6-89『三勇士(赤の理在)』
◇「舞台中央」<ハリー視点>◇
『赤魔導師』ハリー=ウェルズにとって、目指す「頂」とは何か……?
彼にとって「師」と呼べる存在は、この学園においておそらく1人しかいない。
『赤魔法』を極め、その運用に関してあらゆる実証を重ね、魔物相手にその膨大な結果を得てきた魔導師……
そう……ノーウェ=ホームその人である。
始めに『赤魔導師』としての可能性を示してくれ、同じように『れんぞくま』という足掛かりを得たことで、ハリーはある意味、彼からの「免許皆伝」を得た。
そこからは、自分の「山」を探し、登り詰めろ……とも。
『雷魔法』という『特性』はその「山」に登る足がかりにして道しるべ。
次に目指す2合目、3合目は一体何になるのか……
漠然とした中で、その道の教授から提示されたものは「細やかな魔法」であった。
他のメンバー同様に、ハリーもまたこの命題に試行錯誤していくこととなった……
その道を突き進む中で、ハリーの立ち位置を客観性、論理性をもって教えてくれ、かつ傍に寄り添ってくれる人物と彼は、この夏に出会うことができた。
『泥欲』クレハ=エジウスその人である。
彼女もまた、魔導師として岐路に立ち、ノーウェ曰く、「達人の道」を探り当て、目指す同志でもある。
魔力を強めることも、戦術とミックスして有効な戦法を見出すことも、人間には限界があるし、一朝一夕に備わるものでもない。
岐路に立った2人は悩んだ。
もちろん、それは、目指すことを止めてはいけない「手仕事」の1つではある。
しかし、まったく別のアプローチから上達の道を目指しても良いはずだ……
……それは、公私共にパートナーである彼女と思考の重ね合いとぶつけ合いをして得た結論であった。
「さっき、あっちの先輩のことを『総大将』じゃないと笑っていましたが、あなたたちは、仮にも<連合>を組んだんだ。お互いに高め合う『同志』じゃないんですか?」
「決闘中に何をくだらないことを。まあ、いいわ。教えてあげる……いくら同じ『殿上人』といえど、私たちは常に互いを狙い合う関係よ。<連合>を組んだとしてもその一線は越えないわ。あなたたちのように、傷の舐め合い、慰め合う関係とは違うのよ『光羅星』」
キラキラキラキラ……ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……パリィーーーン!
星の形をした『光の結晶体』がハリーに向かって降り注ぐ。
「『氷板』、『れんぞくま』」
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ……ピキピキピキピキ……!
「なるほど、よくわかりました。だからこの程度なんでしょうね」
「何ですって!?いいわ。なら、見せてあげるわよ『光晶領域』」
当たり前のように作られる巨大な『領域支配』。
マライヤのそれは、結晶化した『光』だ。
攻撃面でも『光の結晶』を分解して放てるし、守備面では、そこにあるだけで、硬い装甲となる。
「あなたの希望どおり一段上げてあげたわよ。これであなたの攻撃は通らないでしょうね」
『光』を操る『殿上人』は、ロングウェーブの金髪をなびかせて、耳元をかき上げてにっこりと笑った。
「さあ、それはどうでしょうか……『石盾』、『プロテクト』」
「あなたこそ、同じことばかりしてるじゃない」
「そうですか。じゃあ、こんなものでどうです?『氷剣』、『プロテクト』」
「何がしたいんだか……まあ、いいわ。『光菱嵐』」
パリパリパリィーーーーーーーン……キラキラキラ……ヒューーーーーーーン!!
『領域』より砕かれた『光の結晶』の破片が次々とハリーを狙う。
先ほどとは比較にならない量であり、正面、左右より同時に襲ってきた。
ガガガガガガガ……ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ……!!
ガガガガガガガ……ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ……!!
『石の防具』と『氷の武器』を左手と右手に携えたハリーは『光の結晶』の飛来に合わせて、その『盾』を構え、『剣』を振るった。
まるで本物の騎士のような澱みのない流れるような動き。
パリパリパリィーーーーーーーン……キラキラキラ……ヒューーーーーーーン!!
ガガガガガガガ……ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ……!!
マライヤが『光の結晶』の軌道や放出のタイミングを変えても、ハリーはそれを直前で見切り、『盾』で受け止め、剣で叩き割り、対処し切れないものは巧みに上半身を仰け反らせたり、半身ずれたりと、身体の動きも加えて避けていく。
「これは『魔法』の決闘じゃなかったかしら?あなた、今からでも騎士学校に入学した方が良いんじゃない?」
「これも『魔法』の運用ですから。まあ、遠くから『領域』に閉じこもって攻撃する方法しかない先輩には分からないかもしれないですけど」
「さっきから、ずいぶんと言ってくれるじゃないの。まるで、私が遠距離攻撃しかできないような口ぶりね」
「違うんですか?もう十分に見せてもらいましたしね。俺の『雷』が怖いのであれば、この後もずっと、そのまま打ち続けてもらってもいいですけど」
……そろそろ次の「駆け引き」を仕掛けるときだ。
そう思って、ハリーは再び先輩『殿上人』を挑発した。
伸るか反るか……
「ふうん……分かったわ。あなた程度に使うなんてもったいなかったけど、そこまで言われては私も引けないわ『光甲聖』」
シャキーーーーーーーーーン……キラキラキラ……
『纏い』……
ハリーの読みどおり、マライヤは『領域』をその身に纏った。
『光の結晶体』によって身を包めば、壊れるまでは防御のことを考えなくてもよい。
つまり、ハリーの攻撃を近距離で受けてもしばらくは耐えきる自信があるということだ。
……近距離で勝負に来る!
「『光羅星』《きらぼし》」
ハリーがぐっと口元を引き締めると、案の定、『光霞』マライヤ=ミラーは、自身で放った『光の結晶』に乗って、一気に近付いてきた。
『領域支配(纏い)』により、輝く『光の鎧』を着たその姿は控えめに言って神々しい。
豪華なブロンドの長髪と相まって、それは戦場に現れた女神さながらであった。
「覚悟しなさい。『光伸軌貫』」
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……!!
輝く黄金の女性騎士から『光の槍』が何本も放たれる。
すでに、こちらに向かっている『光の結晶の破片』との波状攻撃だ。
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ……
ハリーは、ひとまず『光の結晶の破片』の方を『氷の剣』で叩き落とした。
「『プロテクト』、『れんぞくま』」
そして『石の盾』を固め、『光の槍』で受け止める。
ガガガガンッ……ガガガガンッ!!
ガガガガンッ……ガガガガンッ!!
ボガッ……パラパラパラパラ……
そして、砕け散る『石の盾』
「あなたの防具はなくなってしまったわね。やはり、近距離は私の『領域』よ。あなたがいくら騎士の真似事のような曲芸じみたことをしようとも、結局、魔導師の優劣は『領域』の支配力によって決まるものなの。遠距離攻撃は多少誤魔化せても、この距離では、『領域支配』のできないあなたには勝ち目はないわ。これも覚えておきなさい!」
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ……
こちらに向かっていたマライヤは突如、右に、左にと高速で移動する。
的を絞らせないためか、それとも機をうかがっているのか……
「ええ……でも『武器』は増えましたよ」
「え?」
シュイーーーーーン……
パラパラパラパラ……シューー、シューー、シューー、シューー……
ハリーの左手の先……
地面にこぼれ落ちたかに見えていた砕かれた『石』の欠片や粉たちが再び集まって、その形を変え、何十本もの太い『石針』になっていく。
シュッ、シュパパパパパパパパパパパパパパパパ……
「な、なんなのよっ!?」
ガガガガガガガガガガガガガガガガ……
攻撃しようとした矢先に、思わぬ反撃を受け、マライヤは空中でたじろいだ。
「先輩は2つ勘違いしていますよ」
「え?」
今度は、右手に持っていた『氷の剣』を、左手と同じように何本もの『氷の針』に変化させていく。
シュッ、シュパパパパパパパパパパパパパパパパ……
ガガガガガガガガガガガ……ピキピキピキピキ……ピシッ、ピシピシッ……
『光の装甲』に亀裂が入る。
「1つ、俺たちは『領域支配』ができないわけじゃない……単に、その領域があなたたちよりも限定されているんです」
『色付き』の魔導師であっても『領域支配』はできる……
それは事実だ。
「はっ、要するに支配がごく狭いってわけでしょ。なら同じことじゃない?」
2文字、3文字の『称号』の魔導師よりも『支配領域』は限定される……
それも事実。
「わかっていませんね。別に『大が小をかねる』わけではないんですよ。用い方が違うんです」
ハリーは、「春の選抜決闘」で限界を感じてからずっと腐心していた。
『雷魔法』の発芽は天啓であり、大いなる武器にはなったが、そればかりに頼り切ってはいけない。
だからずっと『れんぞくま』の先にあるものに取り組んでいた……
魔法の威力不足という問題をどう解決していけばいいか……
そして、3日前にノーウェに出された課題は、そのまま、そのハリー自身の命題の答えになった。
「細やかな魔法」……
『赤魔導師』ハリー=ウェルズの解釈は、ほんの手のひらサイズの『領域支配』の中で自由に操作するもの……
……いわば、1度、発動させ、具現化させた魔法を「作り変える力」!
役目を終えて地面に落ちていく崩れた『石』も、ハリーの発動させた玉程度の大きさの『領域支配』によって新たに『石針』へと生まれ変わる。
刃こぼれし始めた『氷の剣』も、同様に『氷の針』へとその姿を変える。
かつて自身のコンプレックスであった「器用貧乏」だからこそ為せる業であり、その真骨頂ともいえる技術は、大がかりな『領域支配』で猛威を振るう相手にも決して臆することのない自信を今では与えてくれる。
「『雷玉』、『れんぞくま』」
「くっ……生意気な!『光甲』」
ドォーーーーーーーーン……!!
バリバリバリバリ……!!
ドォーーーーーーーーン……!!
バリバリバリバリ……!!
ピキピキピキピキ……ピッシャーーーーーーーーーン!!
咄嗟に『光の鎧』を脱ぎ捨てたマライヤは、それを前面に押し出してハリーの放った『雷玉』を防ぐ『壁』とした。
これも、ある意味『領域支配』による『形状変化』の1つだ。
ただ……
「やはり、近接戦闘は俺に分があるようです」
必ずしも、大は小をかねるわけではない。
『領域』を大きく展開すれば、その回復にも時間が掛かる。
長いインターバルは、それだけで近接戦闘において致命傷だ。
「『小雷接刑』」
バリッ、バリバリッ……!
「きゃーーーーーー」
空気中に放電された『雷の欠片』を『領域支配』で集めれば、人差し指の先端程度の大きさの『極小玉』は作れる。
その『極小玉』が3つ……無防備となったマライヤの両腕と右足を襲った。
「くっ……!」
たまらずに、距離を取るマライヤ。
「それと、先輩の勘違いもう1つ……」
「え?」
「俺たちは、傷を舐め合っているわけでも、慰め合っているわけでもない……俺たちの<連合>も、【派閥】も、そして個人同士も、互いに中でぶつかり合い、高め合っているんですよ。『自分の立場が危うくなるかも』……なんて、小さい了見のやつはうちにはいないんです」
……おそらく。
……若干1名怪しい青のローブの魔導師がいるけど……!
「くっ、減らず口を……!」
「その座を守ろうなんて思っているうちに俺たちは一気に越えて行きますからね。覚悟してください」
『赤魔導師』ハリー=ウェルズは、そう言うと、帽子のつばを少し上向きに直すと、再び、『石の盾』と『氷の剣』を発現させた。
『強風』が吹こうとも、その赤い帽子は飛ばされない……!
◇
己の才能を疑い、その不安を埋めるように努力し続けてきた赤いキャップ型帽子の男は……
いつしか、自身の習得する魔法すらも何度も疑うようになっていた。
ともすれば、精神に大きく負担を掛け、自信喪失にも繋がりかねない行為であるが、今の彼にはその道を間違えないように支え合える存在がいる。
ずっと追いかけている存在も、少し前、あるいは隣を走るライバルにして仲間たちも、そして、よき理解者も……
「赤の理在」……
少し未来の話ではあるが、「帝国内で最も誉高い貴族」と称されるようになる男にとってもまた、この決闘は大きな転換点となる一戦であった……!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
「赤い衝撃」……と迷いましたが、こっちにしました(笑)
次回、「黒」、「赤」と来たら次は……?
あれ?でも、彼は……?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




