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6-74『前進気勢』

 どうどう……


 馬があまりに気合が入り過ぎているときに、なだめるために用いる言葉だ。


「どう?どう?」


 ……前進気勢が過ぎるんだが。


 俺に対して何度も魔法技の確認をしてくるのは、ブルート=ポンコツ=イレコミスギ=フェスタ。


 まだ第5戦まで1週間ほど空くのにも関わらず、すでに気合いが入り過ぎている。


 前進気勢というやつは大事だ。


 何事も、後ろ向きな人間には幸運はやっては来ず、掴み取ろうと前進するものだけにそれは舞い降りて来るもんだ。


 為せば成る、為せねば成らぬ、何事も……って言葉もあるしな。


 一方で、勇み足という言葉もあるもんだから難しい。


 要は、気持ちは前へ、しかし、頭では冷静に現実を見つめるということが大事なんだ。


 これが、逆になると単なる怠惰な人間ができあがるんだけどね。


 村にいた頃の義兄スネカジ=リムジーがそんな感じだった。


 口では「俺はビッグになるぜ」とか、「誰よりも稼ぐ領主になるんだ」とか言っていたけれど、実際にあいつのやっていたことって、俺が狩った魔物の魔石をピンハネしていたことぐらいだったからな。


 人の手柄によって大きくなったところで、その供給減がなくなれば、風船のように一気に萎んでしまうことを、あの愚兄はよく分かっていなかったようだ。


 今はどうしているのか、知らないけれど、少なくともここにいるブルートがメープルに注いでいる愛情の半分くらいは、村に残したメリーたちに注いでいることを願う。


 何をするにせよ、何になるにせよ、すべてのことはまず自分の両手から始まるということを理解して欲しいもんだ。


「両手で『霧』を出せるようにはなったんだよ」


「じゃあ、次は足から出せるように頑張ってみたらいいじゃん。実際、『水鮫』にも乗れるんだから、お前ならできるだろ」


「お前、自分のことじゃないからって、簡単にさらっと言うよな。魔法は天ぷらとはわけが違うんだぞ?」


 ……絶妙にうざいんだが、コイツは。


 大体、天ぷらを調理する手間を知らんのか。

 揚げ物は油を引くだけで、片付けの手間が頭に浮かぶ分、すでに大変な労力が掛かっているんだよ。


 野営ならともかく、店でやる場合は器具もたくさん使うし。


 揚げるだけが調理と思うなよ?


 そもそもだが、なぜ俺がこいつの訓練につき合わなきゃならんのだっ!?


「じゃあ、尻から出してみたらどうだ?なかなか斬新じゃないか」


「お前、ノーウェ、コノヤロー!他人事ひとごとだと思って」


 いきなり組みかかってくるポンコツ。


 他人事も何も、事実なんだから仕方がないだろう。


 俺はそれどころではないんだ。


「まあ、本番までに習得できるように、頑張れよ。俺とリバーは『テンプラ委員会』のせいで、当日3分間のペナルティを食らってしまったから、スタートからは出場出来なくなったからな。すべてはお前に掛かっているぞ、ポンコツ」


「はあっ?お前、何言ってんだよ!まさか、冗談だろっ!?」


「いや、本気、本気」


 俺たちが、ジャネット先輩たちに「天ぷら」を振る舞った夜、リバーの元に「テンプラ委員会」なるところから連絡が入り、俺とリバーが呼ばれた。


 簡潔に言うと、俺たちの第4戦、「ELEMENTS」の決闘時に大会運営を批判したことを学園理事や裁定委員の何人かが問題視したとのことで、色々と事情聴取を受けたんだよ。


 学園で予め設けた大会運営のルールに当日になって意見するのはおかしい、だとか……


 他の<連合>が真摯にルールに向き合っているのに自分たちだけへそ曲がりな行動は慎め、だとか……


 もっともらしいことを言っているが、反論は10でも20でも思いつきそうだったので、いろいろと言ってやろうと思ったけれど、これはリバーによって、アイコンタクトで止められてしまった。


 どうやら、リバーの算段では、1度すべてを受け入れ、後々に問題化させる算段らしい……


 なぜそうすると思うのかというと、向こうの裁定委員の1人が「反省がないのであれば罰則として3分間のペナルティを与えてもいいんだぞ?」と言ったことに対して、こちらから自主的に第5戦の「DOOM」の開始3分まで、俺とリバーが出ないことをあいつが宣言したからだ。


 もう、つき合いが長いので分かっている。


 リバーは、これを利用して、もっと大きな事態に発展させる心積もりに違いない。


 だから、俺も敢えて何も言わず、リバーの判断にすべてを委ねることにした。


 それにしても、この盤外戦を仕掛けてきたのがどこのどいつなのかは気になるな。


 例えば、フィッティ先生のように、純粋に運営の効率化や公平性を考えた上での指摘であるのなら、まだいいとしよう。


 そこに前向きな理由があれば、前向きな議論に繋がり、どう転んでも、前向きな結果となる。


 だが、単に、俺らの足を引っ張りたい、俺らを抑え込みたいという後ろ向きな理由なら、今回の企みは、まったく意味をなさないものになるだろう。


 ……だって、俺たちは諌められたところで、納得できる理由がなければ止まらない。

 前に進むだけだから……


 そして、俺たちだけでなく、すでに事態は、だいぶ前のめりになって動き始めているんだよ。


 その証拠が……Bブロックの第4決闘。


 <五騎当千連合>と<職人気質連合>による事実上のブロック決勝戦だ。


 ◇「コスモアリーナ『東側観客席』」(『天ぷら会』直前の午後)◇


「それでは、皆さーん、お待たせいたしましたー。衝撃的な結末を迎えた昨日の<無法者連合>と<公爵令嬢連合>との一戦の興奮が冷めやらぬ中、本日も大注目の一番が行なわれますよー。進行は引き続きトルナ=メマコーンがお送りしまーす。ダンジョンでは心は熱く、頭は冷静に、がモットーです!」


 ふっ……


 周囲からの注目が俺たちに向いているな。


 それだけ、昨日のジャネット先輩と俺たちとの熱戦が話題を読んだんだろう。


「鬼畜~、冷酷非道~」


 ふっ……

 誰のことを言っているのかな?

 器の大きい男はいちいち気にしないのだよ。


 ……なんか、他にも、珍奇な目で見られている気がしないでもないけど、気にしない!


「の、ノーウェ殿……なぜ、そんな粉まみれに?」


「ふっ……『テンプラ』の罰ゲームなのですよ、クレハ先輩。ちょっと衣の研究が高じてしまいましてね」


「そ、そうなのですか……」


 うむ、若干、服や顔や髪に薄力粉がついてしまっているが、気にしない。

 リバーのアドバイスにより、粉や卵水を冷やした方が天ぷらがカラッと揚がるということで、色々と試行錯誤していたんだ。


 専用の魔道具を用意してもらうことで万事解決した。


 リバーも、俺の作る様子を見ながら、「この一連の作業を自動化したいですね」とかよく分からんことをブツブツ言いながら、頭の中で新しい魔道具の開発に勤しんでいたようだ。


 ……前向きで何より!


 クレハ先輩は怪訝な表情を浮かべていたが、ハリーから詳細を耳打ちされたようで、納得の表情に変わった。


 ちなみに、決闘翌日の今日と、明日は休養日にした。


 もちろん、第5戦のことを考えていかないといけないわけだけど、1週間という期間は自分で考えているよりも長いものだ。


 簡単なダンジョンであれば、余裕で行って、攻略して、帰って来れるぐらいの日数。


 この期間、まるまる訓練に費やしたところで、却って神経が疲れてしまう。


 だから、決闘直後の2日間はゆっくり休んで、こうやって、他所の決闘を観たり、天ぷらを揚げてみんなで食べたりして英気を養うというわけだな。


「それでは、Bブロック、第4戦……<五騎当千連合>と<職人気質連合>の決闘開始いたしまーす!」


 あっという間に、決闘開始の時間となった。


「北側」を本陣とする<五騎当千連合>が、「南側」を本陣とする<職人気質連合>の陣にゆっくりと向かっている。


 例によって、あの5人で……!


 下馬評では、<五期当千連合>の有利とされている。

 勝ち予想のオッズとしては<五期当千連合>が1.5倍、<職人気質連合>が5.6倍だから結構な差だな。


 ちなみに、俺たち<無法者連合>と<公爵令嬢連合>の決闘前の最終オッズは3.8倍対2.6倍だったらしい。


 ジャネット先輩たちの方を、多くの人たちが勝つと予想していたわけだから、一応昨日の決闘は「番狂わせ」の部類に入るんかね。


 さて、この決闘の見どころ……だけど、俺はガイル先輩にあると思っている。


 ……というのも、このアリーナに入った際に、偶然先輩と通路ですれ違ったんだ。


 ガイル先輩は、「昨日のお前たちの決闘を観て閃いた形がある。是非楽しんでくれ」と不敵に笑いながら言っていた。


 俺たちが直接戦うわけじゃないけれど、昨日の俺たちの「ELEMENTS」を観て思いついたという先輩たちの解釈する「ELEMENTS」。


 是非とも、堪能させてもらいたい……!


「おおっと、<職人気質連合>が動いている……『氷狐』ガイル=ワイリーと『石嶺』コイン=ドイルの『共鳴』による建築が始まったぁーーーーー!」


ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。

もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。


他<連合>の決闘はあっさり1、2話で進みます。


次回、学び、前に進んだ男……!


ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!


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