stage.1 スター平原 その8
ウサギは強靭な後ろ足で地面を蹴り、跳ねるように走る。
角ウサギさんもそれは同じだ。で、あるならば。
「避けるタイミングは、後ろ脚を蹴った直後!」
ひらり。
角ウサギさんの横をすり抜けるようにかわしながら、離れて行く丸い尻尾を目で追ううさみ。
かわされると一旦距離を取るのが角ウサギさんのパターンだ。
余裕を持って角ウサギさんの突撃をかわすことができるようになってきたと、うさみは思う。
であれば。
そろそろ次の段階へ移る頃合いだろう。
角ウサギさんの追撃から離脱する。
それができなければ、先に進むことができない。
スター平原(北)は草原時々荒地ところにより林、のち原野といった様子の地形である。
平原というだけあって基本的には見通しがよい、ように見えるのだけれども、実際のところはそうとも限らない。
そこかしこに角ウサギさんが隠れられるほどの茂みがあるのである。1メートル近い高さのものもしばしばだ。
逆に、1メートルの茂みというのは、サイズのちっちゃいうさみにとっても、遮蔽として利用できる高さでもある。
ちょっと頭を下げれば見えなくなるのでうさみが身を隠すことも可能なのだ。
だが、お互いに隠れた場合、怖いのは不意の遭遇である。
出会い頭に、こんにちわグサー。と来られるのは触れれば即死のうさみにとって大きな脅威である。
かといって茂みを避けてひらけた場所を選んで行くと、隠れていない角ウサギさんに見つかってしまう。
隠れていない個体は、一羽に見つかると、近くにいる仲間も寄ってくる。なんだかやたらと連携のいいのが角うさぎさんなのだ。
そういうわけで、視界が通るのも通らないのも一長一短。
足の速さは角ウサギさんの方が上。
となるとどうやってこの平原を抜けて行くべきか。うさみに思いつく回答は二つ。
まずは試してみるとしよう。
「作戦その一。少しでも遠くに離れてみよう作戦!」
まずは角ウサギさんが突撃してくるのを確認。それと同時にうさみは全力疾走を開始する。
もちろん、角ウサギさんに向けて、である。
そして例によって、ギリギリで避ける!
「っと!」
全力疾走中の無理な挙動にバランスを崩しかけるも、どうにか持ち直すうさみ。回避自体は成功したものの、速度がかなり失われる。
しかしそれでも、うさみはそのまま、まっすぐに走る。
今、角ウサギさんも距離を取るために真逆へ向けて走っているはずであり。
それはつまり互いの距離が離れて行っているということ。
「これが最大距離を稼ぐ方法ね!」
回避時の失速がなければ確かにその通り。角ウサギさんが距離を取り、次の突撃準備を整えるまで全力で走る。
こうして生まれた相互の距離で、角ウサギさんが追撃をあきらめてくれれば。
離脱成功、ということになる。
「どうかな?」
経験から、時間を見計らって後ろを振り返るうさみ。
しかし残念無念。角ウサギさんは追ってくる。
それを見てうさみは足を止めて向き直る。
「もう一回だ……!」
先ほどは回避の仕方を失敗した。のでもう一回である。
とりあえず現状の最大限で確認してみなければ、通用するかどうかわからない。
そも、距離をとっただけで逃がしてくれるかというと不明なのだが、どちらにしても、やってみないと検証もできないのだ。
疾走開始。
みるみるうちに距離がなくなる。
今度はうまく……いかなかった。
相手の歩調とこちらの歩調の間が合わなかったのだ。
角ウサギさんが跳ねる瞬間、その直後にこちらも地面を蹴らなければならない。
待ち構えた状態からならいざ知らず、走りながら、それも全力疾走となれば難易度が違う。
もう一回。
もう一回。
そうして3度、うまくいかなかったところで足が動かなくなる。
スタミナ切れである。代替するHPは始めっから1なのだ。余力がないのである。
うさみは慌てて逃げようとするが、動かないものは動かない。
容赦なく突っ込んでくる角ウサギさん。
「ぐぬぬぅ」
角ウサギさんをにらみつけるうさみ。
そして後ろからグサー。
見通しが良いところで走り回っていたために、角ウサギさんの応援が来ていたのだった。
「作戦その二。隠れてやり過ごそう作戦!」
帰ってきたうさみは目先を変えることにした。
今度の作戦は簡単だ。追われて困るなら隠れてしまえばいいじゃない。
言うのは簡単だが実際やるのは簡単ではないかもしれない。それを確認するのが今回の目的だ。
まず隠れられそうな茂みを探す。
次に角ウサギさんをうまいこと誘導し、突撃をかわす。ここまでは今まで通り。
かわした後、角ウサギさんが振り返る前に、急いで茂みの陰に隠れる!
そして息を殺してどこかに行くのを待つのだ。
「やってみて思ったけど、これ、わたしも角ウサギさんがどこに居るかわからない……」
茂みの陰で息をひそめてしばらく経って、三角座りつぶやくうさみ。
気配を感じとれることがあるといっても、100%ではない。どこに居るかわからないから出て行っていいのか判断できない。もうちょっとやりようを考えなければ。
とはいえ、隠れてからそれなりに時間が経過した。隠れることに成功すれば、ひとまずやり過ごせるらしいことがわかったのは収穫だ。
次は隠れ方の研究をしなければ。こっちは見つからずに相手の様子は探れるようになる必要があるだろう。
うさみは立ち上がり、パンパンとおしりを払う。ついでに、よく考えたらおしりを付けて座ったらいざというとき動けないじゃないか、と反省。
「よーし、それじゃ、あ?」
音を聞きつけたのか、はたまた偶然か。茂みの陰からひょっこり顔を出す角ウサギさん。
目が合った。
じりじりと後ずさるうさみ。
飛び掛かる角ウサギさん。
鬼ごっこが再開したのであった。




