stage.8 星光竜の棲家 その7
実践で順調に死んでいる一方で、うさみはおかしなことに気がついた。
お地蔵さまの岩棚でおやつ休憩中のことである。真ドラゴンとのおやつは量が必要だしるな子が落ち着かないしヴァル子を出す余裕もないので別途時間を取ったり取らなかったりしているのだ。
「あれ、るな子、まっくろに戻ってない?」
うすい金色と黒の二色になっていたるな子がいつの間にかまたまっくろになっていたのである。また。
「またグレたの?」
うさみが尋ねると、るな子はそうじゃないって言ったでしょとばかりに頭突きを敢行。
うさみはわーきゃー言いながら応戦するが度重なる攻撃により陥落、ひっくり返ったところをるな子が踏みつけ勝利のポーズを取ったその瞬間、両腕がるな子を挟み込む!
偽装降伏だ!
卑劣な罠にとらわれたるな子の運命はいかに!? といった流れでその話は終わったのだ。
のだが。
さらに後。
「あれ、るな子、また金色入ってる?」
前回のおやつから半日ほど。るな子の毛色にふたたび金色が混じっていたのである。
実は一瞬ストレスを与えすぎてハゲたかと思い二度見したのだがそうではなかった。一安心。
「可変式?」
金色の筋が入った背中をむにむにと揉んでいると、るな子が空を示すように頭を向けた。
時間はお昼。空には雲と太陽。そしてうっすら細~く月が出ていた。
「お月さまダイエットしてますなあ。昨日新月だったかな。ん、もしかして?」
何かに気づいた様子のうさみに、頷くるな子。なるほどそういうことか。
「食べすぎたからるな子もダイエットしたいんだね!」
るな子は脱力した。
しかし、会話を理解しているようだとはいえ動物を相手にジョークをとばすようになってしまったうさみ。深刻なコミュニケーション不足である。
さらに自分で言って自分でウケて笑っているので世話がない。いろいろと残念なことになりつつあった。
そんなうさみを見ていたるな子は、もう知らんとそっぽを向いておやつの残りを食べるのだった。
で。
「やっぱりお月さまと一緒に色が変わってるんだねえ」
翌日のおやつタイムにるな子と空の月を見比べてつぶやくうさみ。るな子も頷いている。
るな子はうさ耳が生えた毛玉であるが、その背中から徐々に金色の面積が拡大していっている。
新月の日にまっくろになるということは、満月なら金色に染まるのかな。いやそれよりも。
「もしかして、色の変化と合わせて他にも変わることがあるんじゃない?」
少しばかり、思うところのあったうさみが尋ねると、るな子はうんうんと頷いた。
なるほど、ということは。
「昼より夜。新月より満月の方が体の調子がいい感じ?」
うんうん。とるな子。
やっぱり。とうさみ。
うさみは駆けまわる中でちょっとした引っ掛かりを持っていたのだ。
なんだか夜の方が調子がいい。
新月の日を境に、成長速度が上がった。
この二点。
つまり、
「わたしも多分そんな感じのスキル持ってるみたいなんだよね。るな子、お揃いだー」
るな子に抱き付き撫でまわすうさみ。
それを見ていたヴァル子がふよふよと寄ってくる。
「お星さまのことははよくわかんないからなあ。やっぱりヴァル子も夜の方が調子がくなるの?」
縦に揺れるヴァル子。
じゃあヴァル子もお揃いだねー、と魔力をわたす。
要するに、新月の日から成長速度が上がったというのは勘違いで、時間経過で能力が減少から上昇へ切り替わったのでそう感じたのだと。
ずっと駆け回っている上、成長もしているため、常にうさみの能力は変化しているため、いままではイマイチ確信を持てなかったが、そういう効果のあるスキルがあるのなら確定である。
るな子と同様なのであればウサギのスキルだろう。月齢と時間帯に合わせて能力が増減すると言いう効果だと思われる。
月の半分は昼間にも出ているのに、一括して夜の方が調子がいいらしいのはちょっと不思議でもあるが、月のイメージはやはり夜なので、ゲームを作った人がイメージを優先したということか。
さてそうなると。うさみは顎に右手を当てて。
「満月の夜が本命、かな」
ちょっと恰好つけて言ってみた。
見ているのはるな子とヴァル子とお地蔵さまだけだった。
なんだかちょっと時間が空きすぎる気もするが、相手はとっても強敵な真ドラゴンである。
まあ途中で抜けられそうならそれでもいいしね。
ガバガバな目算を立ててうさみは満足し、いざいざと真ドラゴンの棲家へ向かうのだった。
この頃安定して秒殺を免れることができるようになっていたうさみであったが、ここから能力の増加に合わせて生存記録が伸びて行くことになる。
技術も経験も重要な要素であるが、今まで新月に向かい抑えられていた地力の伸長があわさることで、うさみをまた一段引きあげることになったのである。




