stage.2 地下帝国パラウサ その1
ぽすんっ。
落下の衝撃を予想していたうさみは、思わぬ感触に目をぱちくりさせた。
もふもふである。
ふわふわである。
ふにふにである。
うさみの周りはそういった何かに取り囲まれていた。
「なにこれ。きもちー」
どうやらこの、もふわふにふにに受け止められたらしい。思わずほおずりしてしまう。
なんだ、ここが天国か。
スタートに戻るを覚悟していたのだけど、などと考えながらも、幸せな感触をを堪能していると、突然ばばばっともふわふにふにが離れて行く。
「あいたっ」
地面に投げ出され、思わず声を出してしまったが、実際は別に痛くもなかった。何となく。条件反射である。
「天井がある?」
身を起こす際に目に入った頭上は土で覆われていた。上から落ちてきたはずなのに、穴も開いていない。どういう事だと辺りを見回す。
ウサギ。
うさぎ。
兎。
うさみは無数の毛玉、もといウサギさんに取り囲まれていた。
おっきいの。ちっちゃいの。白いの。黒いの。茶色いの。一本角。二本角。三本角。
「ほわー」
学校の教室ほどの空間で、数十羽のウサギさんが、うさみを囲み、じっと見つめている。
うさみはぽかんと口を開けそれを眺めていたが、腕の中の存在に気づいて、そちらに目を向けた。
「無事だったみたいだね。よかった」
腕の中には先ほどの子ウサギが納まっていた。
犬に追いかけられたうさみの巻き添えを食いかけたあの子ウサギだ。
すでに震えは収まっており、
うさみが見つめると、子ウサギも見つめ返してくる。
うさみが笑いかけると、子ウサギは小首をかしげる。たいへん可愛らしい。双方ともに。
「というよりは、助けてもらったのかな?ありがとうございました?」
周りのウサギさんたちに疑問符付きでお礼を述べるうさみ。
うさみ自身も、落ちたとき、受け止めてくれたことは間違いない。そこに疑問はない。ありがとうございます。
ただ、落ちたことそのものが、犬から助けてもらったのかもしれないと、うさみは感じていた。
具体的にどうやったのかはわからないが。
「エルフの娘よ、礼は要らんウサ」
知らない声。
それは、ダンディなおじ様を思わせる渋い声。
だが問題はそこじゃない。
「うさ?」
語尾がウサってなんですか!?というツッコミを2文字に込めつつ、うさみが振り向くと、そこには2つの毛玉が進みでてきていた。
一方は、白いウサギさんであった。右目の部分に縦に傷跡が走っており、角が半ばで欠けている。その目つきは鋭く、歴戦の戦士を思わせる風格を纏っていた。うさみが見たことのある洋画で例えると退役軍人のコックさん枠。
もう一方は黒いウサギさんであった。右目の部分に丸いレンズがついている。片眼鏡とかいう。こちらはいかにもなエリートといった風情である。こちらも映画で例えると、終盤で策に溺れて自滅する悪人枠。
なお、どちらもデフォルメされたもふもふ毛玉の四足獣であることは変わりはない。
「我らはエルフの娘を助けたわけではないウサ」
渋い声は白いウサギさんのものだった。
「しかし、エルフの娘に対して用がない、というわけではないぴょん」
こちらはどこか気難しそうな、白いウサギさんに比べると高い声だった。
というか。
「ぴょん?」
ウサギがしゃべるのは、いいとしよう。ゲームだもの。ファンタジーだもの。
しかし、ウサぴょん。この語尾はどうなんだ。ウサでぴょんである。ウサぴょん。
ウサギはウサともぴょんとも鳴かないですよね。
鳴くならいいのかと言われれば、それはそれでどうとも言い難いのだが……。
……でもまあ可愛いからなんでもいいか。
脱線しつつあった思考をまとめて棚上げするうさみ。
とりあえず今は置いておいて、相手の話を聞くべきだ。
「わたしに、何かご用なの?」
黒いウサギに問いかける。
うさみとしてはわざわざ呼び出されるような心当たりがない。
ウサギさんとの関わりは、命がけの鬼ごっこ&かくれんぼくらいしかないし、それも限りなく全敗に近い結果である。
呼び出されてどうこうされるようなことではないと、うさみには思われた。
小首をかしげるうさみに、黒いウサギさんはふん、と息を吐き、
「ではさっそく用件を始めるぴょん」
そう言うと、後ろ足で立ち上がり、周りをくるりと見回して声を張り上げる。
「地下帝国パラウサ皇帝、ウーサー三世陛下、御出座だぴょん!」
あたりに居たウサギさんたちが右後ろ足を上げ、そして同時に地面を叩く。
だん。
もふもふの足でも数が数である。思いのほか大きな音がしてうさみは思わず身をすくめる。
そしてうさみの前に、巨大な黄金色の毛玉が降ってきた。
うさみをして見上げなければならないほどの巨大さで、よく見ればやはりそれはウサギさんであった。
耳は下に垂れており、輝く王冠を被った、恰幅のよいその姿は、なるほど威厳が感じられるものだった。
ウーサー三世陛下は着地すると、ふよんと体全体を揺らす。にくにくしい。わき腹あたりのお肉をつかんでもみもみしたらもふもふと相まって大変素晴らしそうだと、うさみは思った。
「ではこれより、御前審問裁判の開廷を宣言するぴょん!裁判長は恐れ多くもウーサー陛下にお務めいただけるぴょん!審問官役は僭越ながらこの私、ぴょん五郎が」
「弁護士は我、ウサ吉が務めるウサ」
ウーサー三世陛下の左右にそれぞれ控える歴戦の白いウサギさんことウサ吉と、片眼鏡の黒いウサギさんことぴょん五郎。
「それでは審問開始だぴょん!」
怒濤の展開である。
「なんでそこ名前だけ和風?なの!?」
うさみは思わずツッコんだ。




