stage.8 星光竜の棲家 その5
このゲームで一番重要な要素は何か。
それは“はやさ”である、とうさみは思っている。
足の速さ。足が早ければ逃げられる。敵より早ければ捕まらない。攻撃より早ければ見てから避けられる。
反応の早さ。わずかでも早く反応できればそれだけ余分に対応の時間を取ることができる。
判断の早さ。わずかでも早く判断できればそれだけ余分に実行の時間を取ることができる。
余分な時間があればそれだけほかの“はやさ”を生かすことができる。プラスのスパイラル。
そして成長の早さ。システム的に成長要素があり、敵の能力の大枠が決まっているなら、敵の能力以上に成長すれば力押しで突破できる。例えば今のうさみであればもはや迷いの森の敵は相手にならない。速度の一辺倒で突破できるだろう。
そして先に進めば進むほど、危険な状況であればあるほど成長が早くなるということにうさみは気づいている。安全地帯であるお地蔵さまの周辺と、敵に囲まれた状態とでは同じ訓練を行っても明確に早さが違う。
一番先に進んでいて危険なのは真ドラゴンの棲家である。
なのでうさみは真ドラゴンを相手に訓練を行っていた。
時々訓練のプランを練ったり、新技の開発を行うために大石ミミズの大広間やチビドラゴンの崖を利用する。
新技が形になったら真ドラゴンに投入したり隠しておいたりする。隠すのは一発狙いで隙を作れそうな技だ。
継続的に効果がありそうな技は即座に投入する。
なぜなら長く生き延びられればその分死と成長のサイクルが効率的になり、成長速度が上がるからだ。
成長によって力押しで突破できるようになるかもしれない、と簡単には思っていないが、一つ一つの敵の手のうちを攻略していった先で最終的に頼るのはやはり基本的な能力だ。つまりはやさ。
こうして少しずつ、うさみははやさを磨いていくのであった。
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偉大なる星光竜は生まれてこの方、こんな気味の悪い目には遭ったことがないと認めざるを得なかった。
何度身の程を教えてやってもやってくるこの卵は一体何なのだろう。
何度かなど、星光竜が手を出さずとも自滅することもあった。
あと少し速度があれば生き延びられるかもしれなかったのに、という状況に追いつめた際に火の魔法を至近で炸裂させ、その衝撃で死んだり。
挨拶して早々に自身に雷の魔法を流して筋肉がビクンビクンした勢いで壁に突っ込んで死んだり。
触れれば炸裂する火球に並走して指で触ってドカンしたりだ。
正直、何を考えているのかわからないのがこれほど気味が悪いとは思わなかった。
星光竜偉大にして強力な存在にとって、他者の考えなど気にするようなことではない。目障りであれば排除すればよいだけのことなのである。
しかしこいつは排除できない。何度死のうが大体5分ほどで帰ってくる。たまに間が空くこともあるが、9割がた5分である。
そんな細かい時間を気にしたのは久方ぶりであるが、そんな小刻みに何度も寝室にやってくるのだ。
これもう思うようにさせてさっさと追っ払った方がいいんじゃないかと思わなくもないが、下等生物のしかも卵ごときに好きなようにさせた、などということになれば偉大なる竜の誇りに瑕がつく。そんなことが知れたら、いやそれ以上に星光竜自身が我慢できないだろう。
王者の誇りに妥協は許されない。
孤高なる定命のものの王の一柱である星光竜にしては弱気なことを考えてしまったが、ありえない選択であった。
しかし。
しかしだ。
『植物も偶に食すと美味いものであるな』
「いっぱい食べていいよ。何時でも採ってこれるから!」
卵が突然「ねえねえ、おやつとか食べない!?」などとさえずる。
寛大なる星光竜としては相手が如何に未熟にして愚かであろうとも、捧物の献上を無碍にするのは流儀に反するため、やむをえず応えてやったのである。なんと器の大きいことか。
そうして卵の背丈程度、ささやかに積み上げられたおやつ、植物を喰らってやったのである。まあまあ美味い。
それにしてもこの卵、なかなか見どころのあるやつだ。
そう思い目をやると、いつかのいくらかはマシな獣を呼び出し、そちらにもくれてやろうとしていた。
しかし獣は星光竜の偉大さに気おされてか委縮してしまっている。
これが正しい姿である。うむ。
おびえている獣に、言葉をくれてやる。
『喰らうがよいぞ』
するとビクゥッと全身の毛を逆立てて驚き、星光竜を気にしながら食し始めた。
「ありがとね!」
何やらさえずっているが、無視である。献上物の具合を確かめるのに忙しい。
それにしても物怖じしない卵である。
こうしている間にも小細工を仕掛けてきているのだ。弱者の小賢しさなど傾注するに値しないが、弱者なりにちまちまとやっているのを見るのはそれなりに面白い。
寝所の中に自身の魔力を浸透させている。
星光竜の魔法を速やかに感知するためのものか、あるいはあらかじめ魔力を拡散することでコソコソと隠れる際に紛れるためか。
いずれにせよ偉大なる星光竜と未熟な卵の格の差では直ちに影響しないうえ、いつでも払うこともできる。どう利用しようというのかわずかながら興味がわいた。
そういうわけで、あえて見逃してやっているのであった。何たる慈悲深さか。
『うむ、また献上するがよい』
「うん、また今度ね!」
もったいなくも言葉をくれてやると、返事をしたのち卵は獣を戻し、入ってきた場所へ向かう。なんだ、帰るのかと思ったがそうではなかった。
寝所から出る直前で振り返ると。
「それじゃあ改めて、たのもう!」
なるほど律儀な。そして愚かなやつである。
星光竜は感心し、丁寧に慈悲を与えてやるのであった。




