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リソマンサー〜Lux et Tenebrae〜  作者: 門間東吾
永遠なる煌めきとその対価
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 古来より宝石や装飾品は魔除けの意味合いが強く、それはこの閉鎖的な特異世界においても例外ではなかった。

 "リソマンサー"と呼ばれる、宝飾の歴史と共に語られるその特殊能力者たちは、今や現代にはその名が語り継がれるのみである。


 宝剣世界イリオトゥローピオ、首都ロドフローシティス郊外──

「マイネームイズうの、歳は368歳のピチピチコギャル! 玉の輿して、旦那に宝石貢いでもらうのが夢ですー」

 さて、この物語の主人公とも呼ぶべきその少女は、うのと言った。

 高らかに名乗りを上げたその先は、死肉を貪る邪なる邪鳥の群れ。

「……てへっ」

 うのは決めポーズを仕掛けるものの、特殊な効果はない。

 ガーガーと喚いては、お前も道連れにと襲いかかる邪鳥の群れ。だが、小柄であどけない彼女には抵抗手段がない。このままそこな餌と同じ末路を辿るのか──と思った矢先。

「ブラックダイヤモンド! 力を貸しなさい!」

 うのの漆黒なるツインテールを黒炎の輪っかがなぞり、彼女が決めポーズと共に突き出したその指先に漆黒の炎が宿る。

「悪い子はおしおき……ビーーーーム!!」

 その指から放たれる、あまりに規模の大きい業火。邪鳥の群れは瞬く間に灼炎に包まれ、灰となって散るのみとなった。

「むふふん、今日もバッチリね」

 うのは鼻歌混じりにご機嫌であった。満悦の笑みで、しばらく決めポーズのまま立ち尽くしていた。

 それも数秒で飽きると、邪鳥が貪っていた死肉を見つめる。おそらく、それはうのと同じ人間であったものだ。

「いやあねぇ、こんな末路は嫌だわ……ま、あたしたちに限ってそういうことはないけど」

 うのはその死体を一瞥して、この場を静かに立ち去った。


「死傷者6名──そのうち、死亡者1名。不出来だわね、うのさん」

 深紅の髪を持ち、冷徹なスクエアメガネをカチャリといじりながら、その女は座したままうのを冷ややかな目で見上げた。

「てへ、ごめんなさいね〜。到着した時には手遅れだったの。鳥さんたちったら、もうもぐもぐのぱくぱくだったのよ」

「その件については、通報時には既に死亡していた可能性があります。ですから不問」

「ほんとぉ? ななよ、やっさしー!」

「ですが!」

 ななよと呼ばれた女は、机をバンと叩いて一蹴する。

「あなたの"リソス"で怪我人が出ています! その数4名! あなたの方が被害が甚大です!」

「え〜、そんなこと言わないでよぉ。撮れ高大事でしょ」

「一体何の! もう公共放送はとうの昔に終わりましたよ!」

「その時の記憶でやってるんじゃないのよ〜」

 うののあっけらかんとした態度に、呆れるななよ。大きなため息を着いて、項垂れている。

「既に市民から苦情の無線通信が来ております。あなたもベテランの"リソマンサー"なのですから、もっとしっかりなさい」

「はぁ〜い……」

 うのはななよを背にして、丸めた背中のまますごすごと退室する。口は尖らせていて、反省の色はなし。

「全く……実力はちゃんとあったのに……」

 ななよはそんなうのを眺めては、また一層大きなため息をついた。

 うのはななよの執務室を出て、次の出動に備えて待機場所に向かった。小柄な体型に似合わず、その道中で煙草を咥えてはライターではなく指先から迸る漆黒の黒炎で火をつけた。

「うの先輩! お疲れ様っす!」

「……どうも」

 切れかけの照明が点滅する暗がりの廊下を抜けて待機場所に着くなり、うのは背後から後輩の男2人に声をかけられた。ちょうど彼らも出動の帰りらしく、この職場においては珍しく和気藹々とした雰囲気の2人組。

「あら、しもみちゃんにかしゅんちゃん!」

 まるで身長の違う2人組だが、歳が近いことはよくわかる。しもみと呼ばれた低い方は軽薄で飄々とした雰囲気を持ち、かしゅんと呼ばれた高い方は寡黙で艶めかしい雰囲気がある。

「帰ってななよに早々お叱りを受けちゃったけど、イケメンに会えるなんて幸運! あたしってば幸せ者!」

 うのは煙草を咥えたまま、手を叩いて喜ぶ。こっちこっち、と2人を手招きして先輩風を吹かし、休憩スペースへと連れて行く。ソファーは自分がだらしなく座って占領し、2人は簡素な丸椅子に座らせた。

「ななよさん、マジ怖いっすよねー! オレなんか最初の頃はビビっちゃってましたよ」

「うんうん、最初は誰でもビビっちゃうわよね〜。ななよってば、マジメだから! 眉間にシワ寄せちゃってさ、年齢が出てるっての!」

 うののハイテンションな態度に、笑いが起こる……が、背の高いかしゅんは仏頂面のまま。笑っているのはうのとしもみだけ。

 このオフィスと言うべきなのか、この職場と言うべきなのか、この場所にはまるで人気がなく、広い空間に3人しか見当たらない。全体を含めても、ななよを含めた4人ぐらいしかいないようだ。

 そんな寂しい職場だから、少しの物音が余計に響く。コツ、コツとヒールの音も、よく響いている。

「はっ!」

 談笑する3人の傍らに、既にななよがいた。険しい顔で特にうのを睨んでいる。

「な……ななよ、ちゃ〜ん……えへ、今日もいいお天気で……」

 うのは脂汗をかいている。こういう時のななよは、決まって恐ろしいとわかっているからだ。

「うのさん。本日のお天気も、その前も、そのずっと前も、変わらず悪天候ですが」

「そ……そう……だったわね」

「……」

 ななよは険しい面持ちのまま、うのたち3人を順番に眺める。

「今回は依頼ではありませんが、パトロールをお願いします」

「えぇ〜!」

 真っ先に声を上げたのは、しもみ。行儀悪くローテーブルに足を乗せては、「今帰ってきたばかりなんですけど!」と文句を垂れていた。

「ここから少し離れた地点ですが、我々の同胞と似た反応を検知しました。至急確認して頂きたく」

「なんだよ〜……ちぇっ」

 尚も態度悪く口を尖らせるしもみを見て、ななよは強くローテーブルを叩いた。

「二言はなし! 早く行きなさい!」

「ひえぇっ」

 しもみだけでなく全員が椅子から飛び起き、慌てて出動して行くのだった。


 灼けた街並み、崩れたビル。瓦礫が散乱して寂れた道路。一時停止の標識は折れ、かつて電光表示板であったものがガラクタとなり、スプレーによって落書きされている。

 これがこの国の、いやこの世界の首都。

 黄緑色に染まって時間停止したような、雲すら流れない空を背景に、黒く焼け焦げた廃墟が完成されている。

 人気のない通りを進むうのたちは、トランシーバーでななよの声を聞いている。

『例の反応は、旧市街の裏通りにあります。しばらく動いていないため、死亡している可能性は極めて高いです』

「死体探しかよぉ……」

 しもみはがっくりと肩を落としている。この荒廃した街には、死体がそこらじゅうに転がっていて無惨な姿を晒しているのだが、やはり死体と言う気が引けるのだろう。

「我々の目的は簡素だ、目標地点に向かい当該対象を回収するのみ……」

 しもみを他所に、かしゅんが探知機を使って反応を探している。裏路地まではまだ距離はあるが、反応を見逃したくないのか丁寧だ。

「いやあねぇ、こんな世界でもまだまだ宝探しをするなんて」

「宝探しっすか?」

「そう、あたしたちと同じ反応なら……これの持ち主ってことだから」

 うのがはだけたシャツの胸元をぴらりと捲ると、そこには肉体そのものに埋め込まれた黒いダイヤがあった。

「うわ、大胆!」

 しもみは顔を真っ赤にしては仰け反って顔を隠すが、かしゅんは表情を変えず涼しい顔をしている。

「セクシーコギャルのを見れただけ、ありがたいって思いなさいよねー」

 うのは揶揄うつもりだったらしい、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる。

「それはさておき、例の探しものは……この石──あたしたち、リソマンサーである可能性はあるわね」

「なるほど」

 かしゅんは無表情のままうんうんと頷く。

「宝石を探すなんて、宝探しみたいだと思わない? ロマンがあるわよね」

「そういうもんっすか?」

「いやあねぇ、オトメゴコロがわかってないわ!」

 ふん、と胸を突き出してはうのは勝ち誇ったように言う。3人の和気藹々としたムードが、風化して凍てついた街のおどろおどろしさを打ち消していた。

 指定された裏路地に侵入し、真昼まであるにも関わらず建造物の陰りで薄暗い道を進んでいく。

『反応はそのずっと奥、まるで我々を誘っているかのような罠──ですね』

 ななよの冷然とした声が、トランシーバーからしている。

「罠、ね。確かに宝箱がありそうな路地だけど、普通そんなわかりやすいところにお宝は置いてないもの」

「そもそも、宝箱自体が非現実的っすけどね……」

「乙女心がわかってないな」

「うるせーよ! お前は黙ってろ!」

 しもみとかしゅんが軽い言い争いをしているうちに、目的の場所へ通り着く。そこは開けていて広場のようになっており、所謂スラム街への入口と思しき崩れた電子柵があった。

「……人なんて、いないっすけど」

「そうね」

 あまりに殺風景で、見るからに怪しい場所。かしゅんの持つ探知機はより強く反応を示している。

「何かがいる……」

 うのは息を殺して周囲を見渡す。敵性反応があるならば、それはリソマンサーの感覚として理解できるもの。だが、それがない。

「仲間の気配はする……けど」

 その代わりにあったのが、まるで助けを求めるような、悲鳴のような、か細く儚い声色。胸元のブラックダイヤモンドが、より強く共鳴しているのだ。

「なんか、苦しい……誰か、叫んでる?」

「っ……」

 しもみやかしゅんも同様の感覚を覚えていた。それはリソマンサーにだけわかる感覚。

『待ってください、リソス反応が最大に!』

 ななよの緊急を知らせる声がした時には、既に遅かった。

「うわあぁぁぁ!?」

 地中からアスファルトを突き破って、怪物のような化け物が襲いかかってきのだ!

 その衝撃波によって、3人は大きく吹き飛ばされる。

「みんな気を付けて! この子は……魔物じゃない!」

 魔物、それはうのが先程倒した邪鳥のような、魔の存在。闇から顕現した、人類を滅ぼした存在。

 だが、目の前のこの化け物は違う。

 大きく肥大した両腕、ひどく退化した後脚、その体の青さは光を失ったように昏く禍々しく、正面に張り付いた青白い顔は聖女のように尊く気高く美しく、安らかな眠りについたように穏やかで。

 相反する聖魔の悍ましさは、魔物が持つ禍々しさとは別物だ。

「魔物じゃないなら、なんなんすか、こいつは!?」

 化け物の両腕による叩きつけを間一髪で回避しながら、しもみが必死の様子で問い掛ける。

「これは……ジュエルビースト……!」

「ジュエルビースト!?」

 宝石の獣、宝石が持つ輝きを失い、翳りだけを残した怪異。

 うのは知っていた。この化け物を、ジュエルビーストを。何度も相対しているからこそ。

「ブラックダイヤモンド!」

 うのは胸元の黒いダイヤが放つ漆黒の輝きに包まれ、黒炎をその手に宿す。

「喰らいなさい! あたしが……あなたを救ってあげる!」

 地を駆けながらチャージした黒炎は勢いを増し、ジュエルビーストを包む。だが、その炎はすぐに打ち消されてしまった。

「な……!?」

 ただの炎では通用しない。うのは体勢を整え、次なるリソスを試みる。

「先輩、こいつ……どうしたらいいんですか!?」

「倒してあげるしかない! いつも通り、全力でリソスを放つのよ!」

「はいっす!」

 しもみが胸元の石を解き放ち、リソスを試みた。

「シトリン・チェーン!」

 金色の鎖が伸び、ジュエルビーストに絡みつく。全身とまではいかないが、強靭な両腕の片方を捕縛することに成功した。

「かしゅー、行けっ!!」

「……了解!」

 しもみの合図に従い、かしゅんは身軽に飛び上がってリソスを放つ。

「アメジスト・アイシクル!」

 氷柱のように鋭利な紫水晶が、ジュエルビーストに放たれる。

「2人とも慣れてるじゃない! あたしも混ぜてもらうわよっ! ブラックダイヤモンド・フルバースト!!」

 紫水晶を振り払おうと腕を振り上げたジュエルビースト、そのがら空きになった腹部に向けて黒ダイヤの黒炎を纏った極太のビームが放たれる。

「◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎──!!!???」

 声にならない共鳴の叫びを上げて、ジュエルビーストは眩い輝きに包まれていく。

「よし、これで──」

 うのが勝利を確信したその時、ジュエルビーストは抵抗を試みて金色の鎖を引きちぎった。

「……!! しもみちゃん!!」

 しもみが危ない、と足を一歩踏み出すが間に合わない。ジュエルが悪足掻きに振り上げたその手が降ろされる。

 うのより近い場所にいたかしゅんは追い付き、決死の体勢でしもみを庇うも、どちらもその禍々しい腕の下敷きになってしまった。

「……っ、ブラックダイヤモンド!!」

 うのは2人を救うことを諦め、最大出力の黒炎を放つ。

「ウ……ウオオオオオ……!!」

 獣の咆哮のように叫び、ジュエルビーストは音もなく崩れ去っていく。

「しもみちゃん、かしゅんちゃん!!」

 うのは2人の元へ急ぐが、2人は既に血溜まりの中だった。

「……!」

 それと一緒に、煌めく石のようなものが周囲に飛び散っている。

「ルクスが……これじゃ、もう……」

 間に合わない。うのは、確信していた。修復は不可能であると。

「せ、せん、ぱ……」

 しもみがぎゅう、と、うのの左手を握った。

「よ、よか、た、せんぱ、ぶ、じで……」

 今度は、かしゅんもうのの右手を握る。

「先輩……俺たちの……分ま、で……」

 2人とも、もう虫の息だ。もう、助からないことは、うのにはよくわかっている。

「わかってる、わかってるわ……」

 うのは泣かなかった。うのは、ただ淡々と呟く。

「"また会いましょう"──」

 うのはそう告げると、しもみとかしゅんそれぞれの胸から石を引き抜いた。それに伴って、2人の亡骸はドロドロと深い闇になって、地の底に溶けていくように消えていった。

「……」

 うのの手にあるのは、シトリンとアメジスト。2人が残した石。これをうのたちは"ウィル"と呼んでいた。

「もう、慣れたものね」

 ぽつり、と寂しそうに呟くうの。振り返ると、そこにはもうひとつの亡骸が横たわっていた。

「この子は……?」

 青い髪の少女の胸元には、リソマンサーの証の宝石が埋め込まれている。

「そう。あなたも……そうだったのね」

 しもみやかしゅんにしたように、うのはその宝石を引きちぎるように抜き取った。少女もまた、ドロドロと深い闇となって消えていった。

「──」

 うのは無言でその場を立ち去る。ここにたどり着くまでの賑やかさも、明るさも、荒廃していく街と共にただ過ぎ去った時と共に消え去って行った。


 うの、ブラックダイヤモンドのリソマンサー。

 彼女はかつて不死身として名を馳せた、腕の立つリソマンサーだった。

 日の沈まない永遠の光の中で、闇と対峙する者。

 それはこれまでも、これからもずっと、"永遠"に続く摂理。

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