二十一 囚われた白馬
燃え盛るリゾートホテル。
黒煙が夜空を汚し、赤い火の粉が風に舞う。
その屋上で——
アロハシャツの男、呪術製造は目を丸くしていた。
「へぇ……」
楽しそうに笑う。
「分身体が殺られましたか」
「流石ですねぇ、神殺しの狂花」
だが——
隣に立つ男は笑っていなかった。
赤羽。
冷え切った目。
感情の見えない顔。
「……遊んでいるからだ」
呪術製造の肩が跳ねる。
「貴様、死にたいのか?」
空気が凍る。
呪術製造は即座に地面へ額を擦りつけた。
「も、申し訳ございません……!」
「次こそは、次こそは必ず——」
「次はない」
赤羽の殺気に、呪術製造の喉が引き攣る。
声すら出なかった。
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一方。
狂花は、異様な“重さ”を感じていた。
空気が違う。
嫌な予感が、肺の奥にへばりつく。
「……柘榴」
「はい」
「道を開け」
柘榴は即座に能力を展開。
空間が裂ける。
その先に見えたのは——
炎だった。
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燃えるホテル。
崩れた壁。
血の臭い。
負傷した団員たち。
狂花は周囲を見渡す。
そして——気づく。
(いない)
白馬。
ミナサ。
二人の姿がない。
近くにいたハルへ視線が向く。
「……説明しろ」
ハルの肩が震えた。
「ミナサちゃんは……」
声が掠れる。
「白馬さんを守ろうとして……」
「運を無効化する能力、《円陣》の中に飛び込んで……」
狂花は黙って聞いている。
だが空気が、少しずつ重くなる。
「ミナサちゃんの能力は、運をエネルギーに変換して動くタイプです……」
「だから……動けなくなって……」
ハルの声が震える。
「《道化師》に……四肢を切断されました」
その場の空気が止まる。
「それでも……」
「ミナサちゃんは、白馬さんを庇って……」
ハルは涙を堪える。
「最後は……赤羽に焼かれて……」
「……何も残りませんでした」
静寂。
誰も息をしない。
「白馬さんは……」
ハルは唇を噛む。
「ミナサちゃんが殺されたのを見て、一人で突っ込んで……」
「捕まりました」
——沈黙。
狂花は俯いたまま動かない。
数秒。
数十秒。
誰も声を出せなかった。
そして——
「……全員下がれ」
低い声。
感情が消えていた。
ハルが目を見開く。
「ですが、ボス一人では——」
「下がれ」
空気が揺れる。
殺気。
その場の全員の本能が悲鳴を上げた。
「……ッ」
ハルは息を呑む。
「ボス、ご武運を……」
血が滲むほど唇を噛む。
何も出来なかった。
守れなかった。
その事実だけが胸を抉る。
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狂花は静かに刀へ手を伸ばした。
——封印指定称号。
《血扇乱舞》
発動。
次の瞬間。
ドクン、と。
周囲の空気が脈打つ。
さらに——
能力《リミッター解除》
黒刀。
白刀。
二本を抜刀。
称号《二刀流》発動。
「——《花血散残》」
赤い花弁が舞う。
血の色だった。
何千万。
何億。
世界を埋め尽くすような、死の花吹雪。
花弁に触れた闇営業の人間が、一瞬で崩れる。
血だけを残して。
肉も。
骨も。
何も残らない。
それを見た赤羽が、初めて表情を変えた。
「……撤退だ」
本能的な危険察知。
幹部たちは即座に逃走を開始する。
狂花は追おうとした。
だが——
「行かせません!」
サヤ。
そしてハル。
二人が能力を使い、狂花を止める。
「放せ」
低い声。
「斬るぞ」
本気だった。
止めれば、たぶん本当に斬られる。
それでも——
サヤは離さない。
「駄目です……!」
涙を流しながら叫ぶ。
「《血扇乱舞》をこれ以上使えば、また貴女が壊れる!」
狂花の目が揺れる。
「また——」
サヤは泣きながら叫ぶ。
「あの時みたいになるんですか!!」
ハルも必死に押さえる。
「今追えば罠です!」
「準備なしで突っ込むのは危険です!」
それでも狂花は止まらない。
刀が振られる。
一閃。
サヤたちには当たらない。
だが背後の森が——
一瞬で斬り倒された。
何百本もの木々が、遅れて崩れ落ちる。
「……放せよ」
狂花の声が震える。
その目から——
涙が流れていた。
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