新たなる世界で
今回から既存の作品を参考にした物語を展開していきたいと思っています。
元ネタを予想してみるという楽しみもできるのではないかと思います。
尚、原作者様、並びに関係各所の皆様につきましては、ジョークとして軽く流していただければ幸いです。
四月も終わりに近づいたある穏やかな昼下がり、山道を歩き、山の上にある学校の前に、その学校のものであろう制服を着た一人の男子が立っていた。
名前は大村優斗。今年春ここ、私立聖白凪学園に入学してきた他の生徒たちから約一ヵ月遅れでやってきた。いわゆる転校生というやつだ。
本来であれば朝少し早くに来て職員室に寄り、担任と共に自分のクラスへ行くはずだったのだが、どうしても都合がつかず、昼頃に到着するという連絡を入れて、現在に至る。
「思ったより遅くなっちまったなぁ~」そうひとり言を言いながら、視線を校舎に向ける。
一般的な学校の校舎と見た目は似たような感じだが、背後に聳える山がこちらを圧倒するようで、それに伴いどこか厳格な雰囲気がある。
続いて表札に目を向ける。そこには金色の文字で『私立聖白凪学園』と刻まれており、これだけでも妙な威圧感があった。
少し古ぼけた感じが歴史を感じさせ、それだけ見てもここが普通の学校ではないことを感じさせるようだ。
それに何より驚いたのが目の前に立っている校門の扉の高さ、軽く優斗の身長の倍はありそうだ。
とりあえずいつまでもここに突っ立っているわけにもいかないので、門に近づくが、何かおかしい。
なんと扉が閉まっているではないか。鉄格子の扉は少しの隙間もなくぴったりと閉められており、どう考えても開かないことは見ただけでも判った。
「あれ…?オレ昼頃来るって言ったよな…?」にも関わらず門が閉められているとは不親切だと感じるが、防犯上の観点や、ここの場所的なことも考えたら当然なのかなと思い、どこか入れるところがないか周りを歩き、探し始めた。しかし―――。
「無理だ」すぐにその考えは改めざるを得なかった。
周囲をやや高い塀で囲まれているので、そこを上って中に入るというのはかなりの無理がある。
やってできないではないだろうが、それをやってしまえばただの不法侵入になり、もし見つかった場合弁明のしようもない。
仮に上れたとしても、さらにそこから柵があるので、それを越えなければならない。どこの要塞だ、ここは。
中の様子を窺おうにも、丁度目線の高さまであるので、ジャンプしない限り見えない。一、二回なら問題ないそれも何回もやっていれば、それもやはり怪しい。中に入る前に警察のご厄介になりかねない。
周囲をうろついているよりかは、校門の前に立っていた方が見つけられやすいし、声をかけられやすい、何より怪しまれないだろうと考え、再び戻ってきた。(というか他に入れそうな場所が見つからなかった&広かったので途中で引き返してきただけだが)
「う~ん…どうしようかな…」ここで大声を上げれば誰か来てくれるだろうが、そんな勇気も度胸もない。
かといってやはりこのままここにいるわけにもいかない。
何とか中に入って事情を説明し、新たな学園生活をスタートさせなくてはならない。
しばし思案に暮れた後、校門の横にある柱を使えば上れるだろうと思い、校門を乗り越えるべく手を掛けようとした。すると
バチッ!!何かの刺激が手に伝わり思わず手を引っ込める。一瞬静電気かと思ったが、少し目を凝らして、静電気ならどれだけよかったかと思う。
通常の状態では見えにくいが、今は手に触れたことにより、衝撃が加えられ、薄緑色の何かの姿が見えた。
「結界か…」手と門を交互に見やり呟く。
これなら確かにそう簡単には侵入できない。実に魔法学校らしい警備だ。しかしこの状況においては厄介極まりない。つくづくしっかりしてるというか面倒だ。
少し観察してタネや構造は判ったが、結界は外部からの侵入を防ぎ、中のものを守るためにあり、術者や内部者でなければ解除することができない。
結界が張られているから触れることはできず、人がいないから解除してもらうこともできない。ならば残された方法はただ一つ。
「本当はもっと平和的にしたかったんだけどなぁ~。ま、しょうがねぇか。それに来るって言ってあんのに閉めてんだからそっちも悪いってことで、恨まないでくれよ」
誰に言うでもなく、まるで自分に言い聞かせるように言う。
門を見上げる。閉ざされたそれは外敵を容赦なく跳ね返す番人のようにも見えた。それに挑戦するような気がして、少し胸が昂る。
右手を出し、何か力が集まりだす。そして
「フッ!」
グワァオン!!凄まじい轟音を上げた。
「な、なに!?」一人の女子生徒が声を上げた。いや、教室全体が騒然となっている。
何かが壊れたような、そんな音と衝撃だった。
「今すごい音したよね…?」
「う、うん…。何…?今の…」
「分かんないけど窓が揺れたよ」そんな会話がなされる一方
「暴発やないのか?」
「ありえなくはないだろうけど、だとしたらどんだけ派手にやったんだよ」
「よっぽどのヘタクソやろ」
「お前みたいな?」
「そうそう、まだコントロールが上手くいかなくて、気合入れないと発動できない……って誰がヘタクソじゃ!」こんな会話もされている。
「みんな大丈夫か!?」混乱状態の教室に、一人の男性教諭が飛び込んでくる。その表情は焦りと心配、緊張が入り交じっている。
「柊先生!何ですか今の!?」
「分からん、だがただの暴発じゃなさそうだ。詳しいことは分からないから君たちに教えられることはないんだが、とにかく今は全員教室に入ってなるべく外に出ないように!知り合いにもそう伝えてくれ!」
そう言うと、慌ただしく教室を飛び出していった。
「…つまりただ事じゃないってこと?」
「そうなるね…」不安げな面持ちで窓の外を見やった。
もうもうと煙が立ち込める中を平然と歩いて優斗が姿を現した。
「ちょっと派手にやりすぎたかなぁ~」その声はあまり反省しているようには感じられない。
とりあえず中に入ることはできたものの、かなりの騒ぎになっているようだ。
ま、そりゃそうか。
自分のしたことの重大さをあまり理解してないように、あっけらかんとした様子で歩いていく。すると先ほどの音を聞いて、生徒たちが集まってきた。
「まずいな…、このままじゃバレる」すぐにその場を後にするため動き出そうとしたが
『全校生徒諸君に告ぐ。先ほどの音を聞いたと思うが、何が起こっているか現在調査中だ。危険だから現場付近には近づかないよう、生徒諸君は落ち着いて速やかに各教室に戻り、担当教員の指示があるまで待機。詳しいことが判明次第追って放送する。尚、もし不審人物を見かけた場合は手を出さず、身を隠し、すぐに近くの教員まで知らせること。
先生方は直ちに現場に急行し、事件解決に当たってください』
放送が終わると、一斉にこちらに駆け寄ってくる足音や姿が見えた。
先生方が解決しやすいように情報を集めたり、純粋な探求心や事件解決に努めるような正義感の持ち主は極わずかで、ほとんどは見つかる前に少しでも情報を仕入れたり、怖いもの見たさのような好奇心や野次馬、単なる興味本位で来ているのだろう。
そうなると結構マズい。見つかる前に急いで立ち去らなければ。
しかしどこに?そんなことを考えていると
「コラー!君たち!早く教室に戻りなさい!」その生徒たちの後ろから一人の教員がやってきて、呼びかける。
「何が起こってるか分からないんだから早く戻りなさい!」
「でも先生!俺たちだってここの一員で少しはできるつもりですから、役に立ちますよ!」
「そうですよ!私たちだって知りたいですし、それに少しぐらいいいじゃないですか!」
「これが長引けば授業なくなるかもしれないし」
「だな」
「今聞き捨てならないことが聞こえたような気がしたが…、まぁいい。気持ちは分かるが今は緊急事態なんだ!君たちの身の安全が第一だ。分かったら早く戻りなさい。何か分かり次第放送を入れるから」
そうやって教師にとっては当たり前のことだが、優斗にとっては足止めに等しい行為なので、その間に反対方向に走り、人目につきにくい物陰に身を潜めた。
そして未だ渋る生徒たちを押しとどめる後ろで、集まってきた教員たちが現場の確認をし始めた。
「見て下さい、結界ごと門が…」
「開ければ解除される仕組みだからな。ただしそれは内側からだが」
「外から強引に突破するとはこういうことですね」
「しかし…」
「ええ…、凄まじい力ですね。特区外からの攻撃であれを突破するとは…」
「少なくともゴールドクラスではある…ということでしょうな」
「そうですね。いずれにせよ正規の方法で入らなかったばかりか、ここまでのことをしたのですから」
「侵入者、とみて間違いないでしょう」
「どうなってるんだろうね…」
「まだ何も情報が入ってきてないからね…」
昼休み中ということもあり、緩やかな時間を過ごしていたが、それは突如鳴り響いた轟音によって終わりを告げた。
明らかに学校全体の空気が緊張感で張りつめている。つい5分前までの時間が嘘のようだ。生徒たちの表情も不安でいっぱいだ。
このクラスは担任が事件解決に駆り出されている為、生徒たちだけの空間ということもあり、ザワついて、情報が入って来ないせいもあって、様々な憶測が飛び交ったり、目を盗んで情報収集に当たっている生徒もいた。
そんな時、その内の一人が戻ってきた。
「なんか聞いた話によると校門が破壊されたらしい!」
「肛門が!?誰のや!?」
「そっちじゃねぇーよ!小学生かお前は!そうじゃなくて校門!門!」
「ああ、さよか…。でどないしたって?」
「詳しいことは分からないけど、何者かが侵入したとかで今先生たちが学校中を走り回ってるってよ」
「ほー、それは随分な奴が来たもんや。ここがどういうところか分からんアホなのか」
「とも言い切れないぜ。結界が破壊されたって言ってたし」
「結界?そんなもんあったんかい?」
「らしい。ま、その方がぽくていいんじゃねぇの?」
「それもそうやな。多少はやりよる言うても捕まるのはまぁ、時間の問題やろ」
「だな。なにせウチの担任が出張ってるからな」
「気楽でいいねぇ、男子って」
声を上げて笑い合う男子生徒たちを呆れながら、やや冷やかな目で見る。
「でもそうなってくれなきゃ困るでしょ?」
「それはそうだけどさ、でも滅多にないことだから簡単に決着が着くのもおもしろくないかなぁーって」
「そんな訳ないじゃん!」机を叩いて思わず立ち上がる。
少し怒っているようで、先ほどの発言をした女子生徒を睨む。それに驚きつつも
「あ~そうだね。愛花は早く終わってほしいよね」そう言って愛花と呼んだ友人を宥める。
「私じゃなくてもそうでしょ!誰か分からないけどこんなことは早く終わった方がいいに決まってるでしょ!怖くてしょうがないよ!」
「そうだねゴメン。アタシが悪かった」
「もう…久美はそれでいいかもしれないけど、もしここに来たら大変でしょ?」
「あぁ…そうだね。さっきの話が本当なら勝てる気はしないかな」
「二人とも止めて、フラグが立ってる」
「え?」「何の?」
その時近くのドアが開いた。それに堪らず飛び上がる三人。
まさか、そんな、本当に?
しかし「ん?何?どうした?何そんなにびっくりしてんの?」目をぱちくりさせて、心底不思議そうな顔をする一人の男子生徒。
「っ、津山!!おどかさないでよ!」
「そ、そうだよ!びっくりして心臓止まるかと思ったよ!」
二人に詰め寄られタジタジになり、何がどうなってるかさっぱり分からない様子だが
「え~っと…何だかよく分からないけどとりあえず…ゴメン」そう言わざるを得なかった。
物陰に潜んでいた優斗は、周りの様子を窺いながら移動していた。その様はどう見ても不審者そのもので、不自然極まりなく、もし見つかったら問答無用で即刻学校中を敵に回すだろう。
誰もいなければ見つからないが、今は生徒だけでなく、教師も歩き回っている。
特に生徒は戻れと言われても簡単には引き下がらないだろう。現にどこからか揉めてる声がする。
まるでどこぞのスパイや潜入作戦を行っている諜報員のようだな。
堂々としている方が怪しまれない、周りと違うことをしている方が目立つ。
潜入の基本は見つからないことではなく、如何にして周囲に同化するかだ、みたいなことをどっかで聞いた気がする。
却ってコソコソしてる方が怪しまれるか、そう考えると、それでも慎重に辺りを見回し、人影がないことを確認すると、その場を後にした。
「ここの生徒なんだから、堂々としてる方が自然だったよな…」少し自分の行動を反省する。
しかし心臓はバクバクで、見つかったらどうしようという不安でいっぱいだ。
堂々としようとすればするほど不自然に思えて、自分が今どんな風に見られているか心配だった。
それでもなるべく見つからないようにしているので、まだ誰ともすれ違っていないから、その心配も今のところはいらないのかもしれない。
どこに向かおうか、とりあえず職員室に向かった方がいいか。しかし場所が分からない、ならば訊けばいいか、幸いにも人は大勢いる。そのほとんどがオレを捕まえようとしてるんだけど。
この状況で話しかけるのは難易度が高い、できれば嫌だ。けど分からないので仕方がない。それでも生徒に関しては興味本位、上手くいけば匿ってくれるかもしれない、そんな期待を抱き、適当に声をかけようと歩き回った。そしてそれはものの数秒後見事に砕かれることになる。
「ん?おい!そこの君!」不意に呼び止められ、思わず振り向いた。
スーツを着ている為、すぐに教師だと分かった。
(マズいな…)内心そう思ったがここで逃げ出しては特定される。何より不自然だろう。
「オレですか?」
「ああ、早く教室に戻りなさい」
「…何かあったんですか?妙に騒がしいですけど」
「たった今ここに正門を破壊して侵入者が入ったようなんだ。犯人は不明、目的も分からず、現在行方を追っているが、校内にいるということは間違いない。
正門に張られた結界をたやすく突破したのだから、君たち生徒では手に余る。
そういう訳で外に出ているのは危険だから、早く自分の教室に戻りなさい」
「いや~、それが分かんなくて」それを聞くと、一瞬怪訝そうな表情になる。
「…もしかして一年生か?」
「そうです。だから勝手が分からなくて」
「分かった、じゃあ名前を教えてくれ。問い合わせてみよう」
「大村優斗です」
「オオムラユウトね、それじゃあ少し待っててくれ」
もう一度優斗を見る。
(そういうこともある…か…?)
懐から携帯を取り出し、どこかに連絡を入れ、やがてつながったのか何か話し始める。
一方優斗は内心じゃなくても冷や汗を掻いて、拭っていた。
自分で引き起こしたくせに、よくもまぁぬけぬけとあんなこと言えたもんだ。しかし却って教師と会えた方がよかったかもしれない。
これでようやくこの騒ぎから抜け出せて、自分の教室に向かえるというもの、そう考えると少し気が楽になる。
「え?そんなはずはありません。現に目の前に………解りました。ありがとうございます」
そう言って電話を切ったが、何やら困惑している様子だった。
何か問題があったのか?
「どうしました?」
「…今事務課に問い合わせてみたんだが、オオムラユウトという生徒は名簿に載っていないそうだ」
「え?」
「一年だけじゃなく、全学年の名簿を確認してもらったが、どこにもなかったそうだ。一体どういうことなんだ?」
「オレに言われても…」むしろこっちが聞きたい。
「これを聞いて一つの仮説が浮かんだ。犯人は単独か複数かも分からない。だが単独とは考えにくい、更に大人数であれば目につく、となれば少人数だろうと。そして見つからないのではなく、気づかない、うまく溶け込んでいるのではないかということだ。お前みたいにな」
「……は?」
「おかしいとは思った。いくら一年とはいえ、そしてこの非常事態とはいえ、自分のクラスも分からないなんてある訳がない。それはここの生徒ではない、今この時点においては犯人、もしくはその一味ということを意味する」
「ちょ、ちょっと待ってください!ムチャクチャっすよ!
聞いてないですか?今日からここに通うことになって、昼頃に来るって!」
「土壇場の嘘にしても随分お粗末だな。もう少しマシな嘘を吐け」
「本当ですって!信じて下さいよ!」
「外見は変えられても中身はそうはいかん。どのみち縛り上げれば本当の事が分かるだろう。ちょっと来てもらおうか、嫌だと言うなら力づくでな」
「~~~~~~~~~くそっ!!」
このままではマズい、そう判断し、即座に身を翻して逃走を図る。
「待て!逃がさんぞ侵入者!」叫ぶと腕を振りかざした。
すると優斗の頭上から氷柱が降り注いだ。
「おうわっ!!」間一髪避けると、振り向くことなく逃走した。
「ハァ、ハァ、ハァ…!」敷地内の配置は分からないが、なるべく人気の少ない場所を心がけ、少しでも距離を開けようとひた走る。
息が上がり始めるが構っていられない。捕まったらどうなるか容易に想像できる。
「なんでこうなるんだよ…!」そんな悪態を吐きながら角を曲がると
「ん?」
「え?おわっ!?」逃げるのに夢中で前方に注意を払っておらず、その結果人の存在に気づかず、ぶつかってしまった。
「わりぃ!大丈夫か!?」よろけただけで、見たところケガはなさそうだが、思いっきりぶつかってしまった。
「ああ、…チッ、気をつけろ」その生徒は冷めた目で優斗を一瞥する。
少々機嫌が悪いように見えるが、急にぶつかってこられたのだから仕方がないだろう。むしろこの程度で済んでラッキーだ。
「すまん!急いでたもんだからつい…!」
「何をそんなに…、ああ、例の騒ぎか」
「やっぱり知ってんのか?」
「こんだけ騒いでりゃどんなバカでも知ってるだろ。侵入者を探してんのかもしれねぇが、止めておけ、一年じゃケガじゃ済まねぇぜ」
「え?」なんでオレが一年だって…。
「俺を誰だか分かってねぇみたいだからな。俺を知ってりゃそんな口きけないだろうからな」
「ってことは上級生か。すいません、頭が回ってなくて。名前いいっすか?」
「…その内分かるだろうからな。しかし中々おもしろいことになっているようだが、大した興味はないな。まぁ、ふける理由程度にはなるか。つーわけで大人しく戻った方が賢明だぜ?お前の事なんざどうでもいいが、どこに潜んでるか分からねぇんだからな」
「あ、それオレです。その侵入者」
「なに?」途端に表情が変わる。
先ほどまでの冷めた瞳の中に、好戦の色が浮かぶ。まるで獲物を見つけた獣のようだ。
「あ」ヤベ…、つい口が滑った。今更訂正は…できそうもないな。
「へぇ…お前がねぇ…」ジリジリと距離を詰めてくる。一歩踏み出すごとに威圧感が増しているようだ。
「とてもそうは見えねぇが…、まぁ退屈しのぎには丁度いいか」
「できれば穏便に済ませていただきたいんですけど…」渇いた笑いになり、少しずつ後ずさる。
「嘘だとしてもそう言えるってこたぁ、ちったぁ腕に覚えがあんだろ?一年じゃたかが知れてるけどな!」そう言うや掌を前につきだし、雷撃を発射した。
「おわっ!!」それを飛び退いて避ける。
躱した雷撃は立っていた場所を通過し、地面へ着弾した。すると小規模ながら爆発が起こり、技の威力を物語る。
「危ないな!何するんすか!?」
「これを避けれるってことはただの雑魚じゃねぇな!久しぶりのマシな相手だ!」
次の攻撃を行うため、力を込め始める。それに対処すべく、いつでも動けるよう注意を払っていると
「井淵!!そいつを捕まえろ!」後方から第三者の声が響いた。
「げっ!さっきの…」
ヤバい、挟まれた。
新たな人間の登場、戦闘により、先ほどまでの状況が頭から消え失せていた。敵は一人ではなかった…。
「チッ、柊か…。お前も運がねぇな、よりによってアイツに見つかるとはよ」そう言うと、掌に集まっていた力を収める。
「行け、お前を捕まえてもいいんだが、アイツの指示に従ったみてぇで胸クソ悪ぃからよ」
「…いいんすか?一応オレ、侵入者っすよ?」
「目障りになるなら倒すが、所詮暇つぶしだからな。方法はいくらでもある」
「……じゃあ失礼します」そう返し、傍を通り抜けるも、訝し気な目は向けていた。
「柊には気を付けた方がいいぜ。せいぜい目を付けられないようにしな」
「え?」思わず振り向いた。
確かに鬼のような表情をしているあれに目を付けられたらひとたまりも…って、もう付けられてるか。
そうして再び逃亡した。
優斗が走り去った数十秒後、先ほど優斗が立っていた場所に今度は柊が立つ。
「井淵っ!」優斗と先ほどまで話していた、井淵と呼ぶ生徒を怒鳴る。
息は当然切れていて、そのせいもあってか、かなり険しい表情をしている。
「ああ、柊センセイ。どうしたんすか?」それに嫌味ったらしく答える。
「何故足止めしておかなかった!ヤツは侵入者なんだぞ!」
「足止めならしてましたよ。それをアイツが振りきっただけっす」
「な…!」
「それに生徒を守るのが教師の役目だろ?その生徒に捕まえろって…、大丈夫っすか?」
「くっ…!」それには返す言葉がないのか、悔しそうに顔を歪める。
だが本来の目的を思い出し、ここでこうしていても意味がないと分かると「と、とにかく!もし見つけたら俺じゃなくてもいいから報告しろよ!」そう釘を刺すと優斗を追いかけた。
その背を無言で見送ると、口元に笑みを浮かべ、その場を去った。
敷地内を逃げ回っている優斗は、とにかくやり過ごそうと考え、身を隠せる場所を探していた。しかし、外でそれを見つけるのは難しい。
そうこうしている内に背後から再びあの声が響いてきた。
「ちっ!これしかねぇか!?」近くの窓に手を掛けると、一気に身を滑り込ませ、校舎内に入った。
生徒が近くにいるのか少しザワついている様子が伝わってくる。ここがどこかは分からないが、とりあえずここにはいない方がいいだろう。
もたもたしてると追いつかれる。
幸い校舎内には教室が多いため、隠れ場所には困らないだろう。外よりかは幾分マシなはずだ。今後の事はその時考えるか。
そして魔の手から逃れるように、荒い息を整える間もなく、走り始め、階段を上り、近くにあった教室のドアを開けて中に入った。
教室内はドアを開けた音に注意を引きつけられ、突如入ってきた人物の存在に気づき、水を打ったようにシンと静まり返る。
教室内にいる全ての生徒の目が優斗に注がれていた。
誰だこいつは?という疑問より、今自分たちの目の前で何が起こっているのかという思いの方が勝っている。
そしてそれは優斗も同じであった。
手近な教室に飛び込んだところ、いきなりこのような状態になったからだ。
まさか生徒がいるとは思わず、おまけにこの数の多さ。ここは間違いなくどこかのクラスだろう。逃げていたはずなのに逆に追い詰められてしまった。
こうなったらもはや身を隠すどころではない。
今の自分はまさに飛んで火にいる夏の虫というやつか。
「ヤベっ」現状を把握するのに思ったより時間がかかってしまい、急いで外に出ようとした、が
「逃がさんぞ!!」優斗を追ってきていた柊が追いつき、ドアの前に立ち塞がった。
「ちょこまか逃げやがって……。だがここに来たのが運の尽き、俺にとっては運が良かった」
「しつこいっすね~、アンタも。そろそろ諦めてくれたっていいだろうに。オレは別に危害を加えるつもりはないっすよ?」そう言いながら脱出ルートを探す。
一番近くのこの出入り口はまず無理、窓から飛び降りることもできなくはないが危険が伴う。となれば教室前方のドアしかない。しかしそのためにはこの男を振りきる必要がある。
「校門を結界ごと破壊したヤツが言っても説得力ねぇよ。よくそんなことが言えるもんだな」
「かもしれねぇっすけど、それだって仕方がなかったって言ってんだろ?壊されんのが嫌なら開けときゃいいのに。それにオレはきちんと説明したはずっすよ?」
「あんな嘘信じられるか。まぁ大人しく捕まっておけ、そうすれば記憶を消す程度で済ませてやる」
「それって思いっきり頭をブッ叩くってことっすか?そんな痛いのはゴメンだね」
「おい、俺が大人しくしている内に捕まっておいた方が身のためだぞ。俺はガキに歯向かわれるのが一番嫌いなんだ」
「だったらどうだって言うんです?」
「こういうことだ」そう言うと掌に黒い光が集まり、そこからかなり大きめの針のようなものが発射された。
それを避けようと身を捩る、が
「あっ!」自身の後ろに人がいることを失念していた。
放たれた攻撃はその女子生徒に向かって一直線に。そして―――。
「くっ!」間一髪、手を両者の間に差し込むと、そこに纏わせていた青い円盤状の光で防いだ。
女子生徒は何が起こったのか分からず、気が付いたら優斗の手が目の前にあった。
「大丈夫か!?」見たところケガはなさそうだが、もしかしたら細かい破片が当たったかもしれない。
「う、うん…。大丈夫…」それにほぼ反射的に答えた。訊かれたからどうとか、そういうものではなかった。
「ならよかった…」その返事に安心する。
細かい所までは分からないが、ひとまず本人からの申告を信じることにした。
そして驚いた表情をしている柊から少し離れた所を通り過ぎると、入ってきたドアとは反対から教室を出た。
「ふぅ…!」ドアを背もたれにしてしゃがみこみ、息を整えようとする。
教室から逃亡した優斗は、一階に降り、鍵が掛かっていない教室を見つけると、今度は中に誰もいないことを確認すると、ある教室に入った。
ここならしばらくは大丈夫だろうが、油断はできない。もう少ししたら離れないと。
次第に逃げ場がなくなっているような気がする。追い詰められていく感覚とはこういうものなのか。そんなことを考え、苦笑する。こんなことを考えられるくらいだ、まだ余裕はあるのだろう。
だが、いつまでもこの鬼ごっこを続ける訳にもいかない、そしてそれは自身の手によって終わらせなければならない。
「何でこうなってんだよ……」本来ならやらなくていい事柄のはずだ。
それを何故?…………あれか、オレが壊したからか。けどそれだって元を正せば向こうにも非はある訳で、一方的に責められるのは納得がいかない。
だがこのままではいずれ捕まる、その前に何とかしないと。
とするとどうすればいいんだ?オレを追っているあの教師の前に出たならば、今度こそ一巻の終わりだ。
話をしても信じてもらえないし、そもそも聞いてくれないのは先ほどのやり取りでも明らかだ。それは他の教師陣も同じはず。
そうなるとこちらの話を聞いてくれて、且つ、この騒動を治められるような影響力、権威のある人物がいい。例えば校長とか。
しかし居場所が分からない。恐らく校長室にいるだろうが、そもそもその場所すら分からない。
また人目につかないように隠密に行動して、目的地までたどり着く潜入作戦をしなければならないのかと思うと気が重くなる。
もう少し休んでから行くとしよう。そう思い体勢を変えるために腰を上げた。
その瞬間、ドワァァン!!背もたれにしていたドアが吹っ飛んだ。それに押されるように向かいの窓を破壊し、外に出てしまう。
「な、なんだ!?」体勢を何とか立て直し、自分が今まで潜んでいた教室に目を向ける。
教室は煙が充満し、どうなっているか内部の様子は分からないが、あの衝撃から考えて無事ではないだろう。
これをする人物に心当たりは一人しかおらず、予想していた通りの人物が煙の中から現れた。
「手間をかけさせるなよ」それは優斗を追ってきていた柊で、その声音はいい加減この騒動を終わらせたいという気持ちが込められている、ウンザリしているようだ。
手には槍に似た形状の武器を持ち、それは優斗を捕らえるというよりは、倒して強制的に終わらせようとしているように思う。
「じゃあオレを校長のところに連れていってください。そうすれば万事解決しますから」
「フン縛ってなら連れていってもいいが?」
「そんなのはゴメンですね」
衝撃音を聞きつけてか徐々に生徒が集まってくる。
元々昼休み中なこともあって、まだかなりの数の生徒が外に出ている。しかも押し出された先は何人か生徒が集まっていたのか
「あれ柊じゃね?」
「本当だ、何してる…ってか何この状況?」
「それにアイツ」
「ああ、あの柊にここまでさせるなんて何やらかしたんだよアイツ」そんな会話があちこちでなされている。
優斗は周りの状況を考えている余裕はなかった。どうすればこの状況を打開できるか、それしか考えていなかった。
しかし良い案が浮かんでこない。それどころか、ある意味最良にして最悪の考えしか思い浮かばず、一度その考えに至った後は、もうそれしか考えられなくなっていた。
「俺からここまで逃げられ、且つ、手こずらせたのはお前が初めてだ。まぁ俺の面子はともかくとして、いつまでもこの騒ぎを続けるわけにもいかん。そろそろこの追いかけっこも終わりにしようか」
「しょうがないな。さっきも似たようなこと言ったと思うけど、そっちにも非はあるっつーことで恨みっこなしっすよ?」立ち上がりながらそう言うと、指をパチンと鳴らした。
すると柊の周りで何かが弾けたような気がした。しかしそれはあまりに小さく、微弱だったので、普段なら気のせいで済ませていただろう。しかしそれがあちこち、自分にほど近い距離で起きているのだ。
「なんだこれは……?」そして一際大きく弾けた。
「ふぐおわぁぁ!!!」柊のいる地点を中心として爆発が起こった。
かなりの威力だったのか教室の窓は割れ、中の椅子やら机やらが吹っ飛んで、メチャクチャになった。
爆心地からほど近い場所に立っていた生徒たちは、爆風や衝撃に耐えきれず、転倒したり、顔の前で手を覆わなければならなかった。
うっすらと開いた目から見えた優斗の姿は、まるで悪魔を従えた魔王のようだったと目撃した生徒は後に語った。
「はぁ~、そうでしたか…。それをここにいる大村優斗くんが……」困った表情で二人を見つめるこの女性は、私立聖白凪学園校長の早乙女音葉だ。
現在優斗は目的だった校長室にいて、こうして校長と話ができていた。だがその隣にはボロボロになった柊も立っており、事の顛末を報告していた。
「まず大変な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。しかしそれもここを守るためだったということはご理解していただきたいです。こちらも本当に侵入者が入ったと思い、厳戒態勢を布いていたものですから」
「……ですよね」素直に頷いた。
今になってようやく事の重大さを認識し、罪の意識がでてきた。やはりただごとでは済ませられなかったか。
「それで校長先生?オレの転校の話は…?」
「そのことは私の方でも確認したところ、どうやら手違いというか、正式な手続きが完了していなかったから記載されていなかったようです。範囲を広げて確認したところあなたの名前が見つかったと報告を受けました」
「だから言ったじゃねぇっすか!人の話を聞かないで追い回しやがって!」その瞬間優斗の周りに氷柱が突き刺さる。
「何か言ったか…?」その声にはものすごい凄みがあった。
「いや……何でもないっす……」微動だにできず、そういうしかなかった。
「大村くんが身をもって体験したように、ここでは普通の学校と違い、魔法を学ぶことができます。その理由は魔法を発動させることができる環境、これを魔法発動特区と呼び、そこに位置しているからなんです」
校長の話ではそれは全国各地に存在し、不思議な力を感じるところがその付近や特区であるという。
そして私立聖白凪学園はこの特区内に古くからあり、多くの魔法使いを輩出した、権威ある学校なのだそうだ。
そのため警備として結界や塀の上からは障壁を作動させ、外部からの侵入を防いでいるという。
その世界では有名ということもあり、しかしその警備の厳重さに並大抵の者では突破できず、今まで侵入を試みた者は数えるほどしかいなかった。
しかしそれを正面から突破し、中に入った者は長い歴史の間でも優斗が初めてだそうだ。
「敷地内から一歩でも外に出れば、そこはもう特区外。普通だったら魔法を発動させることはできませんが、高い魔法力を持つ者ならばそれも可能です。しかし威力は格段に落ちる。にも関わらず、その威力の落ちた魔法であの結界を突破するとは……。……正直驚嘆の一言です」
「それはどうも…」
「聞きたいことは山ほどありますが、今は一つだけ。あなたはどこで魔法を学んだのですか?」
「誰かに教わったことはないです。あれは我流です」
「え…?」それは校長だけでなく、隣に立っている柊をも驚かせた。
「昔その特区?にいたんですよ。当時はそこが特区内だったって知らなかったんすけど、今の話を聞いたらだから発動できたんだなぁと。そこで初めて魔法が出た時は信じられなかったんですけど、嬉しくて、もう一回って思って頑張って出せるようになって、そこからは色々自己流でやって今に至ります」
「……では誰かに手ほどきをしてもらったことは一度もなく、全て自分で?」
「はい、ただそのせいで自分がやりやすいようにやっちゃってますから、正しい方法が分かんなかったり、好きなものや得意なものしかやってこなかったんで偏りはかなりありますけど。そういうのを改善したり、学びたいと思ったんでここに来ました」
誰にも師事せず、教えを受けることもなく、全て一人だけでやって魔法を習得するということは初めて聞くことではないが、それでも珍しいことに変わりはない。事実噂では知っていても、こうして目にするのは初めてだ。
とても信じられないが、もし嘘を吐いているなら見破れる魔法を念の為発動させているのだが、それも反応しない。ということは信じ難いが真実なのだろう。
自分だけでというのは0からのスタートで、指導してくれる人がいない以上、全てが手探りで、自分一人だけでやらなくてはならないため、習得するまでにかなりの時間を要する。それどころか結局ただの一度も発動できない事だって珍しくないだろう。
天才、生まれながらにして天性の才覚を持ち、自らそれを開花させられる才能を持った存在、というところか。
「なるほど、よい心がけです。今のお話を聞いただけでも、あなたがどれほどの魔法力をお持ちなのか、それが分かりました。それを考慮したうえでランクを決めますと、そうですね……ゴールドが妥当なところではないでしょうか」
「ゴールドですって!?」それに反応したのは柊、優斗にいたっては何のこっちゃといった感じだ。
「校長、それはいくらなんでも軽率な判断かと思いますが…」
「そうでしょうか?才ある者には相応のランクを、それが私の方針であり本校の方針でもあります。柊先生が反対するお気持ちも分かりますが、今のお話を聞いたでしょう?
大村くんは真面目で誠実な人柄で、現段階でかなりの魔法力を持っているにも関わらず、更に高めたい、弱点を克服したい、そのために本校に来た。
それだけでも評価できる立派な人物であると言えます。その考えを持っているなら意欲を損なう心配もないでしょう。それに結界を破壊し、さらには柊先生を倒した、ということも挙げられます」
「あれは油断していたからです!そうでなければこんなヤツには…」
「油断していたにせよ、不意を突かれたにせよ、あなたほどの実力者を倒した事実に変わりはありません。
さらにその時に使用した魔法、爆発魔法は複合魔法の中でも難易度は高く、三種混合はゴールドクラスでなければ扱えません」
「だとしても、せめてS4からなら……」
「彼の実力は隠そうとして隠せるものではありません。すぐに他の生徒たちにも知れ渡ることになります。そうなった時彼は何と言われるでしょうか?それは彼だけに限ったことではありませんが。
それに遅かれ早かれゴールドになるのは間違いないでしょう、それなら早い方がいい、と私は思いますが」
「………分かりました。校長がそこまで仰るならその決定に従いましょう」渋々だが納得した。本当に渋々だ。
「あの~、そのゴールドとかランクって何ですか?」二人の会話を見届けるまで黙っていた優斗が口を開く。口を挟んだら余計時間がかかりそうだったからだ。
そのため分からない単語や聞きなれない言葉がいくつか出てきても何も言わなかった。
「詳しく話しますと長くなりますから簡潔に。本校にはそれぞれの魔法のレベルに見合ったランクが設けられており、ブロンズ、シルバー、ゴールドと三つに分けられます。
当然上にいけばいくほど魔法力の高さを証明するものであり、生徒の皆さんは一つでも上のランクにいくために日々努力しています」
「なるほど」分かりやすい回答だった。
「一年でゴールドというのは例外だ。俺が知る限りでは一人もいない。その自覚を持って、鼻にかけず、精進するように。少しでも怠けやがったらすぐに落としてやるからな」
「…気をつけま~す」その心配はいらないと思う、今の状態なら。
「それと校長、こいつのことなんですが…」
「そうですねぇ…悪気はなかったとはいえ、これだけの騒ぎになった以上何の罰も与えない訳にはいきませんよねぇ…」
それを聞いてドキッとする。確かにそうだ。だがもしかしたらお咎めなしで済ませられないだろうか、と考えていた自分もいた。一体何をさせられるやら―――。
「う~ん…。一年側校舎の清掃+正門の清掃を一ヵ月、その他諸々の雑用もといお手伝い、他に何かあった時は相談の上で、といったところでしょうか?」
「かなり緩い気もしますが…」
「それは色々お手伝いしていただくといった点でカバーしようかと」
「なるほど、それは良い考えです」
「あの~…できるだけやさしいのでお願いしま~す…」控えめに主張しておく。どういう状況にせよ、自分の意見を言うことって大事だもんな、うん。
「それはお前次第だ。本当だったらしばらくの間の魔法制限に加え謹慎処分ぐらいは当然だったんだ。校長の恩情に感謝しろよ」
「次に柊先生についてですが」
「え?」
「ここまでの大事になった原因の一旦は先生にもあると思います。速やかに捕らえられていればこうはならなかったでしょう。
確かに彼は強い、おまけにその時点では実力の程は分からない。しかし結界を破壊し、侵入した以上は万全を期すべきです。そうしていれば後れを取ることはなかったでしょう。
転校云々についてはこちらの不手際ですから一方的に責める訳にもいきませんが、先生が校内の不安を煽ったことに変わりはありません。よって魔法制限に加え一週間の謹慎を言い渡します」
「……校長、仰ってる意味がよく分からないのですが…」
「では具体的に申し上げますとシルバークラスに一時的に下げ、そのランク帯の魔法しか使用できず、さらに一週間の謹慎処分です」
改めて告げられた事柄が聞き間違いではないと判ると校長に詰め寄る。
「何故ですか!!こいつが逃げ回ったせいで私まで責任を取らなければならないのは納得がいきません!」
「本校職員は有事の際には生徒の身の安全を第一に考え行動し、可及的速やかに問題解決に努める、これは決まりです。私としても残念でなりません」
「そんな…!」膝から崩れ落ち、床に手をついて項垂れる。
その姿は悲壮感溢れ、普段の柊を知っている者からしたら見たことがない、目を疑うような光景だ。
「…あのさ」その時不意に優斗が口を開いた。
「それで問題の解決になるとは思えないんすけど」
「と申しますと?」
「自分で言うのもあれなんですけど、当事者の二人が責任を取ったところで、波紋はどこまでも広がって、尾ひれがついて、憶測が憶測を呼んで、事実とは違った情報が流れてさらに大事になると思います。
事情は説明しなきゃならないにしても、ありのままを語っても納得するとは思えない、でも隠す訳にもいかない。だったら変に隠して追及の余地を残すぐらいなら、いっそのこと新たな事実をでっち上げて、例えば訓練とかそういう名目でなら勘繰りは少ないと思います。
それに訓練なら処分を下すわけにはいかなくないすか?」
数瞬の間の後「それだっ!!!」勢いよく立ち上がってビシッと優斗を指す。数秒前とは大違いだ。
「そうですよ校長!そうすれば私という優秀な人材の能力を落とすことなく、不在の期間もなくせて安全に、平和を保つことができる!皆が幸せになれる!それしかないです!」
「あらあら、そうですねぇ~…」
「そうしましょう!いや、それしかない!これ以外に方法はありません!!」
「なぁ、昼休みのあれ、訓練だったらしいな」
「みたいだな。さっき放送でそう言ってたし」
「でも訓練にしたってやけにリアルだったし、それにやり過ぎじゃない?教室一個吹っ飛ばしちゃったっていうし」
「それ思った。私たまたまそこにいたんだけど、なんかすっごい魔法でさ。あんなの見たことなかった」
「柊先生がやられたんでしょ?演技とか?流れ的に?」
「そんなことする人じゃないでしょ。むしろ倒す側でしょ」
「ってなると本当に?」
「一年だってね、確か」
「ウソっ!?マジで!?」
「とんでもないヤツが入ってきたもんだな…」
校長室での会談を終え、優斗は校内を歩いていた。
前回の時はお粗末との酷評を受けたが、今回は咄嗟にしてはうまくいったと思う。
まぁ、前回のは本当で今回のは嘘というのは素直に喜べないし、納得しかねるけど。
そして退出する直前に手渡されたプレートをポケットから取り出し、眺める。
金色のそれは黒で『G』と描かれていて、何か特別な感じがしないでもない。
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『あ、そうだ。最後にこれを渡しておく』
『何すかこれ?』渡されたものを不思議そうに眺める。
『それはそれぞれのランクを示したプレートで、ここでは身分証になる。お前のは明日には用意できるはずだから、今日のところはそれを持って帰れ。事後処理やら手続きやら色々しなければならないからな。詳しいことは後日改めて話す』
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校長室での柊とのやり取りを思い出す。自分はゴールドだと言われた。それはどうやら三段階の内の一番上、最上位であり、最終到達地点ということだ。
しかし実感はなく、手に持つプレートも意識すればすごいものだと思うが、適当に眺めていれば別に何も感じない。
「当たり前か…」つい数分前に貰ったばかりで、何も分からない状態なのだ。これからそれを実感していくのだろう。
だが全体が金色で、頭文字のGが描かれていると、嫌でもこれがゴールドだと誰が見ても分かる。そしてそれは全てのプレートがそうなのだろう。
「ま、これなら誰から見ても自分のランクっつーのが分かるよな」
知った風な口をききながら校内を歩く。
せっかく来たのだから少し散策していこうと思い、こうして歩いているのだが、今自分がどこにいるのか分からない。今日来たばかりなので当然といえば当然なのだが。
とりあえずどこにいたとしても人の目を気にしなくていいようにできたのは良かったなと思いながら角を曲がる。
ドンッ「きゃっ!?」「おっと」人にぶつかってしまった。
あれ?前にも同じようなことあったよな?何コレ?デジャヴ?嫌な予感をしつつ、視線を前に向けると、そこにいたのは想像していた人物ではなく女子生徒、三篠久美だった。
それに少しホッとするがすぐに「大丈夫か?」声をかけ手を差し出した。
「う、うん。大丈夫…」それに気づき、手を取って立ち上がる。
「悪い、ボーっと歩いてたら気づかなくて」
「アタシこそごめん。人を捜しててって……」そこで改めて優斗の顔を見ると驚きの声を上げる。
「アンタさっきの!」
「え?」
「ほら憶えてない!?昼休みの時教室で!」
「昼休み…教室…?」はて、どこかで見ただろうか。
人違いでは、と言おうとしたが、この様子を見る限りそれはなさそうだ。何か確信があるように感じる。しかし覚えがない。
もう一度まじまじと顔を見る。
やや茶色味がかったロングヘア―に、端正な顔立ち、瞳は驚きと喜びでキラキラ輝いているように見える。一目で可愛い娘だなと思った。
そして見つめること約三十秒、ふと思い出した。
それはまだ追われる身だった時に、ある教室に飛び込んだ際に、大勢の生徒の中にいた。その時に少しだけ接触していた。
「ああ、あの時の」
「思い出した?そうその時の」優斗の返事を聞くと、安堵したように笑う。
「オレが人質取った時の人質!」
「いや、取られてないから。むしろ助けられたから」
「…人のボケに冷静なツッコミされると結構くるな……」
「あ、えと…ゴメン…」
「…まぁいいや。あれだろ?オレがあそこ行ったばっかりに迷惑かけちゃったやつだろ?ごめんな、大丈夫だったか?」
「うん、おかげ様で。あれから校長室に連れていかれたって聞いたから、時間的にそろそろかなって思って捜してたんだ。お礼が言いたくて」
「お礼を言われる側じゃないよ。むしろオレがお詫びしなくちゃいけないのに」
「でも訓練だったらあれぐらいリアルにやらなきゃいけないんじゃないの?ちょっとびっくりしたけどね。アンタのおかげで無傷で済んだんだから、そのお礼ぐらい言わないと。ありがとね」
「律儀だね、別にいいのに。まぁ受け取っておくよ。あ、自己紹介がまだだったね、オレは大村優斗」
「アタシは三篠久美、よろしくね」
「こちらこそ」そう言うと手を差し出す。意図に気づいた久美はその手を握り返した。
「でも誰だか分かんなかったよ。一瞬しか会ってないし、昼休みとか言われたから」
「ゴメン、実はアタシも確証なかった。捜してはいても、いざ見つけると分かんないもんだね」
「そんなもんでしょ」
「そういえば今何してるの?もう放課後だけど」
「校内散策だよ。この中よく分かんないから」
「ん~…じゃあアタシが案内しようか?といってもアタシもそこまで詳しくないけど」
「いいのか?じゃあ悪いんだけどよろしく頼むよ」
「へぇ~、三篠は格闘技やってたのか」
「かじった程度だけどね。そのせいか使える魔法も近接戦闘向きになっちゃってるけど」
他愛もない会話をしながら二人で校舎内を歩く。案内というよりはぶらぶら適当に歩いて、目ぼしい所に来たら軽い説明程度で、ほとんどが互いの事を話しながら歩いている。
放課後ということもあり、生徒の数はまばらだが、クラスが近くなると多いような気がする。
「大村はどんなのが得意なの?」すっかり打ち解けた様子で優斗に尋ねてくる。こういう風に初対面であっても、すぐに仲良くなれるというのは一つの才能だろう。
これが他の人だったらこうはならないだろうな。
「基本的な攻撃、防御魔法かな?補助系はあんまり得意じゃないな。その中でも拘束系はまだマシだけど」
「そうなんだ。アタシの友達にも拘束系がメインの子がいるの。気が合うかもね」
「かもな。あ、そういえば今プレートって持ってる?」
「プレート?あるよ、はい」そう言ってプレートを優斗に差し出す。それに一言断って持たせてもらう。
確かブロンズ、シルバー、ゴールドだったな。ええっと、これは赤銅色?だからブロンズか。
そこであることに気づく。
あれ?見間違いかとも思ったが違う。
「なぁ、この数字ってなんだ?」疑問の数字を指差して尋ねる。
そこにはブロンズの頭文字のBの横に二回りほど小さな文字で『1』と描いてあった。
「ん?ええっと…、段階って言ってたよ」
「段階?」
「うん。アタシも説明を受けて周りの友達のと見比べてみたんだけど、みんな同じだったからよく分からないんだけど、一つのランクの中にも何段階かあるんだって。
で、ここの『1』っていう数字がそれを表してるの。ちなみにこの数字が大きくなればなるほどレベルが上がるんだってさ。アタシはまだまだ序の口ね」
「そうなの?オレのには何もないけど」自身のプレートを取り出して見てみる。
「えっ!?」それに驚きの声を上げたのは久美だった。
「お、大村…それ…」震える指で優斗の持つプレートを指差す。
「ん?ああ、これオレの。見てよほら」そう言って差し出す。
それをゆっくり受け取り、信じられないという表情で優斗とプレートを交互に見る。
「これ…本当にアンタの…?」
「ああ、そうだけど。ほら、何も描いてないだろ?」
「そ、そうだけど…」優斗にプレートを返すが、未だに驚きに満ちた表情だ。
「もう一度聞くけど、それ本当にアンタの?誰か他の人のじゃないよね?」
「失敬な。正確に言えばこれはオレのじゃないけど、明日にはオレの物になるよ。さっき校長に言われたし」
「そうなんだ…。ゴメン、ちょっと待って。一旦落ち着くから」そうして何度か深呼吸をすると、改めて優斗に向き合った。
「えっとね、アンタのプレートに数字が描いてない理由はアタシには分かんない。っていうかゴールドプレートを見たのだって今が初めてだから、数字が描いてないなんて知らなかったし」
「そうなんだ。これってそんなに珍しいモンなのか?」
「少なくても先生たちと同レベルの魔法は使えるっていう証拠には違いないよ。先生たちはみんなこれだっていうし」
「へぇ~、これがねぇ…」
改めて見るが、やはりそんな凄いものには見えない。
他のプレート(三篠のプレート)と比べると輝きとか、別の違いが見て取れるので、ちょっと良いやつなんだという認識にはなる。
だが三篠のこの驚き、これがこのプレートの凄さを物語る何よりの証拠だろう。それならあの柊とかいう教師が反対していたことにも納得がいく気がする。
「すごいね、だから犯人役やったの?」好奇心に満ちた表情で尋ねてくるが、それにどう返そうか悩む。
『いいか、事の真相を知っているのは俺とお前、そして校長の三人だけだ。これ以上人数が増えたら、どこから漏れるか分からん。真実を知っている人数は少ない方がいい。結局は嘘で誤魔化すことに変わりはないから、バレたらお前も無事では済まん。このことについてはあまりベラベラ喋るなよ』
柊に釘を刺されたことを思い出す。
「まぁね」結局明言はしなかった。
「やっぱりね。でもすごかったよ、あの緊迫感っていうかリアルな感じ。まるで本当なのかと思ったよ」
「そう?」
「うん、実際あれぐらい本気でやらなきゃ意味がないんだなぁ~って思ったし。抜き打ちっていうのが特にね。だからって教室一個吹っ飛ばすのは流石にやりすぎだと思うけど」
「手加減できなかったんだよ。あの人おっかなかったから」
とりあえず三篠は納得しているようだ。それならこちらから話すこともしなくて済む。あれこれ聞かれなくて助かった。
嘘を吐くことに慣れていないから、すぐに本当の事を喋ってしまいそうになるが、そうなったらオレも無事では済まない、とまた思い出してしまった。
そんな会話に興じていると
「オイオイ、お二人サン。随分楽しそうじゃない?」
「俺らも交ぜてくれよ」四人のチャラついた男子生徒たちが二人近づいてきた。
「あ、ヤバ…」それを見て先ほどまでの笑みは影を潜め、曇った表情になる。
「どうした?」
「あの人たちたぶん二年生、それにここ二年校舎。繋がってるから入っちゃった」気まずそうにする。
「ま、そういう時もあるさ」そう返すと、半歩前に出た。
「で、お前らここで何してんの?こっちは俺らのだぜ?」
「お前ら一年だろ?よく用もねぇのにこっちに来れたな。その度胸は認めてやってもいいが」
「ここでは魔法力の高さが絶対で、物を言う。つまりお前らは俺らに絶対服従ってわけだ」
「つーことだ、それを身をもって教えてやるよ。よかったな、見つかったのがまだ俺らで」
「そいつはどうも。でも言葉と態度がちが…わねぇか。見たまんまか。それって強制だろ?」
「まぁな。お楽しみ中のところだったみたいだけどな」
「ん?おい見ろよ、横のあの子…」
「ん?おお…!中々じゃねぇか…!顔も良し、スタイルも良し、性格はちょっとキツイくらいが丁度いいな。調教のし甲斐がある」
「好きだねお前も」
「お前だってそうだろ?」
「否定はしねぇけどな」
「あれなら溜まってるもん全部発散できそうだな。へへ…楽しみだぜ、どんな具合なのか」
「ああ、しばらくは大丈夫そうだな」
「なぁ今の内に逃げられねぇかな?」四人が下品な会話をし始め、それに眉根を寄せながら久美に尋ねるが
「いや、無理かも…」という返事をもらう。
「お前は俺らと来い、多少のストレス発散にはなるだろ。横の君はこいつと行け、そいつといるより俺らといる方が楽しいし、良い思いもできるぜ。色々教えてやるからさ」
「悪いけどアタシ、アンタらみたいな人たち興味無いし、苦手なんだよね。それにアンタらに好き勝手されるくらいなら、大村の方が何万倍もマシだよ」
「その気の強さもたまらないねぇ」そう言って久美に手を伸ばすが、その手を優斗が払った。
「テメェ…何しやがる」その声は怒気を含み、優斗を睨むが、そんなものには動じずいたって平然と「そんなに慌てんなよ」と言った。
「何だかよく分かんねぇけど、アンタらの理論でいけば力が上の奴には従わなきゃならねぇんだろ?だったらこれを見ても同じことが言えるか?…括目せよっ!」
そう叫ぶと、先ほど仕舞ったばかりのプレートを勢いよく取り出し、見せつける。
それを見て、しばらく言葉をなくすが、すぐに爆笑の渦に変わった。
「お、お前…、そんな見栄張ってまでゴールド名乗って恥ずかしくねぇの!?」
「き、気持ちは分からんでもないけど…!ククッ…!」
それに反応したのは久美だった。
「アンタたち!バカにすんのも大概にしなさいよ!大村はねぇ、本物のゴールドクラスで、柊先生だって倒しちゃったんだから!」それに再び静まり返る。
「じゃあ、あの話は本当だってことか…?昼の訓練の」
「バカ、んなわけあるか。ハッタリに決まってる」
「おい、あんまり適当なこと言うもんじゃねぇぞ?この学校で柊に対抗できる魔力の持ち主なんざそうザラにはいねぇ。それともまさか本当にコイツがそうだと?」
「そうよ!アンタたちなんて一瞬で蹴散らせるどころか、アンタたちごとここを吹き飛ばせるスンゴイ魔法だって使えるんだから!」
おいおい、お前が熱くなってどうすんだよ。ンなこと言ったら…ほら相手サン方、スイッチ入っちまったじゃねぇーか。
「へぇ~、じゃあゴールドクラス様のお手並み拝見といきますか」
そして言った以上は引き下がれないのか、また優斗だけに任せるのは忍びないと思ったのか、戦うしかないと久美が構えた時に「ったく、どっちも熱くなりすぎ。あんまオレに魔力使わせんなよ」と呟くと、手を横に払った。
すると霧が発生し、近くにいるはずなのに、たちまち数センチ先も見えないほどの濃霧に変わった。
それに相手だけでなく久美も動揺するが「こっち」グイと手を引っ張ると、一目散にその場を退散する。
背後からは彼らの怒号や、霧を払うためにまた、優斗を攻撃する為にやたらめったら魔法を乱射している様子が感じ取れた。
「ここまで来ればいいかな」
昼に校舎内も逃げ回ったせいで、特に人目につきにくい場所には詳しくなってしまい、四月に入学した一年生より知っていると、自慢にもならない自負がある。
そんな場所の一つにやってくると足を止めて、久美を見る。少し息が上がっているが、特に問題はないように見える。
それに安心すると笑みを浮かべて「大丈夫か?」と尋ねた。
「大丈夫だけど…ってねぇ!何でコテンパンにしなかったの!?悔しくないの!?あんなにバカにされて!アンタだったらあんなヤツら一撃でしょ!?」物凄い剣幕で詰め寄ってくる。興奮と悔しさのあまり頬を紅潮させている。
それにタジタジになりながらも、何とか落ち着かせようとして、自分の考えを伝えようとする。
「まぁ、悔しくないって言ったらウソになるけど」
「だったら何で!?」
「ああいうヤツらに魔法使ったら、魔法が可哀想だよ。そんなもののために魔法を必死になって覚えたんじゃないし。本当だったらあんな連中に使う魔力なんて一滴もないのに、三篠がけしかけるから。
確かにオレよりも侮辱されたり、好き放題言われた三篠の方が悔しいっていうのは分かるよ。それについてはオレがやるべきだった。
でもあそこで手だしたら、アイツらと同じ場所まで落ちることになるんだよ。相手のレベルの低さに合わせて、自分を貶めるようなことはするもんじゃないぜ?
だからあの場ではいかにして切り抜けるかっていうのが優先されたから仕方がなく使ったし、ああいう形にせざるを得なかった。それに今頃注意受けてるでしょ」
「そ、そうかもしれないけど…。でも!」
「だったらそれで十分。その代り今度ああいう事態になったら、その時は容赦しない。全力で叩き潰して、二度とオレらの前に現れないようにしてやる。だから今回はこれで納得してくれ。な?」そう言って目線を合わせ、じっと見つめる。
しばらく逡巡した様子だったが、一言分かった、と返事をする。
「ありがと」礼を言うと、何度か頭を撫でる。
「えっ……?」それにポカンとし、何が起こったか把握しようとしていた。
「おっと、すまん。つい」即座に詫びて、手を引っ込める。
「う、うん。別にいいけど……」そうは言ったものの、ようやく何が起こったか理解し始めると、急に恥ずかしくなったのか、目を泳がせ、毛先を指で遊ばせる。
優斗もまた気恥ずかしくなり、微妙な空気が二人の間に流れるが「そ、それにオレさ、あんまり派手なことできないんだよね。教室吹っ飛ばしてお叱り受けちゃったし。その処分だってあるのに、これ以上問題増やしたら一体どうなることやら」
雰囲気を変えるために、わざとらしく明るく言うと、大袈裟に両手を上げ、首を左右に振る。
「…そうだね、アンタそっちもあってもおかしくないよね」久美もまた、何事もなかったかのように振る舞おうとし、努めて笑みを浮かべる。
しかしそれを見て悪戯心が刺激されたのか、傍目で見ても分からないほど、僅かに口角を上げる。
「でもさ、三篠にも原因があるって分かってる?」
「え?」何のことか分からずキョトンとする。
「初めて会った時から思ってたんだけど、三篠って可愛いんだよ。非の打ち所がないぐらいに。これじゃあちょっかいかけられても仕方ねぇよな~」
「か、かかか可愛い!?だ、誰が!?あ、アタシが!?」思いっきり動転して、先ほどまでとは違う種類で、赤面する。
「うん、すっげぇ可愛い」それにあくまでも平然と言う。
「バ、バカなこと言わないで!ア、アタシがか、可愛いとか、そ、そんなことあるわけないでしょ!?」恥ずかしいのか段々早口になっていく。
「一回鏡をしっかり見た方がいいぜ?めっちゃ可愛い娘が映ってるから」
「あ、あんまり可愛い言うな……。………ああ!もうどうしたらいいか分かんない!アンタのせいだからな!」
そう言うと、恥ずかしさのあまり頬を押さえて、走り去ってしまった。
それを見ると、満足そうな笑みを浮かべ、優斗もまたその場を去った。
翌日1-3の教室で朝のHRを前に、一人の転校生が担任と共に前に立ち、紹介された。
「え~、今日から君たちのクラスメイトになる大村くんだ。大村くんは家の事情で今まで来れなかったが、今日から通うことになったので、みんな仲良くしてほしい。それじゃあ自己紹介」
「は~い。大村優斗です。一月遅れで通うことになり、不安でいっぱいです。迷惑をかけると思いますが、仲良くしてやってください。よろしくお願いします」
ペコリと一礼すると、優斗を迎え入れるかのように拍手が起こる。
こうして優斗の新たな学園生活が幕を開けた。




