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ご近所さんと夜空の王子

「あらやだ、アヤちゃんが朝帰り!」


「おおう! アヤちゃんも隅に置けないな!」


 王宮から帰宅したアヤに隣人夫婦が声を掛けてくる。朝日はとっくに昇って、降り注ぐ日差しが野菜をスクスクと成長させていた。


「おはようございます」


 アヤは二人の前に立ち止まり、丁寧に頭を下げて挨拶をする。そして、顔を上げると真剣な表情で二人を見つめた。


「あのですね、私結婚することになりました」


「え? 神さまに捧げられるとかそういうの?」


「生け贄とかじゃないよな? 大丈夫か?」


 二人は慌てた様子でアヤを挟むように駆け寄ると、その顔を気遣わしげに覗き込む。


「やだ、二人とも何言ってるんですか。そんなわけないじゃないですか」


「そうなのね。アヤちゃんのことだからてっきり。ねぇ?」


「ああ。その方がしっくりくるというか⋯⋯。まぁ、しかし急だな。一体どこで知り合ったんだ?」


 おじさんが心配そうな顔で尋ねるとアヤは内緒話のように声をひそめた。


「実は昨日召喚されまして」


 夫婦は一瞬ポカンとしたが、おじさんが何かに気付いたようにポンと手を打つ。


「あ、紹介されたのか」


「あぁ、紹介ね。どなたが紹介してくれたの?」


「魔術師長です。それと館長がいろいろ説明してくださって」


 その答えにおばさんは案じ顔になり、少し身を屈めながらアヤに問いかける。


「上司に強引に進められて断れなかったとかじゃないのよね?」


「いえ、確かに最初から決定事項ではあったんですが、私もぜひお受けしようと思って」


 アヤが力強く言うと、おばさんは小さく息を吐いた。


「そうなのね、アヤちゃんが乗り気なんだったらいいんだけど。それで相手はどんな人なの? お仕事は?」


「音楽関係の仕事をしてます」


「あら、じゃあ、おじいちゃんと一緒ね」


 不安げだったおばさんの表情がパッと明るくなり、アヤもパチンと手を叩いて弾む声を出す。


「そうなんです! おじいちゃんのお弟子さんなんですよ」


「おっ! それならまた俺の歌声指導をしてもらえるかな! この家に住むのか? いつ来るんだ?」


 おじさんは既に弟子入りする気満々のウキウキとした声で身を乗り出した。


「もうこっちに向かってるはずです」


「楽しみだわ! あ、向こうから⋯⋯」


 アヤの肩越しに誰かを見つけたおばさんが口を開いたまま止まる。


「ん? どうした?」


 突然固まった妻を訝しみながら、その見つめる先を辿ったおじさんの動きも止まる。

 アヤが二人の視線につられて顔を動かすと、足早にこちらに向かってくるシリウスの姿が目に入った。 


「シリウス!」


 大きな声で名前を呼んでブンブンと手を振るアヤの元に辿り着くと、シリウスはニコニコと微笑みを返す。

 それから隣人夫婦に向かって、


「初めまして、シリウスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 と、しっかりと頭を下げた。アヤも一緒にペコリとお辞儀をする。

 夫婦はしばらくの間放心したようにその姿を見つめていたが、ようやくパクパクと口を何度か動かして、それから揃って声を上げた。


「「黒髪王子!!!!!」」

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