6-51『口車』
思った以上に「差」のついた戦いだった……!
なんか、全体的に見て、ジャネット先輩たち<公爵令嬢連合>の打つ手打つ手が決まり、<2年生『殿上人』連合>が常に後手後手に回った印象だな。
ざっくり言って、ジャネット先輩たちは、3つの戦場(東・中央・西)に分かれた戦いにおいても、策を駆使し、隊や個人の連携が抜群にとれていた。
全体のグランドデザインを描いていたのはジャネット先輩。
始めに、ブルート兄ちゃんが目論んでいた「舞台中央に『大きな滝』を配置する」という初手を防ぎ、「PLANTS」の決闘としての特性を用いて、「植物マムンクルスの群生地」を置く。
次に、ブルートの幼馴染である『炎格』ジェシー=トライバルと連携し、上空から『炎の玉』を大量に降らせ、先制攻撃。ジャネット先輩は、その対応のために上ってきたブルート兄ちゃんと1対1の交戦を開始。
同じタイミングで西側ではシーア先輩とマライヤ先輩が交戦。
さらに東側ではマリー先輩とフォルクス先輩が対峙……と3つの戦場でそれぞれ『殿上人』同士が対決し、派閥チーム同士がぶつかり合う展開となった。
特筆すべきは、<公爵令嬢連合>が、この状況下でもそれぞれ孤立せずに、きちんと各々が連携が取れていたことと、次々と出された策に応じて派閥の枠を越えて柔軟に動いていた点だ。
例えば、『雪月』のシーア先輩と、ジャネット先輩の側近でいつも俺のことを睨んでくる水色髪のポニーテール先輩の連携技である『氷の壁』。
派閥の垣根なしに、互いの特性を最大限に生かした連携技を見せてくれた。
この<連合>戦の醍醐味というものを改めて思い出させてもらった気がするね。
以前に、「シンフォ商会」との「大連合決闘」でコイン先輩、サンバ先輩、そして俺がやった連携技もその1つだね。
あのときは、コイン先輩が『石垣』を周囲に張り巡らせ、サンバ先輩がそこに『水』を溜めて、舞台上に壮大なプールを作り、俺がそこで泳いだんだ。
……え?
俺は泳いだだけじゃないかっ、て……?
ノンノン。
2人の連携によって生み出した最高の環境の中で最も適した魔法を用いたのだよ。
第一、そのアイデアを思いついたのは他ならぬ俺だし……!
うん、だからあれは誰がなんと言おうと3人の連携だ。
話が逸れた……
今の決闘についての話を続けよう。
まあ、今回の一戦で分かったことは、ジャネット先輩たちの連携がすさまじいということと、ブルートの兄ちゃんたちは個人や単体の隊としては強くても、<連合>としては綻びもあった、という点だな。
結果的に、決闘時間の半分が過ぎた段階で、残るチームメンバーは、<公爵令嬢連合>が28人と2名しか失っていないのに対して、<2年生『殿上人』連合>は残り人数14人とその差は圧倒的に広がっていた。
ここから、ブルート兄ちゃんたちはどう挽回し、ジャネット先輩はどういう作戦を取るのか興味深く見守っていたわけだが、それはまあ驚きと拍子抜けが不思議と混在するものだった。
なんと、『雪月』のシーア先輩が、1人自陣に戻り、巨大な『雪の領域支配』を発動させた上で、本陣付近にでっかい洞のような「カマクラ」を作ってしまったんだ。
これによって、28人のメンバーの内、休憩が必要なメンバー、実力的に少し心許ないメンバーはカマクラの中に避難できる。
それを外で、シーア先輩、ジャネット先輩、マリー先輩の3人や幹部たちがガッチリ守れば、ちょっとした「大要塞」の完成だ。
疲れたら交代もできるわけだしね。
……まあ、すごいもん作ったな、完璧な防御戦術だな、と俺は感心した方なんだが、観客たちの多くはそうは思わなかったみたいで、決闘時間がだいぶ経過した時点から、ブーイングがちらほら聞こえるようになったよ。
あまりにも守備的な戦術を取ったジャネット先輩たち<公爵令嬢連合>に対してと、互角と見られていたはずなのに、不甲斐ない戦いぶりとなってしまい、『大カマクラ』を崩せずにいたブルート兄ちゃんたち<2年生『殿上人』連合>への双方に向けて、だったな。
だって、ブルート兄ちゃんが巨大な『滝龍』を放っても、『水門』や『氷結魔法』で防がれるわ、『光霞』のマライヤ先輩が側面から攻撃しようにも、ジャネット先輩がそれを邪魔してくるわ、終いには、『宵闇』フォルクス先輩が単身で向かおうとするも、マリー先輩や幹部たちの連撃を受けるわ、で打開策が見いだせずに時間ばかりが過ぎていく感じだった。
<2年生『殿上人』連合>も、幹部たちがもう少し残っていればまだなんとかやりようはあったのかもしれないけどね……
でも、まあ、観客たちの気持ちも分かるよ。
考えても見てくれ。
それまで、息をつく間もないほどの熱中ぶりを見せていた決闘が、残り時間が半分になったところで急にまったく動きのない膠着状態となり、そのまま終了時間まで進んでしまうことを。
残り10分は特にブーイングや野次が酷く、最後の方は劣勢でありながらも攻め込む<2年生『殿上人』連合>の方を応援する声が全体の8割以上にもなっていたが、ジャネット先輩たちは当初の作戦を徹底し、時間切れによる勝利(残存メンバー数による)を引き寄せた。
今は、その「鋼の意志」を俺はむしろ賞賛したい。
有利になった状況で守備的な戦術に移行し、守り切るという戦法は、たしかに賛否を呼ぶ。
でも、せっかく選んだ戦術なわけだし、ここで観客のブーイングや野次という「口車」に乗って、無理に攻撃に転じてしまえば本末転倒だ。
んで、結局、ブーイングとどよめきの中、決闘終了の合図となった。
鬱憤が溜まった観客たちは、決闘終了の合図とともに、騒ぎながら客席を立ち、波のように流れて会場から出て行った。
俺たちは、その波に敢えて乗らずに、こうして、観客席に座ったまま、今回の決闘内容や戦術の分析や、対応策についての話し合いをしているというわけ。
……主にリバーが説明してくれてるんだけどね。
ところで、俺たちの<連合>が座る席の両サイドや後ろの席の人たちまで席を立つ気配がないのは何故なんだろうか。
皆、真剣な面持ちでリバーの説明を聞き入っており、中には、マスボで撮影している人もいる。
「あぷる中継」かなんかして、テープ回してないだろうなっ!?
リバーが特に止める気はなさそうなのでいいけどね。
「まず、決闘自体は大差のついたものでしたが、2つの<連合>の実力は拮抗していたと私は見ています。現に、『殿上人』同士の対決、各部隊ごとの対決においては、ほとんど勝敗が決していませんでした」
ふむ、たしかに……
結果的に、どちらの<連合>も、派閥の長を1人も失っていなかったし、幹部で倒れたのもブルートの兄ちゃんの派閥だけだ。
「このことから、勝敗を決めたのは、1つに戦略と戦術、もっと言うと、それを可能とする<連合>としての流動性にあります」
リバー教授が人差し指を1本立てて解説する。
「ふむ、ちょっとした『ボタンの掛け違い』だったというやつですかな」
「はい。策を講じる判断力の速さ、その策を即座に実行する互いの連携、それ自体はほんの紙一重の差だったかもしれませんが、積み重なればこれだけ大きな差となるわけです」
レヴェック助手の見解に判を押すリバー。
今や、決闘の観客席が「戦術講義の場」になっている。
「これを紐解きますと、<公爵令嬢連合>は、派閥の長以外にもその場その場で指揮を取れたり、自分で判断できるメンバーが多かったという点に気づきます。翻って、<2年生殿上人連合>は、どうしても『上意下達』となりがちで、指揮系統としての固さが見られました。ここが大きな違いであったかと」
……なるほど。
<公爵令嬢連合>も、<2年生『殿上人』連合>も、互いに派閥単位で隊を形成して行動しているという点では共通していた。
しかし、一方は、派閥の長が不在でも<連合>の戦略・戦術を理解し即座に指揮を取れるメンバーがおり、一方はいなかったということだな。
それがそのまま結果につながった、と……!
これは参考になるな。
俺たちの<連合>は「参謀本部」を設けているし、「指揮官」を務められるメンバーが何人もいるから心配いらない気もするけど、それはそれとして自分を戒めておく必要はある。
ブルートの兄ちゃんたちの派閥は、個々の実力や派閥単位での強さはあったかもしれないが、<連合>として見たときに、縦割り過ぎて「柔軟さ」を失っていたということだ。
「第2ラウンド」の途中にそんな「脆さ」を露呈してくれたってわけだな……!
……まあ、俺たちと戦う「第5戦」は、その部分はあまり関係ないから弱点にはならない気がするけど。
第5戦の「DOOM」は10人対10人の戦いだからね。
向こうは『殿上人』と幹部を揃えてくるだろう……
それよりも、だ。
俺も、派閥の長として「上意下達」とならないように気をつけなくてはならないな。自戒しよう。
「あ、ノーウェ。『タコもどき焼き~キャビマヨソース~』を取ってくれ」
「はいは~い」
俺は、目の前のワゴンから『タコもどき焼き~キャビマヨソース~』を取って、ハリーに手渡した。
クレハ先輩と2人で食べれるように串を2つ添えるのを忘れない。
刮目せよ、この気配り!
「ノーウェ、こっちには『黒ごま五平餅』を2つ頼む」
「はいは~い」
今度はカーティスに頼まれた。
ワゴンの上に置いてある『黒ごま五平餅』を2つを携帯皿に載せて手渡す。
もちろん、ごまが零れないように、ワゴンに重ねられているナプキンを添えるのを忘れない。
なんか知らんけど、講義が始まったあたりで軽食類をワゴンに載せた出張屋台がやって来たんだよ。
ワゴンだけ置いてスタッフは去って行ったけど。
今、俺の席の前には『ヤキソバまん』や『タコもどき焼き』が大量に積まれたワゴンが留まっている。
後ろの席のメンバーたちは取るのが大変だから、こうして回してあげてるんだ。
「ノーウェ、『魚介塩ヤキソバまん』取ってくれ」
「はいは~い……ってお前は隣なんだから自分で取れ、ポンコツ!」
「なんだとっ!?ノーウェ、コノヤロー!」
俺はポンコツと取っ組み合いを繰り広げた。
「……ここまで指揮系統がぐちゃぐちゃ過ぎても困りものですけどね」
「はっはっは、然り」
しょうがないじゃないか。
「ヤキソバまん係」にヤキソバまんを取れと命令されるほど屈辱的なことはない。
「お前の仕事はなんだ?」と言ってやりたい。
「続けましょう。柔軟さ……という点で見逃せないことが2点。まず、今回の<公爵令嬢連合>の勝利の要因といえるでしょう……『炎格』ジェシー=トライバルの個人としての動き、そして『颯梟』のモナ=オウル率いる『魔法隠密部隊』の活躍にあります」
うむ。
たしかにあれは大きかった。
「ふはははは、見たか!?ジェシーは、同じ1年の派閥幹部相手にも余裕だったぞ」
さも自分の手柄のように振る舞うポンコツ。
まあ、普段から一緒に訓練しているらしいしね。
「むはははは、モナ率いる『魔法隠密部隊』は、シーアを守る魔帝国が誇る『秘密特殊部隊』なのだ!活躍して当然だぞ」
こちらも大威張りの赤いポンコツ。
自国の「秘密」をこんな場所で盛大にしゃべってしまっていいものなのだろうか。
こちらとしては、今回の決闘で彼女たちの動きを見れたのは儲けものってやつだったけどな。
俺たちとの決闘でも、彼女たちの動きがポイントになるのは間違いない。
「その通りですね、ブルート、バラン。彼女たちは素晴らしい活躍ぶりでした」
「「うん?」」
「負けられませんね?貴方たちも」
リバーが怪しく笑った。
「ふははは、もちろんだ。次の決闘では、このブルート=フェスタがマグニフィセントな活躍をしてみせよう!」
「むははは、我に任せよ。次の決闘は、このバラン=レンホーンがマグネットな戦いぶりをみせてしんぜよう!」
……すっかりリバーに乗せられている。
単純というか、なんというか……
「そして、なんといっても、今回の<公爵令嬢連合>勝利の立役者は『風華』ジャネット=リファ様でしょう。彼女とは『フードパーク』や『地平の間』に食材を卸していただいていることから、しばしば『商談』をさせていただいておりますが、交渉相手としては非常にタフな部類に入ります」
「ソナタ商会」でレストラン事業を統括するリバーは、ジャネット先輩と定期的に食材に関する商談をしている。
先輩からの季節もの野菜の売り込みをしたり、逆にリバーの方で料理人からの要望を伝えたり……
そのときの値段などの条件交渉がなかなか手ごわいという話を以前にリバー本人の口から聞いたことがある。
あるときは「野菜の大きさ」を交渉材料に持ち出してきたかと思えば、またあるときは、「希少さ」を前面に押し出すなど、あの手この手で先輩の育てた野菜の商品価値を高めようとしてくるらしい。
リバーとしては、市場に出回っている適正価格というものを伝えて対処をしているようだが、ジャネット先輩もなかなか譲らないそうな。
元々お金持ちの家の出の人だし、少しでも利益を得たいというよりは、育てた野菜自体の価値やその手間を知ってもらいたいということなんだろうとリバーは察していたよ。
このような、タフネゴシエーターぶりが、今回の決闘でもいかんなく発揮されたということだな。
「壮大な絵図を描き、各部隊から個人に至るまでに戦術や状況を打開するための思考を徹底させ、敵を壮大な罠に嵌める……しかも、魔導師として互角の実力者と対峙しながら、です。なかなかできないことですよ」
うんうん。
俺は腕を組んで何度も深く頷いた。
さすがは、ジャネット先輩。
油断のならない強敵というやつだな!
「私たちとの次戦でも、壮大な仕掛けを狙ってくることかと思います。そして、彼女の企みを打破するためには、こちらも『奇策』……『奇人による策』で行くしかありません」
なるほど、「奇人」の策だから「奇策」ね。
上手く言ったもんだ。
「ノーウェ、貴方に掛かっていますよ……?」
「うんうん……えっ、俺?」
「奇人」と評され戸惑った様子の俺に対して、周囲の全員が「うんうん」と頷いた……
……極めて不本意!
ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます。
もしこの物語を面白い!と気に入っていただけたら、どうか、いいね、評価、ブクマ登録をよろしくお願いいたします。今後の執筆の励みになります。
リバーも大概な気がしますけどね……(^▽^;)
次回、決戦に向けたノーウェたちの対策と休養期間の行動は?
ノーウェと仲間たち(とブルート)の活躍に乞うご期待!




