stage.2 地下帝国パラウサ その2
「まずは被告人、名を名乗るぴょん!」
審問官を自任する片眼鏡の黒ウサギさん、ぴょん五郎が告げる。
しかし、うさみは違うことを考えていた。
(ぴょん“五郎”て。五男なのかな)
「被告人!」
後ろ足で地面をぱしぱしと叩くぴょん五郎。ずいぶん怒りのご様子である。
なんだかかわいいなあ、五郎なのに。などとうさみが思っていると、歴戦の白ウサギさん、ウサ吉が、
「被告人とは貴様のことだ、エルフの娘」
と教えてくれる。
「あ、ごめんなさい。わたしの名前はうさみです」
本名を聞かれてるわけじゃないよねと、ゲームを始める時に設定した名前を名乗るうさみ。
それを聞いた周囲のウサギさんたちに動揺が走った。
「う、うさみだとぴょん!?」
ざわざわ。うさうさ。
うさみを遠巻きに取り囲むたくさんのウサギさんたちがにわかに落ち着かなくなり、たしたしと地面を叩きはじめるウサギさんも出てくる。
「ひ、被告人はウサの眷属だったぴょん!?弁護ウサ!」
「その事実は確認されていないウサ。ただ、嘘を言っていないことは審問官にもわかるはずウサ」
どうやら、名前の偶然の一致が問題らしい。
ウサギに因んでつけた名前ではないのだけれど。本名をもじっただけである。あえて、どうしても関連付けるなら、歴史上の人物とかそういう方向になるのだろうか。
うさみが否定しようと口を開きかけたその時。
巨大な黄金の毛玉、もといウーサー三世陛下が跳ねた。ふよん。
「へ、陛下、ですがぴょん!」
また跳ねた。ふよんふよん。
「わ、わかりましたぴょん。皆のもの、静まるぴょん!ここは真実のみが意味を持つ法廷の場!必要なことならば明らかにされるぴょん。そうでないならば、ただあるがままに受け止めればいいだけだぴょん」
ぴょん五郎の言葉を受けて、聴衆のウサギさんたちがだんだんと落ち着いていく。
一番慌てていたぴょん五郎が落ち着いたことで、すぐに動揺は収まる。
うさみは、わけがわからないうちにバタバタと状況が変わって、なんだか置いてけぼりな気分になった。
なので自分から口を開いてみる。
「あの、しんもんさいばん、ってわたし何か悪いことをしちゃんたんですか?」
「その通りぴょん!」
「否、それはまだ確定していないウサ」
同時に二つの答えが返ってくる。どっちだ。
「審問官、裁判は真偽を確かめる場だウサ。裁判が終わるまでは罪は確定しないウサ」
「ぐぬぬ、確かにそうだぴょん。前言を訂正するぴょん!被疑者うさみ、それはこれから明らかにされるのだぴょん!」
どうやら推定無罪の原則は有効らしい。
「被告人うさみに告げるぴょん。当法廷では嘘は速やかに発覚するぴょん。そして嘘をつけば罪が重くなると知るぴょん。ただし、勘違いはわからないので、できるだけしないようにするぴょん」
無茶なことを言うなあ、とうさみは思った。勘違いが自分でわかるならそれは勘違いではないのだろう。
が、話が進まないのでとりあえず同意しておくことにする。
「わかったよ。嘘はつきません」
「よろしいぴょん。それでは、こほん。当法廷は被告人うさみが、多数の狼を導引し、我らが帝国臣民に危害を加えんとした容疑について明らかにするためのものだぴょん!」
「はい?」
うさみは首をかしげた。
「言っている意味がわからない」
素直にそう告げるうさみ。それを聞いて白黒2羽のウサギさんは顔を見合わせ、首をかしげる。
「つい先ほどのことだぴょん!被告人うさみは、多数の狼の先頭を走り、」
「え、あれ、犬じゃないの?」
犬じゃないの。狼である。
「被告人うさみ、貴様が連れていたのは狼だウサ」
「なんと」
衝撃を受けるうさみ。それ以上に衝撃を受け、脱力しているぴょん吉。
「ひ、被告人うさみは多数の、犬と思っていた狼を導引し、」
「待って。あれは追いかけられて逃げていたんだよ。わたしが好きでやってたことじゃないよ」
またまた顔を見合わせる白黒。
「で、では、犬と思っていた狼に追いかけられ、我らが帝国臣民を」
「帝国臣民ってこの子?」
うさみは腕の中にいる子ウサギをしめす。
ぷー。
子ウサギが鳴いて小首をかしげる。可愛らしい。
「その通りだぴょん!帝国臣民、それも幼子を傷つけようとしたのだぴょん!」
「そういう意図はなかったよ。そもそも、あんなところに子ウサギがいるとは思わないもの」
夜になってから、子ウサギどころか、ウサギさんは一羽も見かけていない。
犬もとい狼に追いかけられて冷静ではなかったので見落としていた可能性はあるが、少なくとも意図して巻き込もうとは思っていない。
「ぐ、ぐぬぬ」
「つまり被告人うさみは、犬と思っていた狼多数に追いかけられるさなか、偶然我らが帝国臣民に出くわしたということで違いないウサ?」
「わたしの認識ではそうなるかな」
「なるほどウサ。裁判長、ここは容疑は一旦取り下げ、帝国臣民を危険に巻き込みかけた過失についての審問に変更することを提案するウサ」
弁護ウサがそんなことを言い出す。
うさみは、裁判て途中で審議の内容変更するものなのかな、と疑問に思ったが、ゲームだしファンタジーだしウサギさんしゃべってるしな、と思い直した。思考停止である。
裁判長ウーサー三世陛下がふよんと揺れる。
「かしこまりましたぴょん!これより、帝国臣民を危険に巻き込みかけた過失についての審問を行うぴょん!」
どうやらまだ時間がかかりそうである。
うさみは腕の中の、被害者たる子ウサギを見て、その背中を撫でまわした。




