旦那編 marito 30:芋虫の襲来(その2)La invasione di vermi:secondo
暗がりの中、篝火が明々と燃え上がる。
其処此処に置かれた魔法の光が周囲を照らし出す。
闇の中に照らし出された芋虫たちが不気味な音を立てながら次第に近付いて来る。
五メートルを超す巨体はさすがに威圧感がある。
夜闇にジョルジュの戦いの歌が流れて行く。
遠くに炎の壁が次々に立つのが見える。
はるっちとサブが芋虫たちを予定の場所に誘導する。
頑張って! 誘導できるかが、この作戦のキー・ポイント
「泥濘!」
遠くに、はるっちの声が聞こえる。
後方に居る芋虫の進行速度を落とし、前方の二匹と引き離す。
よし! 予定通り。
幅を狭くした誘導路から一匹目が現れる。
ディアがそのまま落し穴の方へ誘う。
「炎の壁!」
二匹目を火魔法の重ね掛けで進むのを阻止する。
一匹目が穴に落ちると同時に管理人たちが松明を放り込む。
牧草と油をたっぷり入れた穴から炎が巻き上がる。
芋虫が這い上がらないようにディアが鎚鉾で叩く。
「二匹目行くよ~!」
同じ手順で退治する。
油と芋虫の焼ける音と匂いが周囲に充満する。
三匹目はやや遅れてやって来る。
「全部で六匹や~!」
サブの声で数はほぼ確定、
「最後のは大きいぞ! 何とか抑えるが前を早めに片付けのじゃ」
三匹目に短剣を突き立て火の波を直接体内に送り込む。敵の動きを躱しながら火魔法を触覚に叩き込み感覚を鈍らせる。
「三匹目行った! ディア後はよろしく~」
「大丈夫、任せて!」
三匹目の始末はディアに任せ、四匹目と五匹目を迎え撃つ。
「火の絨毯!」
辺り一帯の地面を火属性に変え、継続的にダメを与える。
炎の壁で行動を抑え敵の体力を削る。
「火の槍!」
サブ得意の火魔法が連打され、芋虫たちを襲う。
耐えきれなくなった一匹が倒れる。
「四匹目倒した! 一匹はそっちに送るよ」
「問題ない! 最後の敵を抑えて!」
一匹を通過させ、最後の敵の面前に炎の壁を重ねる。
「最後のやつの脚止めは難しいぞ。早く処理するのじゃ!」
最後の一匹が、他のより二回り位大きい。長さも七~八メートルはありそうだ。
「よし~! 最後のをこっちへ」
ディアの声に脚止めを中止し、落し穴の方へと移動する。
「大物行くで~」
「だいぶ弱らせたが、注意じゃ!」
ジョルジュの戦いの歌が一段と高く響き渡る。
火魔法連打で何とか穴に落とし込んだが、暴れる暴れる!
四人がかりで抑え込む。管理人たちもここぞとばかり、油や燃えるものを放り込む。
奮発して火炎剤放り込んだがしぶとい。
一旦身体を縮めた芋虫が大きく跳ねて穴から飛び出す。
それでも全身火だるまなので、連続して火炎剤を叩きこむ。
一瞬敵から目を離した時だった。
「ことね! 危ない! 前っ!!」
ディアの声に気が付くと、芋虫の巨体が倒れこんで来る。ヤバぃぃぃ!
必死に躱したが、落ちて来る衝撃に巻き込まれる。
あぅぅ! 空中に飛ばされたのは分かった。
右手と右脚が吹っ飛ばされたと感じる。
「ことね~」
ディアの声が遠くに聞こえる。
左手に嵌めている水の指輪が輝く! ――覚えているのはそこまで
はっ!
「意識を取り戻したようじゃ」
「ことねはん、大丈夫か?」
え、ここは?
周囲は、何処までも続く砂と赤い土、戻ってこれたのか……
気が付けばジョルジュの治癒の歌が聞こえる。
「ダメージが大きいのは分かっていた。自分にも右手足が千切れたのが見えたからな」
「しかし、インスタンスを抜けてからの回復は早かったのぅ。仕様なのかもしれん」
まだ痺れているけど、右手と右足は動く。さすがゲームだな。現実なら悲惨なことになっていた。
「小拙が早めに防御バフを掛けておけば……」
「まぁそこまで言うな。こうやって助かったんじゃからよしとしようぞ」
「クリアしたんだよね?」
「あぁ、大丈夫だ。全員クリアになったぞ。略綬も貰えてる」
言われて左胸の略綬を見ると確かに増えてる。若草色と萌葱色の縦縞に常盤色の水玉模様、中央に芋虫のシルエット
「クリアで良かった。でも、危うく退場だったかもなぁ」
「ことね。左手の指輪」
ディアの声に中指に在る空色の指輪を見る。
「これ? 水の指輪だけど」
「それが、攻撃を受けた際に輝いた」
「そうじゃ、拙も空色の結界を見たぞ。初めて見るものじゃ」
「そうなのか、助けられた。マスター・スライムくんに感謝だな」
ジョルジュの治癒の歌が静かに終わる。
「ジョルジュ、ありがとう」
「いやいや、回復したようですな。まだ依頼は終わっておりませんぞ」ポロロン♪
そう言って笑いかけてくれる。
「そうだね。目的地に向かって行かないとね」
何とか立ち上がって、空元気を出してみる。
今回は注意散漫だった。危うく退場するところだった。
深く反省しよう。あいつより先に退場したら指を差して笑われる――と思う。
次回 「旦那編 31:遺跡 Le rovine」