stage.2 地下帝国パラウサ その5
「さて、陛下から賜った【うさ耳リボンのヘアバンド】について教えておくウサ。食べながらでいいので聞いておくといいウサ」
何気に挑戦にんじんを食べるようにうさみに迫りつつ、ウサ吉が言う。
うさみは、せめてドレッシングかマヨネーズないかなあ、ないよねえ、と考えながら、今まで使いどころがなかったナイフを取り出した。
「うさ耳リボンのヘアバンドは、身に着けることで【ウサギ】になるのに必要な技術を鍛える助けになると同時に、ウサギしか使えない技術を、一時的に使えるようにしてくれる道具ウサ」
挑戦にんじんをナイフで解体し始めるうさみ。葉っぱをヘタごと切り取った後、縦に割る。切り口も極彩色だった。
「ウサギになる、ってどういうこと?」
「ウサギというクラスを得るのだウサ。ウサギになるとウサギの力を使えるようになるウサ。必要な技術を十分な練度で身に着ければなれるウサ」
クラスってなんだろう。
と思いながら、にんじんを4分割に。まだ大きい気がするのでさらに4分割。
16本のにんじんスティックが完成。やはり色がえぐい。というか元の形がわからなくなったせいで余計に食欲を刺激しない物体になってしまった。
実はうさ耳リボンのヘアバンドは、本サービス開始時に新しく追加されたクラスチェンジ支援アイテムのうちの一種である。
防御性能は全くないが、対応するクラスの専用スキルをお試しで使えたり、クラスチェンジ条件となるスキルが経験値を得る際にボーナスがつくという代物だ。
街でまっとうにチュートリアルを受けていれば、希望するプレイスタイルに見合った支援アイテムを入手できていただろう。
クラスには戦士、魔法使いなどの基本クラスや、炎使い、弓使いなどの特化クラス、錬金術師や鍛冶職人などの生産クラスなど、様々なクラスがあり、複数所持可能だが、一度に一つしか設定できない。そして設定したクラスは専用スキルを修得、使用できる。
その中でウサギというのは地下帝国パラウサに関わることでしか得られない、レアといっていいクラスである。もっともレアだからといって強力であるとも限らないのだが。
「ウサギの力っていうのは?」
どうしたものか、とにんじんスティックをにらんで難しい顔をしていると、子ウサギが寄って来る。ぷー。
渡りに船と一本差し出してみるうさみ。
子ウサギはうれしそうにかぶりつく。
「これはウサミが賜ったものウサ。あまりねだるものではないウサ」
「あ、ご、ごめんなさい?」
自分で食えと言われている気がしてつい謝るうさみ。頭のリボンがぺたんと前に伏せられる。
一方、子ウサギは貰ったにんじんスティックをくわえてうさみの後ろに隠れてしまった。
そして食事を再開する。なかなかにしたたかな子だ。
「少しくらい構わないウサ。さて、ウサギの力の基本は、【危険を察知して逃げる力】ウサ。脱兎のごとくという言葉があるウサ?」
「なるほどね」
ゲームの中では角で突かれた記憶の方がおおいのだが。現実のウサギを考えるとそれなりにイメージに合う。
「立派なウサギになればほかにもできることが増えるウサ。それ以上はウサギになったなら教えるウサー」
うさみは頷きながらにんじんスティックを手に取り、しばらく見つめていたが、ついに勇気を出して口に運ぶ。
それは生のにんじんであった。
どこまでも生のにんじんであり、独特のえぐみとどこかフルーティな甘さが混然一体となってうさみの口に広がる。
……思ったより食べられなくはないが、正直マヨネーズがほしい。
「ウサギになるために必要な技術は……うさみはすでに大体抑えているウサ? なかなかやるウサ」
ウサ吉が感心してうさみをほめる。
うさみは角ウサギさんとのかくれんぼと鬼ごっこを通して、必要なスキルの大半を、すでに得ていたようである。
「え、そうなんだ。じゃあ何が足りないの?」
「食べられる草を見分ける技術と、採って食べる技術ウサ」
「……そ、そうなんだ」
ウサギは草食動物だからだろうか。草を見分けて採って食えということらしい。
極彩色の棒をかじりつつ、草ってどんな味がするんだろうかと考えるうさみ。
にんじんの味はにんじんだった。
ということは。
草は草の味がするのだろう。
…………そんな味のものを食えと?
「最後にうさ耳リボンのヘアバンドで使える、一時的なウサギの力のことを教えておくウサ。うさみ、ヘアバンドを意識しながら、【ウサパワー】と念じてみるウサ」
「【ウサパワー】?」
口に出しながら言われたとおりに念じてみるうさみ。
すると、リボンがきらりと光を帯びて、本物のウサギの耳のように変化した。
さらに。
突然口の中がすごくおいしく感じるようになったのだ。
「おお? おいしい!!!」
急に挑戦ニンジンが物凄くおいしく感じるようになったのだ。えぐみは消え、熟した果実のような甘さがすっと通り抜け、さっぱりとした後味がわずかに残る。
これならいくらでも食べられそうだ。
「【脱兎】の力が一時的に使えるウサ。危険な状態になると、すばやく移動できるようになるウサ。それと副次効果として、リボンがウサギ耳に変化するウサ。ほかにもウサギの特徴が出るかもしれないウサ」
「なるほど」
味覚の変化はそのせいらしい。
うさみは助かったとばかりににんじんスティックをほおばる。だっておいしいんだもの。
だが。
「ただし、使っている間は魔力を消費するウサ。魔力が尽きれば元に戻るウサ。もちろん任意に戻すこともできるウサよ」
ウサ吉の言葉に嫌な予感がするうさみ。
予感に従い急いで咀嚼し飲み込もうとするが、ほおばりすぎてしまっていたため、どうしても時間がかかってしまう。
そして。
「~~~~~~~~!?」
うさ耳がリボンに戻ると同時、にんじんの味が元に戻る。
口いっぱいのにんじんは、相応のえぐみをうさみの舌へと伝えてくれる。
うさみは半泣きになりつつ、どうにか飲み込むのだった。
なお、ヘタと葉っぱは子ウサギにプレゼントしたのだった。




