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投げて!投神サマ!  作者: 風塵
第3章 戦乱の中でもスローライフ(Throw Life)!
177/177

177、今はまだ

「何奴っ!?」


 突然背後から声をかけられたシャオスたちは素早く警戒態勢をとり、鋭く誰何する。

 しかし魔人領と化した草原が広がるだけで、声を発した主の姿は見えない。

 奇妙な緊張感が流れる。





「…これは失礼致しました」


 再び無人の野から声が聞こえた。

 しかし今度は正面に違和感を覚える。


 皆が注目するなか、深い水の底から浮かび上がるように次第に焦点が合い、人の姿が出現した。


「貴殿はっ…“勇者の執事”様!?」


 面識があったシャオスが驚く。


「「勇者の執事?」」

「アンタが…!」「……」


 その存在を知らない者は訝しみ、テンゲイン・チルドレンの幾人かは敵を見るように睨んだ。


「一般的には知られていないが、この方は勇者様がたにのみ仕える執事だ

 勇者の執事の言葉は勇者様がたの言葉として扱うことが国として決まっておる」


 勇者様がたの直属の部隊だと()()しているテンゲイン・チルドレンとは違い、国の正式な決定であり、軍上層部にも通達があったのだ。


「その執事様が何の用だ?」


 勇者の執事を認めていないのか、挑戦的な態度を崩さない冒険者が問うた。


()()の勇者様がたの指示を受け、新たなる勇者様を探しておりました」


「新たなる勇者だって!?」


 テンゲイン・チルドレンの中ではクワンが勇者を継ぐ者として、リーダー的な存在と目されている。

 チラリと城壁上に残っている彼に視線を配った。


「はい、ここにおられるリュウジュ様が新たなる勇者様でごさいます」


「「「なんだと?」」」


 どう見ても駆け出しの冒険者である若者に皆の視線が集中する。


「私の使命は新たなる勇者様に仕え、導くこと、でごさいます

 どうぞ宜しくお願い致します」


 そう宣言すると執事は深々とリュウジュに美しい礼をする。

 それは神聖なる誓いであることを感じさせる、真摯な儀式であった。




✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢




「僕はリュウジュ!

 宜しく!執事さん!」


 呆気にとられる私たちを置いてリュウジュは元気良く応える。


「私のことはセイバーとお呼び下さい」


「わかった!セイバーさん!」


「パーティーを組まれておられるようですので、私をゲストにご登録下さい」


「分かった!」


「ちょっと!リーダーは私なんですけどっ!?」


 勝手に話しを進める二人を慌てて止める。

 何かが溢れ落ちていく気がして…。

 よく分からない不安に押しつぶされるよう。


「ウチのリュウジュが“勇者の称号”を持っているのは認めるけど…、リュウジュをどうする気?」


「勇者の…称号」

「やはり新たな勇者が生まれていたのか」

「人類の希望は引き継がれた…」

「職業じゃねぇんだ」

「勇者の能力で私の魔技を使えたのか…?」


 勢いでリュウジュが勇者であることを宣言してしまった…。

 その余波は居合わせた人々に伝わっていくのを感じる。

 それは大きなうねりとなって、静かな興奮が渦巻いていくようだ。

 この渦はきっと全世界を包み人々を熱狂させる、そんな予感があった。

 早まった…?

 いえ、高レベルな“解析”をかけられたら称号まで視られるだろうし、それにこの執事にはもう完全に目を付けられていた。


「先ほども申し上げましたが、リュウジュ様を勇者様として導きます」


「だから勝手に私たちのパーティーメンバーをどうこ…」


()()、勇者様が所属しておられるリーダーどの」


「…っ!」


 執事セイバーに私の抗議はピシャリと遮られた。

 私の意見などでは小揺るぎもしない、覚悟の塊だ。

 彼の底の見えない古井戸のような瞳は非人間的な冷たさで私を映し出していた。


「リュウジュ様は勇者を継承されました

 これから否応なく全人類の先頭に立ち、魔人との戦いの中心に放り込まれるでしょう

 その道は過酷であり、孤独です

 しかしその勇者様の傍らに貴女たちが居続けることは、さらに過酷

 これから貴女たちは試されることとなりましょう

 その資格をお持ちか、否か」


「私たちが、試される…?」


「“勇者のパーティー”とは()()()()()()、でごさいます」


「「「……」」」


 私たちは確かに自分たちの力で魔人との戦争に勝利し、名声を得ることを夢見ていた。

 冒険者学校で結成したこのパーティーメンバーと一緒にどこまでも上昇していけると信じていた。

 しかしリュウジュが本当に全人類を代表するような巨大な力を得たいま、彼は遠い存在になってしまったのよ…。

 勇者の隣りにいる資格、そんな大それたものを自分は持ち合わせている?

 胸が締め付けられて、頭が真っ白になる。


 リュウジュとの別離の気配がこんなにも自分を恐怖に陥れるものだなんて…!




「俺はやるぜ!」


「ズィン…」


 俯くメンバーのなか、ズィンだけは不敵に笑って拳を突き出す。


「勇者の称号を得ようが何をしようが、リュウジュは俺のライバルだからな!

 いつか俺だってスゲェ称号を得て、コイツに並び立ってやる!」


 不安そうな顔をしていたリュウジュはパッと表情を明るくしてズィンに向き合う。


「ズィン!負けないよ!」

「俺だって負けねぇさ!」


 目を爛々と輝かせて拳を突き合わせる二人。


「あんたたち…」


 この二人はいつもそうだった。

 ズィンはリュウジュに出会うまでは神童として周囲からの多大なる期待を一人で背負っていた。

 しかし冒険者学校のテストでリュウジュにコテンパンに負けて挫折を味わったらしい。

 でもそれが重圧から解き放たれて自分の信じる道を歩み出すきっかけになったんだって、明るく話してた。

 お互いを高め合うライバル、そして初めての友としての大切な存在。

 自分の為にも、そしてリュウジュの為にもライバルであり続けようという強い意志をズィンから感じた。

 男同士の身軽な決断に何故か無性に腹が立った。



「ククク…最悪だわ

 勇者と共に征くのは血塗られた破滅へと続く道よ

 ……それでも!

 勇者のパーティーから抜けた者として後ろ指を指されて一生を過ごすよりは、はるかにマシよ!

 良いわ…

 私はこのパーティーにいられる資格を見せつけてやる…!」


 黒魔術師ユアンが珍しく真っ直ぐに強い感情を表に出した。

 彼女も異常に強い魔力に目を付けられ、平民から貴族の養子に迎えられた子だ。

 彼女が日々感じている重圧は計り知れないわ。

 それでも投神さんと出会ってからは前向きな発言が多くなってきていた。

 消去法かもしれないけど、残酷な戦いの道を選ぶ。

 その決断は意外で、そう言い切れる彼女が眩しく感じた。



「私も、私の力が求められるならば、共に行こう」


「ジオウ…」


 彼はブレない。

 自分の理想とする流儀(スタイル)を極めるのだろう。



「わ、私は…、その……」


 白魔術師シーティは戸惑いを隠せない。

 彼女は上級貴族の身でありながら、冒険者の世界に憧れてしまった珍しい存在。

 全ての物事を卒なく熟す才女でパーティーのお姉さん的な存在だけど、憧れだけでほど最前線は甘くないのは皆が感じている。


 それは私も同じ。

 そしてその憧れの中心はリュウジュであることも、ここに至って気付いてしまったのだ。

 そんな青く甘い気持ちで勇者のパーティーを率いる自信がないのだ…。

 それでも!それでも私は彼と一緒に居たい。

 この気持ちに正しさを、強さを与えて欲しい。

 踏み出す勇気を…!



「お主たち、敵は待ってはくれんぞ」


 師団長シャオスが骨魔人を指差す。


「戦いに理由などいらん

 生き残りたくば、戦え

 お主たちにはその資格がある

 いま、生きているからな」


「師団長様…」


 心の迷宮を彷徨っていた私に単純明快な指針が与えられる。


 背中を押してもらった、のね。


 兎にも角にもこのアルターから脱出するまでは、これからのことを考える必要はない。

 相手は骨魔人パーティー。

 生き残れる確率の方が、明らかに低いわ。


「とりあえず皆んな!

 今は戦うわよ!

 その後のことは、その後で!」


「「「了解、リーダー!」」」


 貴重な時間を消費してしまったわ。

 骨魔人の攻撃がくる。

 それに対抗する為にパーティーメンバーに指示を与える。

 今はまだ私がリーダーなのだから…!




✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢




「アルターが見えた!

 城壁前には不確定だが不死の王!

 数はおよそ数千!」


「数千…!」


 ジオウの報告を聞き、“未だ見ぬ地平線”と“重装蹂躙”の合同パーティーが絶句する。


 1体でも災害級の強力な魔物なのに、それが群れを成している。

 不死の王は下級のスケルトンやゾンビをほぼ無限に生み出せるという噂であり、この一帯はアンデッドで埋め尽くされかねない。


「これは聖女様に出張ってもらわねばなるまい…」


 重装蹂躙のメンバーが呟く。

 確かにアンデッドに対して特攻の能力を持つ聖女様ならこの状況を打破することができるかもしれない。

 しかしこの十数年は戦いの場に赴かれたことはなく、専ら中央の教会で神にお伺いを奉ることを主な仕事とされておられるとか…。


 勇者を失ったいま、もう一つの人類の希望である聖女がどう動くのかが、全人類の存亡を左右すると思われた。


「ジオウ、城壁はまだ破られていないのか?」


「こちら側から見える範囲では破られていない

 そして骨どもに活発な動きは見えない」


「そうか…」


 私たちは間に合ったのだろうか…。


 火の手などは上がっていないようだが。

 投神殿は先を行かれたが、残された人々を連れて脱出するにもこの敵の数では不可能であろう。


 そしてこの気配。


 人の住む場所ではなく、魔界の気配を感じる。

 神与職を得ていない一般人なら発狂しかねない程の瘴気が立ち込めてきている。


「む、戦闘音!

 これは北西方面か…」


 投神殿たちか、この街の者たちか、そこには未だ抗う者たちがいるのだ。

 そんな彼らを見捨てることなどできるものか!


 しかし、この数の敵を挟撃できる程の力は我らにはない。

 戦力を集中させ、一点突破で脱出を目指すべきだ。


「現在戦闘中のところに加勢するぞ!

 ジオウ、案内を!」


「承知した」


「ハウカイもそれで良いな?」


 重装蹂躙のパーティーリーダーであるハウカイに確認を取る。


「それしかあるまい

 抜け駆けは許さんぞ」


「あぁ、それができるほど容易な相手ではあるまい

 力を合わせねば、アンデッドの仲間入りだ」


「…で、あるな

 お前たち!行くぞ!」


 ハウカイがパーティーメンバーに号令をかけ、不死の王を刺激しないように迂回しながら戦場へと向かった。





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