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6-75『他山の石』

◇「コスモアリーナ」<ガイル=ワイリー視点>◇


 ノーウェ=ホームとリバー=ノセックが決闘「ELEMENTS」中に投げかけた問題提起は、世間に大きな波紋を呼んだ


 もっとも、その反応は大小様々であり、また、彼らに近い者、遠い者、意見を共にする者、しない者……によっても大きく異なる。


 悪魔小僧とその執事……


 その実像をよく知らない、彼らから遠い人々の場合、その行ないを肯定する意見を持つ者は称賛し、改革の旗手として持ち上げ、否定する者は嘲笑い、学園、ひいては社会秩序にとって、望ましくない存在であるともっともらしく批判した。


 彼らからすれば、2人の本来の性質など、ある意味どうでもいいことなのかもしれない。


 1つの行ないに対して、素晴らしいと見るか、けしからんと見るか、その尺度は1つしかない。


 ノーウェ=ホームは、何も世界を変えようとしているわけではないし、抑圧され、蔑まれた人々を解放しようとしてこんなことをしているわけではない。


 ……ただ、彼の考えていた決闘の正しさを求めていただけだ。

 そして、彼にとって、正しさとは、楽しさである。


 リバー=ノセックの場合は、もう少し複雑であるかもしれない。


 彼は物事に欺瞞が眠っているとき、それを炙り出す。


 どうやって、見分けているのか、何を基準としているのかは、彼が通った道の後を辿って分析するしかないが、決闘のシステムに関しても、商会の商品に関しても、組織の在り方に関しても、そこにあの男なりの明確な基準があることが分かる。


 それを、外から眺め見る人々は「正義」と呼ぶのだろう。


 それでも、リバー=ノセックは、おそらく彼自身のしていることを「正義の遂行」という認識はあったとしても、正義のために歩んでいるわけではないだろう。


 改革は、決して方便であってはならない。


 そこに欺瞞があって初めて動き、それが解消されたらパッと散るべきものなのだ。


 その証拠に、かの時代の寵児となりつつあるこのコンビ(というかほとんどリバー=ノセック)は、秋頃に起こった「シンフォ商会」とのいざこざがまるでほんの秋の一夜に通り過ぎた嵐であったかのように、すべて水に流し、その論争となった「インビジブルフローター」を設計図から商標権から何から何までを買い取って、学園の名所となっている各地に積極的に設置し始めたのである。


 正しきもの、よりよいものが残ったのであれば、誰が開発したかなどは些末なことで、それを広く万民に共有してもらうことこそがの本懐なのだ。


 そして、同じ秋口に彼らの派閥が腐心していた決闘についても、同じことが言えるのだろう。


 2人から遠い人々は、彼らの真意を窺い知ることはできない。

 ごくありがちな一般論に終始するのみ、である。


 しかし、『紫魔導師』ノーウェ=ホーム、『土庵深』リバー=ノセックをよく知る者の目線は違う。


 その性格を踏まえ、物事の裏を探る。


 そこまでは、近くで認める者も、認めない者も同じ。


 彼らのことをよく知り、それでいてその行ないを認められない者は、その行動を自分に対する当てつけだと感じたり、視界に現れた異物のような反応をする。


 そして、その見方はすべて後ろ向きだ。


 たとえ粗探しをしたとしても、その行動に対して対抗策を講じたとしても、それはすべて無意味である。


 なぜなら、先を進む彼らは、すでにそこにはいないのだから……

 だからこそ、この2人をよく知る者は、1度、その行動をすべて認める必要がある。


 では、認めるためにはどうすれば良いか……


 ……それは、同じ目線で景色をみることである。


 それが、彼らに敗れ、そして近くで観察しながら学んだ者の出した答えである。


 『氷狐』ガイル=ワイリーは、かつてこの『紫魔導師』ノーウェ=ホームと『土庵深』リバー=ノセックの悪辣コンビに、辛酸を舐めさせられ、その上でさらに煮え湯を飲まされた。


 まだ入学式を終えて間もない新入生だけの派閥に敗北する屈辱。


 それも、自身が得意とする戦略的決闘において、知略においても、魔導師としても手痛い目に遭わされた。


 元々人間の種類が違うと思っている『紫魔導師』の方はともかく、ガイル自身がライバル視し、あまつさえ憎悪に似た感情を抱くようになっていたリバーを如何にして認められるようになったのか……


 それは、秋から冬にかけて<連合>の総大将兼作戦立案者となり、しばしば、彼らと同じ目線でものを見るようになったからであろう。


 当然のことながら、それはガイル1人では為し得れることではない。


 幸いにも、彼は、理解ある先輩と仲間に恵まれた。


 『石嶺』コイン=ドイルと『風切』クォーター=ムソウの2人の先輩は、ガイルの示す案を否定することなく、まずは受け入れてくれた。


-どうなるか分からないが、まずはやってみようや-


 それも、ガイルたちにやらせてくれるという意だけではなく、彼ら自ら一兵卒として、率先してやってくれたのだ。


 もちろん、プレッシャーは掛かる。

 模索の過程で、誤った道を進んでしまったことも何度もあった。


 でも、その度に、その偉大な先輩たちは、一緒に立ち止まってくれた。


-そうですね。まずは、何がいけなかったのかゆっくり遡って考えるとしましょうか-


 先輩が、それも、『殿上人』の派閥の長と副長の2人が率先してそのように振る舞ってくれれば、それに続く後輩たちが見習わないわけがない。


 自然と、ガイルを中心とした<連合>の輪はまとまり、一癖も二癖もある職人肌なメンバーたちは、彼の言葉に耳を傾けるようになり、また、そんな彼自身も、周囲の言葉に耳を傾けながら、これまでのように自分の頭の中だけで物事を完結させるようなことが少なくなっていた。


 すべては、前を向いていればこそ。


 前を向くことで、過去の自分を冷静に振り返ることができ、「他山の石」を正確に捉えることができるのだ。


 「他山」とは、過去の自分……


 自分の戦術に固執し、目先の勝利にこだわり、仲間を能力のみで評価し、物事が自分の思い通りに進まないと苛立つ……そんな自分。


 他人がその山に登ることを認めなかったために、優れた戦術、優れた指揮能力を目にしても認めることができなかった。


 そんな自分を反面教師とすれば、自ずと何を、どんな自分を目指していけばいいかが見えてくる。


 かつてガイルを彼の得意とする土俵で破った人間は、今や、ほとんどの上級生の派閥を圧倒し、激戦のブロックを勝ち抜く勢いを見せている。


 自分たちも負けていられない。


「準備できたぞ、ガイル」


「ああ、早かったな」


「あっちもすぐに終わる」


 副官のギースがガイルの隣に戻った。


 すでに、南東の『土』と南西の『氷』の『柱』はそれぞれカタがついた。


「では、いきましょうか、コイン先輩」


「おう」


 ピキピキピキピキピキピキ……

 ピキピキピキピキピキピキ……

 ドドドドドドドドドドドド……

 ドドドドドドドドドドドド……


「「『氷室ひむろ』」」


 ピキピキピキピキピキピキ……

 ピキピキピキピキピキピキ……

 ドドドドドドドドドドドド……

 ドドドドドドドドドドドド……


『氷』のブロックを『石』の膜が包み……


『石』のブロックを『氷』の膜が包む……


 2種類の建材が織り重なり、強固な土台を、柱を、壁を、屋根を積み上げていく。


「おおっとーー、<職人気質連合>が自陣の舞台側に強固な城を造り上げてしまったー。これは、昨日の<無法者連合>よりさらに一段上回る補強だあー!知将ガイル=ワイリーの思惑は如何にー、最強の5人相手に堅固な城で守り勝つつもりなのかぁーー?」


 守り勝つ?


 バカ言え。


 それじゃあ、これまでの確率論の繰り返しだ。


 たしかに、あいつらの「ELEMENTS」から着想を得たが、その解釈はだいぶ異なる。


 ガイルが仲間たちと話して導き出した1番望むべく形だ。


 最強のヤツらに対して防戦一方にはなりたくない。


 ならば、相手が来る前にものの1分で城を造り上げ、後顧の憂いをすべて断つ。


 両サイドには巨大な見張り塔。

 その2つを繋ぐ石垣と廊下。

 敵の侵入を防ぐための傾斜のついた分厚い壁。


 この『氷室』は、守るための『城』ではなく、()()()()()()()()『城』だ。


 この2つの塔を破壊するためには、その前にいるガイルたち15人全員を倒さなければならない。


 そして、全員で前線を押し上げて舞台中央の3つ目、『火柱』を手中に収める。


 それだけの、ごくシンプルな戦略のもとに、各隊、各人が各々の戦術を用いて目的を達成する。


「よし、行くぞ」


「「「「おう!」」」」


 先陣を切るのは、他でもない、ガイル自身だ。


 ガイル、ギースに加え、『流風るふ』フルール=ニーツク(【粋座真】)、『水溌すいはつ』ペニー=ソセキ、『青嵐せいらん』ニッケル=エンシュー(【堅切鋼】)のイキの良い2年生5人が、斬り込み隊として向かう。


「ハッ、思い切った手に出るじゃねえかっ。いいぜ!おい、坊ちゃん、相手にしてやろうぜ」


「ふんっ、他人を『坊ちゃん』呼びするな!腐れライオン。全員、『灰』にしてやる」


 相手方も好戦的な2人が飛び出してきた。


 ここまで予想通り。


「へっ、この決闘がどんなルールであれ、俺たちには関係ねえんだ、『氷狐』。俺たちがお前らを全滅させればいいだけだからよ『爆音気ばくおんき』」


 ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ、ボンッ……


 『音爆おとばく』シンガ=ソングが周囲の空気を爆発させようとしている。


「『氷斤族ひょうきんぞく』」


 ピキピキピキピキピキーーーン……ピシッ、ピシッ、ピシーーン!


 爆発を『氷』で抑え込んだ。


 パラパラパラパラパラ……


 破砕された『氷』が粉雪のように宙を舞う。


「奇遇ですね。俺たちもまったく同じことを考えていました」


 前を向いた『氷狐』ガイル=ワイリーは、強敵を前にして不敵に笑った。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


かつての敵も頼もしく前進するようです……


次回、緊迫の攻防……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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