stage.8 星光竜の棲家 その2
結論から言うと秒殺であった。
立ち上がった真ドラゴンは遠慮なく魔法をばらまきうさみを追いつめた。
とどめに星ピンクビームを選んだのは竜として何か思うところがあったのかもしれない。
54秒。
それが両者の目が合ってから、うさみが蒸発するまでの時間である。
この数字を見てうさみは健闘したといえるだろうか?
8分後に「ごめんください!」と再び現れたうさみが焼死するまで10秒を切っていることを考えれば、どうだろう。
最初の星ピンクビームを耐えられた意趣返しをしたのか、あるいはもう一度耐えられるか確かめたかったのか、うさみにはわからなかったが、手加減されていたことはよくわかった。
イラッとした。
うさみは大変イラッとした。
はじめ、魔法を使ってこなかった時。あの頃はそういうものだと思っていたので、半分寝ぼけていたり立ち上がろうともしなかったりと完全に片手間ながらついでな扱いを受けても気にならなかった。
しかし、今回。一度目が合い、互いに通じ合うものがあったような気がした後で。
一度目に手を抜かれ、二度めはさっさと片付けられたのだ。
見切った。十分。もういいよ。
そんな風に言われた気がしたのである。
のでイラッとしたのだ。イラッ。
つまり被害妄想である。こうなるとごく自然な流れで八つ当たりか逆恨みへと発展するのがお約束であり、うさみは逆恨みした。
良く言えば、絶対に目に物見せてくれると心に誓ったのである。あんまりよくなかった。
必ず突破してみせようと改めて闘志を燃やしたのである。
そしてもう何回目かのうさみのごり押し攻略が始まった。
部屋に入ってのあいさつが「ごめんください!から「たのもう!」へ変わり。
死んでも即座に再突入を果たす。
一部のゲームでは忌み嫌われる、ゾンビアタックといわれる行為である。死のうがペナルティを受けようが織り込んだうえで即座に復帰して突撃するというやる方もやられる方も根気が要求されるプレイである。
いい加減うさみはなんで繰り返し死ぬような目にあっても平気なのか、痛みとか大丈夫なのかと疑問を持つ方もいるだろうから、その秘密を公開しておこう。といっても秘密というほど大したものではないが。
うさみのHPは基本1である。復活直後のHPは1であり、すぐに活動を始めるので自動回復が働かないのだ。
そんなことを繰り返す間に【不治】という、自動回復を阻害するバッドスキルがついてしまっていた。
このため、休憩しても1のままとなってしまっていたのである。
それがどう影響するかというのは、痛覚の仕様について述べねばならない。
このゲームの痛覚設定は緩めであることは以前述べたとおりであるが、一撃で最大から0になるようなダメージを受けると相応に痛い。めっちゃ痛いかもしれない。痛いのが苦手な人は泣くかもしれないほどである。
この痛みのフィードバックは最大HPに対する、HP減少量の割合によって決まる。
例えば最大HP100で100ダメージを受けるのと、最大HP200で100ダメージを受けるのとでは前者の方が痛いのだ。
さらにいうと最大HP100で100ダメージを受けるのと、1億ダメージ受けるのはかわらないのだ。
そしてうさみのHPは1である。
最大HPは600弱。このうち9割はスキルによる補正値であるがとりあえずそれは関係ない。
ともかく、死ぬほどの痛みをマイルドにしたものの1/600くらいの痛みしか、うさみは感じていないのである。
その程度となると遊園地の絶叫系アトラクションに乗るのとさして変わらない負担ですむのである。
関係ないがうさみは絶叫マシーンは何度でもイケるタイプである。代わりといっては何だがお化け屋敷は苦手なのだが。
なので火で焼かれても。
氷漬けにされても。
雷で撃たれても。
石の槌で潰されても。
荒れ狂う風に引き裂かれても。
星ピンクビームで消滅しても。
等しくたいして負担にはならないのである。
というのがうさみが何度死んでも平気な理由であった。まあたいした秘密ではなかったね。
さて、イラッとして仕返しをしようと心に決めた、もとい強固な壁にぶつかってなお更なる闘志が燃え上がり火傷しそうなうさみであるが、繰り返し死亡する中で手詰まりも感じていた。
「機動性ならウサギだけど魔力が足りない、魔法優先ならセージだけど機動性が足りない。間を取って超初心者がいいとは思うんだけど、やっぱりどっちも足りないっていうか、そもそもウサギもセージも強みで攻めてもかなわないからなあ」
お地蔵さまの岩棚にぺたんと座って腕を組む。左右にはるな子とヴァル子が控えている。
六色の玉を生み出しお手玉しながらうさみは打開策を練っていた。
アン先生が言っていたことを思い出す。
ドラゴン相手なら新しい魔法をそろえるくらいできないと。
確かに。
うさみの最大の武器である機動力だけではあの部屋を突破することはできそうにない。これはすでに実証されてしまった事実である。
真ドラゴンの魔法は、早い、多い、広いと三拍子そろっており、好き放題撃たせていては早晩詰む。
対抗するにはこちらも魔法をもってあたるしかないと思われるが、一つ一つの魔法は確実に相手の方が凄腕だ。ドラゴンだからか、真ドラゴンが特別すごいのかは知らないが。
となるとこちらとしては意表をつくか力量差をごまかすか。
六色の玉を五つずつ出して相互にぶつけあいながら考える。
すでに一度、意表はついていたが抜けきれなかった。
もう一度、同じように隙を作れれば、あの時よりはうまくできるだろうと思う。いくどもの死の代償に成長している自覚もあるのだ。
とすると、もう一度意表をつくための切札を育てつつ。
可能な限り成長してみせ、手のうちを暴き、行けると思ったところで一気に仕掛ける。
「これしかないね!」
ものすごいふわっとした指針であるが、うさみはこの結論に満足し、立ち上がる。
そして死地へと戻っていくのであった。




