冒険 3
「……なあ、これ…下がりすぎじゃねえか…?」
先の見えない降り階段を降り始めてから十数分、未だ出口は見えないまま。
朝から軽い干し肉しか食べていないカートゥーンの腹は、既に空だった。
…しかし、ここまで深いなら、一旦洞窟の外に出て体勢を立て直した方がいいんじゃないか?
「今引き返しても、金がないから途方に暮れるだけだよ、カートゥーン。」
レイに完全論破されて、ぐうの音しか出なかった。
もちろん腹の音だ。
…先頭を征くスララは、カートゥーンとレイが話しているのを無視して、文句も言わずに降り続けている。 その気高い精神には目を見張るが、実際にはすごいストレスだろう。
そしてまた、数分が経過した。
……スララが目を見開きながら、水分不足で乾いた口を開いた。
「カートゥーン、レイ、これは……」
スララの目線の先には、長い長い降り階段の終わりを告げる、一つの扉があった。
「扉…?こんな洞窟の奥に…」
レイも驚いたように扉を覗き込む。
…確かに不自然だ、こんなに降らないといけない階段の奥に、人の痕跡なんて…
扉は埃にまみれ、ところどころ木が腐っている。
「…とりあえず、開けてみるぞ…」
意を決したように、スララがドアノブを回す…
べきッ…メキメキ…
…ドアノブが、回されたまま、音を立てて扉から外れた。
「………えっ…ちょ……これ…壊れ……開かな…」
「オラァ!!!」
困惑するカートゥーンを尻目に、スララがその拳を扉に振りかざす。 そして扉は、音を立てて、破損と共に開いた。
「……えぇ……?」
ドアノブの破損、扉の破壊、イラついているスララの破壊力を困惑半分で見届けながら、扉の奥へ進む…。
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……扉の奥には、また扉があった。
今度は木ではなく、鉄の扉だ。
「なんで二重に扉を……」
「…大方、この先に隠したいものでもあったんじゃないか?」
スララの質問に、カートゥーンが答える。
これもドキュメンタリーで見たことがある、地下深くに隠遁された麻薬製造場を。
ここもおそらく、一般人や行政なんかにバレたくない何かを隠していたんじゃないか?とカートゥーンは予想する。
「隠したいもの……か、」
スララがそう言いながら、鉄の扉のドアノブに手をかけ、回し、開ける。
今度は破損することもなく、蝶番の錆びた音と共に、重々しい扉が開いた……。
……恐る恐る、目を覗かせた3人が見たのは、
ローマか、何処かで見覚えのある、死合場だった。
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「コロッセオ……?なんで……」
地下深くにコロッセオ、そんな明らかに異質な光景に、素直に驚けるのは、元の世界でその存在を知っているカートゥーンだけだった。
しかし、形状は実際のコロッセオよりも幾分、いやもっと小さく、真ん中を占める、円形の闘技場はそれこそ大きいが、観客席が記憶にあるコロッセオよりも切り詰めたように小さい感じがした。
それでも、この場をコロッセオと呼んだのは、その闘技場があまりにも、あまりにも赤黒く、いったい幾たびの死闘が行われたのかわからないほど、流血の痕跡があったからである。
カートゥーン達が居るのは、円形平坦な地面ではなく、階段場の観客席の部分だ。
「なんだこれ……なんで地下にこんな場所が…」
「…わけがわかんないね、しかも…肌寒い。」
スララとレイも驚いている。
それもそうだ、ここがコロッセオであるということを鑑みなくても、闘技場に血塗られ、乾いた血痕だけで相当なインパクトのはずだ。
「……!! おい、あれ見ろ!」
スララが観客席の縁から身を乗り出しながら叫ぶ。
スララの目線の先に、カートゥーンとレイも視界を滑らせれば…そこには、
「…宝箱…?」
2人の声が揃った。
血塗られた闘技場、その真ん中には、漫画やアニメで見たことのある、ベタな形状とデザインの宝箱が鎮座していた。
「おい、あれって…」
2人も見ているのが同じか、その存在がどんな役割なのか、それを問う前に、スララとレイは観客席を降り、闘技場に着地した。
なるほど宝箱を見るなりノータイムで観客席を降りるあの判断…、この世界でも宝箱が与えてくれるワクワクは変わらず健在なようだ…。
カートゥーンがあの日触ったゲーム内で、初めて見た宝箱を思い出す……
……いや、思い出せない、子供の時の記憶だからだろう、モヤがかかっている。
「カートゥーンも降りて来なよ、」
「これ3人で開けるぞ!」
スララとレイに催促され、カートゥーンも観客場を降り、宝箱へ向かう。
「それじゃあ…開けるぞ…せーのっ…」
スララの号令により、3人で宝箱のフタを開ける。
ギギギ…と、錆びた蝶番の音が響き、フタの重さを彷彿とさせるが、ドアを破壊するスララの腕力の前には無力に等しい。
…そうして、宝箱を開けきり、解放された中に眠っていたのは………
……空だった。
「レディース!!!!アンド!!!ジェントルメン!!!エヴィバディ!!!聞いてるかーー!!!?」
その時、コロッセオ内に声が響いた。
「さてさて皆さまご注目!!!只今闘技場にいらっしゃいますのは………ザザ───」
砂嵐半分の、マイクの音声、
コロッセオに場違いな…いや、案外合っているのかもしれない声が、1人としていない観客席に向かって放たれる。
「なんなんだ……!?おい!!誰かいるのか!!?」
スララも相当困惑している様だ、そりゃそうだ、マイクなんてあるはずのない世界でこの拡声、焦るに決まっている。
「スララ、多分これは…ボイスロット・ストーンじゃ?」
なんだ、マイクみたいなのもあるのかこの世界、知ったかぶりしたのが恥ずかしい、
しかし恥を感じたところで、声が止むわけでもない。
「皆様!!!!彼らにご注目いただいたところで!!彼らが今回、チャレンジするのは!!!」
───瞬間、頭上から落ちてきた圧倒的な質量により、コロッセオ全体が揺れた。
巨木の倒木、廃ビルの倒壊、───地震。
それらの、地を揺らす衝撃に見紛うほどの揺れ、それはつまり、このコロッセオにその質量の物体が降り立ったことを示している。
衝撃により舞った砂埃が止んだ頃、3人が目を開けて、視界に映ったのは……
「─────ザザッ─
数多のモノノフを打ち破ってきた、歴戦のモンスター!!!!」
巨大な体躯、岩の様にゴツゴツした表皮、
─────鋭い爪に、牙、殺しに特化したその形状。
それは……爬虫類の様な顔を覗かせながら、ごるるるる……、と、獰猛な息を吐いた。
「─────石龍、リックくんです!!!!」




