stage.8 星光竜の棲家 その1
9/14 漢字に変換
加減ではなった→加減で放った
「ごめんください!」
頭にプリンカラーになったるな子を乗せて。
うさみは真ドラゴンの部屋へと進入する。
大きな声であいさつをしながら。
というのは、こっそりするにも、もう気づかれてるんだから、いっそちゃんと声をかけて入ってみたら、という提案によるものだ。
なんでも、ドラゴンはプライドが高いので礼儀をわきまえて下手に出れば案外許容してくれたりすることもあったりなかったり、という。曖昧なお話である。
個体差もあるし状況にもよるので一例をあげて一般化するのは無理があるが、そういう例もあるということらしい。
うさみとしては、たとえ眉唾であれ、たいした手間ではないし、堂々と正面からというのは気性に合うのでありかな、というところ。
というわけで挨拶をすることになったのだ。
大事ですねアイサツ。
「山頂へ行きたいのでちょっと通らせてね!」
うさみはそう言うとてくてく背筋を伸ばして堂々と真ドラゴンの脇を歩いていく。
頭上のるな子は目を瞬かせながら真ドラゴンを見つめている。
そして真ドラゴンはというと。
丸まっていた首をあげ。
目をしぱしぱさせながらうさみの方を見つめ。
るな子と目が合い。
うさみが歩いていくのをるな子と見つめ合ったまま首だけ動かして視線で追いかける。
うさみは進行方向を向くばかりで真ドラゴンを見ようともしない。
途中何度か首をかしげ。
あわせてるな子も首をかしげ。
10メートルほどまで近づいてきたところで口を開き。
「【二兎を追う者は一兎をも得ず】!」
口から星ピンクビーム(うさみ命名)を発射した。
ピンクの光の残滓が消えたそこには居てはならないものが居た。
頭に子ウサギを乗せたエルフ。うさみである。
竜の吐息は一撃必殺。
たわむれ程度の加減で放ったものであれ、かわされることはあっても受けられて生き残るなどというのはありえてはならない。
それは竜と同格の存在であることを示すのだ。
真ドラゴンは目の前の小動物の評価を考える。
下の足代わりになっているモノは生まれたての卵のようなもの。注視に値せず。
上の獣はいくらかマシだが、山の中層の羽トカゲどもや内側のイモムシどもよりもその生命の練度は低い。
とはいえ。
上の獣の仕業であろう。なにがしかの小賢しい策を使ったものとみえる。それはそれでなかなかやるではないか。この程度の生命が竜の吐息を耐えるというのは並大抵のことではないのだから。
真ドラゴンが、下等な獣をほめてやろうと口を開きかけたとき。
獣が姿を消し、卵が跳ねるように駆けだしたのだった。
うさみは魔法の使い勝手に不満を覚えていた。
二兎を追う者は一兎をも得ず。
うさぎ二羽以上を対象、範囲に含む効果を短時間無効化するという変則的な条件をもつ補助魔法である。
これはウサギのクラスで取得していた兎魔法のひとつ。
うまく使えば必死の事態に対応できる切札だ。
しかし、使おうと思えば、るな子をリスクにさらさざるを得ないこと。
そしてなにより、効果中移動できないという理不尽な仕様があったのだ。
名前からして、二兎は逃げ切るべきだろう。
つまり効果中とか移動出来てしかるべきじゃないの!
無効化するより範囲外に移動するとかそういう効果であるべきではないか!
しかも実際に使ってみて効果後再使用まで10分もあることがわかってしまった。
これは使いどころが難しい。
うさみはそう判断し、効果が切れると同時にるな子を戻して駆けだした。
なぜか一瞬反応が遅れた真ドラゴンの脇を抜け、一気にその先、通路になっていると見当をつけている大岩の裏へ向けてダッシュをかける。
そこに撃ち込まれるのは竜尾。しかしうさみも予測済みであり、追随してくる衝撃波を含めて大きく跳んで回避する。
もちろん宙に浮いて身動き取れないうさみの隙を真ドラゴンが逃すはずもない。
わずかに翼を揺らすことで衝撃波が生みだされうさみを直撃するのでうさみは強風を生み出し自身をきりもみ状の回転をかけて吹き飛ばしたところに返し刃の竜尾が襲い掛かるので二段ジャンプで天を蹴り着地からの出口へのダッシュ。
あとちょっと。
しかしその狙いは果たされない。
うさみの行方を遮って、炎の壁が地面から吹きだしたのだ。
魔力の集中、それも火属性ということから魔法が使われたことに気づいていたうさみは危ういところで巻き込まれるのを回避して横っ飛び。
遅れて竜尾の衝撃波が着弾した。
「危ない危ない……」
真ドラゴンの隙をつくという千載一遇のチャンスを逃したうさみは、それ以上に相手が魔法を使ってきたことに驚愕していた。
込められた魔力量がうさみからすればありえない規模であり、なおかつ魔力の集中から効果の現出までの時間が早い。対応できない速度ではないが対応しないと抜けられない速度でもある。
ということは。
敵、真ドラゴンの手のうちが一つ割れたことと引き換えに、注意をそちらに割かなければならなくなったということだ。
尾と翼と吐息と。相手の身体の動きに傾注すればよかった今までと違い、離れた場所に直接火力を発生させる魔法は厄介だ。
背に炎の壁を背負い、立ち上がってこちらを向いた真ドラゴンと対峙する。
うさみはこれは難題だね、と思いつつも、だんだん楽しくなってきていた。
存分に、全力で、ぶつかれる。
工夫の余地も伸びしろもまだ自分の中にあるのがわかる。
強引にでも隙を作りだし今は炎の壁にふさがれているあの先へと進むのだ。
うさみは改めて決心を固めるのであった。
なお、今回初めて、真ドラゴンをはさんで入り口方面に目を向けることができたのだが。
入口の上方には出口らしき穴は開いていなかった。




