6-53『荒野の宝石』
夕日に焼ける遠くの山の岩肌、砂埃の舞う地面、どこからともなく響いてくる怪鳥系魔物や猛獣系魔物の唸り声……
俺たちは今、荒野にいる。
荒野の7人……いや、6人と1匹。
帝都の北にある山脈の麓の地域に来ている。
「冬の総魔戦」の決戦を控えたこの時期になぜこんな場所にいるのかというとだな……
元冒険者であるクローニ先生から頼まれごと(依頼)をされたからなのだ。
積極的に引き受けたのは、俺じゃない……
一緒に来ているレミとディリカだ。
他のメンバーは、リバー、カーティス、モモエ、そしてなぜかピギー……
あまり人数が多くなってもということで、参加メンバーを絞ったんだ。
実は、ハリーとクレハ先輩も来たがっていたんだけど、こっちは思わぬところからストップが掛かってしまった……
クレハ先輩は「マーロック遺跡」に向かおうとした前科があるからね。
てっきり「学園」からのストップかと思いきや……違った。
止めたのは、クレハ先輩のお父さん……つまり「透明マスクストップ」。
外泊はダメと言われたそうだ。
最近、キャリー先生は先輩のことで色々と目を光らせているらしいからね。
……「透明マスク」が目を光らせるって不気味なことこの上ないな。
暗い夜道で出くわしたら一目散に逃げ出す自信があるよ。
そんなわけで、当初の予定から2人減ったけれども、代わりにピギーがなんかついてきた。
荒野は寒い。
山の上に雪がちらほら見えるけど、ここ数日、あまり降ってはいないみたい。
地面に雪が見られないから。
でも寒い。
風が凍てつくような冷たさだ。
ピギーはこんな場所についてきて大丈夫なんかいな、と思ったが、俺のローブのフードと肩回りに器用にも巻き付くような形でぬくぬくしている。
……蛇じゃないんだからさ。
あったか〜いけどね。
「しかし、こんな場所に送り込むなんて、クローニ先生は教師なのにどうかしてるわっ!」
ディリカが文句を言っている。
たしかに、どうかしている。
今って休養期間とはいえ、大事な「冬の総魔戦」の再開までの準備期間なんだよな……
なんでこんな荒野くんだりまで魔物の素材を取りに行かなきゃならんのだ、って小言の1つでも言いたくなるよ。
……でもなぁ、進んでOKしたのは他ならぬディリカだったじゃん?
口には出さないけど!
「先生は元冒険者だからな……」
「それはそうだけど……」
カーティスがあまり答えになっていないような返答をした。
元冒険者、だから何?って話なんだが、ディリカの気を逸らすことには成功したようだ。
最近は2人の口喧嘩もあまり見なくなった。
成熟したのか、それとも、冬場はあまり口論したくないのか……
冬ってなんとなく気分が塞がるから余計な喧嘩をしたくなくなるってのは少し分かるな。
口数自体が減るんだよ。
「目的地までもう少しだから頑張ろ〜」
「おー!」
レミは元気だ。
モコモコの耳当てをして頭からフードを被り、目元を大きな縁付きの遮光眼鏡で覆ってマスクをしているので、ほぼフルフェイスの防寒対策をしている。
モモエも似たようなファッション。
2人は背丈もほぼ同じなので、後ろからだと見分けがつかず、フード付きローブの色が白かピンクかで判断するしかない。
「さて、ちゃんと『月』が出てくれるといいのですが……」
白い息を吐きながらリバーがそう呟いた。
今宵は満月……
晴れた冬の満月に、この地域ではちょっとした神秘的な現象が起きる。
俺たちの目的は、その場に立ち会い、魔物が生み出す目当ての副産物を得ることだ。
「さて、着いたな。まだ時間はあるから端の方で野営するか……」
遠くに見えていた雪化粧の山々がだいぶ近くに見える付近までやって来た。
もう少し山沿いまで近づけば、目的地に到着する。
でも、あまり早く着いてしまっても、時間まで息を殺して待ち続けないといけないので、その手前で野営をすることにしたんだ。
「火をつけちゃダメだぞ!」
「えっ、なんでよ?」
俺が注意すると、寒がるディリカが目を吊り上げた。
「こんな場所で煙を焚いたら、魔物に来てくれって言うようなもんだからな」
「そ、そんなぁ〜」
レミがあからさまにガッカリした顔をしている。
さっき、リバーに温熱の魔道具をせびっていたのを俺は見逃さなかったけどな。
「なんか良い方法はないのか?」
「あるよ。まずは手ごろな石を集めるんだ」
カーティスに聞かれたのでそう答えると、皆、多少は希望を持てたのか石集めを始めた。
「それじゃあ、始めるぞ。煙を出さない程度の『火熱』で石を温めるんだ」
「なるほど。石の熱伝導率の良さを利用するのですね」
「ああ、微細な『魔法調整』の練習にもなるからちょうどいいんだ。熱した石を鍋にぶち込めば温めることもできるしな」
「『石焼き』ですね。『ワッフ・ルー』名産の料理の……」
「ああ」
半年ほど前に「土輪布山泊」で大怪物を倒した際に振る舞ってもらった料理だ。
あれは、溶岩やマグマの地熱そのものを使った豪快さであったけど。
「ちょうど魔ホロ鳥と魔ゼリを持ってきてよかったです」
相変わらず用意のいいリバーが、荷物から魔ホロ鳥の身肉や砂肝、魔ゼリ、ジャネット畑の野菜などを取り出した。
ぐつぐつ鍋ができるな。
「じゃあ、リバー頼む」
「はい。『釜蔵漠布」
鍋を出す前に風避けを頼むと、リバーは『土』を焼き固めたドーム状の洞を作り出した。
シーア先輩が作ったやつの『土』版だな。
「ふひー、寒かった〜」
「暖かいです」
完全防寒装備をしていたレミとモモエがようやく顔を見せた。
『土』のドームによって寒風から守られているだけでだいぶマシになったが、鍋の中の水が焼き石によって温まり、湯気を出すにつれて快適な室温になっていく。
グツグツ……
「美味そうだな……」
カーティスが鍋を見つめながら呟いた。
鍋の水面に脂が浮き始めている。
俺も腹が減ってきた。
グツグツ……
「そろそろ頃合いでしょう、どうぞ」
「いただきまーす。はふっ、はふっ」
「美味ひいわっ」
鍋を囲みながら滋養のあるスープを飲むことで皆の顔の血色も戻ってきた。
セーユを使った魔ホロ鳥の脂が浮いたスープは絶品だ。
肉は噛み締めると旨味が溢れ出し、一緒に入った軟骨はコリコリと違った食感で楽しませてくれる。
魔ゼリが爽快感を口内に与えてくれるので何度でもスープを楽しめる。
「なーう」
ピギーも鳥肉を食べてご満悦だ。
「さて、この中もだいぶ暖まってきたことだし、お腹もいっぱいになったから作戦会議をしようか」
「そうですね『土台』」
みんなで食事の後片付けをしたあと、リバーが部屋の中央に『土』の台を作った。
その上に地図を広げる。
「ここから少し南東に向かうとジャネット先輩のお家の領なんだね~」
「あ、そうなの?」
それは知らなかった。
先輩の実家は帝都の北方面だったんだね。
ま、それはともかく、俺たちがこれから向かうのは、もう少し北に進んだ山肌近くだ。
あと5キロくらい。
ここまでの道程ではそこまで魔物は出なかったけれど、この先は、あまり人が足を踏み入れない地域なので、魔物が多く出てくることも予想される。
「一応、冒険者ギルドの調査記録では高くてBランク程度の魔物しか出ないようだけどな……」
カーティスがマスボ内の資料を見せてくれた。
「へえ。ここは『イスカンテ荒野』っていうのか」
「ええ。山脈伝いに東に進むと岩鬼族の自治領である『ディモニキア』に行き当たります。さらに東には『ロムルメ王国』との国境になりますね」
鬼ババの故郷だな。
よくよく考えると、今や「魔境」の領主として「辺境伯」となった鬼ババは、元々住んでいた帝国の北東からはるか南西に移住したことになる。言ってみれば、帝国の端から端だ。
あまり自分の過去を話さない人なんだが、せっかくだから今度岩鬼族の地に行って聞いてみてもいいかもしれない。
何か弱みを握れるかもしれないし……
それに、最高の調味料、セーユの産地だしな。
「ここから5キロだと、あと1時間半くらいかしら。少し早いかもだけど、そろそろ出た方がいいんじゃない?」
ディリカが提案した。
「さんせーい。せっかく寒い思いまでして来たのに、『自然の神秘』を見れなかったら目も当てられないもんねー」
レミもディリカに賛同した。
「じゃあ、行くか」
「「「「「おー(なーう)」」」」」
『土』のカマクラで暖をとって一休みした俺たちは、再び目的地に向かって歩き出した。
クローニ先生からの依頼……
それは、帝都北の荒野に生息する珍しい貝種の魔物「コーヤ貝」から採れる「ムーンパール」を手に入れるというもの。
普段は砂の中に埋まっている生態なんだけど、この時期の満月の夜に産卵をするために地上に出てくるので、それを狙って採る必要があるそうだ。
決闘に忙しいこの時期になぜ?と思わなくもないんだけど、「珍しい宝石」と聞いて、目を輝かせてしまったディリカやレミの手前、仕方ないよねってことで産卵地に向かっている。
「それにしても、魔物が多いな」
「そうだな……しかも、他に競合相手が見当たらないし」
俺は魔法を放ちながら、カーティスと顔を見合わせて首を傾げた。
道中、やたら魔物が多い。
三色ダンゴムシ、アックスオックス、ダークフォレストボアといった魔物に「魔境」とまではいかないまでも、ここまで何度も遭遇している。
「ムーンパール」は、稀少な宝石として有名なので、欲しがる人間は多く、そのため、危険を顧みずに採りに行くハンターや冒険者が後を立たないという話であったが、これだけ魔物が多いとさすがに、諦めるんだろうかね。
「それか、すでに魔物のエサになっているか……ですかね」
「怖いこと言うなよ」
リバー、俺、カーティスの3人で前衛を務め、レミ、モモエ、ディリカが後に続いている。
その方が、俺たちが風除けになるのでいいんだそうだ。
後ろや横から来る魔物が少し心配だけど、レミが探索の『風魔法』を常時発動させているからね。
「『土堅矢』」
ブスッ、ブスッ、ブスッ、ブスッ、ブスッ、ブスッ……
「『ニードルラッシュ』」
ヒューン……ブスブスブスブスブス……
「『グランストーン(石槍)』」
ブオンッ……グサッ、グサグサッ!!
こうして魔物を倒しながら俺たちは冬の荒野を進んでいく……
◇「『コーヤ貝』産卵の地」◇
「あれま……」
「いやはや……」
「おいおい……」
休憩地点を出立して2時間ほど経ち、俺たちは目的地まであと少しのあたりまでやって来た。
しかし、問題が2つ。
まず、空が曇っている……
さっきまで、普通に夕焼けが見えていたのに、いつのまにか、空全体を分厚い雲が覆ってしまっていた。
満月は今夜だから、晴れてくれないと困るんだが……
「いや、そっちは問題じゃない……!」
「そうよっ、何よ、あれ。聞いてないわ!」
「たはは~……」
……うん、ちょっと現実逃避していた。
せっかく到着したのはいいんだが……
すぐ近くに見える山の岩肌に、何体もの巨大な翼を持つ魔物たちが、こちらを威嚇しながらお待ちになっていた……!
……ワイバーンの群れのお出迎えである。
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
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変な旗を立てるから……(笑)
次回、ある意味「特別訓練」……!
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




