stage.9 星の海 その4
『うさみはその星の子を連れてくるために、我に力を認めさせたのだ。この成果に見合った報酬はあるべきよな』
星霊の長とうさみの会話に入ってきた星光竜は挑発的な色を含んでいた。
うさみとしては、なんか偉いっぽい相手とすごいっぽいドラゴンにはさまれてどうしたもんだかそのー、なんだ、困る。
しかし、すごむ星光竜を星霊の長はにこやかにかわす。
『ふぇふぇふぇ、そうじゃろうとも。うさみに相応しい贈り物を検討していただけじゃよ。うさみ、お主には自由を贈ろう。【フリーアクション】というギフトじゃよ』
「フリーアクション?」
自由行動?
それなら大体そんな感じな気がるすけれども。
はてなと首をかしげるうさみに、星霊の長が手をかざすと光が放たれ、淡く包み込む。
『ほう、悪くはないか。因果に応じておるしな。うさみよ、向後他者に縛られることがなくなるぞ』
「はあ、えっとありがとう?」
よくわからないのでお礼もイマイチ煮え切らないうさみ。なんで星光竜が微妙にうれしそうなのかもよくわからない。要求が通ったからか。
『星光竜殿にも及第をいただいて何より。さてそろそろ別れの時じゃ。うさみよ、また会えることを祈っておるよ』
星霊の長がそう言うと、空が徐々に紫に変わり始める。
朝がくる。
あたりに浮いていた星々が徐々に光を抑えていく。
そしてヴァル子も、うさみの周りをくるくると回り、うさみの顔の前で縦に揺れ、そしてすうっと薄くなっていく。
「え、みんなどうなるの?」
『朝になれば星どもは消え、天に帰るのだ。何の心配もいらん。奴らは遊びに来て、そして帰るというだけのことよ』
「そっか。……ヴァル子、おばあちゃん、またね!」
うさみが手を振ると、ヴァル子は縦に揺れながら、星霊の長は手を振り返して消えて行った。
それと同時に、腕輪の星マークも消えて行くのに気がついて、うさみはちょっとしんみりした気持ちになった。なので胸に抱いたるな子をぎゅーっと抱きしめたら、るな子は苦しそうにもがいてぷーと鳴いた。
空が徐々に紫から青へ。
そしてうさみの目に強い光が届く。
日の出だ。
星々が消え、太陽の光を受けた山頂は白っぽい石に覆われた岩山のように見えた。
このあたりで最も高い山であるので四方を見渡すことができる。
東、太陽が出てくる方角は山地。その向こうに平野が見える。
北は森。もう森は当分いいかな。迷いの森でいやほど堪能したし。
西は縦に伸びた建造物らしいものが見えた。塔というやつだろうか。もちろん星降山とは比べるべくもない高さであるが、周囲との比較でよく目立つ。あれ登るのもいいかもしれない。
南には街が見える。平原の中にぽつん。あれが最初にいた町だろう。どうやって戻ろうか。
そしてその向こうに見えるのは。
「お、海だ!」
海。うみ。うーみー!
レジャーといえば山か海。で、山は今制覇したところ。ということは?
「次は海かな。水着用意しなきゃ!」
『海か。海といえばイカがうまいぞ』
ドラゴンってイカ食べるんだ。
わりとどうでもいい知識がふえたが、それはそれとしてイカがうまいというのは耳よりかもしれない。うさみはイカとかタコとか好きなのだ。もちろん他の魚介類も。
「問題はどうやって帰るかだけど」
迷いの森の入り口に陣取る狼をどうやって避けるか。難問である。うさみは腕を組んでうーん、と唸る。
が、そんな悩みは瞬時に解決。
『空を跳べばどこにでもいけように。いやせっかくである。運動がてら我が送ってやろうか』
「え、いいの?」
そういえば空を走れるようになっていたのであった。うさみにとっては走る延長なのであんまり自覚がなかったのである。空は飛ぶもの。普通走らないよね。
そして星光竜の申し出は意外だけれども助かる話。空を走るのも魔力が要るのだ。ちょっと気を使えば維持はできるが逆に言えば気を使う必要がある。つまりそれなりに面倒なのである。
とはいえさっきからなんだか妙に協力的なのはなんでだろうか。何度も殺された挙句に醜態を見せただけだと思うのだけれども。
うさみは不思議に思っているが、実際のところは星光竜の誇り高さ、あるいは傲慢さによるものであり、つまるところ、俺がお前を認めたんだからお前が軽く見られるということは俺が軽く見られるのと同じなのだという三段論法であり、また、星光竜は自身のためにする程度のことならうさみのためにも施すということである。
もちろん星光竜の価値観によるのでそれが実際うさみのためになるかはまた別なのだが。
ともあれ、そういうわけで星光竜はちょっとそこまで散歩に出るついでにうさみを乗せていく、くらいのことは躊躇しない。
逆にうさみの方からお願いしていたら便利使いするなと断られていたかもしれないが、今回言い出したのはこの通り星光竜の方である。
「それじゃあお言葉に甘えて。ありがとう!」
こうしてうさみは星光竜の背に乗って星降山をあとにしたのである。
記念にそのへんに転がっている石を拾っておいたが、これ死んだら消えるよね、どうしようかなあと悩みながら。




