stage.7 星降山の洞窟 その9
「あ、そうだ」
帽子を外してリボンを付けたうさみ。
真ドラゴンのところへ向かう途中、大石ミミズの大広間で足を止めた。
もう何度もスルーしてきたこの大広間だが、うさみが足を止めたことでお仕事の時間? というようにおとが響きはじめる。
「るな子の慣らしもしておかないと、いきなりドラゴンじゃびっくりするよね」
なぜか腕輪がブルブル震えるが、うさみは気にせずるな子を呼び出した。せっかくなのでとヴァル子も呼んでみる。
「これからミミズが出るからね、あれを試してみよう」
ゴゴゴゴ、と揺れる地面。ぷるぷる震えるるな子。ヴァル子はさっさとうさみの肩に避難しており、それを見たるな子もうさみに飛びついた。
「うーん、まあ最初はそうしようか」
るな子を頭に乗せるうさみ。るな子がしがみ付く。赤いリボンが下敷きになる。
とかなんとかやっていると、赤く染まった大石ミミズが集団で穴から飛び出してくる!
「あれ、赤い? ……ヴァル子かな? とりあえず【ウサパワー】!」
リボンが本物のうさ耳に変化すると、体が軽くなるのを自覚できた。とはいえ、ウサギや超初心者の時と比べるとそれでも鈍い。るな子の位置を調整し、耳がつぶされないようにする。
灰色だった大石ミミズが赤くなったのは光か音が原因であると推測したことがあったが、今の状況を考えると、光だったのだろう、とうさみは考えながらひょいひょいと突撃をかわしながら大石ミミズの上を乗り継いでいく。
赤くなって何が変わったかといえば、速度である。倍くらい。もっとも、うさみよりは遅いので特に問題はない。
穴から穴へと移動する習性に変化はないが、うさみを追うように突っ込んできて避けられると近場の穴へと入って言っているようにも思える。
質量からしても口に生えている牙からしても、当たれば凄惨なことになるだろうが、今のうさみにはそれほど問題とは思えなかった。当たらないから。
「じゃ、るな子。ちょっとやってみてよ。わたしもやるからさ」
そういってうさみは六つの玉を順に呼び出して体の周りに浮かべていく。
るな子はというと、大石ミミズを見つめ、眼下のうさみを見つめ、前足でてしてし頭を叩く。
「うーん? 何言いたいのかわからないよ?」
うさみが言うと、ガクっと頭を落とし、ぷるぷると首を振った。
そして前足を突っ張り、伸びをするように天へと首を伸ばす。
するとどうだろう。地面に半径3メートルほどの紫色の円が描かれたのだ。
円の中に複雑な文様が描かれていき、3秒ほどかけて完成すると同時に紫色の光を放つ――。
「……何も起きないね?」
円の上を通る大石ミミズも、近くを通る大石ミミズも、それ以外も。特に変化はなかった。
再びてしてしうさみの頭を叩くるな子。
「成功率があるのか、そもそも寝ないとか……全身円の中にいないといけないとか?」
うさみが思いつきを口にするが確定する手がかりが足りない。
やっぱりるな子の言葉がわかる指輪もらっておくんだったかもね。うさみは光の玉の光量を強めて単独で動かしてみながら考える。
釣られるように大石ミミズがそちらに集中する。これは光に反応する、で確定だね。
うさみは、黒ウサギとなったるな子が魔法を使えはずというアン先生の助言を受けていた。
その魔法は眠りの魔法。あの円の範囲内にいると寝てしまう。
うさみも初日にうけたような気がするのを思い出した。眠くなって気づいたらスタート地点に居たのだった。あれが黒ウサギの魔法だろう。
というわけで実際に試してみたのだが、寝ない。なぜか。
「とりあえずいろいろ試してみようか。るな子、がんば!」
ものすごい雑な振りをされてるな子が困惑している。うさみのほうはそれはそれとして六つの属性の玉をいろいろ動かして遊んでいるので忙しい。
るな子は仕方ないので何度か魔法を使ってみた。ダメでした。
実のところ効かないだろうことはるな子は予想できていた。
レベル差と体格差である。
まず相手は非常に格上だ。こうしているだけでもぷるぷる震えがくる。うさみに張り付いていられなければもう一目算に逃げている。そういう格上相手には何をするにしてもうまくいかないのだ。
そして大きい奴は寝にくいのだ。範囲内に収まらない奴はまず寝ないということを本能で感じ取っていた。
それを伝えようとしたのだが、うさみには伝わらない。
しかたがないので実際にやって無理であることを示さねばならぬ。そうでないとこのエルフの娘は平気で試行を重ねるのだ。自分が死ぬのをものともしない程なので、るな子の魔法が効かないと納得するまで続けることになるだろう。
早く理解してもらうためにも全力でやらないといけない。手を抜いて気づかれたら無駄な試行が増えるだろう。
なのでるな子は魔力を振り絞って眠りの魔法を唱えまくった。……というのは大げさで、そう何度も使えないので休み休みである。
「寝ないねえ」
寝ないさ寝ないとも。
うさみはこういうときやたら根気強いうえ、自身は別の作業をしているため、余計に気が長くなる。
おかげですでに何十回と繰り返しているのだが、一向に眠る気配はなかった。
聞かないだろうとわかっていてもだんだん腹が立ってきたるな子は、とうとううさみの頭から飛び出した。そしてうさみについて大石ミミズの群れの中を飛び跳ね始める。
ウサギは逃げ回ることで経験値を得ることができる。
るな子は“全力”としてこうして成長のための行動を選んだのだった。
普通ならあっという間にやられてしまっていただろう無茶である。
しかし。
「お、るな子も走るの? ほら、こっちだよ!」
るな子が自分で飛び跳ねるのを見て、うさみが先導する。
うさみは、るな子と追いかけっこをする気分で楽しくなってしまったのだ。
その結果、適切なリードによってるな子は無事に経験値を獲得できることとなり。
うさみはテンションあがって時間を忘れてるな子との遊びを楽しみはじめ。
るな子は時々うさみの頭に戻っては魔法をかけて、をくりかえした。
そしてあるとき。
るな子が魔法を使った際に、ふよふよ浮いていたヴァル子が強く光った。
すると、本来半径3メートルほどの円だったのが、広間を覆い尽くす大きさに拡大されたのだ。
「え、ちょっとヴァル子何したの!?」
うさみが思わず叫びながら、慌てて先へ向かう穴に飛び込むのと、魔法の円が広間全体で光を放つのは同時だった。
光がおさまった時、大広間の中にいた大石ミミズがすべて、元の灰色に戻って動きを止めていた。
ついでにうさみも動きを止めていた。
眠りの魔法が成功したのである。
るな子がヴァル子を見て小首をかしげると、ヴァル子はくるくるとるな子のまわりをまわる。
ヴァル子に照らされたるな子は、いつの間にか体毛の半分ほどが、薄い金色に染まっていた。脚や尻尾、耳の先など末端部分は黒いまま。
一方うさみはすーすーと寝息を立てていた。るな子に起こされるまであと10秒。




