stage.7 星降山の洞窟 その4
「【黒眼鏡】!」
大石ミミズに魔法をかける。
かかるにはかかったがサイズが全くあっていないので意味がない。本来の効果を狙うなら、だが。
というか目はどこだ。
もっとも、今回の狙いは違うので構わない。大事なのは10分ほど効果が持続することだ。
グラサンミミズは穴の中へと帰っていく。
次は、
「【花香水】!」
別の個体に魔法をかける。
というか水をぶっかける。
やりたいことは同じだ。ただ匂いは残るし判別がやや難しいので役に立たないかもしれない。一部の動物なみの嗅覚があればよかったのだが。ウサギでくるべきだったかもしれない。
うさみがは今、敵の個体識別を行い、出入りする穴をチェックすることで内部のルートを間接的に確認しようという試みを行っていた。
黒眼鏡を張りつける位置を判別できる程度ずらすことで確認できる数を水増しする。
花香水によるマーキングはやはり効果が薄いというか確認しづらいのでダメだった。
問題は確認済みの穴を記録する手段がないことだった。
ナイフで入り口辺りを削ってみたりもしたのだが、焼け石に水。いや覚えやすくはなるのだが、結局自力で覚えるしかないのだ。トランプで延々神経衰弱やっているようなもんである。
うさみのおつむは人並み程度と自負しているので全部把握するのは骨だった。というか跳び回りながら監視するだけでも結構大変なのだほめて。
そうしてうっかり忘れたり情報を処理しきれずわからなくなったり数を増やしたのはむしろ失敗だったのではと疑念を持ったりなんだか頭がぼーっとしてきたり気づいたら魔法が切れてて慌ててかけ直したりしながら動きを確認し続けた結果。
「ん、そういえばあの穴、出入りがないね」
入り口の穴は大石ミミズが出入りしない。それはわりと早い段階で確信していた。
そしてもう一つ、出入りがない穴を見つけたのである。
考えてみれば、入り口がスルーされているのなら、出口もそうなるのは自然なこと、むしろ当然ではないか?
「なんでその発想ができなかったのわたし……」
出入りがない穴を探す、というスタンスで観察していれば、黒眼鏡を何十回もかけ直さずとも候補は早い段階で絞ることができた、あるいはあっさり特定できていたかもしれない。
しかしどうもそういう発想が出てこなかった。
うさみ本人は気づいてないが、雲に行方をふさがれたショックはなかなかに大きく、うさみは相応に動揺していたのだ。切り替えたと宣言するだけで心の底から切り替えられるのなら楽なのだが。
迷いの森でハマったときもそうだった。おかげで一週間以上とどまることになったわけである。もっとも、ウサギ系の広場やおいしい果物で癒されたおかげでへこたれずにすんだのだけれども。
今回はるな子と思い切り遊んで現実逃避をしたのと森のワープに続いて二度目だったのもよかったか。
ともかく突破口は見つけた。あとは進むのみ。
うさみはさっそく仮定出口の穴へ乗り込んでいくのだった。
穴へ飛び込むことはうさみにとって障害も何もないようなものであった。
そして飛び込んでしまえば追ってくる様子もなかった。
大石ミミズが出入りしない穴なので当然といえば当然の話だが、それでも獲物が逃げ込んだのを追って来ないというのは違和感がある。ゲームだからかな。
だがもしそこに現実的な理由があるとするとどうだろう。
先に進めば進むほど厄介で危険な相手がいる、というのはゲームであれば当然のことだろう。
そう考えると、例えばこの先へ向かえば大石ミミズが恐れて近寄らないような敵がいる、とか。
とはいえ、彼らの生息域は山中、というか地中に限られており、茶ツバメさんやドラゴンがいる場所まで出てくることもなかった。もしかしたらさほど敵としての格は高くないのかもしれない。
いや、考えてみれば他の場所でも住み分けははっきりしていたので単に担当エリアが違うというだけかもしれない。
などと考えながらしばらく様子を見るがやはり追ってくる様子はない。むしろ大広間の混乱も静まってきている。
「この穴を見つけて入った時点でミミズステージクリアとかそんな感じなのかな」
まあそれならそれで進むだけだ。むしろこの道が正解であるという裏付けにもなったと考えられる。
うさみは洞窟を進むことにした。
大広間を過ぎて明確に変わったことがある。
狭い。そして道が険しい。
まるで整地されているような大広間までの道程と違い、人の手が入っていない洞窟だった。
割れ目とか隙間と呼んでもいいかもしれない。
V字の深い切れ込みがあったり、上を見るとどこまで続いてるかわからない場所があったり。
うさみでなければ通るのに苦労しそうな狭い場所を抜けたり。
「これ、暗くても見える目がないとすごい苦労しそうだね」
そんな地形を突っ張ってくぐってすり抜けて登って下りてと進んでいく。
仮に懐中電灯があったとしても、これだけ起伏が複雑で狭い場所だと影が多くて視界の確保は大変だったろう。
そんな道だが、うさみは希望を持って進むことができていた。
方角的に山頂方向へ。
さらに上り下りはあれど、全体の傾向としては上へと向いていたのだ。
幸いうさみは視界に関しては困ることもなく。
短時間だが足場を出す魔法もあり。
そもそも身は軽いしちっちゃいので狭さはそこまで不利に働かない。
地中はエルフのフィールドではないが、うさみのフィールドではあったのだった。
そしてとうとう、そこにたどり着いたのである。




