stage.3 迷いの森 その5
森の中はたいへん歩きにくい。
茂みに根っこはもちろんのこと、腐葉土が柔らかかったりその下に段差があったり。
もちろん遮蔽が多くて視界も悪い。
いっそ枝の上を跳んでいくほうがいくらか移動しやすいかもしれない。
しかし、枝の上にも葉っぱが茂っているし、広場の上層に張りだしている枝は体重を支えてくれるほど太くないので迂回する必要がある。おまけに上から下への視界も、それほどよろしくない。
手斧か鉈あたりの道具があればもう少し選択肢が広がるのだが、まあないものねだりである。
動物を追跡してみよう作戦はなかなか難儀なことになっていた。
近づきすぎると見つかってしまう。
距離を取ると見失ってしまう。
小型の動物の通るルートの場合、狭くて同じルートを通れない場合があったり。
さらにはワープを挟むというのがやはり難関で、一瞬完全に追跡が切れてしまうので、なかなかうまくいかない。
広場にやってくる動物たちに食糧を分けたり撫でたりといったコミュニケーションを取ることで、広場の外でも中立、りあわよくば仲間扱いしてもらえないか、などという挑戦もやってみたが、一部を除いて直ちに成果は出なかった。
それでも何度も繰り返すことで、少しずつ進歩がある。
うさみは、このゲームのそういうところが気に入っていた。
なんどもやってみることで目に見えて成果が出るのだ。
見つからないように気配を消して。
相手の音や気配を感じ取り。
音を立てないよう移動して。
相手を観察し。
環境に溶け込んで。
目に見えなくても何をやっているか、やろうとしているか、理解していく。
動きを予測し。
迂回ルートを見つけ出し。
先回りし。
その最中も対象以外の危険がないかにも気を配る。
自覚できるレベルの進捗があるというのは何にしてもやりがいがあるし単純に楽しい。
できなかったことができるようになるというのは快感だった。
それがストーキング技術であっても、まあ、うん。な? 人に使わなければ犯罪じゃないし。
実のところ、ここまで鍛えられたのはなんといってもウサギさんのおかげだった。
幾度かの挑戦に失敗し、お地蔵さまの広場へ戻った際に、ウサギさんが泉に来ていたのだ。
「あ、三本角さんおつかれっ!」
うさみが挨拶すると、ええんやで、といわんばかりの頷く三本角ウサギさん。
迷いの森のウサギさんはうさみを襲って来ない。
地下帝国パラウサの影響だろうか、むしろ友好的ですらあった。
しかもこちらの言葉をある程度理解しているようで、ちょっとしたお願いくらいなら聞いてくれるのだ。
そこに生えてるにんじん貰っていい? だとか。
ちょっと抱き付いてモフモフさせて? だとか。
枕になって! というのは逃げられた。
星降山への道を教えて! というのも、ふるふると首を振られた。
「三本角さん、みんなの通る道を調べたいんだけど逃げられたり襲われたりするんだ。見つからないように追いかけるの、練習させて?」
大概無茶で難易度高いだろう要求をウサギさんを相手につきつけるうさみ。
しかし三本角ウサギさんは、よきにはからえ、というように頷いた。なおウサギさんのセリフはうさみの想像である。
ダメで元々のつもりだったうさみ、ウーサー三世陛下に初めて感謝する。
「ありがとう! よろしくね、えっと、じゃあ師匠!」
鷹揚に頷く師匠ウサギさん。
こうしてうさみは三本角ウサギさんを師匠と仰ぎ、研鑽を重ねたのだ。
一時間くらい。
ウサギさんの方が飽きたのか、十分だと判断したのかあるいはお腹がすいたのか、そのくらいで協力してくれなくなったのだ。
それでもウサギさんの利用ルートを把握するに至り。
それ以上の成果として、さして長い時間ではないが、相手の協力があることでスキルアップが捗った。単純に試行回数を重ねられたことに加え、地形補正でうさみの行動の成功率が底上げされていることも効いていた。
失敗しても経験値になるが、基本的に成功するほうが獲得するスキル経験値は大きくなるのだ。
この結果、ウサギさん以外の動物を相手にしても、そこそこ追跡できる程度にスキルレベルが上がったこと、同時にうさみ自身も追跡についてのノウハウいくらか得ることができたことで、他の動物の移動ルートの調査もいくつか成功させ、さらにスキルに磨きがかかっていく。
こうして、うさみは走る、逃げる、跳ぶ以外にも隠れる、追うなどのスキルを手に入れたのだった。




