始まり・・・
初めまして!今回初めて小説を投稿させていただくキートという者です。
なにぶん初めてなもので至らぬ点が存在すると思いますが、精一杯やらせていただくのでしばらくの間お付き合い願えたらと思います!
「はぁ~」あまり広くない部屋にため息が響く。
彼の名前は大村優斗、この物語の主人公である高校2年生だ。
今彼はお気に入りのマンガを読み終え深いため息をついていた。なぜかと言えば・・・
「くそ~、なんでマンガの主人公は特殊な能力や特技があって仲間に頼りにされたり、その力で世界を
救う為に命がけの戦いに身を投じたり、色々あるけど最終的にはかわいいヒロインとくっつくんだよ~
はぁ~」とただの僻みを繰り返していた。
そして彼はいつものように日課というか、マンガやアニメを見たら必ずすることがある。
「俺だったらあそこで敵の自殺を止めて、ボスの居所とアジトの場所を吐かせるけどなぁ。被害だって
最小限に止めるし・・・」と自分がその世界にいたらという妄想である。
もしくは自分が主人公だったらという設定で脳内でねつ造してしまうのだ。
「で、最後は”良い戦法だったけど俺には通用しなかったな。だが中々楽しませてもらったぞ。
ここは見逃してやるから生き延びてさらに俺を楽しませてくれ”って決めんのよ。
・・・マジでそうならねぇかなぁ。」はぁ~、と再びため息。
ここで一つ大事なこと言うがこの大村という人間、本心は中々の人見知りである。
コンビニのレジなど、どうでもいいことや聞かれたことには普通に話すし答えるのだが、クラスでも大抵一人でいることが多く、自分が気を許した人間以外に自分から話しかけることはないし、自分を見せない。
そして考えていることや思っていることは声に出して、しかし恥ずかしいらしくこの独り言もつぶやくように言っているのである。
ふと時計を見る。時刻は現在、午後約5時半を指していた。
「夕飯までもう少しかかるよな・・・」そう言って寝る準備、布団に潜り込んだ。
「今日は体育もあったしできたら起こしてくれるだろ・・・」と言って瞼を閉じてしばらくすると寝息を立て始めた。枕元に先ほどまで読んでいたマンガを置いたまま・・・
・・・・・・・ぃ!おい!しっかりしろアンタ!
耳慣れない声と言葉にうっすらと目を開けた。
「ううん・・・なんだ?夕飯できた?」と寝ぼけながら自分に話しかけてきた人物に視線を向けた。
そこには見知らぬ女性、見た目から少し年上?が心配した目で自分を見ていた。
「ええっと・・・、あなたは一体?」ゆるゆると上体を起こしながら尋ねた。それもそうだろう。先ほどまで自分は部屋で寝ていた、しかし今ここは見渡す限り見慣れない景色が広がっていて、そこで見知らぬ女性に話しかけられているのだから。
「私はレイラ。見たところ特にケガはしてなさそうだけど大丈夫?」
「ええ、何ともなさそうですが・・・ん?今なんて言いました?名前。」
恐る恐る聞いてみる。先ほどから妙な違和感があったのだ。見知らぬ場所のはずなのに知っている気がする、見慣れない格好のはずなのに見たことがある気がする。
そしてなによりこの女性の名前――――。
「だからレイラだよ。ねぇアンタ本当に大丈夫?さっきより顔色悪くなってる気がするけど・・・」
どこかで見たような気がしていたが名前を聞いて驚いた。この女性は先ほどまで読んでいたマンガの登場人物の一人によく似ている。だが容姿が似ていて同じ名前の人などいても不思議ではない。マンガのキャラクターから名前を取るなどこの時代珍しくもなんともない。他人のそら似ではないか?そう疑問を持ってそれを確かめるべく次の質問をすることにした。
「ええ、大丈夫です。それより・・・ここはどこですか?見たところ荒野というかなんというか。
それに向こうでは煙が上がってるし。」
「ここはエージル地方とエヌシニ地方の間にある荒野。今向こうでは・・・詳しいことは言えないけど大きな戦いがあるの。・・・絶対負けられないね。私も早く行かなくちゃならないから大丈夫そうならもう行くけど。でもアンタも不用心だね、丸腰で来るなんて。」
後半はほとんど耳に入って来なかった。疑惑が確信に変わった。俺はこの人を、この世界を知っている。
間違いない。ここは先ほどまで読んでいたマンガの世界だ。彼女の口からでた言葉がそれを裏付けた。
あんな名前俺が知る限りじゃ存在しない。
もちろん嘘である可能性はなくはないが、あそこまで堂々と言えたら大したものだ。それにわざわざそのためだけに煙を上げるなんて無駄なことはしないはずだ。仮にしたとしてもその嘘を信じてお互いに何の
メリットがあるのだろうか。
どうやったのか分からないが俺はマンガの世界に迷い込んでしまったようだ。
――――おーい聞いてる?
・・・どうやって戻ろう、来た方法が分からないから当然返る方法も分からない。
もちろん自分は大事だ。だが今は俺よりも――――。
「ちょっと聞いてんの!?急に黙っちゃって!」
「は、はい!?何ですか!?」途端に意識を戻された。
「だから、アンタがここに来たのは今となっちゃしょうがないけど、丸腰ならすぐに離れたほうがいいってこと。ちょっと離れてるからってここだって安全とは言えないし。」
そう言って煙が上がっている方向とは反対を指さして「とりあえずこの道をまっすぐ進んで、そうすれば
街に着くから。絶対に安全とは言えないけどここよりは安全だからさ。」じゃあ気を付けてそう言い彼女は片手を挙げて立ち去ろうとした。
「待ってください。」このまま彼女を行かせてはならない。とっさに呼び止めてしまった。今からやろうとしていることは禁じられたことかもしれない。俺がそれをやることによってこの世界そのものが崩壊してしまうかもしれない。
「何?早く行かなきゃならないんだけど。」
「・・・今から言うことは荒唐無稽でとても信じられないことだと思います。頭のおかしなやつがバカなことを言ってる、その程度で構いません。でも俺が言うことを聞いてくれますか?」
起こることは起こるべくして起こる。誰かがいなくなることによって次に進むことだってきっとある。
でも、それでも俺は今から死ぬ人間に何も言わないで放っておくことはできなかった。
彼女を見ると迷惑そうな顔をしていたが、俺の雰囲気にただ事ではないと思ったのか「手短にお願い、急いでるから。」と了承してくれた。
ありがとうございます。そう言って目を閉じた。俺はあんな結果なんて認めない、少なくてもあんなところで死んでいいはずがない。例え運命だったとしても俺は否定する、今の俺にできることは・・・これしかない。
「単刀直入に言います。あなたは・・・この戦いで死にます。」
「・・・えっ?何?聞き間違えたかも、もう一回言ってくれる?」
「ですからあなたは死にます、・・・ここで。」
「・・・やっぱり聞き間違いじゃなかったんだね。」落胆したような、だがまるで冗談だろうといった表情をしていた。だが一度ならず二度までも言ってしまったのだ。最後まで話さなくてはならない。それが俺の責務だ。
「この続きを信じるも信じないもあなた次第です。ですが俺の話が終わるまで静かに聞いてもらえませんか?質問は後で答えるので。」よろしいでしょうか、と確認するとまだ何も考えられないのかどこか呆然としていた。それもそうだろう。知らないやつにいきなり「あなたは今から死ぬ。」と言われても誰も信じないしむしろあきれるだろう。しかしこの反応ということは彼女自身どこかで考えていたことなのかもしれない。
呆然としてるところにつけ入るのは正直あまり気分が良いものではない。だがこちらも緊急事態なのだ。
そのことを思いながら確認をとると困惑しながらもうなづいてくれた。とりあえず聞いてはくれるらしい。
ありがとうございます、少し頭を下げて返事をした後、深呼吸を一つして話し始めた。この戦いの結末を
そして、彼女の最期を・・・。
「と言うことです。」知っている限りのことを話終わり少し肩の力を抜いた。知らないうちに力が入っていたようだ。このあとどうなるかなんて誰にも分からない。もしこの世界が崩壊したら俺はどうなるのだろうか。戻れるのか?そんなことを考え始めた。
「そう・・・つまり私は相手の自爆を止めようとして巻き込まれて死んじゃうのね。」淡々とした口調で言われ、意識を彼女に向けた。
「そうなります。もっともそいつはボスのこともアジトのことも何も言わないまま死んだわけですから
被害的には向こうのほうが大きくても、大事な部分は守った相手に拍手ってことじゃないですかね。」
人によって色々解釈の仕方はあると思いますけど、と付け足した。
そこから暫く沈黙が続いたが「なるほどね・・・それでアンタはそれを私に言ってどうしたいのさ。私を死なせたくないから?それとも逃がすために?」という考えてもなかった言葉で終わりを迎えた。
「えっ?」思わず口をついて出た。まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかった。
もちろんただの親切心からではない。それを伝えることによってどういう行動をするのか見たいという思いもあった、だが一番の理由は「それはもちろん、あなたに死んでもらいたくないからです。今教えたことで死なないように考えてくれればなぁと。」
「でもそれって極論、これ以上戦いに参加しないで逃げるってことだよね?っていうかアンタの説明聞いてるとちらほら逃げろって言われてる気がしたんだけど。」
「それは・・・」思わず口ごもる。
今言われたそれを完全に否定することができなかった。無意識ではあるが心のどこかで逃げてくれればと思っていたのかもしれない。
「まぁ、捉え方は人それぞれだけどね。でも私はそう言われてる気がして若干腹が立ったけど。」とどこか冷めた目で見据えた。
「私はアンタのことはよく知らない、さっき会ったばっかりだし。でもアンタが嘘をついてるとも思えないんだよ。冗談にしては良くできてるし、何より筋が通ってる。第一嘘でそんなことを言うメリットがないしね。教えてくれたことは感謝する。」でもね、そう句切ってから「でも私はあいつらを見捨てるわけにはいかない。ここで逃げたらあいつらに今後二度と顔をだせないし、申し訳ない。それをしてしまったらあいつらを裏切ることになる、今も敵を倒して自分たちのところに戻ってくると信じてるあいつらにね。」そう語った。
「・・・でも根本の解決にはなっていないじゃないですか。死ぬために戦いに行くなんて。」
「かもね。でも勘違いしてるようだけど、我々は死ぬために戦うんじゃない、勝つために戦うんだ。
例え私が死んでもあいつらが勝てばそれは我々全員の勝利だ。」
「だから結局組織自体潰せてないんだから勝ったとは・・・」
「それでも今回の目的であるエージル地方からの撤退はできるんだろう?なら作戦は成功だ。」
「・・・どうやってもあなたは自ら死ぬことを選ぶんですね。」俺は若干あきれた。
「まぁ、最大限努力はするさ。教えてくれた恩に少しでも報いたいからね。」そうクスリと笑った。
「あ、あともう一つ聞きたいことがあるんだけど。」
「・・・なんですか?」
「アンタが教えてくれた本当の理由を聞きたくてさ。確かにさっき言った事も理由の一つではあると思うんだけど・・・、何か他にもある気がするんだよね。うまく言えないけどさ。」
じゃあね、そう言って片手を挙げて去って行った。少しずつ遠くなるその背中は、これから死にに行く恐怖は微塵も感じられず、勝つためにという強い気持ちが感じられた。
俺はしばらく立ち尽くしていた。他に理由があるのではないか、そう言われればそんな気もするのだがそれは何なのか?そもそもなぜ言ったのか、ただの自己満足の為ではないか。
そんなことがグルグルと回り始めた時、頭を振って考えるのを止めた。
「そんなに死にたきゃ勝手にしろ。」そう悪態をついてその場を立ち去った。
街に向かう途中ずっとこの世界のことを考えていた。ここは間違いなくあのマンガの世界だ。
だがどうにもおかしい、というより違和感を感じる。いや、正確には違和感を感じないからこその違和感とでもいうのであろうか。
今、踏みしめている地面の感触や頬を撫でる風の感覚、そして何より先ほどの女性、この世界の人間だ。
全てがリアルすぎる。もちろん今までにそういった経験がないから何とも言えないのだが、あまりにもリアルすぎて、自分のいた世界と何ら遜色なくそこに存在してる。決められたセリフではない通常の会話
自然な受け答え、やり取り。
一瞬ここがマンガの世界であることを忘れてしまうほどだ。もっともそれは大村という人間がこの世界に存在しないからこそ、起こった現象かもしれない。
だが今考えるべきはこの世界のことではなく、どうやって元の世界に戻るかだ。どうやってこちらに来たか考えてみるが別段、何か特別なことをした覚えはない。ならば向こうで最後に何をやったか考えてみる。最後の記憶は自室のベッドの上、つまり寝ていたことになる。今気が付いたが今着ているものはその時のものだ。
ならばこちらで寝れば起きた時向こうに戻れるのではないか―――。
そう考えたがなにしろここは荒野のど真ん中、寝る場所はおろか家すらない。これでは寝ることはできない。
ここも安全とは言えない―――。レイラの言葉を思い出し「・・・とりあえず街に行こう。」と再び歩き始めた。
しばらく歩いていると街が見えてきた。栄えてるように見えるが、どことなく寂れているように見える。
しかも少し気味が悪い。それは近づくほど濃くなっていったが、この世界に来て初めての街に着いた。
確か名前はアンポ―ジと言ったっけ?そんなことを考えながら一歩足を踏み入れた。
だが「人が・・・いねぇ。」とつぶやく。
最初に見た時から寂れてる、気味が悪いと感じたのはこれが理由だったのかと思いながら人を探すため
歩き回った。しかし・・・
「どうなってんだよ・・・まるで人がいねぇ。これじゃ確かめようがねぇ・・・」
今大村が人を探している理由は二つ。一つ目は”こちらで寝れば向こうに戻れるのではないか”ということを実践するためだ。だがいきなり泊めてくれと言っても泊めてもらえるとは考えにくい。そこで元々いた世界のことを話して興味を持ってもらい、あわよくば向こうから泊って行ってくれと提案してもらえればと考えていた。
そして二つ目は純粋にこの世界の住人と話をすることだった。
この世界で初めて会った人間、レイラ。彼女はマンガの世界の人間という感じはしなく、自分と同じ一人の人間だと感じた。だがそれは彼女が主要人物の一人だからかもしれない。
ならば俗にモブと呼ばれる人はどうなのか。決まったことしか話さないのか、それともセリフがないと喋れないのか、そのどちらでもないのか、そう思った瞬間「ん?」少し離れたところに人影のようなものが見えた。
その影は左に曲がって視界から消えた。慌てて駆けていき、その影が曲がったであろう角を曲がると
「何だこれ・・・」思わずそう言ってしまうほどボロい小屋があった。
さっきの人影はここを曲がったはずなのに姿が見えない。とすればここに入って行った可能性が高い。
そう判断した大村はドアノブに手を掛けようとした、その時「何かご用ですかな?」突然後ろから声が聞こえた。
「ッッ!!」ビクッと肩を震わせて慌てて後ろを見る。そこには「・・・神父さん?」見慣れない衣装に身を包んで、いかにもといった感じの老人が立っていた。
「今は違いますがね。これは着慣れているからですよ。」ジロジロと見ていたせいか、こちらが聞きたいことに答えてくれた。あまりに不躾過ぎただろうか、それに居心地が悪くなり思わず苦笑した。
「見慣れない格好をしていますが、あなたはよそから来たのですかな?」
「ええ、まぁ。」そうはぐらかした。まさか目が覚めたら異世界に来ていたなどと言っても信じてもらえないだろうし、あまりそのことは喋らない方がいいだろうと思った。
「そうでしたか。道理でまだここに人がいたわけですね。
「それなんですけど、何で人がいないんですか?少し街を見て回ったのですがあなた以外に会わなくて・・・明らかに異常ですよね?」
「それは・・・おっと、立ち話もなんですからどうぞ中へ。」と先立って中へ案内してくれた。
小屋の中はロウソクの灯りだけでは薄暗かったが、それでもあまり広くない部屋の様子を把握するには十分だった。簡素で必要最低限のものしかなかったが、外見と比べたらずいぶんとしっかりしてるように思う。
「とりあえずこれにお掛けください。」そう言い神父は部屋の中央付近にある椅子に大村を誘導して、自身はテーブルを挟んで反対の椅子に腰かけた。
ありがとうございます、とお礼を言い腰かけ再び部屋を眺めた。
「自己紹介が遅れましたが私はダミルという者です。」
「俺はおお・・・優斗と言います。」いつも通りに名字を名乗ろうとしたが、ダミルの自己紹介で名字がないことを思い出し言い直した。
「ユウトさんですね。先ほどあなたが申されたようにこの街には人がいません。というのもですね・・・」その時ドォーン!と凄まじい轟音が響いて、床や空気をビリビリと鳴らした。
「な、なんですか!?今の音は!」
「ちょうどいいタイミングですね。今のはここから南に行ったところにある荒野で繰り広げられている戦いの音です。」
「戦い!?あんな爆発したみたいな音がここまで響いてくるんですか!?」
そう言ってレイラがこの街も安全とは言えないと言った事を思い出した。
正直何を言っているんだ、と思っていたが今の音が響いてくるあたり嘘ではないし、よほど激しい戦いだということが窺える。
「・・・よかった~、さっさと移動して。」
「む?どういうことですか?」
「ええ、先ほどまであの辺にいたんですよ。あの辺りにいたら流れ弾が飛んできたかもしれないですね。
そう考えたr」
「何ですと!?あそこに行ったんですか!?けがは!?」物凄い剣幕で詰め寄られた。
それにたじろぎながらも「だ、大丈夫ですよ。戦場のド真ん中にいたわけじゃないので、どこもけがはしてないですよ。」と何とか返せた。
「ならよろしいのですが・・・」
「それより街に人がいないのはあれが?」まぁあんな音がいつか分からないタイミングで響いてくるんじゃ普通に生活するのは難しいだろう。だが街の住民が全員いなくなるほどか?と疑問に思った。
「あれも理由の一つではあると思いますが、本当のところは巻き込まれるのを恐れた者と・・・
あとはこの戦いの関係者だからでしょうか。」そう悲しげな顔で語り始めた。
事の発端は一人の少女がある男にぶつかったというどこでもあることから始まった。
その男はゲルグという男でこの地方では悪い噂しか聞かないガーマという集団の一員だった。
その少女の母親が必死に謝っているにも関わらず怒りを収めようとせず、あろうことか泣いている少女に殴りかかろうとしたが、この街の住民の一人が逆に殴ってしまった。
そのことに腹を立てたゲルグは仲間を呼んだ。正確な数は分からなかったらしいが相当数がいたようだ。
なぜそんな大人数が来たかといえば、この男どうやらグループ内でもかなりの力を持ち、ここら一帯を支配している人物のお気に入りらしい。男が呼んだ連中により騒動が大きくなり、ついに負傷者を出す事態になってしまった。
もうだめだ!誰かがそう叫んだ時ある一団が通りかかった。それこそ、ここに来て初めて会話をしたレイラの一団だった。そしてこの騒動を鎮め、このまま潰しに行くと言ったらしい。聞くところによれば彼女らはこれまで、幾度となくガーマと衝突していたらしい。
そしてこの騒動から逃げたガーマの一味が支部のような所へ連絡をし、ついにこれまでにないほど大きく衝突することになった。
「ってことは戦いに巻き込まれるのを恐れて離れたのですか?」ダミルの説明が一区切りついたころを見計らって声をかけた。
「そうなります。あとは・・・関係者だからです。」
「そう、その関係者ってなんですか?この街で起こった騒動のって意味ですか?」
「いや、私が言った関係者とは騒動も含まれていますが・・・この戦いのという意味です。」
「え?ちょ、ちょっと待ってください!民間人が参加してるんですか!?」思わず立ち上がって叫んだ。
戦い慣れてる者同士の戦いに一般人が参戦するのはあまりに無謀すぎるそう思ったのだが、ダミルは力なく首を横に振り「民間人ではなくガーマの一員です」と苦しげに答えた。
「・・・どういうことですか?」訳が分からないといった感じで尋ねた。
「つまりこの街の住人の何人かは連中の一員だったのです。」最後の方は消えそうな声だった。
このアンポ―ジという街は隣のエヌシニ地方に行くにはどうしても通らなければならないらしい。それは地理的に仕方がないことでもあった。この世界、運搬技術や移動手段が元いた世界と比べるととても多いとは言えず、別の地方に行く主な手段はもっぱら船である。だが船が使えるのは海があるところだけで
海がないところは、近くの地方まで船で行きそこから徒歩で向かうしかないのだ。
エヌシニ地方は海がなく岩山などが多く存在する山岳地帯なのだ。なので近くのここエージル地方まで船で来て、徒歩で向かう。だが2つの地方の間には大きな荒野が広がっている。つまりどんな人間でも必然的に準備や体を休めるために立ち寄るのだ。中継地として、旅人や多くの人の疲れを癒してここ、アンポ―ジは栄えている。
そこにガーマが目を付けた。ここを手に入れることができれば莫大な利益になる。だが、ただ攻め入ったのでは多くの妨害や反感がある。つまりこの街を手に入れる大義名分が欲しかったのではないかとダミルは語る。その考えに至った時に、今回の騒動が起こった。
「いや、正確には起こした、と言った方が正しいでしょうか。元々何かと突っかかっていたのですが
この考えが頭から離れず、住民には決して手をだしてはいけないと呼びかけておりました。
ですが度重なる嫌がらせに不満が溜まっていたのでしょう。分かってはいたのですが・・・限界に達したころを見計らったのでしょう・・・上手くしてやられました。」悔しげに言った。
「そのタイミングは連中が送り込んだスパイが出したのでしょう・・・。今でも信じられませんよ、昨日まで笑いあっていたのが連中のスパイだったかもしれないなんて。この街を手に入れる準備は着々と進められていたのでしょう、それに気付けなかった・・・悔やんでも悔やみきれません・・・!」と苦しげだった。
「そう・・・だったんですか・・・」やっとのことでそう絞り出した。うまく声が、言葉が出ない。
あまりに衝撃的過ぎた。大体のことは知っていたが細かいところまでは語られていなかった。というよりはなんだろう。マンガを読んだ時点ではそこまで感情移入できなかったし、どこか他人事のように思えた。だが今目の前で語られるとその状況が想像できる。実際に起こっていることを自身の感情を交えて
話しているのだから、何も思わないはずがない。
加えて、このダミルという人物は読んだ限りでは登場しない、モブにすらなっていない。だが今こうして目の前に存在し、悲痛な面持ちで自分と会話している。この人も間違いなく被害者の一人なのだ。登場しないからといって存在しないわけではない。語られないからといって話がないのではない。
街があれば人がいて、そこにはそれぞれの物語がある。
大村は再び人間を感じた。と同時に疑問が浮かぶ。自分が知っている世界とは、また少し違う。
ならば戦いの結末も変わるのではないか、つまりレイラも死なずに済むのではないか。
「まぁ、こうなってしまった以上は仕方がありません。戦いを止めることはできませんが彼らの勝利を祈ることはできる。彼らの傷を癒す場所を提供するくらいはできる。彼らは私たちの分まで戦ってくれているのです。この街の長として、私まで逃げるわけにはいかないのです。」
「・・・失礼ながらあなたのその行為は自ら戦おうとしない人の言い訳にしか聞こえないのですが。もちろん民間人に戦えとは言いませんが。武器を手に取って相手を倒すことだけが戦うことではないでしょう。この街はあなたたちの街なのでしょう?それを放棄して逃げるって・・・正直考えられませんが。」
「・・・おっしゃるとおりです。我々はこの街の命運を、全てを彼らに託した。ですがそれはただ都合のいいように彼らを使っているだけかもしれません。あなたのおっしゃることはもっともです。」
ですが、そう言って息を吸い「だからこそ、ここは彼らが帰ってくる場所でなくてはならない。そして私は迎えなければならない。今の私にできることは・・・これしかありません。」と俯きながら言った。
「そうですか。失礼なことを言って申し訳ありませんでした。」そう言い考えた。
ここは自分が知っているようで知らない世界、もっといえば知ってるつもりの世界。この世界では自分は存在しない、謂わばイレギュラーな存在だ。自分がここに来たせいで本来あるものが少し変わっているのかもしれない。だがイレギュラーだからこそ、この世界の法則や運命に囚われることなく、何の制約も受けずに行動できるのではないか。自分が思うようにできるのではないか。そう思い「あの、着替えたいのですが着替えってありますか?」自分の考えを実行すべくそう尋ねた。
「ええ、ありますよ。確かにその恰好では目立ちますからね。少しお待ちください。」
そう言って、部屋の隅に置いてある袋から服を取り出して、こんなもので恐縮ですけどと言って渡された
着替えに身を包んだ。
「これなら大丈夫でしょう。サイズはどうですか?」
「少し丈が短いですが・・・、ありがとうございます。」と素直にお礼を述べた。
「もう一つお願いがあるのですが、何か武器になるものはありませんか?」と尋ねた。
だが「武器は・・・ありません。ここには。」と意外な答えが返ってきた。
「なぜですか?もしかしたら連中が来るかもしれないじゃないですか。いくらなんでも不用心過ぎます。
それに連中じゃなくても火事場泥棒みたいなのが来たらどうするんですか?自分の身も守れないじゃな いですか。」
「確かにそうでしょう。ですが使い慣れないものは荷物になるだけです。なにより争いの種にしかなりません。」と静かに、だが説得力のある答えだった。
「だとしても威嚇程度にはなりますよ。こちらが戦意を見せれば逃げるかもしれない。それだけでも持ってる価値はありますよ。」
「ですが私はそういったものを使ったことがありませんし、私よりよっぽど扱いが長けてる人や戦いなれてる人には子供だましにもなりませんよ。それにこんな老いぼれが武器を振りかざしたところで逃げる
ような人はいませんし、第一重いものを持つことはできません。それにあなたは大事なことを忘れています。」そう句切ったあと、一呼吸置いて「私は神に仕える身、自ら争いを招くなどあってはならない。」と力強く言った。
「あっ・・・」そう言えば、とすっかり忘れていたのだが彼は神父なのだ。しかしそれを言われるまで忘れていた。話し方は物腰の柔らかいやさしい神父なのだが、時々らしからぬ雰囲気を出す時があったように思う。もっとも今まで聞いたことが衝撃的すぎて、ただ単に忘れてただけかもしれないが。
「そういえばそうでしたね、失礼しました。」
「別にかまいませんよ。しかしなぜ武器を?失礼ですがあなたも戦うようには見えませんが・・・」
「まぁそうなんですけど、持ってると安心というか。あなたに言わせれば使い慣れてないから役に立ちゃしませんがね。」
「お気持ちは分かりますよ。ですがあなたまで私と同じように考える必要はありません。自分にとって必要なら使えばいい、使えないのであれば使えるようにすればいいだけのことです。ということでここを出てすぐを左に曲がると~」そう言ってどこかまでの道のりを説明し始めた。さっきの話の内容から考えると武器屋かなにかだろうか。
「そして手前から5つ目が武器を扱ってるお店になります。」と説明した。「もちろん今は閉まっていますが。」と付け加えて。
「ですが裏の方に回れば少し見つけにくいですが、地下への入り口がありますのでそこからお入りくださ い。」
「それって地下通路ってことですか?」
「正確には少し違いますがそう考えて問題ありません。」
「そうですか・・・でも良いんですか?そんなことまで教えて。」
「かまいませんよ。私はおつかいを頼むだけですから。」
「おつかい・・・ですか。」武器を取ってくるのがおつかい?かと思ったが
「武器を取りに行くことではありません。」あっさり否定された。
「これくらいの紫の袋を取ってきてほしいのです。」と言って大きさを示した。それはポケットに入りそうな大きさだった。
「なるほど、つまりあくまで自分はそれを取ってくるよう言うのであって、そこでの俺の行動は知るところではないと。」そう確認すると微笑を浮かべた。
地図を描くので少しお待ちください、そういって部屋の隅に置いてある机に向かった。ダミルによれば
何か作業をする時にはもっぱらそちらを使うとのこと。
大村はやることがなかったので腕を組んでこれからのことを考えた。
自分だけが思い通りになるわけではないかもしれないがやってみる価値はある。問題はそこまでどうやって行くかだ。ほとんど片づけてくれているだろうから見つかる可能性は低いだろう。
だが万が一ということもある。ならばやはり目立たずに着きたい。最低でもあの瞬間が変わるのかどうかそれだけでも確認できればいい。
その結果、結末が変わらないのであれば自分のしたことは無意味になる。死んでほしくない、何とかしたいと願った上での行動だったはず。まだ何かできるのだろうか。
――――アンタが教えてくれた本当の理由は何なの?ふとレイラの声が脳裏に響く。
答えは・・・まだ出ない。
しばらくするとダミルから描けましたよ、と声を掛けられ意識をそちらに向ける。
地図を受け取る時に誰もいないと思いますが、「もしいたら見つからないように注意してください」と言われ小屋を出た。
大村はキョロキョロしながら街を歩いた。正直気配とかそういうのは、あまり分からない方なのだが
それでも人の気配を感じることなく武器屋を目指した。
しばらくすると広場が見えてきたので、せっかくだからと足を踏み入れた。
広場と言ってもかなりの広さがあり、位置的に街の中心部になるだろうここには多くの屋台や店がひしめきあっていて、普段ならとても賑やかになることが容易に想像できた。だが今はすべて閉まっていて物音ひとつしない。音といえば、大村の呼吸と心臓の音、あとは時折吹く風くらいで思わず「不気味だ・・・」とつぶやいた。広くて何もなければ寂しげに思うだけだが、多くの多くの物言わぬ屋台が妙な圧迫感や不気味さをかきたてた。
そして大村はこの広場の象徴と思われるオブジェを見た。そのオブジェは寂しげで、この街の住民を待っているように思えた。このオブジェは広場の中心にあり、ここから街が広がってるような気がした。
ぼんやりと眺めると不意に違和感を感じる。何がというわけではないが何かが違うと。
「気のせいだよな・・・」そう言って踵を返し、当初の目的の武器屋に向かった。
「えっと・・・二つ目を曲がって手前から5つ目・・・ここか。鍵は・・・やっぱり閉まってるか。
しかしこの地図正確だな、一度も迷わなかったぞ。」そうダミルから渡された地図はあの短時間で描いたとは思えないほどだった。通りの特徴や目印となる建物が丁寧に描かれていた。それはこの街をよく知らなければできないことだ。俺だったらできないな、とつぶやきながら裏口に回る。
「地下通路の入り口・・・ねぇぞ・・・」分かりにくいとはいわれてたけどなぁ、とぼやきながら探す。
しばらくうろうろしてたが見つからない。
「ここまで正確に地図描ける人がなんでここだけケチったんだよ・・・」と言いながら今度は趣向を変えて箱や鉢植え、樽などをどかし始めた。何個目かの樽をどかしたとき「これか?」と入り口らしきものを見つけた。
「これじゃ描こうにも描けねぇよなぁ。」と言いながら手を掛ける。
「お?以外に軽い。」と思いながら開けた。
「暗ぇ・・・底が見えねぇ。」とつぶやきながら覗き込んだ。
あ!そういえば、と言いながらそばに置いた袋を漁る。実は小屋を出る時になにかあると困るからと色々持たされたのだ。
その中から目当てのものを出して「これでどれだけ明るくなるか知らないけど。」とぶつくさ言いながらランプに火を灯した。
「・・・怖ぇけど、行くしかねぇよな・・・」と意を決して階段を降り始めた。
足元に気を付けながらゆっくりと降りる。はっきりいって狭い。人一人がやっと通れるぐらいですれ違うことなんてできない。ここは非常口の役割をしてるというが、こんなんで何かあった時逃げられんのかよ
まぁ地下に道を造ったのはいいが、と心の中で言いながら階段を下りるが、すぐに下に着いた。思った以上に短かった。ランプの明かりではそこまで先を照らすことはできないが、それでもかなり続いていることは分かった。その途中の壁にはいくつも梯子がかかっていた。
「えーっと階段下りてすぐの梯子だったよな。」と言って一番近くにある梯子に手をかけた。
この梯子も長くなく、5段目に差し掛かったところで、親指にかけていたランプを頭上に掲げて上を照らし、入り口らしき扉を発見した。
そしてランプの取っ手を口にくわえて左手でしっかり梯子を握り、レバーを回しながら押し上げた。
思った以上に勢いがついていたのか扉は簡単に持ち上がって開き、ドンッ!とすさまじい音を立てて床にうちつけた。
「やっべ、壊しちゃったかな・・・」と言いながら急いで這い出て様子を見た。床には少し傷をつけてしまったようだが、思ったより被害が少なく胸を撫で下ろした。
そうしてきょろきょろと周りを見始めた。当然ながら無人で、時計の針が時を刻む音だけが響いていた。
それに顔を強張らせながらもそこらにあるものを見始めた。
「俺って今空き巣じゃね?」ふと今更ながらのことを言いながら動きを止めた。誰もいない店内をじっくり見て回る、いわゆる物色だ。そのことを少し考えたが、何事もなかったかのようにすぐにまた手当り次第に手に取っていく。
当然ながら大村の本来の世界ではこういったところは無い。あってもおもちゃの剣が樽に入っていたり
無造作に積まれたり、壁に掛かっているという感じなのだが、今ここにあるのは全て本物なのだ。
これで人の命が奪えてしまう、そのことをどこか他人事のような、ぼんやりと思いながらも若干の恐怖を感じて、手近にあった武器を手に取ってみる。鉄の重さがずっしりと伝わった。
「飛び道具はないのかな・・・みんな近接だけ・・・ってわけでもないのか。」と言いながら鎖鎌の様なものを手に取る。だが今まで見たものはどれもあまり良いと思えない。
使わないにせよ、元の世界では手にすることはできないのだから自分が良いと思えるもの、格好いいものが欲しいと思っても仕方がないだろう。
そうしてさらに物色してるとある一点で目が止まった。明らかに他とは違う異質の雰囲気が感じ取れた。
なぜ今まで気づかなかったのだろう。この前は何度も通ったはずなのに。まるで自分の意識から外されていたような感じで・・・。
そしてそれに気づいた時空気が変わった。この剣は自分の意思を持っている妖刀なのかな、と深く考えずに手に取ってみた。
すると手には確かな重みがあったが、今までの武器に感じていた違和感や嫌になるくらいの重さがなく
むしろ心地いい重みだった。そうして柄に手をかけ鞘から一気に抜き放った。
その剣からはわずかながら、だが強い威圧感と存在感を放っていた。
次に手元を見る。初めて持ったはずなのに不思議と手に馴染む感覚があった。まるで何年も使っていたかのように。
まだ他にもあったのだが、一目見たときから無意識に決めていたようでこの剣を選んだ。
そしてそばにあった剣ホルダーに差し、腰に巻いた。
だがこれでは来た道を通れないと思いだし苦笑しながら腰から外し手に取り、再び地下通路へ潜り武器屋を後にした。
「ただいま戻りました・・・」控えめに声をかけながら扉を開けた。
「お帰りなさい。どうでした?」
「ええ、これを誰かが見てたら間違いなく通報されるなって思いましたね。」そう言いながら腰に差してある剣を見て、道中や武器屋での出来事や感じたことを話しながら椅子に腰かけた。
「それは大変でしたね、お疲れ様でした。」
「よしてくださいよ・・・」そう言って少し考えた。
「どうしましたか?」それを不審に思ったのだろうか声をかけられた。
「あの・・・生きるってなんでしょうね。」床の木目を眺めながら尋ねた。
「ふぅむ・・・それはまた難しいことをお聞きしますな。どうしてまた?」
「街を歩いてる時に思ったんですけど・・・」とテーブルに置いた手を見つめながら先ほど話さなかったことを話し始めた。
「・・・物音が自分以外にせず、あまりに静かすぎるため生が感じられなかったと?」
「他にもありますが大体そんな感じです。なんて言うか・・・家とか銅像って喋らないじゃないですか。
気配もないし。それが数えきれないほど自分の周りを囲んでると急に思ったんですよ。まるでこの世界から一人取り残されてるような。死んだらこんな感じなのかなって・・・
なら生きるって何だろうって思っちゃって。」そう言って空を見た。
「・・・人それぞれ考え方や答えはありますが、私の意見を述べさせていただいても?」
「お願いします。」そう返すのを確認すると話し始めた。
「私もあなたと同じぐらいの時に似たようなことを考えていました。私が信仰しているヒューズム教は
人としてのあり方を探求したマンテッドという人物を崇めて、日々どうしたら良いか、どうするべきなのかということを考えてます。」
「・・・なんか哲学者みたいですね。」
「よく言われますよ。」そう笑って「最近になってようやく私なりの答えを出せました。それは・・・いかに後悔しないかです。」と言った。
「後悔しないか・・・」
「はい。例えば私のように歳を取ると、あれをやっておけばよかったとその時のことばかり頭をよぎります。それを今やろうとしても今の私にはできません。体が動きませんから。」
「・・・でもやらなきゃよかったって思うこともありますよね?」そう、やるかやらないかでいったらやった方がいいに決まってる。だけどそうは言い切れない、全部が全部そうではないのだ。
やって分かることはあっても、やらないでわかることはそうはない。もちろん少なからず存在するが。
そう思い聞いたのだが「その通りです。」とあっさり肯定した。
「へ?」思わずまぬけな声が出てしまった。
「今でこそ笑い話にできるのですが、実は私・・・不真面目だったんですよ。」そう言って自身の過去を語りだした。
「ここにも学校があるんですよ。授業をどれだけさぼったか分かりません。そうして友人とあちこちに出かけました。両親に対する罪悪感はもちろんありました、お金を払って通わせてくれるのに。それを踏みにじるも同然のことをしてたのです。でもそれを知ることは当分なかったんですよ。学校は生徒の意思を尊重させる。ですが私には自分でやるからにはその責任は自分で取れ、と言われて放置されてるだけのような気がしました。向こうからしてみれば金を落としてくれるわけですから文句は出ませんよ。優秀な生徒が優秀な学校に行って、自分たちの名前を広めてくれればいいのですから。私のような生徒はどうでもよかったのですよ。
意欲はあったんですよ。新しい学期が始まるたびに今回はがんばろう、今回はしっかりやろうと。
でもそれが続くのはせいぜい最初の一月程度。一度休んでしまうと自然、教室から足が遠くなる。
どうしても行くことができない。そして学校に行くと家を出たにも関わらず学校に行かず、ただ一日無駄に過ごして家に帰る。そうして寝る時に後悔するのですよ。なんで行かなかったんだろうってね。
一回ぐらいであれば何ともないのですが、二回三回と続くと意欲がなくなって、行かないことが癖に、普通になってしまう。行きたい、行かなくちゃならない、でも行く勇気がない。そうして無限ループのような日々を繰り返していた時・・・先生に出会ったのです。」そう言って少し上を見上げた。
それは遠き日の出来事を思い出しているのだろう。
「一般的にサボるという行為は決してしてはいけません。サボったらどうなるか分からない人なんていませんからね。ですがその時間を何に使うかでまた変わると思います。私はサボったおかげで先生に出会えたと言っても過言ではありません。そしてこの道に入り、従事することもなかったでしょう。
逆にサボらなければ私は普通に学校に通って良くも悪くもない成績をとって、何の役に立つか分からない勉強をして、普通に卒業して普通に働いてたと思います。」そこで一度言葉を切って
「話を戻しますがやらなきゃよかったは一時的なものです。時間が経てば笑い話にできる。
ですが、やればよかったは消えることはありません。一時忘れたとしても、ふとした時に思い出すものです。」と続けた。
「もちろんやらなければよかったって言いながら今も続けてる人は、最後にそれでよかったと思えればそれでいいんじゃないでしょうか。」と若干無責任な発言を加えた。
「後悔は生きていく上では付き物です。ですがそれを後悔ととるか、経験になったととるかで人生は大きく変わると思います。そして死を迎えるその瞬間、今まで後悔としかとっていなくても、それをひっくるめて良い人生だったと、笑えればいいのではないでしょうか。」
「最期に笑えれば良い人生・・・」
「・・・あなたは何か大きな悩みを抱えてるように見えます。それはあなたが言った疑問に関係があること。正確には分かりませんがこのままではあなた・・・後悔しますよ。」まぁそれでも考え方でどうとでもなりますがと続けた。
自分はこのままでいいのだろうか?後悔しないだろうか?このままで最期に笑えるだろうか?
そっと目をつぶる。浮かんだのは死を宣告し、それでも運命に従うことを選んだ人の姿だった。
「・・・もし自分の知ってる人がこれから死ぬと分かったら、あなたはどうしますか?」そう言ってレイラのことを話し始めた。
「なるほど・・・・それは確かに難しいですね。考え方の違い、捉え方の差だけですむほど単純な話ではないですなぁ・・・」
そう言って考え込む。二人の間には重苦しい空気が漂っていた。
やがてその空気を断ち切るかのように
「繰り返すようで申し訳ないのですが、なぜあなたがその人に伝えたか分かりませんか?」と切り出した。
「・・・分かっていたらここであなたに話してませんよ。」
「あなたはその人に死んでほしくないからそのことを伝えた。だがその人には逃げろと言われているようだった。」そうですね、と確認すると力なくうなづいた。
「ならばあなたが嫌いな、憎んでる相手ならどうですか?」
「・・・たぶん何も言いません。言ったとしても最低限のことしか。」
「ではその人のことはどう見てますか?」
「さっきも言いましたけど訳あって俺は彼女のことを知ってます。所々違うところはありましたが、ほとんど思ったとおりでした。」
「ふぅむ・・・あなたが自分で出さなければならないのですが・・・今回は特別です。」とウインクした。
「あなたは・・・その人が好きですね?だからこそ死んでほしくなかった。その結果遠回しながら逃げろと言ってしまった。」要は思うが故です、と続けた。
それにハッとなった。
「思うが故・・・でもはっきり言われると恥ずかしいですね。(まぁ妄想してたぐらいだしなぁ)」
「でもそれはその彼女だから細かく説明したんでしょう?」
「まぁそうですね。」あいまいに答える。
「では次になぜあなたはその剣を選んだのですか?他にもあったでしょうに。」
「これもさっき言いましたけどなぜか手に馴染んで、まるで俺が求めてるみたいだったから・・・だと思いますけど。」
「その剣ではありませんがその種類は、言い伝えでは大事な何かを護るための誓いの剣だと言われています。余計な装飾がないシンプルなデザインは飾りっ気のない真っ直ぐな、純粋な想い、そして刃は眼前に立ちふさがる敵を切り伏せ、己が道を進む、そして何ものにもひれ伏さない強靭な意志を表してると言われてます。あなたはやりたいことがある、でも今の自分にはできないだからこそ、それを補えるできるようにする為の剣を本能で選んだのではないですか?」
「想い・・・護る・・・誓い・・・」
「あなたの望みはなんですか?願いは?」
「俺の望み・・・」少し考えて「俺の望み・・・レイラを死なせない・・・護ること・・・」とつぶやいた。
「それこそがあなたの言う問いに対する答えではないですか?」そう満足げに笑った。
大村はハッ!としてダミルを見た。
そうだ、そうだったのだ。死ぬと伝えたのは死なせたくなかったから、それに変わりはない。
だがまだ答えが出てないから逃げろと言ってしまったのだろう。
だが本当は選ばせたかったからだ。死の宣告をしてもなお行くのか、それとも別の道を探るのか・・・
どちらを選んでも自分が護れるようにしたい、だが今の状態ではできない。だからこそ武器を手に入れようと行動したのだ。そして今、自分の手元にある、護れる剣が。
心の中が一気に晴れていく気がした。
「さて、私は少し教会に行って祈りを捧げてきます。」そう言って立ち上がった。
「あ、あの・・・」
「そうそう、しばらくここには戻ってきませんから、あなたが出るとしても止めることはできませんなぁ。」そう言いながら扉に歩き始める。
「あ・・・」再び声を掛けようとしたところで口をつぐむ。今声を掛けたらダミルの思いが無駄になってしまうと思い、その背中に深々と頭を下げた。
そうして手を掛けたところで「あなたは・・・何にでもなれる。その可能性を秘めています。」と振り向かずにつぶやき小屋を出ていった。そのつぶやきは大村の耳に届いたのだろうか。
ダミルが出ていったあと少し瞑想をした。
今こそ実行に移す時「俺は・・・レイラを・・・護る!」決意を言葉に出し小屋を飛び出した。
いかがでしたでしょうか?訳が分からないと思いますが、今回は長いプロローグと思っていただければ幸いです。
次回から本編みたいな感じになると思うので、その際にはよろしくお願いします!




