旦那編 marito 24:電子の歌姫 La cantatrice electrica
「執事さん《セバスチャン》、お茶有難うです」
「いえ、ごゆっくりどうぞ」
ルノー・ド・モントーバン邸の一隅
二番弟子――つまりわたしの部屋
ジョルジュとお茶をしている。
「実は、師匠フュルベールから話がありまして」
「へぇ、何かわたしたちに関係あるのかな?」
「師匠は小拙にこう申されました」
――そろそろ次のステップに進むことを考えるべきではないか? この町には “森の恩恵„ という一度しか受託できない依頼がある。これをクリアできたら次の街に進むのが良かろう。但し、かなり難しい依頼なので良い仲間とパーティを組み、事前に十分に情報を集めることが肝要じゃ――
「なるほど~、良い話を聞いた。これから手分けして情報収集する」
「依頼の際は是非同行させて下さい」
いよいよ次のステップかぁ、だんだん中核に近付く気がする。
「ところで、ジョルジュの幻影って何なの?」
「それがですね。何か変なのですよ」
「変?」
「ええ、歌手なんですけど、緑髪のツィンテールで」
「え、某社の仮想歌手? 何でまたそんな有名なものが……」
「小拙にも分かりかねます。このゲームのスポンサーなのかもしれません」
「人前に出せないよね」
「個人的に友人に見せるのなら問題ないとは思いますが、酒場で叙事詩の代わりに歌わせると問題が出そうです」
「それはちょっと……」
幻影を起動すると見知った姿が現れる。
あまり喋ることはせずに、薄緑の瞳をじっとジョルジュに向けている。
「お願いすると、いろんな歌を歌ってくれます。それも底なしのレパートリーですね。吟遊詩人にとっては、これ以上ない幻影なのかもしれません」
「不老不死の電子の歌姫なのね」
「ちょっと歌って貰いましょうか」
「ちゃんと音楽も出るんだ」
「えぇ、舞台で歌うのと全く同じです」
彼女は音に乗せて歌い始める。
時を超える生命を私は知る
光速を超え未知を知る
魂を切り裂け!
それが知への唯一の道
宇宙の声を聴け!
それが辿る導
音を響かせ 言の葉を紡げ
それだけが自由への道
何も遮るものはない
限りは幻 惑う心
自由へ自由へ
あなただけが手にできる
高く飛べ!
「すごぃなぁ、これって歌手なんだろうか、それとも楽器?」
「さて、難しい質問ですね」
ジョルジュは珍しく饒舌だ。
「まぁ個人的な意見ではありますが、楽器は言語と同じようなものと考えています。それぞれの言語の持つ潜在能力というのは、そう変わりがないのでしょう。もし、差が出来ているとすれば、その言語を扱う天才の数の差だと思います。
それぞれの楽器も様々な特徴を持っていますが、それを扱う天才が多く出現した楽器がより豊かな音楽を生み出しています。新しく創り出された楽器は、まだ天才児を持っていないため、幅が狭いのです。そのため既存の楽器の演奏者から色々な言葉を浴びることになります。クラリネットなどは割合新しい楽器ですが、登場した頃は色々言われたようです。現在は他の古い歴史を持つ楽器の中に混じってもひけを取っているとは思いません。
そして現代、人間は電気を利用して音を創ることが出来るようになりました。既存の楽器の増幅や記録なども出来ますが、全く新しい楽器も生み出しました。電子オルガンやエレキギターなどは代表的なものでしょう。
シンセサイザーという電子的に楽音を創り出すという楽器が登場しました。果たして楽器と言って良いのか躊躇うくらいのものです。そしてまた、音声合成という人の声を創り出すことが出来るようになりました。人の声も音波の組合せで発生しているので、理論的にはどんな声でも創り出せるのです。
ボーカルシンセサイザーが登場します。人間は初めて意味のある歌詞を歌える楽器を手に入れたということです。これをキャラクタと結びつけることで、仮想歌手という楽器が誕生しました。
現在はほとんど人の声と変わりがありません。後はどれだけ聴衆を感動させられる曲を歌えるかということでしょう。現代は歌手には厳しい時代なのでしょうね。
吟遊詩人の時代の方が歌い手に取っては良い時代だったのかもしれません。日本でも琵琶法師が “祇園精舎の鐘の声„ と平家物語を謡う時代がありました」
「道具の発明が文化を発展させるという一面があるのは確かですね」
次回 「奥編 25:お使い Messaggere」




