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stage.1 スター平原 その7

 スタート地点と角ウサギさんの間を繰り返し移動し続けていたうさみは、自分自身の変化に気がついた。

 疲労状態になった時ほどの極端な変化ではなかったため気づくのが遅れたのだが、その変化は少しずつだが確実に進行していたのだ。そして自覚したときには大きな変化となっていた。


「足、速くなっているよね」


 スタート地点から街門までの移動にかかる時間が明らかに減っている。

 意識して比較してみれば、初めに体の調子を確認したとき、つまり疲労状態になる前よりも速くなっているのがわかる。

 

「というか、よく考えたらずっと走ってるし」


 すぐにスタート地点へ飛ばされてしまうものだから、復帰するまでジョギングだ。

 角ウサギさんから逃げるための試行錯誤の間にも、ダッシュを何度も繰り返している。

 やられるときはもう一瞬なので、足を止めている時間は少ない。 


「もしかして走ると足が早くなる?……というより鍛えると成長するのかな?」


 足の速さ以外にも心当たりがあった。

 飛び退くときに跳べる距離が伸びてるような気がするとか。

 耳が良くなった気がするとか。

 街中で角から人が出てくるのが時々わかる気がするとか。

 茂みの中に角ウサギさんがいるのが、時々わかるような気がするとか。

 視界の外に居る角ウサギさんが攻撃モーションに入るのがわかったことがあったとか。

 どこまで、どうやって動けば攻撃を避けきることができるかわかることがある気がするとか。

 マズいと思った時、体が勝手に動いて避けてくれたような気がするとか。

 疲労状態の身体の重さが気持ち楽になっているような気がするとか。

 尖った角を向けられてもあまり怖くなくなった気がするとか。


 慣れと学習の結果だとも考えられるし、どれかは本当に錯覚かもしれない。

 だが、成長という要素があるゲームという、非現実世界であるというのなら、現実にできないことができるようになってもおかしくない。

 武術の達人とかでもないのに気配的な何かを感じ取れるようになるとか、かっこいいし。

 もしかしたらやりようによっては空を飛べたりするかもしれない。


 夢のようなことはさておき。

 足が早くなるというだけでも大きな成果である。

 “角ウサギさんから逃げよう”作戦において非常に重要なことである。移動手段は足しかないのだから。

 成長の正確な条件はわからないが、走れば足が早くなるというのはそれなりに妥当に思える。

 そして、今までやってきたことの中に条件を満たす要素があるのには違いない。

 となれば、方針は現状維持で。足を速くする訓練と、角ウサギさんとの実践を合わせてこなせばきっと突破できるに違いない。


 うさみはそこまで考えて、楽しくなってきた。

 やればやるほどやっただけ身につくというのはやりがいがあることじゃないか。


「よーし、それじゃ、そろそろ突破しちゃうんだから!」


 張り切って駆けだすうさみ。

 そろそろ日が傾いてきていた。



 ReFantasic Onlineではスキルを取得するためには幾つかの方法がある。


 種族レベルを上げ、種族専用スキルを得る。

 クラスレベルを上げ、クラス専用スキルを得る。

 スキル習得クエストをクリアし、クエストに応じたスキルを得る。

 プレイ中に特定の行動を行い、行動に応じたスキルを得る。

 特定のスキルのレベルを上げ、派生スキルを得る。

 スキルを取得できるアイテムを使用もしくは装備する。


 そしてスキルは取得することで様々な恩恵を得ることができる。

 能力値にボーナスを得たり、特定の行動の成功率や効果が上がったり。あるいはできないことができるようになったり。

 魔法などはできないことができるようになる、の典型で、スキルがなければ使うことができない。


 そしてうさみもここまでの行動でスキルを手に入れていた。

 うさみに自覚があるもので、

 走り込みによって手に入れた、移動速度に影響がある【ダッシュ】【持久走】

 角ウサギさんの突撃を飛び退いてかわすことで、ジャンプの移動距離が伸びる【跳躍】


 茂みの様子を探ることでえられたのが、

 聴力が上がり、聞こえた音の分析を補助する【聞き耳】

 見えないものの位置を感じ取る【気配察知】

 隠れているものを見つけられる【看破】


 攻撃を避けるために集中したことで、

 自身が死亡するダメージの発生源と範囲を知覚できる【危険感知】

 認識している攻撃を避けようとする際補助してくれる【回避】


 死亡時ペナルティによる能力低下を無視しての行動によって手に入れた、低下量を軽減させる【能力低下耐性】


 なお、角が怖くなくなったのはうさみ自身の適応力である。


 そのほかに、敏捷度に直接ボーナスがある鍛錬系スキルや、HPやスタミナの数値や回復速度が上がるもの、他にHPが少ないときに能力が増えるという珍しいものまで取得していた。


 これらのスキルを得られたのは、“高レベルの敵が生息するマップで”、“レベル差のある敵と戦う”ことによる、取得経験値ボーナスのおかげである。

 件のすごい人、元βテスト参加者はるさめ。氏が狙ってやっていたことと同じことを、うさみは図らずも行ったことになる。


 本来、というか、想定されているReFantasic Onlineのバランスにおいてはいくらかスキルが先行するより、種族レベルを上げて能力値を上げていった方が長期的には有利で、かつ安定する。

 種族レベルもスキルレベルも高くなれば高くなるほど、上がりにくくなるからだ。

 はるさめ。氏にしても、開始直後のレベル1で失うものがなく、かつ十分なリターンが見込めたからやっただけで、そうでなければワンミスで経験値とアイテムと能力低下3時間が解除されるまでの時間を失うような真似はしない。


 しかし、うさみは敵を倒すという発想を持っておらず、成長するという要素があることにも気づいたばかり。

 結果、いわゆる縛りプレイ(エロくない意味)という状態に陥っているのだが、もちろん気づいていない。


 前途は多難そうである。

 しかし本人は楽しそうなのだった。

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初心者うさみシリーズ新作はじめました。
うさみすぴんなうとAW
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