奥編 moglie 26:蠟と詰物の人形 Pupazzo di cera e suono
「何ですかこれ?」
部屋はそれほど広くはなかったが、そこら中に人形が置いてある。
棚、机、椅子、床にも多く置かれている。
種類も色々、兵隊や動物、ピエロなどもあるが、やっぱり金髪と青い目のフランス人形が多い。
試しにひとつの人形を移動させてみる。
目を離した隙に、ふっと元の場所に戻る。
「生霊か死霊か知らないけど、何か憑いていることは確かだね」
「何年も何年も、ずっとこのままだったのでしょうか?」
「そうだろうね」
視線を感じて、振り向く。
一体の人形と目が合う。
間違いない、じっとこちらを見ている。
少し大きめで、金髪の青い目をした人形、話をしてみよう。
「キミは誰? 何故こんなことをするの?」
人形はギギッと音を立てながら首を振り、こちらを見つめ直す。
瞬きをひとつ、ガラスの目から涙が零れ落ちて行く。
なぜ人の形なのに人間じゃないの?
人になろうとしてずっとずっと考えてて来たのに
人を食べたこともある
でも人に成れなかった
どうしてあなたたちは皮膚の下に血と肉があるの?
あたしたちは蠟と布の下にはオガクズしかないのに
青い目のお人形が歌い出す。
周囲のお人形たちが、目を開いて踊り出す。
みんな可愛い、綺麗というけど
外側だけしか見てくれない
心を込めて歌っても
レコード盤と言われるだけ
人形が揃って踊る。
輪になって周囲を取り囲む。
歌に乗せて攻撃して来る。
外見だけみて、幸福っていう
そんなのないでしょ
布地の中身は価値のない詰物
蠟が壊れれば捨てられるだけ
「火の矢!」
倒れる人形、弱る人形、喜ぶ人形
不味いな。それぞれ属性が違う。
「コーリ、シャボン玉を!
その辺にバラ撒いて動きを封じて!」
「分かりました。シャボン玉!」
私の歌で踊り出す
私の傍のお友だち
楽しそうに笑うけど
笑い返す人はいない
「シャボン玉で潰れるのは火属性!
残ったのは火攻撃で叩いて!」
「はいっ!」
「ボクはダガー戦うから」
恋なんて出来るわけがない
男の子には見向きもされない
ただお座りして眺められるだけ
抱っこされて撫でられるだけ
跳びついて来るのを躱す。
抱きついて来るの振り払う。
振り回す手足を叩く。
甘いチョコに糖衣されても
中味は食べられない
ふわふわクリームに囲まれても
口にすれば吐き出されるだけ
蝋を砕き布を切り裂く。
人形たちの手も脚も千切れる。
中からオガクズが飛び散る。
そう、中は醜い
中を見られたら捨てられるだけ
白い肌も金色の髪も
せめて聞いて、歌だけでも
残ったのは、色とりどりの蠟の欠片と布切れ
辺一面はオガクズが散る。
そして最後の一体
強いわね。諦めたわ! せめて火で灰にして
「諦めな! お前は火属性だろう」
「そうですね。水の連弾!」
水の塊が連続して襲う!
濡れて崩れ落ち、オガクズに塗れた人形
「想いを残さず逝く方がいい。全てを捨てれば人に成れるかもしれない」
そう、たった一つの可能性
壊れることだったのね
「悪夢を見ていた。でも次は良い夢を」
ありがとう
見開いていた目が動かなくなる。
「もう復活しませんよね」
「さて、ゲームだからな。リターン・マッチがあるかも……」
「嫌ですぅ~」
「ねえ、コーリ、現実とゲームの差ってなんだろ?」
「規則が違うだけだと思います。得られるものは同じレベルだと」
「異世界って、違う星っていうだけかもね」
「そうです。違うゲームは違う星ですし、違う異世界も違う星です。みんな現実です」
「ゲーム・ライフは現実ライフと同じものかな」
「全くその通りです。ちょっと規則が違うだけですぅ」
次回 「旦那編 25:薄雲 Nuvola leggera」




