stage.7 星降山の洞窟 その5
うさみは、地中の割れ目のような洞窟を進む中、目の前の岩の先に空間があることを感じ取り、ひょいと覗き込んだ。
その時見た光景は、まさにファンタジーというべき幻想的なものだった。
洞窟の中、広大な広間があり、その中心に天から淡い光が降り注ぐ。
その先にあるのは巨大な白い存在だ。白といっても純白ではない。様々な色が混じった白。小さなプリズムをまんべんなく散らしたような、あるいは星の光を集めたようなその色彩を天からの光が浮き立たせる。
最初うさみは猫が寝ているようだと感じた。日向で丸まって寝ている猫。前足をたたんで体全体を丸め、頭を内側に乗せるようにして寝ているのだ。
しかしその印象はポーズによるものであり、細部を見ると大違いだとわかる。
その身体は鱗でおおわれている。
頭はトカゲに近く、立派な角がが生えている。
コウモリのような翼が今はたたまれている。
背中から尻尾にかけて攻撃的な背びれのようなものが二列になって生えていた。
その姿は。
「ドラゴンの親玉かな?」
ドラゴンだ。
先に見た五メートルほどの灰色のドラゴンがただのトカゲに見える。これこそ本当のドラゴン! みたいな感じかなあ。
うさみは丸まっている状態で二十メートルを超えそうな大きさのドラゴンを見てそんなことを思っていた。
おそらく体を伸ばせば体長三十から四十メートルになりそうだと見当を付けながら、その身体の下のものに目を移す。
「うわお、金銀財宝」
ドラゴンの身体の下には大量の金貨銀貨が山と積まれていた。
それ以外にも宝石に宝箱、うっすら光る剣のようなものやよくわからない道具らしきものなど、まさに童話の挿絵に「金銀財宝の山」として描かれていそうな、きらきらしいものたち。
そんなお宝に先に目が行かなかったのはもちろん、その中で眠るドラゴンの方が美しかったからであるが。
「ドラゴンの棲家かあ。あんなに大きいんだもん、どこかに出入りできる穴があるはずだよね」
そんな財宝だったがうさみは特に気にもかけずにあたりの観察に意識を戻す。
きれいだなあとは思ったが、ドラゴン自体の方が綺麗だしセンスもよく思えるし。
うさみの目的は登頂であってドラゴンは途中に遭遇した障害にすぎない。
大きさを見るだけでわかる危険性。美しくても、かわいくても、グロくても、カッコ良くても、ゲームに出てくる敵はそれぞれの危険性を持っていた。目の前の巨体がそうでないわけがない。
それはそれとして、さわってみたいなあとか、乗ってみたいなあとかそんな衝動もうさみの中に生まれているのだが、ヴァル子のこともあるしまずは先に進むことを考えるべきだろう。
幸い今、ドラゴンは眠っている。盛大にいびきをかいて。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
ドラゴンの出入り口がきっとあるに違いない。そこから外へ出れば、雲の上に出られるのではないかと、うさみはにらんでいた。
つまりこれはスニーキングミッション。こっそり調べてこっそり出て行く。起こさないように!
気合を入れなおしあたりを見回す。
この空間はざっくり四、五十メートル四方といったところか。といっても別に正方形でもないのだがおおまかに。
うさみがいるのはその広場の隅にある岩の陰。
真ん中にドラゴンが寝ており、その周辺には大きな遮蔽は見られない。
端に行くにつれ石やら岩やらが転がっており、今隠れている岩は四メートルはありそうな巨大な塊だ。その裏にうさみが出てきた洞窟がある。
他にも似たような穴があるかもしれない。が、今回の本命はドラゴンが出入りできそうな穴である。
とりあえずざっと見える範囲だと、ドラゴンをはさんで反対側。大きな隙間があるように見える。向こうに抜けられる回廊なのか、ただ地形の影になっているだけなのか、ここからだと判別できない。近くまで行かなければ。
しかしその為にはドラゴンの至近を抜ける必要がある。
次に天井に目を向ける。
光が降ってくるということは穴が開いているに違いない。
開いていなかった。
「なにあれ水晶かな?」
天井までの高さは百メートル以上あるように見えた。
釣鐘状になっており、上に行くほど狭くなる。
そして天井の中央あたりには巨大な水晶のようなものがはめ込まれ、淡く発光していたのだ。
光る石なのか、採光窓のように外から光を取りこんでいるのかはよくわからないが、とにかく穴ではない。
さらにぐるりと見回すが先ほどのドラゴンの向こうのものを除いて大きな穴らしきものはない。
「あるとすると、この上かな?」
この広間は釣鐘状と先に述べた。その為に、隅に立って真上をみてもどうなっているのかわかりにくい。
ついでに言うと登りにくくもある。
九十度を超える崖というのは二段ジャンプを使って駆けるのは大変なのだ。
さらには登ろうとするとドラゴンから丸見えである。
登らないで穴があるか確認するためにはもう少し位置を変えなければならないが、それはドラゴンに近づくことを意味する。
どちらにせよドラゴンの方へ接近する必要があるらしい。あるいは丸見えの状態で登りにくい場所を登るかだ。
うさみは思った。寝ているとはいえいつ起きるかわからないのだ。動くなら今。迷っている暇はない。
そして。




