再会
キィン!キィン!もう何度目か分からない打ち合いを止め、一旦相手との距離をとる。
周りは煙が上がりあちこちに抉れた跡や焼けた跡、そしてガーマの人間が横たわっていた。
「ハァ…、ハァ…」少しずつ呼吸が荒くなっていく。先ほどから数え切れないほどの敵を相手にして
地に伏させてきたのだ。加えて今は
「フフッ、さすがのお前もこれだけの数を相手にすれば疲れも見えるか。
しかも今は俺と戦ってその程度で済んでいる。大した奴だ」自身より二回りほど大きいがっちりとした体格の男と戦っているのだ。
「そりゃどうも。でも敵のアンタに褒められても嬉しくないね」吐き捨てるかのように口に出し剣を構える。
「そうか、だがその力は素晴らしい。……俺には及ばないがな」
「………」
「そこで一つ提案がある」
「提案?」と訝しげに返し構えを解く。
「ああ、それだけの力を消してしまうのは惜しい。そこでだ、俺と組まないか?」
「何?」
「訳あってここの一員をやっているのはある目的があるからだ」
「何だ?その目的とやらは」
当然の疑問を口にしたレイラに対し自慢げに語り出す。
「それはなぁ……、この世界を支配することだ!ガーマなどではない、この俺が!
だがその為には邪魔をされないようガーマの傘下に加わる必要があった。
そうすれば俺の存在は目立たなくなる。ついでに内情も探りたかったからな。
そうして来るべき日が来るまでの隠れ蓑として利用させてもらった。…だがもうその必要はなくなった。
俺とお前でガーマを滅ぼし一大帝国を造り上げようぞ!俺とお前ならそれができる。
どうだ…俺と組まないか?」空いている左手を差し出す。
「………悪いが断る」
「何?」
「訳があったとしてもガーマの一員だった奴と組むつもりはない。でもアンタに賛成するところはあるよ」
「…何だ?」
「それは…」剣を構え直し相手をしっかりと見据え「ガーマを滅ぼすことだ!
ただしアンタとじゃない・・・あいつらとだ!」はっきり宣言した。
「交渉決裂か・・・ならば今ここでお前を殺す。生かしておけば俺の野望を邪魔する存在にしかならんからな」剣の切っ先を向けた。
「内情を探る為に潜入したのは理解できるけど、私から見たら今のアンタは喜んでその力を振るってるようにしか見えないよ。目的の為とはいえ、今のアンタは連中の一員であることに変わりはない」
「……フンッ」
剣を構えたままお互い動かない。次の一撃で勝負が決まることが分かっている為、迂闊に動けない。
まるで先に動いた方が負けるかのように―――。
「……いくぞ」張りつめた空気の中男が口を開く。ついにその均衡が崩れた。左足を前に出し、手に更に力を込める。
瞬きを忘れたかのようにお互い相手を見る。瞬きをしたらその瞬間決着がつくかもしれない、その恐怖に駆り立てられた。
スゥ、ハァ、短く息を吸い、吐く。そしてまた息を吸った瞬間ドォン!爆発音が鳴り響き、それを合図にダッと駆けだした。
真っ直ぐ相手に向かいその距離を詰め、交錯する瞬間
「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」雄叫びをあげ剣を振り下ろした。
振り下ろした姿勢を崩さず、しばらく呼吸を止めていた。時間が止まったかのように。
「なるほど…油断したのは…俺か…」剣を落としガシャンと音が響いた後倒れ、その体を地に伏せた。
「ッ!ハァ…!ハァ…!」張りつめていた緊張の糸が切れたかのように膝を付き呼吸を荒げた。
「あ、危なかった…、もう少し早く振り下ろされてたら、こっちがやられてた…!」
チラリと視線を後ろに向け、倒れている男を見る。道を間違えなければ仲間になれたのだろうか、と心の中で呟きながら。
「おいレイラ!大丈夫か!?」と叫び近づく男がいた。
「ああ、・・・フラッツか」と呟き剣を杖にして立ち上がる。
この男の名はフラッツといい現在ガーマと交戦中のレイラの仲間の一人だ。
金髪の髪は男の中では長めの方で、肩に掛かるか、掛からないかといった感じだ。碧眼のその眼は普段は優しさを湛えていると思うが、今は仲間の安否を心配する眼をしていた。それを裏付けるように整った顔立ちも強張っているが無事を確認し少し和らいだ。
背丈はレイラより頭一つ高く、その体は華奢でこの景色にそぐわない印象だ。
「ああ、なんとかな」
「ならよかった。しかしすごいな……、これだけの敵を一人で倒すとは」
周りを見渡しそう言ったが「ん?」ある一点で目が留まった。それはレイラの後ろで倒れている男だった。
「なぁレイラ、この男って…」疑惑を孕んだ声で尋ねる。
「ああ、さっき私が倒した。…強かったよ。ここにいる連中全員が束になっても敵わないほどに」
「そりゃそうさ。なんだってそいつは裏の世界じゃ知らない奴はいないからな」と男に近づく。
「知ってるのか?そいつを」
「ああ、こいつはフォート。危ない奴でな、色々と。自らの野望を実現させるためなら手段を問わない奴だ」
「狂ってるってことか?」
「まぁな。水がないなら血を飲めばいいとか言う奴だ。正直気味が悪い」
「…さっき自分が世界を支配するとか言ってたんだが」
「こいつなら本当にやりかねん、方法は分からんが。こいつが危険視されてるのはどんな手段を使っても実現する力ではなくどうやったらできるか、何が必要かってことを考える力だな。
その一環で、まぁ当然っちゃ当然だが力が必要だと悟った訳か…。
思想は危険で狂ってる、おまけに滅法強い。有名になるには十分すぎる要素だな。
こんな奴を飼っていたとは…」恐ろしいな、と呆れながらため息と共に吐き出す。
「そんなにヤバい奴だったのか…」
「ああ、本当によく勝てたな。しかし相変わらずそういう事は知らないんだな?お前だって有名でかなり強いのに」からかい交じりにニヤニヤ笑う。
「う、うるさい!」それにばつの悪そうな顔をし、そっぽを向いた。
「そ、それよりも他の奴らは?」
「うん?俺がここに来るまでに誰も立ってなかったから全員片付いたんじゃね?」
「そっちじゃない、ルーギ達だ」
「ああ、それなら」右を見て「あそこに行ったよ」少し離れた位置にある戦場を見渡せる崖のような所を指さした。
「何でもあそこに幹部さんがいるんだと」
「そうか・・・なら早く行かないと」剣を地面から抜き向かおうとするがフラついてしまう。
「お、おい!大丈夫かよ?フラフラじゃないか。もう少し休んでから…」
「まだ終わってないんだ。休むのは全てが終わった後でいいだろう」鞘に納めて歩き出す。
「あ…」それに呆然とした表情をして背中を見る。
「どうした?早く行くぞ」レイラに促され我に返り「ったくしょうがねぇな」と苦笑を浮かべその背中を追った。
だが二人は気づかなかった。敵の魔の手が仕掛け終わって終わっていることに。
「これで終わりだ!!」隙をついて無防備な腹部へ渾身の一撃を叩きつけ相手を吹き飛ばす。
背中を強打し「がっ!」と苦痛の声をあげ何度か転がり、やがて動かなくなった。
しばらくその場に荒い息遣いだけが響いていたが「………終わったの?」おずおずとその人物に声をかけた。
「ああ、終わったよ。俺の…、俺たちの…勝ちだ」疲れ切った声で返事をした。
だが次の瞬間「うっ!」とうめき声をあげガクっと膝を付いた。
「だ、大丈夫!?」慌てて駆けよるが、それに「あ、ああ…心配すんな。ちょっと疲れただけだ」
片手を挙げて大丈夫だとアピールして座り込んだ。
「はぁ~、よかった…」その様子に安堵してしゃがみ込む。
「ねぇ…あんまり無茶しないでよ」俯きながら声をかける。
「うん?」その表情を見ようとするが髪に隠れてしまい窺い知ることはできなかった。
「今回だって一人で抱え過ぎだよ。俺がやらないで誰がやるって突っ走って」
「当たり前だ。あいつらだって必死に戦ってんだ、俺だけへばるわけにはいかないよ」
「だとしても!あんたが死んで誰が喜ぶの!?レイラだってフラッツだって、もちろんあたしも…。
こんなにボロボロになって…」声を荒げて問い詰める、その目には薄ら涙が滲んでいた。
「カレン…」名前を呟きなんて声を掛けようか思案していると
「今度からは…もっと強くなってケガしない内に倒せるようになりなさい!」と怒られる。
「おいおい・・・ずいぶん無茶な注文だな。それこそやってみなきゃ・・・」
「いいから返事!」「はいっ!」あまりの迫力に裏返りそうになりながらもなんとか答えた。
「でも良かった・・・無事で」安心した声で囁き、胸元を掴んで肩に顔をうずめた。
「………」どうしたものかと頭を掻き「あ~…悪かったな。心配かけて」と声をかけ、ぎこちない動きで頭を何度かポンポンと撫でて慰めようと努めた。
そこへ「「ルーギ!」」と声をかけこちらに近づいてくる二人の人物がいた。
「おお、レイラ、フラッツ」よう!と言うかのように手を挙げる。
声が聞こえた瞬間カレンはバッと距離を空け何事もないかのように装った。
「あ、カレンもいたのか」少し驚いたようにフラッツが言う。
「急にいなくなったから結構焦ってたんだよ。でもここに来る途中でレイラに話したら多分ルーギといるだろうから心配ないってさ」
「ごめんね、心配かけちゃって」
「無事ならいいさ。それより、何で二人ともしゃがんでるの?」疲れた?と思いついた疑問を口にした。
「そ、それは…」口ごもって顔を少し背けてしまったが、後を引き継いだようにレイラが
「大方ルーギが無事なのを見て安心して腰を抜かしたんだろう」だろっ?と言うかのような視線をカレンに向ける。
「う…」顔を赤らめて俯いてしまう。
「へー、そうなんだ~」良いこと聞いたとばかりにニヤニヤ笑う。辺りに和やかな雰囲気が広がる。
「…終わったのか?」不意に神妙な面持ちでレイラがルーギに話しかける。
それに先ほどまでの和やかな空気が立ち消え、一気に張りつめたように全員真剣な表情になる。
「…ここでの戦いは終わったけど、でも完全に決着がついたわけじゃない。これから更に激化するだろう戦いの一つに勝ったに過ぎない」そう言って倒れている男を見る。
「これからも負けるわけにはいかない」
「ああ、もっと強くならないとな」
「俺は応援するよ」
「あんたも戦いなさいよ」ハハッと笑い声が零れ、また和やかな雰囲気になりかけたが
「フ、フハハハハハハハッ!何を勝った気になっている!」その空気を切り裂くような声が轟いた。
「「「「っ!」」」」全員声のした方を見る。そこには先ほどまで倒れていた男がヨロヨロになりながら立っていた。
あまりの出来事に動揺してしまい声が出なかったが「な、なんで…」とようやく絞り出した。
「あえて言うならそこの甘さのおかげだな」とルーギを顎で示す。
「お前が峰打ちしてくれたおかげで何とか生きてるよ。と言ってもさっきまで気絶していたんだがな」
フッフッフッと不気味に笑う。
「お前はまだそんな甘いことをやっているのか!」レイラがルーギの胸ぐらを掴み声を張り上げる。
「殺さずになんてことが通じる相手じゃないことぐらい分かるだろう!」
「っ!確かにそうかもしれないけど、でも俺は殺したくない!いつか分かり合えると信じているから!」
「キレイごとだけじゃ生きていけないんだよ!お前のその甘さが今みたいな窮地を招いてるんじゃないのか!」
「それは…」目線を下げ口を閉ざす。
「おい、その辺にしておけ」フラッツが注意を促す。
「・・・・・チッ!」それに舌打ちをし乱暴に手を離し敵を睨む。
「まだやるか?死にぞこないが」不敵に笑う。
「当たり前だ。今度はその命もらうぞ。それに死にぞこないはお前の方だ」一歩前に出て剣を構え
チラリとルーギを一瞥する。
「お、俺も…」
「無理をするな、立ってるだけでやっとじゃないか」
「で、でも…」
「今のあんたじゃさっきみたいに動けないでしょ!足手まといにしかならないわ!
心苦しいけど…ここはレイラに任せるしか」祈るような思いでレイラを見る。
「お前がやると?」
「ああそうだ」
「無理はしない方がいい。フォートと戦って生きてるだけでも信じられないんだ。だからこそお前だってただで済んだわけじゃないだろ?大方立ってるのがやっとじゃないか?」
「……チッ」ばれていたかと言うように軽く舌打ちする。
「でもそれはアンタもじゃないか?さっきまで倒れていた奴が急に動ける訳がない気絶していたのなら尚更な」
「確かにな…。だが俺はここからでもお前ら全員殺せるぜ?」そう言い懐から何かを取り出す。
「それは…?」目を凝らしてそれを見る。
「これはなぁ・・・」ニィッと口角を上げ「爆弾の起爆スイッチだ!さっきの衝撃でONになったみたいでなぁ、これを押せばドカンよ!」
「「なにぃ!」」レイラとフラッツの声が重なり
「嘘でしょ…」カレンの絶望を含んだ声が聞こえ
「…マジかよ」ルーギが呆然と呟く。
「俺も死ぬがお前らも死ぬ!お前には感謝してるぜ?」とルーギに話しかける。
「さぁどうする!?」そしてボタンを押した。
「やめろー!」フラッツが叫ぶと同時に爆発が起こる。一つではなく複数。
周囲を見渡すと眼下でいくつも爆発が起こり、岩を砕き、地面を割り、煙が上がる。
「今のは警告だ!次はお前らも巻き込む!」スイッチを捨てもう一つ取り出す。
「さぁ?今度はどうする?」
「くっ!」全員周りを見る。せめてどこに仕掛けられているか分かれば巻き込まれずに済むかもしれない思い見渡すがそれらしきものは見当たらない。
「どこを見ている。ここにあるじゃないか。」ニヤニヤ笑いながら声をかける。
「何!?」言われたようにそちらを見るがそれらしきものはない。
「どこにある!?」レイラが叫ぶ。
「だから、お前らの目の前だよ。」ニヤッと笑い4人を見る。
「もしかして…その下にあるのか?」震える指でルーギが男を指す。
「ある意味正解だな」二ヤリと笑いマントを外し服を脱いでいく。
「正解は…」バッと宙に投げ「俺自体が爆弾なんだよ!」と叫んだ。
「「「「なっ!」」」」全員絶句しそれを見る。そこには回路のようなものが浮かび上がっていた。
「改めて自己紹介するぜ、俺はムウダ。ガーマではボンバーマンって呼ばれてる。
以後よろしくってもあの世でって意味だけどな」フッフッフッフッと不気味に笑う。
「…まずいな、あれじゃ手が出せん。最悪あのスイッチを壊せれば何とかなるかもしれんが…」苦々しげにフラッツが語る。それに賛同するかのように全員方法を考え始める。
「でもあれを壊してもあいつ自体が爆弾じゃどうしようもないじゃない」
「だが起爆装置がなければ爆発できんだろう」
「ああいう奴って最後まで何か策を残してるのが定石じゃない、自爆の方法くらい用意してるでしょ」
「じゃあ何か妙案でもあるのかよ。お前も考えろ」フラッツとカレンの会話に耳を傾けていたルーギが
「ちょっと待て」と声をかけた。
「「何『だ』?」」
「思ったんだけどさ…俺が与えた衝撃で既に起動してるとかって…ないかな?」
「あ…」そう言えばとムウダを見る。そこには回路とは明らかに違う真新しいあざがはっきりとあった。
「ってことはスイッチは関係ないんじゃないかなって…」
「何!?本当かそれ!?」
「何の話だ?」
「その起爆スイッチはフェイクじゃないのかって話だよ!衝撃加えたら爆発すんじゃないのか!?」
「ああそうだ。だがフェイクじゃない。これを押したら爆発することに変わりはない。
もっとも放っておいてもいずれはな。…まったくつくづく感謝だよ、お前には。おかげで良い表情を見れた」意地悪い笑みを浮かべる。
「やっぱりか…」
「さてもういいだろう…」目を伏せ、そしてカッと見開き
「さぁ覚悟はいいか!勝者のいない戦いもこれにて幕引きだ!」バッと高らかにスイッチを掲げボタンに触れる。
それに「くっ!」と疲れ切っている体に鞭打って駆けだすレイラ。
「「「レイラッ!」」」仲間の声がどこか遠くから聞こえるような感覚だった。
その存在を誇示するかのように高く掲げた瞬間とっさに体が動いた。一歩一歩踏み出すたびに体が悲鳴をあげる。腕も足も鉛のように重い、とっくに限界を迎えていた。
それでも体が動いたのはなぜだろう。何の為に。
思えば彼らとの出会いはあまりいいものではなかった。行き先が同じだったからと行動を共にするようになり、到着次第別れるつもりだった。だがいつの間にかここまで一緒に来ていた。
最初は頼りない危なっかしい、まだまだ半人前の剣士だった。それはまるでかつての自分を見てるようで。
だが一目見た時から才能を感じ、将来何か大きなことをするのではないかと思った。
そうしてあちこち旅をして、数々の戦いを経て、様々な経験をしてきたことで何時しか背中を預けられるほど立派になった。
険悪な雰囲気で出会い、先輩として色々教え、その成長を見てきた。もう自分がいなくても大丈夫だろう。
だからこそ、ここで死なせるわけにはいかない。お前はまだまだ強くなる、まだまだ大きくなれる。
この命に換えてもお前を、お前たちを護って見せる。
悪いな、やっぱり私はこういう人間なんだ。結局お前が言った通りになったな。
だが後悔はしていない。あいつらの為にこの命を使えるなら本望だ。
じゃあな、また会おう。ルーギ、カレン、フラッツ、そして・・・謎の少年よ。
ムウダの体が輝きだす。どうやら一度収縮して爆発するようだ。ならばギリギリ間に合うか。
「おおおおおぁぁぁぁぁ!」雄叫びをあげ突き落とすためにジャンプし身を投げ出した。
「「「レイラー!」」」3人の悲鳴がこだまする。
その時何かが彼らの横を凄まじい勢いで通り過ぎた。そしてその影は真っ直ぐ前方の2人へ向かって行く。
あと少しで手が届く、だがその寸前で何かに抱きかかえられ動きを止められた。と同時にグサッ!と何かが刺さる音がした。
何が起きたのだろう?何故止まった?何かに抱えられてる?何が刺さった?様々な疑問が次々浮かび
それを確かめるべく顔をあげると、剣が深々とムウダに突き刺さっていた。
それのおかげだろうか、先ほどまで輝いていた光も消えていた。そして次に剣を持っている手を見る。
自分はその人物に抱えられているのだろうと混乱した頭で何とか考えそいつを見た。
「ゴハァ!」血を吐き己に剣を刺した不届きものを見る。一瞬だった。自分に向かってきた女剣士
その後ろで叫ぶそいつの仲間たち。この距離ならギリギリ届かないだろうと思っていた。あの女剣士だけなら間に合わなかったはず。だが今のこの状態は何だ?俺の考えを裏切って一瞬でそいつらを抜き去り、俺に剣を刺し爆発を止めやがった。
「何者だ…テメェ…」
「名乗るほどの者じゃないが、まぁいいや。俺はユウト、異界者って呼んでくれてもいいぜ」
不敵に笑って名を告げた。
「………」レイラは先ほどから頭が回っていなかった。いつもだったら冷静に何かを考え
一歩退いた見方をして、正しい判断ができるのだが。
さっき死の一歩手前まで行ったせいだろうか、死を覚悟したからだろうか、今生きてるかも分からないからだろうか。様々なことがわずかな間で起き、目の前で起こった出来事の処理が完全に追いついていなかった。
「なんで…お前が…」ようやく言葉を出せた。
なぜこいつがここにいる?こいつは初めて会った時、戦場にほど近い場所で倒れていた。
最初はガーマの人間ではないかと思ったが、格好からしてそうではないことがすぐに分かった。
だが話すことは信じられないほどおかしなことで、でも妙に現実味を帯びていた。
まるでこれから先起こることを見てきたかのように。
そして別れた後もう会うことはないだろうと思った。あのまま街に避難しているだろうと思った。
今までの戦いのせいですっかり忘れていたが死を確信した瞬間、急に思い出した。
死の宣告をされたからだろうか、こいつ=死とどこかで認識している気がした。
だからこそ不思議で仕方がなかった。なぜここにいるのかと。もしや本当に死んでしまったのだろうか。
だが目の前で血を吐き苦しげに呻く奴、そして何よりこいつの手から伝わる確かな体温、それが混乱している頭でも『生きている』と実感できた。
「危なかったな」ニヤッと笑ってレイラを見る。その表情には最初に会った時に感じた素人さは一切なく、多くの戦いを生き抜き、数々の死線を潜り抜けてきた歴戦の勇の貫録があった。
「な、なぜお前がここにいる!街には行ってないのか!?本当にあの時の…」
「その辺にしてくれ。質問なら後できちんと答えるからよ」と今はここまでというように遮った。今は答える気はない、そう言われたら黙るしかない。
聞きたいことは山ほどある。だが今はそれどころではないことぐらい今のレイラでも分かった。
ようやく冷静さを取り戻し始めた頭でそう判断し「分かった。だが後で必ず聞かせてもらうぞ」と返した。
「ああ、もちろん」またニヤッと笑う。
「手離すぞ、大丈夫か?」
「ああ、何とか」返事を聞きゆっくり降ろす。その体を労わるように。
「下がっとけ、てか歩けるか?」
「バカにするな、それぐらい…」立ち上がろうとするがすぐに「くっ!」としゃがみ込んでしまった。
ったく無茶しやがって、そう小声で呟き「おい!誰かこいつ運んでくれ!」と後ろにいる3人に指示を出した。それにビクッ!と肩を震わせ我に返り動揺しながらも頷いた。
「大丈夫か?」心配そうな声でフラッツが尋ねる。
「すまんな、力が入らなくて。肩を貸してくれるか?」
「当たり前だろ」そう言って右に移動し肩を貸す。
反対側にカレンがついて「いくよ、せーのっ!」と合図を出して立ち上がり移動を開始した。
「なぁレイラ、あいつ知ってんのか?」
「ああ、ちょっとな」怪訝そうに尋ねたフラッツに曖昧に返事をする。
「でも何者なの?私から見ても分かるくらい強者の雰囲気を纏ってるんだけど。」
チラリとユウトを見る。
「正直よく分からん。少し会っただけだから。その時会った感じとしてはお前と変わらなかったのだが…」とカレンを見て力なく答える。
レイラ自身よく分かっていないのだ。何者でどこから来たのか。大分冷静さを取り戻したが考えても答えは出ない。いやむしろ冷静になってきたからこそ謎は深まるばかりだった。
これ以上考えても無駄だと頭を軽く振り
「だが悪い奴じゃないことだけは確かだ。それに今まともに動けるのはあいつしかいない。
心苦しいがあいつに任せるしかないさ…」
「…そうだね。」
「………」レイラの言葉に素直に納得したカレンに対し無言を貫いたフラッツは何か考える素振りをしてチラッと後ろを見た。
「さて…と」視線を前に戻す。
「いくつか聞きたいことがあるんだが」剣から手を離し腰に手を当てる。
「き、奇遇だな…俺も聞きたいことがある…」ダランと腕を力なく垂らし尋ね返す。
「何だ?お前から聞いてやるよ」
「そうかい、…じゃ遠慮なく」と句切り「なぜ…解除方法が分かった?俺は…誰にも教えて…ないぜ」と満身創痍だがその眼はしっかりユウトを見据えた。
「ああ、そんなの簡単だ」ビシッと指を指す。
「お前のそれ、分かりにくい所もあるが全て最終的には心臓に向かって行ってる。
それに気づきゃ誰だって分かんだろ、そこを狙うべきだって」
「し、しかし普通は…躊躇するものじゃ…ないのか?これを外せば…爆発してしまうと。
それに…ただここを狙えばいいってわけじゃ…ないだろ?」
「まぁな、だが回路の伝達がそこに達する前に断線してしまえば問題ない。心臓に刺してあるように見えるが少し外してある。攻撃しようとした時ちょうどそこにきたからな。結構ぎりぎりだったぜ?」と種明かしをしていく。
それに驚愕の表情を浮かべる。
「なるほど…大した奴だ」フッと笑う。
平然と言って、何でもないかのようにやってのけてるが誰にでもできる芸当ではない。
少しでも手元が狂ったり狙い通りの場所に刺せなければ死んでしまう。
少しでも失敗すれば死ぬ―――。
それに恐怖し本来できるはずのことができなくなってしまう人間は珍しくない。
その他にも緊張などで自分の実力を全く出せず終わってしまう場合もそうだ。
むしろそれが普通とも言える。達人と呼ばれる人でもそうなることはある。そうならないようにする為に日々努力を重ねるのだ。
だが目の前の男はそうではない。それに恐怖することなく自身の技量に絶対の自信を持って臨んだ。
そんなことができるようになるまでに一体どれだけの死線を潜り抜けたのだろうか。
どれほどの修羅場を乗り越えればそうなるのであろうか。
そして僅かな情報で全てを把握し瞬時に見抜き、寸分の狂いなくタイミングを合わせて爆破を阻止した。
見事としか言う他ない。
「今度は俺の質問に答えてもらうぞ」スッと目を細めてプレッシャーをかける。
「お前らのボスやアジトはどこにある?」
「………」
「答える気はないか…」はぁとため息を吐き近づく。
向けられる視線は氷のように冷たく、体格はそう変わらないのにとても大きく感じる。
ムウダも立ってるだけでやっとなので動くことができない。いやそれだけではない。今動いたらその瞬間殺される気がしたからだろうか。しかし目は離すことができずに近づいてくるその姿に恐怖を覚えるしかできなかった。
「もう一度聞く、ボスとアジトはどこだ?」
「……」言葉が出ない。話す気がなくて話さないのではない。その威圧感に気圧されて口を開くことができない。呼吸をするのも辛い。
「そうか…それがお前の答えか…」かぶりを振って目を閉じる。
そしてカッ!と目を見開き、一拍おいてドゴッ!と鈍い音が響いた。
「グハァッ!」血を吐き殴り飛ばされる。
「「「「なっ!」」」」後ろで見ていた4人が思わず声をあげる。
「何してるんだ!殴ったりなんてしたら…」
「心配いらねぇよ。もう爆発しねぇから」
大声で問うレイラに対し面倒くさそうに返す。
「……がっ」体に力が入らない。本当に指一本動かすことができない。先ほどの戦いで力を使いすぎてしまった。あの切り札は後のことを考える必要がない、だからこそ奥の手としていた。
それが敗れたのではなく発動すらできなかった時のことなど考えてもいない。
正確に言えば中途半端に起動してしまったからだろう。ここまで動けなくなるものか―――。
「喋る気がないなら少し暴力に訴えるぜ。殴っても文句を言う奴はいないだろうしなぁ」
ゴキリと拳を鳴らす。
「あ、そう言えばまだ剣が刺さったままだったな。抜いてやるよ」意地の悪い笑みを浮かべ柄に手を掛け、胸を思いっきり踏みつけそのままグリグリと痛みつける。
「ぐぁぁぁ…」その痛みに苛まれ苦悶の声が漏れる。
「そらよっ!」更に力を入れ剣を抜く、すると血が噴き出す。
「そのままだと死ぬなぁ~。いくら急所を外してるとはいえ」目を伏せる、そしてギロリと睨む。
「だが簡単には死なせないぜ?そこを塞いで血を止めたら…ボコボコにしてやるからな。生きているのが何よりの苦痛だと感じさせ、お前の口から殺してくれという台詞を聞くまでな」
ニンマリと意地悪く笑う。
「お…俺を…殺したら…居場所が分からない…ぜ」息も絶え絶えに言う。
ムウダ自身命乞いをする気はさらさらない。だがどうせなら一思いに殺してほしい。
こうして生かさず殺さずの恐怖と苦痛はよく知っている。だからこそ逆上させて一気に止めを刺させようとしたのだが言葉が続かなかった。
「ああ、俺にとっちゃどうでもいいんだよ。んなこたぁ」と一蹴する。
「今興味があるのは何発殴れば死ぬかってことなんだよ。つーわけで」スッと目を細める。
「お前で実験させてくれよ」
ドゴッ!ズゴッ!バキッ!辺り一帯に鈍い音が響く。
目の前で行われている一方的な殺戮に誰も言葉を発することができない。
「なんだよ…これ…」聞き取れないくらいの小声でルーギが呟く。
「…これじゃどっちが悪いんだか分からねぇじゃねぇか」
「おいレイラ!あいつは何者何だ!どう考えても普通じゃねぇ!」フラッツが怒鳴る。その叫びは何とか恐怖を振り払おうとしてるように思える。
「わ、私も分からん!あいつの名前すら知らないんだからどんな奴かなんて言われても…
け、けど悪い奴じゃ…!」
「あれを見てもまだそんなことが言えるのか!あいつの目を見ろ!あれは血に飢え獲物を狩る獣のそれと同じだ!」
「…そうだな。助けてくれたことには感謝するが…。アレは見ていてあまり気分のいいものじゃないな」剣を杖にしてルーギが立ち上がる。
「…何をするつもりだ?」
「決まっているだろ…あいつを止める。このままだと、本当に死ぬぞ」少し睨んで問うレイラに剣をしっかりと握り答える。
2人の様子を見ていたフラッツも「お前だって何とかしようとしたんだろ?でなきゃそんなに力を入れて剣を握る意味はない」と声をかける。
「それは…」言葉が続かない。
奴はこれまで多くの人々を苦しめてきた。それはこれからも変わらないだろう。だからこれも報いと考えられる。だがここまでする必要はあるのだろうか。奴の倒し方をとやかく言うつもりはないが一気に止めを刺した方がお互い楽じゃないか。何もいたぶる様な真似をしなくても。
現在目の前でこうも一方的にやられていると悪者ではなく被害者にしか見えない。
まるでムウダが一般人、ユウトがガーマであるかのように。
「…でもさ」不意にカレンが口を開く。
「随分勝手だよね、あたしたちって」
「どういうことだ?」
「だってさっきまでこっちは殺されかけたんだよ?なのに今ああやって弄られてるところを見るともう今度はその相手が悪く見えるって…」
「…つまりあれは当然の報いだと?」
「そうじゃないけど…上手く言えないけど一番悪いのは次々に悪者を変えて干渉しないで傍観してるあたしたちじゃないのかなってさ」
「「「っ!」」」その言葉にハッ!と息をのむ。
「なるほど…」
「一番悪いのは…」
「俺ら…」
「って思ったらそうとしか考えられなくなっちゃって…」沈黙。全員先ほどの言葉の意味を考える。
例え酷い目に合わされようともその人物が同じ目にあっていると心が痛み、口では貶しても心では悲しみ
黙って見てられず助けようとする。それは心優しい懐の深い人だと思うだろう。
だが見方を変えればそうすることによって、自分は素晴らしい人間だと思い込み心酔し、優越感に浸ろうとする浅ましい人間にもなる。
だが偽善でも誰かを救えるのならばいいだろう。下心があってもそれで幸せになれるならいいだろう。
たとえそれらがあっても行動することは良いことだ。一番性質が悪いのは動かないことだ。だが人間は誰でも悪者になりたくない、常に自分が正しいと思っていたい身勝手な生き物だ。
だから自分が悪いと無意識の内に別の誰かを悪者にしようとする。
攻撃をするのも悪いがそれを傍観し黙認することはそれと同等、いやそれ以上に悪いことだ。
その事実に目を逸らし自分を正当化しようとしてしまっているのだ。
「そうだな…」レイラがその沈黙を破る。
「無抵抗な人間を一方的に殴っているから悪く見えるのだろう。だがそれ以上にこうして傍観している方がだめだな。
ならば悪者は悪者らしく…あいつの蛮行を止めようじゃないか」フッと笑う。
「これ以上お前を…悪者にさせやしない」その後小さく呟いた。
そしてスゥッーと息を吸い「もうやめろ!そこまででいい!」思いっきり叫んだ。
「がっ!」ズシャ!と音を立てて地面に叩きつけられる。もう何度目だろうか。かろうじて意識は保っていられてる。ひょっとしたら意識を失わないギリギリを見極めているのだろうか。
とにもかくにも今は己の丈夫さが恨めしかった。意識を手放せたらどれだけ幸せだろう。フッと自嘲気味に笑った。
「さて…そろそろ飽きてきたな。次で終わりにするか」ゆっくりと近づきながら剣を鞘から抜く。
その刃は曇天の下でもギラリと銀色に輝いていた。
ダン!とまた思いっきり踏みつけ切っ先を喉元に突きつける。
「今度はしっかり急所を狙うぜ。ようやく苦しみから解放されるんだ、俺に感謝しな」ニヤリと笑う。
「…こ、殺すなら…早く…殺せ…」
「ん~、お前に命令されるみたいで気に食わないけどまぁいいや」剣を握り直し
「最期に何か言い残すことはあるか?」一度行ってみたかったんだよな~と愉快そうに笑う。
「………」
「特になし…か。じゃあ死ねよ」振りかぶりその切っ先を突き刺そうと振り下ろす。
その時、もうやめろ!そこまででいい!後ろから声が聞こえた。
それに反応してビタッ!動きを止める。そしてその姿勢のまま首だけを動かし声が聞こえた方向を見る。
そこには武器を構えるルーギ、それを止めようとしているカレン、こちらを睨んでいるフラッツ
そして3人より一歩前に出ているレイラがいた。
「もういい…そこまでにしろ!それ以上やったらお前は本当に悪者になる!
頼むから…私たちのようには…なるな…」最後の方は掠れてしまっていた。
「ったく…言うのが遅いんだよ」フッと笑って視線を戻す。
「良かったな、命拾いしたぜ?まぁお前がどう言おうが殺すつもりはなかったけどな」足をどかし少し距離を取る。
「だってそうだろ?殺してくれって言ってる奴を殺したところでそいつの思い通りになるだけだろ?
俺は俺自身の手で思い通りにさせないことがおもしろいんだ。
だからそいつにとって苦痛なこと、殺してくれと言う奴は生かす。どんな手を使ってもだ」
剣を戻し踵を返す。
「まぁさっき言った事はともかくとしてだ。俺はお前自身は評価しているんだ。
最後の最後まで切り札をとっておいたのは見事だ。奥の手ってのは最後まで取っておくからそう言うんだがそれができる奴はそうはいない。ほとんどがピンチになったら使っちまって肝心な時に使えてない。
そしてその内容もまあまあだった。…俺には通用しなかったがな。
だが中々おもしろかった。ここは見逃してやるから生き延びていつか更に俺を楽しませてくれ」
首だけ後ろに回しフッと笑う。
じゃあな、片手を挙げて立ち去ろうとする。その背に
「ま…待て」声をかけた。
「あ?」
「…敵に情けをかけられるようじゃ俺もまだまだだな。こんな屈辱そうはねぇ…!
本当なら…今すぐにでも死にてぇぐらいだが…生憎体が動かん。
悔しいが…俺の完敗だ…!」
「………」
「だが…妙に清々しい…気分だ。ここまでやられたのは…本当に久しぶりだからな。
だから…これはその褒美だ。お前が知りたがっていたこと…教えてやる。」
「…いいよ別に。それが知りたくて戦ったわけじゃないし。第一興味がねぇ」
「ひ…人の厚意は、素直に…受け取っておくもんだぜ…」
「…そこまで言うなら聞いてやる。ボスはどこにいる?アジトは?」
「アイツは…どこにいるか分からん。いくつもある…隠れ家を転々と…しているからな。
その数や場所は…俺も知らん。側近共なら…知ってると思うが。
つ、次にアジトだが…、これは存在しない。いや、正確には…いくつもあると…言った方が良いか…」
「どういうことだ?」
「よく勘違いされるんだが…お前らの言うガーマは…一つではない。いくつかの集団が…集まって
ガーマというのに…なっている」そう言ってガーマという組織のことを語り出した。
元々ガーマという組織はそれ程規模の大きくない一つの組織だった。
だがそこのボスは凄まじいほどの力を持ち度々話題になった。それに目を付けた多くの組織は仲間に引き入れようと、拒否するなら殺すよう動き出した。
当然それを是とするはずもなく次々に返り討ちにして、逆に壊滅に追いやった組織もいくつもあった。
そして今度はガーマが動き出す。こちらから攻め込んで自らの配下になるよう迫った。
もちろんそれを拒否するがその圧倒的な力でねじ伏せ次々と勢力を拡大していった。
それがやがてガーマという名で広く知られるようになる。
「お、俺のところも…そうだった。だが決して統括しているわけでは…ない。
あいつはあいつの組織、俺たちは俺たちという単位で…動いている。…同盟って言った方が…分かりやすいか?厳密には少し違うが。
ガーマという枠組みの中に・・様々な組織が・・ある。
だから・・その集団一つ一つが、拠点にしているのが・・アジトと言える。」
「なるほど、つまりガーマとは大きなグループではなく一つの小さな組織なんだな?」
「ああ、アイツが…ボス様が直々に…指揮されてる集団だ。
俺たちはガーマであって、ガーマじゃ…ない。だから俺は…一度もガーマと名乗ったことは…ない」
「…要はガーマという一つの枠組みの中にお前らのようなのがいくつもあって、それが一つの組織として認識されるようになり、やがてガーマという名で知られるようになる…と」
「そうだ…どうだ?損には…ならんだろう?」
「ああ、損どころか随分役に立ったぜ。ずっと疑問だったんだ、同じ組織でもなぜこうも違うと。元が違うどころか今でもまったく違うんだから相容れなくて当然だわな。それが解けてよかったぜ」
お互いにフッと笑う。
「あ、そうだ」不意にユウトが何か思いついたかのように口を開く。
「もう一つ訊きたいことがあるんだがいいか?」
「……何だ?」
「お前の組織の名前だよ。今の話を聞く限りじゃお前が率いてるっぽかったからさ」
その言葉に目を見開く。まさかそんなことを訊かれるとは思わなかった。きっとガーマに関する何かだろうと思っていた為完全に虚を突かれた。
「な、何故だ…?」
「ん~。単なる興味本位。お前が少なからず誇りを持ってそうだったからさ。これも訊いて損はないかなって」
「…そうか」目を空に向ける。結成した当時を思い出して懐かしい気分になった。最初は名前などなかった。名前を決めようと色々案を出したが結局どれも納得できるものではなく、暫くの間無名の新規組織として活動していた。だが少しずつその存在が知られるようになると、自分たちのことをある名で呼び始めた。
それを当時の組員全員が気に入りそれを名乗るようになった。それは―――
「悪いが教えねぇよ」きっぱりと言い切る。
「この状態で…俺が名前を言えば…それは組織の敗北を…意味する。リーダーとしてそんなことはできん。
俺が言えるのは…ガーマに関することだけだ。もし知りたいなら…てめぇで勝手に調べろ。フィーダの街に行けば…嫌でも知ることになるだろうよ」
「そうか…」と呟きムウダを見る。
たとえ自分が敗北しても組員が一人でも生きてる限り負けではない。一人でもいればいつか再建できる。そいつらの名誉の為にも、組織のリーダーとして組織の名を地に落とすような無様な真似はできない。それをしてしまえば組織だけでなく、生き残った者にまで迷惑をかけることになる。
負けてもそれは個人として。
屁理屈や負け惜しみのようにも聞こえるがそれだけ大事に思っているということでもある。
こんな奴もいたんだな…、思わず感心する。自分にはそんな真似はできない。背負う者の責任は重い、だからこそ強いのだ。腕っぷしだけのことではなく、心身ともに…。
それを目の前で見てこれは見習わなければならないと思った。
「じゃあ俺はそろそろ行く、貴重な情報ありがとよ」さて立ち去ろうと背を向ける。
「…勘違いするな。お、俺が話したのは…俺を倒した褒美と…誓いの為だ」
「誓い?」振り向かずに尋ねる。
「次戦った時は…必ずお前を…殺す。どんな手を使ってもな。俺を生かしたこと…後悔させてやる…!」グッと拳を握る。
それに口角をあげて「楽しみにしてるぜ。」手を挙げ立ち去った。
「…ユウトか。い、今に見ていろ…!いつか…お…前を」最後まで言葉にできず気を失った。
4人の元へ歩を進める。その表情は一様に見える。…全員警戒している。
特に警戒しているのが男2人。意識的かは分からないが自分たちが前に出ている。特にルーギはカレンを背中に隠すようにしている。後の2人はそれ程あからさまではないが、それでも少し警戒しているように見える。しかしレイラは男2人と同じぐらい、いや半歩前に出ている。
「・・・そう警戒するな。せっかくお前たちの為になる情報を聞き出してきたのに話しにくいだろう」
「何だ、それは?」真っ先に反応したのはやはりレイラだった。話しかけると同時に2、3歩近づく。
「ああ、だがお前は少し違う。それともう一つ、計二つだ」
「二つ?」
「なぜ俺がここにいるのかという事と、さっき言ったそれだ」
「あっ…」忘れていた。自分から聞いたくせに。今まで目の前で繰り広げられていたことが衝撃的すぎてすっかり頭から抜けていた。ここにいるのが当然とさえ思っていた。
「た、確かにそうだな。それで、その…その二つは共通しているのか?」
「いや?まったくない。だからお前が聞きたい方からでいい。後者の方は全員に話す必要があるな」
「前者は?」
「そんなことあいつらに言ったって意味はない。俺がどこから来ようがあいつらには関係ないからな。
お前もどうでもいいなら別に言わないが聞かれたからな。一応確認は取っておこうと思ってよ」
「そうか、私は興味があるし知りたい。両方聞かせてもらおう。
まずは…私たちの為になることから」
「ああ、もちろんだ。…だが」と句切って後ろの3人に呼び掛ける。
「レイラは了解したけどお前らはどうする?聞くか?」
それに険しい顔をし「誰がお前の話など聞くか!大体お前自体信用ならん!お前は一体何者だ!
そんな奴の言うことなどお前だったら聞くか?」と怒鳴る。
「そうだな、俺たちはアンタのことをよく知らない。正直さっきのを見た後じゃ良い印象は持てない。
けどアンタが何者かっていうのは今はどうでもいい。問題はそれが役立つかどうかだ。
聞くだけ聞こう。だがその後は俺たちが決める」
「ルーギ!あんな奴の言うことなど聞く必要はない!聞くだけ無駄だとなぜ分からん!」
「だがせっかく話してくれるというんだ。聞くだけ聞こうじゃないか。それからでも遅くはない」
「お前は何も分かっていない!お前は見ていなかったのか!?あれは殺戮だ!一方的な暴力だ!
そんな奴の言うことなんざ俺は聞かん!聞くならお前たちだけにしろ!」と後ろを向いてしまう。
それに呆れたように深いため息をつく。
「勝手にしろ。カレンはどうする?」
「私も…聞くだけなら」
「だそうだ。ぜひその話聞かせてほしい」
「もう終わったのかい?」と茶化す。
「ああ、騒いで済まなかったね」申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。
「かまわんよ。じゃ今から話すぞ。まずガーマという組織の話からだ…」
先ほど聞いた情報を話し始めた。
「って感じだ」どうだ?と尋ねる。
「なるほど…それが本当なら一つ一つの繋がりはそんなに強くなさそうだな」
「ああ、どこかのピンチに駆けつける、というのも可能性としては低いだろうな。思ったより早く方がつくかもしれん」
「だが色々な集団があるんだ、強さだって均一なわけじゃない。むしろその差は大きいとも考えられる。
良くも悪くもここの部隊が基準になるな…」
う~んとユウト、レイラ、ルーギが頭を悩ます。
「でもさ、それって本当なのかな。私たちをかく乱させる為の罠って考えられないかな?」
「それなら…」
「カレンの言うとおりだ」ユウトの言葉をフラッツが遮る。
「大方俺たちに嘘の情報を与え、混乱しているところを狙うのが目的だろう。
やはり聞くだけ無駄だったな」
「しっかり聞いてるじゃねぇか。聞く必要はない、無駄だとか言ってたくせに」
「黙れ」フラッツの口調を真似て茶化すルーギをバッサリと斬る。
「俺たちが決めると言った以上俺も聞かん訳にはいかんだろう。お前らだけじゃ丸め込まれるのがオチだ。結果、でたらめにも程があることが分かったがな」
「一応聞くが、なぜでたらめだと?」
「敵の情報を鵜呑みにするほどおめでたい頭じゃない。それにお前から聞かされたことでより疑いが濃くなった。まだお前が連中の一員である可能性も考えられる。
それにお前こそ、それを信じるに足る根拠があるのか?」
「根拠ってほどじゃないけど一応な」フラッツの厳しい糾弾にあっさりそう返す。
「ならば聞かせてもらおうじゃないか」
「死の間際で嘘をつく必要はない。嘘をつく必要があるのは仲間を信頼している時か、ボスに忠誠を誓っている時だ。話し方からして忠誠を誓ってないのは分かったし、奴が信頼してるのは自分のとこの集団だけだ。むしろあいつはガーマを倒してほしいって感じだったしな。
そもそも奴が嘘をついて何の得がある?こいつも言ったようにそれぞれの結びつきは強くなさそうだ。
言ってしまえば個人戦、いや三つ巴みたいなもんだ。
自分がかく乱させてどこかに仇をとってもらうなんてことはしない。手柄を渡すようなもんだ。
普通だったら自分たちで何とかしようとするだろうぜ」
「……」
「答えとしては嘘をつく必要がないってこと、もう一つは嘘をついても得をしない、むしろ損するだけだ」
どうだ?と尋ねる。
その後、いがみ合ってないかどうかは分からんが敵討ちをしてもらおうなんて高尚な連中じゃねぇよ、とぼやく。
「……フン!」それを聞き踵を返し歩き始める。
「どこに行くのよ?」
「街に戻る。これ以上そいつと同じ空気を吸っていたくない」カレンの質問に振り返ることなく淡々と返事をしてそのまま歩き、しばらくすると姿が見えなくなった。
一行はその後姿を黙って見ていた。
「悪いな、あいつ今一つアンタのこと信用してないみたいで。悪い奴じゃないんだが…」
「っていうより完全に嫌ってるじゃない、あれ」
「ま、仕方ないさ。それよりお前たちはどうなんだ?」
「何が?」
「お前たちは俺を信用してくれたのか?」
「それは・・・正直まだ何とも」
「あたしも・・・でも悪い人じゃないってことはっ!」
「いいよ、無理しなくて。あんな姿見せて信用しろって方が無理な話だ」フッと自嘲気味に笑う。
「でもあそこまでやるつもりはなかったんだぜ?何か気分が高まってきちゃってさ…」ハハッと渇いた笑いが零れる。
「ところで」と言ってレイラを見る。
「お前はどうなんだ?」
「私は…信用はしてる」
ルーギとカレンは驚いた表情をし、ユウトはピクリと眉を動かし次の言葉を待つ。
「初めに会った時から悪い奴には見えなかった。今はあまりの変貌にかなり驚いたが」とほほ笑む。
「だが先ほど話してる時と私に説明してる時の姿が重なって見えてな。一生懸命説明しようとしているその誠実さ、とでもいうかな。おかげで、ああ同じだ。と思えた」
「…理由とかってあるの?」
「理由?何の?」
「だから…この人を…」おずおずと尋ねるカレンに不思議そうな表情をするが
「信じるのに理由がいるか?根拠が必要か?」
「え?」
「人が人を思うのに、信じるのに理由なんていらないよ。理由が必要になってきたらもう、人として終わりだと思う。…お互いに」ときっぱり言い切る。
「最終的には理由がつくかもしれないけど、最初は直感だよ。
こいつは信じても大丈夫だって思う奴はいるだろ?初対面であっても」
「うん…まぁ…」
だから私もそうだよ、直感で大丈夫だなって思ったからと付け加える。少しの間沈黙が漂う。
「だが…」再びレイラが口を開き全員注目する。
「信用はしてるが…信頼はできない」
「「えっ?」」その一言に思わず声が重なるルーギとカレン。
「ど、どういうこと?」
「意味が分からないんだが…。同じじゃないのか?」
「微妙なニュアンスの違いだ。というより私の解釈の仕方の問題かもな。
だけど私にとっては結構重要なことなんだ」
「……してその理由は?」表情を真剣にしてレイラに尋ねる。
それにフッと笑みを零し「自分の名前を名乗らん輩をどうして信頼できるんだ」と答えた。
それに全員呆けた表情をするが
「…ハッハッハッ!確かにそうだ。名前を言わねえ奴を信じろったって無理な話だ」
ハッハッハッハッ!こりゃ一本取られたな~としばらく愉快そうに笑っていた。
ひとしきり笑い終わって「こりゃ失礼したな。そんじゃ改めて自己紹介させてもらう」
立ち上がり一人一人の目をしっかり見て「俺はユウト、以後よろしくな」ニカッと笑った。