stage.8 星光竜の棲家 その9
中天に輝く真円の月が、夜を照らしだす。
うさみはこの上なく充足していた。
勝負をかけるのに、これ以上は存在しないだろう体のコンディション。
先走りかけた心も、アン先生のおかげで落ち着きを取り戻し。
あの場所にたどり着いて二週間超、あるいはゲームを始めて一ヶ月の間に培った技も、相応であると自負できる。
いける。
「るな子」
るな子を呼び出し抱きあげる。
なんどもおやつを一緒して、いくらか慣れはしたものの、るな子はやはり怖いようだ。
うさみだって怖い。
うさみは死んでも生き返るけれど、るな子はどうなるかわからない。試すわけにはいかないし。
しかし、今回の作戦にはるな子の協力が必要だ。
だからこそ、大事を取って最大の力を発揮できると思われる満月の夜を選んだのだし、そのためにしっかり練習もしてきた。
「るな子、悪いけど、また一緒に生きようね」
頭に乗せる。
クラスは超初心者。中途半端だが身体能力と魔法能力を両立するにはこれしかない。
魔力を放出して掌握する。
少ない魔力も二週間前に比べて倍以上になっていた。多いとは言えないが、十分といえる量。
魔力圏を維持したまま、回復を待つ。こうすることで、実質二倍の魔力を扱うことができるのだ。ロスもあるし集中力も必要であるが、慣れてしまえば非常に便利。つまりは練習の成果。
目を瞑って深呼吸。たっぷり時間をかけて体内の空気を入れ替える。よし。
そしてうさみは、るな子の鼓動を感じながら、竜の棲家へ踏み入った。
□■□■□■
相手から声をかけられたのは初めてだ。
うさみと星光竜は名乗り合い。
うさみが跳ね、竜が吼えた。
「~~~~~~~~~~~~~!!!」
星光竜の咆哮を受け、るな子が身をすくませる。
初めて見る行動だ。
轟音が体を突き抜け芯を揺さぶる。吹き飛ばされるかと思うほどびりびりと空気を震わせた。
だがそれ以上に恐ろしいのはそこに込められた強烈な魔力!
「まだ奥の手を隠してたんだね!」
『奥の手ではない。使うまでもなかったというだけのことだ』
確保していた魔力のほとんどを吹き飛ばされ、うさみは冷汗をかかされた。
奥の手ではない。使うまでもなかった。なるほどつまり。
「やっと認めてくれたってことかな!」
ガチガチに固まってしまったるな子を下ろして胸に抱き、降り注ぐ魔法の雨をかわしてまわって置いていく。うさみの移動を先読みして配置されていく魔法はどれも単体狙いであるが、そのぶん、数は文字通り雨のごとくだ。
しかし、うさみの機動はその上を行く。
隙間を縫って、読みを外して、それでもダメなら蹴り飛ばす!
魔力を集めて纏った足で、星光竜の魔法をだ。
まともにぶつかれば魔力の強さで勝てはしない。
なので、魔法が具現化する前に蹴り散らす。
竜の魔力が集まって、別の力に変わる直前。この一瞬なら発動を妨害できるのだ。
この事実に気づいてから生存時間は大きく伸びた。
今のコンディションならば、これで十分対抗できる!
しかしそれは星光竜も織り込み済みである。
生存時間は大きく伸びた。それだけ星光竜もこの技を見ているということだ。
驚異的な神業であることは事実であるが。
所詮は魔法ひとつが不発するだけのこと。
竜尾が、竜翼が、竜爪が振り抜かれると、うさみは回避に注力せざるをえない。
そして足を回避に使うのならば、魔法を蹴り散らすことは不可能で。
「う わ あ い !」
四方から迫りくる衝撃波と魔法に追われうさみは叫びながら宙に退避する。
うさみは空を駆けることができるが、その仕様上、魔力を消耗してしまう。
そのためやはり地に足がついている方が都合がいい。
そのことは、ここしばらくの付き合いで星光竜も承知済。空へ逃げざるを得ないよう追い込まれたのはそれも踏まえてのことだろう。
というか、うさみの行きたい場所も気づかれているのでいよいよとなれば先回りして進路をふさいでくる。
八方塞がり?
いや、まだせいぜい六方である。
なんなら四方と言い張ってもいいくらいだ。
星光竜のはまだ本気を出していない。うさみもあきらめる気はなかった。ちょっと開幕から予定が崩れているけどね!
うさみは追いつめられ悲鳴を上げながらも、竜の棲家を所狭しと駆け回る。
その間ほとんど地に足を付けることもできず、それどころか足は宙を蹴るのに忙しく魔法への対抗策が削られる。
うさみの体に残る魔力が徐々に減っていく。
目的の場所へはなかなか近づかせてもらえず、しかしやられることもなく。
跳び、駆け、走り、回るうさみを無数の魔法が追いかける構図で状況は進んでいく。




