stage.7 星降山の洞窟 その6
抜き足。
差し足。
忍び足。
既にわちゃわちゃと独り言を言ってしまっているので多少気を使っても仕方がないかもしれない。
なのでうさみは全力で気配を消し音を消し広間の隅の物陰を継いで移動していた。
しかしそれは失敗だったかもしれない。
隅の方は石やら岩やら障害物が多く、歩くのにも気を使うのだ。
かといって、ドラゴンに近づくとお宝の山がある。
両者の間、いくらか開けた場所を歩くほうが良かったかもしれない。
とはいえそれはそれで、身を隠せる物陰がないわけで一長一短だ。
やはりこのまま隅をこそこそ進むべきか。
いやいや歩きやすい場所を一気に行く方がむしろ気づかれにくいかも。
集中している時に雑念が入るといいことがないもので。
うさみの迷いが原因か、意識を気配を消すことに取られすぎ肝心の相手への注意がおろそかになっていたのか。
気づいたときにはすでに遅かった。
危険を感知。
ドラゴンの尾きらめきを引きながら高速で迫っていた。
地面をさらうように振り抜かれた竜尾をうさみは跳んで回避したのは失敗で叩きこまれた尾には衝撃波とも言える攻撃範囲が一瞬遅れて追随しており尾の範囲を反射的に回避したうさみの跳躍は遅れてくる衝撃波に対応できずやむをえず二段ジャンプを行うが部屋の隅であったことが災いし叩きこまれた衝撃波が壁を破砕し飛んできた大量の石片を空中のうさみはかわせないので「【強風】!」で押しこめたところに帰ってきた竜尾が叩きつけられた。
うさみの耳に我が寝所を侵すは何者だという声が聞こえたような気がしたがすでにミンチだったので気のせいかもしれない。
暗転。
「尻尾!」
お地蔵さまの岩棚に戻ってきた瞬間叫んだうさみ。
見かけや本体以上の攻撃範囲を持つ敵というのはすでに出会ったことがある。
例えば迷いの森の炎のクマさんだ。彼が炎を纏って腕を振ると腕の太さ以上の範囲に危険感知が働いた。実際その範囲には炎があり、さらには炎の軌跡が残るので単純にかいくぐるだけでは残り火に焼かれてしまう厄介な敵だった。
今回ドラゴンの尻尾攻撃には広範囲の攻撃範囲が追随していた。きらめく軌跡が見えたが範囲はそれ以上に広かったように思う。
何より危険感知の反応が普段より遅く、ギリギリあるいは手遅れかというタイミングでドラゴンの攻撃に気づかされたため、紙一重でしか避けられなかったのがまず失敗だった。
外の崖で似たような特徴の相手と散々やり合った後でもあり、予断が過ぎたこともある。
直前に会った相手が数は多いが生き延びるだけなら楽勝だったことも悪かった。
衝撃波が追随してくることは意識の外であった。もっとも気づいていてもあのタイミングからでは同じことになっていただろうが。
とにもかくにも、危険感知が遅れたのが敗因だ。否、危険感知に頼りすぎてはいなかったか。もっとドラゴンに注意を払っておくべきだったろうし、行動中に迷いがあったのも確かだ。
「ちょっと調子に乗っていたね」
なんだかんだここまで走り抜けてきた。二度三度とつまりもしたが、切り抜けてきた。
直前に引っ掛かっていたのを解決したばかりで壁を超えた全能感もあった。
いっそ迷わずその勢いでやり抜けばよかったのかもしれない。
相手はドラゴン、強敵だ。
行動に移す段階まで来て迷いを抱くなどと余裕ぶっこいていたのでは、やられてしまって当然だ。
尻尾でバチコンかまされた以上、ドラゴンは目を覚ましてしまったことだろう。
こうなれば正面から突破するしかない。
初心に戻って走って観察して対応して全力で。
なあに、ゲームなんだからクリアできないなんてことはないはずだ。
うさみは改めてドラゴンへの闘志を燃やしたのだった。
■□■□■□
「うぐぐ。つよい」
両手の指の数を軽く超える数死んだところで、うさみは一旦足を止めた。具体的な数はもう数えていない。意味がない。
リュックの中から梨を取りだす。最後の一個。ナイフで切り分け、るな子とヴァル子を呼び出して一緒に食べる。ヴァル子は食べないけど。
大石ミミズの広間を抜けて、狭い洞窟を抜けてドラゴンの寝所へ進入する。
ドラゴンはこちらを気にもかけていないという風に丸くなっている。
うさみは様々なルートで向こう側への突破を計る。
気配を消して隅を通る全力コソコソルート。
一気にドラゴンの脇を駆け抜ける全速ルート。
崖を駆け抜け地面を通らない崖ルート。
ドラゴンに正面から突っ込んでいく突撃ルート。
これらに対し、ドラゴンはわずかな動きで対応する。
尻尾を振ったり。
翼を動かしたり。
衝撃波を伴う攻撃は、やはり危険感知が遅れて反応する。この敵の特性なのか危険感知の練度が低いのかうさみにはわからないが、今までのような危険感知に頼り切った無理はできないことは確かであった。
わずかにかすめればうさみはお地蔵さまへと戻される。どうにかかわしても二度三度と繰り返される片手間のそれのすべてをかわしきるのは難しい。
難しいがそれでも初手を、次手をかわせる回数が増えてはいる。
しかしいずれも秒殺で、かつ相手はどう見ても本気ではない。手ごわい相手であるといわざるを得なかった。
最後など、尻尾をかわしたところに翼が振られて放たれた豪風に吹き飛ばされるのを強風でこらえたところに帰ってくる尻尾を二段ジャンプでかわしつつ石板を放って二段ジャンプをリロードしつつ振り抜かれた尻尾から飛ばされる衝撃波を避けて……とやっているうちにドラゴンの真上まで誘導されたところで。
何とドラゴンが目を開き口を開き。
真上のうさみへ向けると。
ピンク色の光が、星のエフェクトを伴って放たれ
うさみを飲み込んだ。
というところで戻された。
あれは外の小型のドラゴンがつかう光線と同種の攻撃だろう。口から吐いていたし。しかしその範囲はごんぶとであった。うさみの全身を包み込んで余りあるほど、幅二メートル以上のものと思われる。
徐々に手のうちを暴いていってはいるのだが、かつてない強敵であるという確信がある。
しかし、うさみはむしろ燃えていた。
半分くらい自棄になっている面もある。しかし徐々に生存時間も伸びており、新技を使わせたというのも手ごたえだ。
とはいえ、このへんでこちらも変わった手を打ちたいところでもある。
うさみはウサギさん風に剥いた梨をシャクシャクしながら次の手を考えるのだった。
■□■□■□
一方、始まりの街スターティアでは、星降山山頂から桃色の光の筋が天へ昇るのが観測された。
これを受け、評議会は自警団および冒険者ギルドへと指示を出す。
曰く。星降山に棲む星光竜が活動期に入った可能性あり。即応体制を整え警戒すべし。




