stage.2 地下帝国パラウサ その6
翌日。
うさみが地下帝国パラウサを出発すると告げたことで、たくさんのウサギさんが見送りに集まってくれていた。
「この地下道を抜ければ迷いの森へ出るウサ」
広間から伸びる一本の通路をウサ吉が示す。
なんでも、スター平原近隣であれば、地下帝国パラウサから抜け穴がつながっているそうで。
星降山を目指すのに、最も近い出口である迷いの森への穴を使わせてくれるとのことで、うさみはありがたく使わせてもらうことにしたのであった。
「道中困ったことがあったらウサギを頼るウサ。名誉臣民のうさみにならもしかすると何かの役に立つことがあるかもしれない可能性があるウサ」
「なんでそんな曖昧なの?」
「会話が通じる保証がないウサ……とりあえず攻撃することはなくなるはずウサ」
地下帝国パラウサにあってもうさみと言葉をかわせるウサギさんには2羽しか会っていない。
ウサ吉の曖昧な言葉にうさみもあはは、と曖昧な笑顔を返す。
「名誉臣民になったのだからその身分に恥じない行動をするぴょんよ!」
「具体的にどうしたらいいの?」
「危険を華麗に回避し、月を見たら跳ねるぴょん! たくさんの狼に追いまわされるなんてのは失格ぴょん!」
「それがウサギさんらしい立派な行動なんだね。気を付けるよ、ありがとう」
月を見て跳ねるのがウサギ的に重要なんだろうか、と思いつつ。
ぴょん五郎の言葉が、遠回しに心配されているように聞こえ、うさみは礼を言う。
「礼など言われる筋合いはないぴょん! それより迷いの森にも狼がいるぴょん。大丈夫かぴょん?」
「い、犬じゃなくて狼なら大丈夫! ということにして頑張ってみる」
やはり心配してくれているらしい。うさみはちょっと嬉しくなった。頭のリボンがぴこぴこゆれる。
「それじゃそろそろ……」
出発するね、と言いかけたとき、毛玉が一つ、見送りのウサギさんたちの中から飛び出して、うさみに飛びついた。
とっさに抱きとめるうさみ。正体はもちろん、昨日の子ウサギである。
ぷー!
見つめ合う子ウサギとうさみ。
「連れて行けと言っているウサ」
「やっぱりこうなったぴょん……」
「えっと、大丈夫なの?」
かわいくてもふもふな子ウサギを連れて行っていいというだけなら嬉しいし、願ってもないことなのだが。
しかし、昨日の行状を考えれば、またそう遠くない将来、スタートへ戻ることになるだろうと、うさみは思う。
そうなるとこの子はどうなるのかが問題だ。
そうでなくても、狼がいるということだし、それ以外にも危険は多いだろう。
「大丈夫ではないウサ。足手まといになるウサ」
ぷー。
「む、本気かぴょん?」
何言ってるかわからないから、置いてけぼりが多いなあ、とうさみは思いながら、ウサギさんたちの様子をうかがう。
子ウサギが何かを言い出して、ぴょん五郎とウサ吉が戸惑っているのが見て取れる。
「このものがうさみと共に行くために、契約したいといっているウサ」
「契約?」
仰々しい言葉が出てきた。
「契約を結べば、このものを連れていけるぴょん。とはいえ、今の名誉臣民うさみには、あまりメリットはないぴょん」
「よくわからないけど、それって、この子に危険はないの?」
「星降山を目指すうさみについていく以上は危険はあるウサ。しかし、契約をしない場合と比べれば、格段に危険は少なくなるウサ」
「あなたは、一緒に来たいの?」
ぷー。
ひとつ泣いて頷く子ウサギ。
うさみはしばらく子ウサギと見つめ合った後、心を決める。
「わかったよ、契約ってどうすればいいの?」
「まず、このものに名前を付けるぴょん」
「名前を?」
予想していなかったので、少し慌てるうさみ。
ちっちゃいからチビ?いや育つかもしれないよね。ウサ~は自分とかぶるしぴょん?いやでもなあ。
などとひとしきり考えて、
「それじゃあ、るな子っていうのはどう?」
先ほど『月を見て跳ねる』と聞いたので、月から“るな”。ぴょん五郎やウサ吉の名前から想像した命名規則を採用し、女の子だったので“子”とつけてみる。
ぷ!
「え!?」
子ウサギ、もといるな子が返事をした途端。
淡い光を発したかと思うと、端から光の粒になっていく!
「え、これ大丈夫なの!?」
「大丈夫だぴょん、少し待つぴょん」
るな子の身体がすべて、光の粒に変換されると、今度はうさみの左手に巻き付くように移動する。
そして手首をくるりと一周。すると一瞬強い光を放った。
思わず目を閉じてしまったうさみが改めて手首を見ると、そこには腕輪がはまっていた。
素材のよくわからない腕輪である。ベースは灰色で、よく見ると丸に2本の耳という、ウサギをデフォルメした模様が白で描かれている。
「あの子、るな子はどうなったの?」
「その腕輪に変化したぴょん。出てくるように念じながら、名前を呼んでみるぴょん」
「念じながら、ね。……るな子!」
うさみが名前を呼ぶと、うさみの目の前の空中に、るな子が現れる。
慌てて抱きとめるうさみ。
「あっぶない、るな子、大丈夫?」
ぷ!
元気に鳴いたるな子を見て、ほっと胸をなでおろすうさみ。
だがしかし、次の瞬間、そのるな子の姿が消える。
「消えた!?」
「腕輪から元の姿を呼び出すのに、うさみの魔力を使うウサ。今のうさみでは10秒ほどしか持たないらしいウサ」
言われてみれば、昨日、リボンの力を使った時にも、同じ感覚を覚えたように思う。
何かがなくなったような感覚で、今そうと言われて初めて気づいた。
この“何か”が魔力なのだろう。
でも、リボンの力はもうちょっと長く持ったが。使う力の量が大きく違うということだろうか。
うさみはそこまで考え、あとで検証しようと決める。
「まあ現段階ではろくに役に立たないぴょん。魔力を鍛えて使い道も模索するがいいぴょん」
「魔力は使えば使うほど鍛えられるウサ。積み重ねが大事ウサ」
「う、うーん、るな子、これでよかったの?」
腕輪に声をかけてみる。すると腕輪がぷるぷると震えた。こちらの声は伝わるらしい。こっちは何言ってるかわからないが。
はいといいえくらいはわかるようにお話が必要かもしれない。
しかし10秒って。どうしろというのだろう。ゆっくり撫でる時間もないではないか。
いや、とうさみは思いなおす。
魔力とやらをしっかり鍛えればいいのである。
そうと決まれば簡単だ。
星降山へ向かいつつ魔力を鍛える。これだけである。
決意を新たにして顔を上げる。
「まあ、改めて、そろそろいくよ。またね!」
「頑張るウサ!」
「せいぜい気を付けるぴょん!」
こうして、ウサ吉とぴょん五郎、そして他の見送りのウサギさんたちがぴょんぴょこ跳ねるのに手を振って、うさみは歩きだしたのだった。




