔導師の力としては『迅雷』イクスの方が上……
どうやら、それが3年生時点での大方の評価であったみたい。
2年後半から3年になると、特に貴族の子息は、将来のことを考える必要性が出てくるらしく、『光厳』も無理に個人としての「学年最強」の座を狙わなくなった。
一方の、『迅雷』も、2回連続で勝利した相手とは「勝負付け」が済んだとして、その決闘相手をこの学園内ではなく、外に求めるようになったらしい。
……
…………
………………
……とまあ、ここまで、今日という「決闘」のために色々と過去の映像や資料を漁るなり、リバーに聞くなりして得た知識ね。
そんな2人が今、彼の卒業前最後の決闘である「冬の総魔戦」の決勝の舞台で、文字通り激しく火花を散らしている。
メーネス先輩にしてみれば、待ちに待った機会だったんだろうな。
ここで、これまでの「借り」のすべてを返すつもりなんだろう。
イクス先輩の魔法は相変わらず淡々としている。
強力ではあるけれど、何か抑えている感じ……
もちろん『雷』は危険だから、対人戦闘の場合、抑制していなければいけないところも多々あるのだろうけど、なんか、またそれとは違う印象を受けるんだよね……
……先輩の魔法からは。
……と、眺めてばかりいてもしょうがない。
これから、そんな2人の間に入って、すべてをぶち壊しにしてやるんだ!
これでワクワクせずにいられるかい?
「『エンジェルウイング(レフト)』」
まず、魔力を増強……っと!
「『ハイストーン-シェル(融合)』、『れんぞくま』」
「『ハイストーン-シェル(融合)』、『れんぞくま』」
『マイティハート』は消耗が激しいので、まずは『融合』技でいくとしよう。
その身に『堅固な石』と『魔法貝の膜』を纏う。
「『ハイウインド』-『ステップ』」
さあ、行こう!
激しい閃光と火花の中に……!
ビューーーーーーーーーーーン!!
◇南上空<イクス視点>◇
「はあっ、はあっ、もう半分が過ぎてしまったか……残念だなあ『乱光射』」
ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……
パパパパパパパパパパパパパァーーーーーーーーーーン!!
「……そうか、もう残り15分か。『雷切』《らいきり》」
バリッ、バリバリッ、バリバリバリバリバリバリッ……
ドゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
少し退屈に感じてきた……
前回と同じ……
いや、相手は少し息が切れるのが早い。
……残念ながら、これが1年の間に広がった「差」というもの。
同じように『領域』を精錬して生み出す高威力の魔法でも、イクスの『雷』は、常に危険な地域に身を置くことで高めてきた魔法。
公爵子息……
数多要る帝国軍のエリートをいずれは率いることになる「将の器」……
彼なりに苦労はあるのだろうが、それは自分のように純粋に魔導師としての「頂」を目指す道ではない。
彼は、はっきり言って「寄り道」が多すぎる。
だから、一直線に「最強」への頂を目指している自分との「差」は、残念ながら開く一方だ。
「『雷迅剣』」
バリバリバリバリバリバリ……
ダンジョン遠征が長くなると、ついつい手加減が分からなくなってしまう。
だから、こういった対人の決闘ではいつしか、威力の小さい技から使うようになっていた。
人間の魔導師同士の対決ではあれば、今いる場所が最高峰なのだろう。
だが……「最強」を目指す『迅雷』イクス=トストにしてみれば、この場所はまだまだ「山の中腹」にすぎない。
……物足りない。
「『雷迅剣・覇漸弩』」
バリバリバリバリバリバリ……バリバリバリバリバリバリ……バリバリバリバリバリバリ……バリバリバリバリバリバリ……バリバリバリバリバリバリ……
……ドッゴオォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
「はっ、待っていたよ。君が大技で来るのを!この僕が……公爵令息メーネス=アンフェが何も準備していないと思ったのかい?『恒光駕射・爆素斗』
ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……シューーーーーーーーーーーーーーー……ボッガァーーーーーーーーーーーーーーーン!!
イクスの放り投げた『雷の大剣』を、メーネスの『領域』から放たれる『光の大玉』の爆発が迎え撃つ……
「ふうん、成長か……」
一層すさまじい衝突を眺めながら、遠目に向かい合う相手に聞こえないようにイクスは呟いた。
どうやら「中腹」くらいまでは彼も来れたらしい……
……ただ、それだけだ。
「『雷光杖』」
バリバリバリバリバリバリ……
先端に『雷の玉』を付けた『雷の杖』を生み出し、手に持ったイクスは、『雷迅剣』が破裂して方々に放電されているその『雷の残滓』に乗って、メーネスの元に近付く……
魔法の威力ばかりが「強さ」ではない。
『領域支配』も絶対ではない。
魔力量の総量、発動の早さ、持続力、発動後の回復力……
そのすべてが最高レベルでなければ、本当の「強さ」とは言えない……
……あの、「魔界のような遺跡」の第2層より下には、決して向かうことはできない。
「『雷光杖・放弾』」
ヒューーーーーーーーーーーン……バリバリバリバリバリバリ!!
「くっ……『閃光弾』」
ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ……パパパパパパパパパパパパパ!!
メーネスの方がイクスよりも魔法の発動や移動のスピードは早い。
それでいて、好戦的な彼は、避けることを良しとせずに応戦しがちだ。
だから、こちらの攻撃を常に相殺しようと連発する。
……それだとせっかくのスピードも意味をなさなくなる。
なぜなら、イクスの『雷』の方が、1発の威力においては遥かに上だからだ。
不合理……
だから、彼に余裕はなくなり、こちらは逆に「布石」を置ける。
「終わりだよ、メーネス。『雷迅杖術』」
『雷の杖』本体を放り投げる……
それが一手上回ったという「強さ」の証……
『迅雷』イクス=トストが淡々と放った『雷の杖』は……『光厳』メーネス=アンフェの『光の玉の連弾』を掻き消して、その身体を貫かんと『稲妻』に代わって向かった……
ドォーーーーーーーーーーーーーーン……バリバリバリバリバリ……
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……
……異様な音?
戦いが終わったと思い、深く瞬きをしたイクスの瞳の先には、煙に包まれて見づらくなっていたが、予想外の光景が映し出されていた。
「さあ、ここからが本番ですよ。お2人共!残り時間ギリギリまでもっと、もっと、楽しみましょう!」
『稲妻』を受けても平然としている紫のローブを着た魔導師の姿がそこにはあった……!
◇「南東の『玉座』」◇
「ククク、クハハハハ。まさか、君がここに来るなんて!これはなかなか想定外な状況ですよ?」
普段、蛇のように目を細めている薄い紺色髪のバスローブ男がその瞳を大きくしながら大笑いしている。
「戦術の天才」といわれる男にとっても、この状況は想定の範囲外であったようだ。
南東の<最強軍閥連合>の本陣には『岩石』で造られた外壁に囲まれた『要塞』と、リバーの位置から10メートルほど先に見える「玉座」の前に貼られた分厚い『氷の壁』がいつの間にか建てられている。
この要塞の作り手はおそらく、『岩塞』テツ=フォートレー。
そして、今もなお「玉座」に頬杖をつきながら座っている『情冷炎』スコーン=ナバス。
片方の姿はすでに見えない。
おそらく、南の「二騎」とやり合っている戦場に再び戻っていったのだろう。
遠目に『石』の魔法が放たれているのが分かる。
「それはそうでしょうね。自分でも驚いているくらいですから……」
リバーは、相手の「総参謀」の問いかけに、ゆっくりと頷きながら答えた。
「ククク、何かに引かれて衝動的に……というわけかい。否定はしないよ。君を歓迎しようじゃないか、リバー=ノセック」
組んでいた手を解いて、大きく広げる『湯蛇』レオ=ナイダス……
突如、周囲に熱い『霧』が立ち込める。
「私にもよく分かりません。しかし、『棋戦』を読まれているのであれば、その指し手を倒してしまえば良いとシンプルに思い至りました。これが私にとっての『最高の選択』であったかと……」
「ククク、まさか君からそんな単純な戦術思考が聞けるとは思わなかったな、リバー=ノセック。悪くないよ、悪くないが……」
シューーーーーーーーー……ザーーーーーーーーーーーーーー!!
立ち込めた『湯の濃霧』が『熱い雨』となって襲い掛かる。
「『土傘木』」
ドバンッ……!!
「それは『愚策』というものではないのかな、リバー=ノセック」
『土の傘』で『湯雨』を防ぐが、地に落ちた『湯』は再度『霧』へと戻る。
絶えず循環するその『霧』の魔法のコンビネーションはそれだけで脅威だ……
「はて?まさかレオ様からそんな言葉が出てくるとは思いませんでした。『土堅矢』」
ドドドドド……ドヒュンッ、ドヒュンッ、ドヒュンッ、ドヒュンッ、ドヒュンッ、
ドヒュンッ……!!
「ほう?なぜだね、『砂雨納』」
ザバンッ、ザーーーーーーーーーーーー!!
『水』と『火』と『土(石)』を操る『湯蛇』は、やはり魔導師としても一流だ。
リバーの放った『土の矢』を一瞬で、砂混じりの『霧』によって包み込んでしまう。
「ハリーから聞いたことがありますよ。一流の戦術家は『愚者』を『賢者』に変えるものなのでしょう?」
「ああ、その通りだよ、リバー=ノセック」
リバーは自身の近くに『土の小塔』をいくつも建てた。
「私は、この『愚策』を、これから自分自身の手で『最上の策』に変えてみせます。『土塔嚢櫃地』」
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ……
ドドドドドドドドドドドッ……!!
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ……
ドドドドドドドドドドドッ……!!
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ……
ドドドドドドドドドドドッ……!!
「ふっ、面白い……!」
微笑むリバーを見て、敵の「総参謀」も愉快そうに笑った……!
◇北東寄りの舞台上◇
『雲』が晴れた……
まるで台風一過のようにそれまで覆っていた『雲』が晴れて鮮明になった舞台を東よりの観客席に座る観衆は息を飲んで見つめていた。
一体、何が起こったのか……?
激しい衝突が起こっていたのは間違いない。
だが、分厚い『雲』の中で起こっていたことは、生観戦する人々にとってはその詳細まで見極めづらいものではあった。
ざわざわざわざわ……
だから、とりあえずの事態の把握を結果を持って予測する。
ざわざわざわざわ……
しかし、それもままならない。
なぜなら……
『雲』の中で激しい戦闘を繰り広げていた巨大な『炎』と『水』の攻防……
『焔海』と『水豪』……
赤いローブに赤髪の『炎』使いと水色のローブに青髪の『水』使い……
対照的な2人が、共に、舞台上に大の字になって倒れていた……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
決闘も佳境……!
次回、舞台に倒れこんだ2人のバトルは……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




