1-7 三人目×××の覚悟を決める
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人口の設定って難しいですね、今回も読んでいただけると、うれしいです。
壱章ノ七 三人目×××の覚悟を決める
昨日の食事の残りのパンとスープで朝食を摂り、馬をひと撫で挨拶をして出発する。
自分は南の村の出身(仮)となっているが、村を見たことが無いので、
村の大きさがどれくらいか見当がつかない。
百ヘクタールくらい?
イマニアムの街の大きさは壁一面が1kmを超えてたと思う。
街の人間もおおよそ、三万人弱って言ってたし、村だと二百人くらいかな?
太陽が出てから真上までの半分くらいの位置で丘を登ったら、見下ろす形で村が見えてきた。
村の周辺は収穫期なら麦で黄金に染まっているのだろう。
でも今は刈り取りが終わった後だった、麦って輪作で作るんだっけ?
眼下の村は丸太の柵で円状に作られている、思った以上の広さだ。
村側の一部の柵にくっ付ける形で半円状の牧草地なのか牛舎らしい建物と数十頭の牛が見える。
ちょっと少ないが馬も見える。
このままの速度で行けば、昼を過ぎるだろうが、慌てることは無い。
村での食事が楽しみだし、泊まる場所も欲しい。
こちらは依頼で来ているのだから、村長に頼めば何とかなると思う。
太陽が空の真ん中を二つ分過ぎた頃、村の門に辿り着いた。
門の所で丸太の椅子に座っている、初老の村人に声を掛けた。
「こんにちは、冒険者組合の者です、依頼の品を持ってきました」
「おお、ようこそいらっしゃいました。待っておりました。このまま道を真っ直ぐ行って、
あの一番大きな建物へどうぞ。 ……あの、来たのは貴方、お一人ですかな?」
うん? 荷物配達の依頼だけど、一人でも荷物を運べれば問題ないよね?
「ええ、一人で来ましたが、道中は問題無かったですし、何か不都合でもありましたか?」
「あ、いや、かまわんのですが……ともかく村長の所へ行ってくだされ」
おや? 急に雲行きが怪しくなって来たよ?
言われるままに大きな、多分村長宅であろう建物へ向かう。
向かう途中は村人の姿は見えなかったが、何件か家の扉の隙間から、
その家の子供らしい背丈の人影が、こっちをじーっと見てる。
もしかして、余所者が怖いのかな?
ちょっとショックを受けながら、目的の建物近くに来ると、そこの前には、
何十人と村人が集まっていた。
俺が近づくと、一斉にこっちに振り返る。コワイ。
「村長さんは、居られませんか? 依頼の品物を持ってきました」
本当なら、置き場所を聞いてから荷物を下ろすのだろうが、身の危険を感じて、
この場所に下ろして、何か言われる前に帰る事にする。
建物の前に、依頼品の木箱を急いで下ろしていると、五十歳くらいに見える、
周りに居る村人より、身なりの良い男性が進み出て来た。
背の高さは百七十を超えるかな? こちらを見て何か考え込んでる。
「ようこそ村へ。依頼品を持って来た……と言う事なら冒険者の方ですな?」
いえ、違います、荷物運び専門ですよ、と言おうとしたら、
「良い剣を持っておられますな、見た感じ腕が立ちそうですし」
うわ、剣が見っかった、馬車に置いておくんだった!
腰に差したままだった事に、後悔していると、村長は村人に荷物を運ぶように指示し、
俺にはどうぞこちらへと言って建物の中に招き入れる。今すぐ逃げたい。
あ、馬車も任せて下さいと村人に連れて行かれた。ドナドナか。
──最悪、馬を犠牲にして逃げ出そう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「実はですな、この辺りに盗賊らしい人間を見たと言う者が何人かおりましてな、
これからどうするかを話し合っておったところです」
ふむ、盗賊か、もう帰りたい、帰っていいかな?
「南の村が襲われて、全員皆殺しに合ったと聞いていて、ワシらは皆、震えておったのです。
そうしたら、組合に配達依頼してた事を思い出しましてな、そんな時にちょうど貴方様に
来ていただいたと、そう言う訳なんで御座います」
そうか、よし、俺がひとっ走りして、街へ援軍依頼して来ましょう。
「それで先ほど村の者に、街まで討伐依頼を頼みに走ってもらいました」
なるほど、討伐依頼ですな、これで安心です。
後は村の守りを固めて、援軍を待ちましょう。
「だが、守りの為の丸太が足りませんでな、ですから男衆を建物の外で守りを、
他の弱い年寄りや女子供をこの建物に避難させる手はずになってます」
あれ? 俺、要らなく無いですか? 帰っていいよね?
「そこで最後に貴方様には男衆の指揮をお願いしたい。村を守っていただいたら、
依頼金として、代金をここでお払いして、依頼書を後出します。どうかよろしく頼みます」
盗賊が今日来るとは限らないだろうとか、何人なのかとか、襲ってきても、
村人で追い払えるんじゃないのかとか、考えを話しても、どうも俺に指揮を執らせて、
盗賊の討伐をやってもらいたいらしい。
この村長、もうやだ。
それからは、思ったより多かった村人四百人あまりを、動ける男衆七十人を外で迎撃、
残りの村人を、村長宅の中と外に居てもらう。
松明を村の柵の内側に多めに焚いてもらった。明かりが無いと襲撃が分からない。
武器は弓と槍だけ持たせて、柵の外には絶対出るなと、言って聞かせる。
盾が欲しいが足りないので、家から扉を外してもらい代わりにする。
火攻めの事を考えて、水が入った桶を出来るだけ沢山用意してもらう。
柵のそばに、盾代わりの扉を立て、その影に男衆に隠れてもらった。
盾の場所に居る男衆には、持ち場は絶対離れるなと指示し、
俺と少数の男衆で遊撃に当たることにする。
はぁー、盗賊とは言え、覚悟も足りないままに人を殺す事になるのか。
結構キツイが死にたくないから、しょうがない。
運が悪いなぁと、ブツブツつぶやいていると、村長宅の方から誰かが来た。
どうやら炊き出しの様で、女性が守護の人間に食事を配っているらしい。
それを見てると、素朴だが若い女性と十才にならないくらい女の子だった。
がんばってとか、気をつけてとか、言いながら配っている。
俺の所にも来たと思ったら、お願いしますと女性が頭を下げる。
女の子が俺の足元に来たと思ったら、俺を見上げ、
「冒険者のお兄ちゃん、悪い人達から、お姉ちゃんを守って!」
足に縋り付いて、涙ながらに言われた。お兄ちゃん……、お姉ちゃん……イイネ。
「俺に任せろ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
自分は、この世界に来て、元の世界には戻れないと知った時、
いつかは覚悟を決めなければ、いけない時が来ると思ってた。
獣を殺す時はどうなるかと思ってたけど、案外冷静だった。
でも、盗賊の事を知った時、どう思っただろうか。
村が滅ぼされたくらいだから、人殺しの悪人達だな。
もしも、目の前に居たら、殺すかも知れないし、見逃がせないだろう。
いくら自分が平和の所から来て、そこでは人殺しが禁忌だったとしても。
出来ればやりたく無い、盗賊なんか来て欲しくなかった。
でも、俺は覚悟を決めなければならない。
そう、結婚して身を固める覚悟を……
お姉ちゃんと女の子に手を振って見送り、村にあった弓と出来るだけ詰め込んだ矢筒と、
握った感触がそこそこ良い短槍を借り受けた。
盗賊は一人たりとも逃がさない、ぶっ殺してやる。
俺の覚悟に、何故か男衆が震えてる。
そうか、武者震いか、良いぞ良いぞ。
盗賊まだかなぁと、鼻歌交じりで待っていると村人の叫ぶ声がした。
「き、来ました、北側から五十人くらいです!」
来た! 俺に続けと遊撃隊を引き連れ走る。
俺の幸せの為に礎となるが良い!
そちらに向かうと柵の向こうに、確かに武器を持った数十の人影が見える。
松明の明かりで、隠れる場所も無く、丸見えだ。
早速、男衆に弓矢の準備させ、俺も弓で狙いを付けて……ちょっと待て。
俺は男衆に待てと合図して、無言で柵の向こうへ飛び越える。
「あー、お前達、この村を襲う盗賊で間違い無いのか?」
「そ、そうだ! 死にたくなかったら、食いモンを寄越せ!」
──その男達は、確かに何人かは剣とか槍で武装してるが、その他は農機具の
鍬やピッチフォークだっけ? 四つ又で刺す様な道具とか、他にも麦搗ち棒とか、
どう見ても元農家って感じだよな。
つまり、こいつら食い詰めて盗賊落ちしたのか?
「俺達には、食いモンを待ってるヤツが居るんだ! さっさと寄越さねぇと、
村に火ぃ点けて、ひどい目にあわすぞ!」
うーん、どう見ても素人っぽいんだけどなぁ。
今の話だと、もしかして女子供や老人もいるのだろうか……
目を閉じて少し考える。
しかし、こいつらは今まで他の人を襲った事があるかも知れない。
人を殺したかも知れない。見逃せば他の人間に迷惑が掛かるし、
最悪、他に死傷者が出る可能性がある。 ──やっぱり殺るしかない。
(クワッ)「貴様等、ここで死ねぃ! ……あっ」
覚悟を決め、目を開くと盗賊は土下座してた。
涙流しながら、震えている、他にも……可哀相だからやめておこう。
「俺達はまだ何もやっちゃいねぇ、死にたくねぇよぉ」
「おっかぁと子供達が……」
「かぁちゃんゴメンよぉ……」
なんかヒドイ、俺が極悪人みたいになってる。
村の男衆もこっちを見て、引いている。
なんだよもー、オレ、何も悪く無いじゃん。
ここに居る、盗賊達を念のため縛り上げて、何人かで盗賊達の家族の所へ行って、
話を聞き、説得して村まで連れて来た。
縛られた盗賊とその家族は禄に食べていなかったのか、ガリガリに痩せていた。
服もボロボロだし、何かどこかの難民みたいだった。
難民? あれ、もしかして。
「お前達は、どこから来たんだ?」
「アチクの東の村から来たんだ、俺達の村は戦争だかの徴収だと言って兵隊達に荒らされて、
そんな後に盗賊が襲って来た。何十人か逃げれたが、残りは殺されたか奴隷になったかも」
うわー、色々ひどい、もしかして戦争の影響かよ……
ここに居る人間を見ても、九十人くらいだけだ。
北の方から、わざわざここまで、相当苦労して来たのか。
でも、村を襲おうとするのは良くないよな。
「なんで最初に話し合いじゃなくて、襲って来たんだ?」
「俺たちはもう、他所の人間が怖くて信用出来なかったんだ。でも王都の東の村は大きいから、
俺達じゃ襲っても、返り討ちになりそうで……」
ここでも返り討ちだよ!
もし王都の東の村を襲ってたら、もっとひどい結果になっていただろう。
でもそっかー、気の毒だけど、この人数は俺にはどうすることも出来ないなぁ。
うーん、どうするか、悩んで村長をチラっと見ると、
私に任せろとばかりに頷いた。
「とりあえず、食べ物ですな、お前達、作っておやり」
そう言って、女衆に食事の準備をさせ、盗賊とその家族に振る舞った。
盗賊達は涙と鼻水を流しながら、うまいうまいと言って食べ物を掻き込んでいた。
胃袋ワシ掴みか、村長の手腕が半端無い。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後は、話し合いをした。村の端に新しい柵と建物を建て、そこに盗賊、
今では元がつく人々が住める様にするみたいだ。
元盗賊達は反省をしてる様子、村の手伝いを頑張るらしい。
今回はギリギリだったけど、人死にも出さず、何とか解決出来た。
俺はもう少しで人を殺すとこだったので、ほっとした。
あの現場に居た男衆は、何故か俺の事を死神とか言ってるらしい。
くそぅ、お前達の蝋燭削ってやろうか?
さて、自分の幸せはと思って、あの時の女性を探すと、
あの時の女の子が、お姉ちゃんと言いながら、良く似た子に抱きついていた。
え? じゃあ、あの女性は? ──双子の女の子の母親だった。
マジか、若けぇな。旦那も普通に一緒に居た。
いや、未亡人かもとか思ってなかったし。
大変だった仕事も終わり、村長から金貨二枚を頂いた。
討伐は無かったんだから、と断ろうとしたが、ぜひ受け取って欲しい。
そう言って半ば強引に渡された。村長、只モンじゃ無い。
次の日の朝に、村長達に見送られ、村を後にした。
全然、のどかじゃなかった。
変な擬音は誰かの脳内効果音です。
ぜひ笑ってやって下さい。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。